2つの王国の間に横たわる死海は、コンパスの針を狂わせる。
ここを突破するためには、磁力に拠らない「羅針盤」が必要だ。
生まれつき「羅針盤」の能力を持つ者は、
アシューのように、国家管理の下で育成される。
独特の銀の虹彩をちりばめたその目で、
飛行士たちの進路を的確に見極めるために。
和平の続く2つの王国を行き来する飛行機は、
「羅針盤」と飛行士のコンビによる通信、郵便配達のみ。
「羅針盤」のアシューはきまじめで、
バディである飛空士のバルはすっとぼけていて、
2人のテンポのいい掛け合いは微笑ましく、
その信頼と友情には胸が熱くなる。
自身の「羅針盤」としての能力に、不意に自信を失うアシュー。
しっかり者の彼の不安を、丸ごと受け止める度量のバル。
「羅針盤」候補の高貴な少女と、彼女の頼み事。
少女の依頼によって出会った受取人の表情。
長編で読みたい作品だった。
バディもの、レトロな飛行機、郵便配達、
ほかにもいろいろ心惹かれる要素が詰め込まれていて、
すごく好き。