深泳
柚緒駆
深泳
たい焼き屋の店主は、不思議な男であった。自らが生み出したたい焼きが意思を持ち、言葉を放ったというのに驚く事もなく、さも当然の様に受け入れた。よもや天地の創造主たる唯一絶対神をでも気取っていたのであろうか。小生にはそれが気に入らなかった。
言うまでもなく、海の底は小生にとって初めての経験である。だが何故であろうか、泳ぐ事が出来た。小生に
それから幾日かが経った。毎日が新鮮で、楽しい事ばかりであった。しかし、
毎日が楽しいからといって、それが安楽である事とイコールではない。この海域にはときどき
ただ一方この頃から、身体に異変を感じる様になった。腹の辺りに締め付ける様な
そして今日も、小生は日がな一日泳ぎ続け、空腹を感じていた。夕刻、食事場として決めているいつもの岩場にやって来た。さあ、今日はどんなエビを食べてやろうか、と岩場の周りを回っていると、一匹の、丁度手頃な大きさのエビを見つけた。しめしめ、本日の最初の食事、そう思ってエビを口にした。その瞬間。
小生はもがいた。全力を振り絞り、もがきにもがいた。喉の奥になど小豆の餡しか入っていないはずなのに、引っかかる物など無いはずなのに、だがどんなにどんなにもがいても、針は喉から取れなかった。水面が近付く。波の音、陽光の
しかしそれも束の間、男は唾を飲み込むと、小生の身体にかぶりついた。この何日も海の中を漂い、水を吸ってぶよぶよになった、
深泳 柚緒駆 @yuzuo
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