『獄龍』と呼ばれる騎士
グラン・バルトはドルギニア国に仕える魔導騎士である。
ドルギニア国を他国の侵略から護る為、数多くの戦地に赴き、勝利を収めてきた若き猛将であった。
彼の者が戦場にて剣を振るう先には、地獄の業火に焼かれた様に、グランの背には敵兵士の屍が横たわっていた。
『グランの前に敵は無し、グランの後ろに屍あり』と畏怖され、他国から恐れられた。
数々の戦果を挙げたグランに、ドルギニア国はグランに騎士最上位である、『龍』の称号を弱冠、三十代の若さで贈られていた。
以降、獄炎を扱う龍として、背には『獄龍』を背負って戦っていた。
「店主、酒を持ってこい」
首都ドルギニア国から少し離れた小さな町の酒場に、グラン・バルトは部下三人を引き連れていた。
「しかし、この度の我が隊の戦働きも見事でしたな」
「これでますます、グラン隊長の名声が高まりますな」
先の隣国の闘いにおいても、グラン隊の戦いは敵を恐れさせ、停戦協定の際、ドルギニア国に有利な形で和睦となっていた。
「お前達も中々の戦働きであった。さてそろそろお遊びの時間と行こうか」
そう言うと、グラン達は席を立つ。
それを見た店の店主が、グラン達の近くにきた。
「金貨三枚で御座います」
それを聞いたグラン達に険悪な顔になるや、店主を睨み付ける。
「貴様、我ら獄龍隊に金を払えと申すか?」
「いや、しかしながら、私めも商売を・・・」
脅える店主にグランは吠える。
「舐めるな!」
怒声一喝。
刹那、グラン達の前のテーブルが、グランの拳で二つに割れた。
「まだ文句があるか?」
「いえ・・・その・・・あ、ありがとうございました」
「分かればいいのだ。また来るぞ」
グラン達が店を出た後、酒場の空気が悪く感じた。
グラン・バルトは戦働きは絶大な信頼を得ていたが、しかしその裏では、市民たちはグランの悪行に嫌気がさしていた。
店を出たグランは空を見上げた。
「相変わらず、此処(ドルギニア)は寒いな。酒を飲んでも、ちっとも暖かくならん」
昨日まで南方で戦をしていたグラン隊。
北国に位置するドルギニアの気温は常に寒かった。
「まあ、これよりお遊びをして、暖かくなるとしよう」
グランは不敵な笑みを浮かべる。
◇
「やっぱり、町の食堂はうまいな。養成所の飯なんて食えたモンじゃねえからな」
「まああの飯も、あと一ヶ月だと思えば、寂しいものだな」
ゼクスとドランは養成所近くの町に赴き、食事が終わった後だった。
「しかし、あともう少しで魔導騎士か」
「見習いをつけろよ」
「分かってるよ。俺、必ず将軍になって、父上と肩を並べるような地位になってやる」
ブリュンセル家は武門の家柄ではなく、主に政治的手腕が優れた家柄であり、ブリュンセル家が治める一帯は、裕福な土地であった。
しかし、戦となれば有能な指揮官がおらず、多額の援助費を支払うという形で戦争を参加せずにいた。
莫大な支出を減らすと言う意味で、武にそれなりの才のあるゼクスとドランを養成所に入学させていた。
「俺だって、農民だが、それなりの称号をもらえるようにがんばるつもりさ」
「まずは、『虎』の称号だろ。次は『狼』。そして最後に、『龍』。案外簡単ぽいよな」
能天気にドランは言って見せた。
「何言ってんだよ。『虎』の称号でさえ、頂けるのは難しいって聞くぞ」
『虎』、『狼』、『龍』。この三つの称号は国から授けられる名誉な称号であった。
「まあ、そうだよな。言うには簡単だけどな。けど、俺達にはこの剣がある」
ドランは自分の右腰に付けている剣の鞘を触った。
「まあ、確かに俺達の剣は、大変な希少種だってセシリア教官がおっしゃられてたな」
「まあ、そういうことだ。ぶっちゃけ、良い所まで簡単に行けそうな気がするんだけどな」
そんな軽い話しをしていると、先の方から悲鳴が聞こえてきた。
「何だ?」
悲鳴が上がった場所は酒屋であり、その扉から屈強な騎士4人が出てきた。
「おい、あの人達って・・・」
「ああ、『獄龍隊』だ」
ざわざわとした群衆の中心にグラン達は陽気な感じで話しを続けていた。
部下の一人がドラン達に気づくと、
「隊長、騎士候補生のガキがいますよ」
「おお、本当だな。そこのガキども。名は何というのだ?」
グランの急な問いかけに、二人は委縮し、背筋が伸びた。
「ゼクス・バニングと申します!」
「ドラン・ブリュンセルと申します!」
グランは二人の名を聞くと感づいた顔になる。
「ブリュンセルってことは、グレン殿の息子か?」
「はっ、そうで御座います!」
「いや、ブリュンセル家の大量の戦争放棄費用のおかげで、こちらはいつも世話になっているぞ」
グランは明らかな嫌味をドランにぶつけるが、グランは心の中でじっくりと耐えていた。
「つまらん奴だな」
不機嫌な顔になるが、直後に思い出す。
「そうだ、ここであのお遊びをしようではないか」
「そういう事なら、私は失敬させていただきます」
副官の男がこの場から去っていった。
「つまらん男だな。相変わらず」
「副隊長殿はああいう遊びは興味がないですからな。グラン隊長には申し訳ありませんが、私も今から、騎士本部へ報告がありますので」
「貴様もか、お前は勿論やるよな?」
「いえ、自分も他の部下に労いの言葉を上げなくてはなりませんので・・・」
その言葉にグランは怒りを露わにする。
「なんだ、貴様もか!お前等は付き合ってもらうぞ」
今度はゼクス達に言葉をぶつける。
「遊びって何ですか?」
「まあ、愉しいものだ。あとは頼むよ」
ポンと肩を叩いて、グランの部下たちは去っていった。
「さあ、今からやるぞ」
グランは剣を抜くや、天高くに掲げた。
刹那、天を裂きそうな獄炎が舞い上がった。
「聞け、民衆共!我が名は『獄龍』なり。これより我が命令に従わぬ者は、地獄の炎で身を滅すことになろうぞ!」
急の出来事に、数多くの人が恐れをなし、立ち尽くす。
「ふん」
そう言いながら、グランは剣を下ろし、民衆の方を見渡していた。
「お前とお前とお前。一緒に来い」
そう言いながら、民衆の中から三人の若い女を剣で指した。
指名された若い女は皆、恐怖で涙を浮かべ出した。
「お前らも来い。人並み外れた場所でやるから」
「やるって何を・・・?」
「やるって言ったらヤルんだよ」
グランは笑顔を浮かべていた。
魔導の国 東雲 @rairai41
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔導の国の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます