タイムトラベラーな友達
ライガ
プロローグ
僕には友達がいた。
それが誰なのか、どんな子だったのかすら思い出せない。
けど親友だったのは覚えている。
微かな記憶の中であの子が一番の親友だったのだと…………そう…………思かっ…………て…………た 。
(あれ?誰のこと考えてたんだっけ?)
ボーッとしながら周りを見ると、そこはいつもの散らかった自分の部屋だった。
本は散乱し、ノートやプリントがあちこちに落ちている。
ふと、目覚まし時計を見るとそこには8時のところで止まった秒針に目がいく
「え?…………止まってるじゃん!!今何時だ!?」
慌てて見る携帯の時刻は既に10時をまわっていた。
着信も数件貯まっており、そのどれもが担任の亜狸緑里からの電話だ。
つまりこの時点で大遅刻だということなのだ。
「…………寝るか…………」
「ダメだよお兄ちゃん」
「うわぁ!?」
自分がついさっきまで寝ていた布団から声がし、振り向くとパジャマ姿の妹が布団に潜り込んでいた。
眠そうにモソモソと布団から出ていく妹を眺めながら、相変わらず無防備だと心の中で叫んでおく
「どうした?朝から」
「お兄ちゃん遅刻だよ?私は学級閉鎖でお休みだけどね!」
そう言いながら得意気な顔をする妹
自分の妹とは思えないほど可愛いし、賢いのでほんとに似ていないと思う。
僕は妹の耳を引っ張って八つ当たりをしてから制服を取り出す。
高校生の僕は近くの音野木高等学校に通っている。
まだ二年生になって間もないけどよく遅刻してしまうことから、クラスでは「一番後ろの遅刻魔王」とか呼ばれていることもあるらしい。
席も異名の通り後ろで、おじいちゃんの先生が授業の時はうまいことやり過ごせる。
そして今日の3時限目はそのおじいちゃん先生の時間
(いける!)
心の中でそう思いながら着替えを済ませ、朝食をかきこみ急いで学校に向かう。
家を出るときの妹の憎たらしいほどのどや顔と「休みっていいよね?あ、休みじゃないからわからないかぁ」という煽りが脳裏にこびりついて離れない。
妹は一回矯正した方がいい…………僕に対しての嫌み感がひどい。
と、ふと交差点に立ち止まっていると一人の少女とすれ違う。
普段なら気に止めない日常の一部であるはずのその子に僕は目が奪われた。
「え?…………蛍?」
そう呟きながら驚いた表情でこちらを見る少女は何処かでみたことがあるような、そんな不思議な気持ちを感じる。
すると、突然カバンから禍々しい黒い煙と共に半透明な"ソレ"は出てきた。
犬のような姿なのにまるで実体がないかのようにゆらゆらと空間をただようその姿は怨霊とも呼べる恐怖を駆り立てた。
それは一瞬の出来事でいつの間にか僕は空をみていた。
いや、回転しているかのようで、僕の見る視界は空、地面、怨霊、少女、そしてまた空とグルグル回っている。
「また…………遅かった!…………」
そんな声と共に僕は真っ赤な視界の中で意識が途切れた。
何かを忘れている気がする。
誰かを忘れている気がする。
大切な…………何かを……………………
僕はふと目が覚めた。
それはまだ目覚ましの鳴る前のようで時計は8時で止まっていた。
一つも動かないその時計に頭は徐々に覚醒していき、ようやく時計が止まっていることに気づいた。
「え?…………止まってるじゃん!!今何時だ!」
そう焦って携帯を見てみると、時刻は7時ちょうどになっていた。
「焦らせるなよ…………」
そう思いながら着替える為に制服を取り出す。
《三葉 蛍》と書かれた教科書やノートを鞄に詰め込み、僕は少し早めに家を出る。
いつもなら妹が見送りをしてくれるがまだ寝ているらしく、今日は一人寂しく家を後にした。
しばらく歩いているといつもの交差点で赤信号に引っ掛かり、足を止めた。
そんな僕の方に少女が走ってくる。
必死な表情とその瞳から溢れ出す涙が彼女の焦りと不安を明確に表し、その瞳は僕を見ていた。
いや、正確には僕の真後ろを見ていた。
胸から突き出る獣の爪のようなそれは真っ赤に染まり、僕の内側から抉るように生えていた。
僕は後から襲いかかってきた痛みにあげる悲鳴すら出せず、そのまま視界は暗闇に落ちていく。
目の前で泣いていた彼女を知っているような、そんな不思議な気持ちになりながら、最後に少女の呟きだけが聞こえた。
「なんで…………どうしてなの…………蛍…………」
僕の名前を呼ぶ彼女が誰なのか、それすらわからないまま闇は深く、深くなっていった。
目が覚めるとまだポカポカと暖かい春の日差しが窓から差し込んでいた。
目覚まし時計は7時を指しており、まだアラームが鳴るには早い。
今日は【入学式】だ。
新品の制服を着ながら、浮き足立ちながら家を出る。
桜が春の暖かさと新しい出来事への祝福のように綺麗に咲き誇っていた。
タイムトラベラーな友達 ライガ @raiga9
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