夢物語
秋空 脱兎
夢物語
「やぁ、久しぶりだね」
私は、隣に座ってきた人間に話しかけた。
「懐かしいね。一杯おごるよ、色々、話をしよう」
人間は、スッと左手を顔の位置まで上げた。否定のジェスチャーだ。
「……わかった。支払いは別々、ね」
こういう時、私は、すぐに引かなくてはならない、昔から。頑固なのだ、目の前の人間は。
「テキーラを、た、のむ……」
「……それを頼むってことは、もう、長くないんだね?」
バーテンダーは、無言で、テキーラのボトルを後ろの棚から取り上げ、私の隣に座る人間にの前に置いた。隣の人間は、ボトルをつかむと、少しずつ、惜しむかの様にのみ始めた。
やがて、飲み終わった。
「……」
「……」
言葉は交わさなかった。が、やがて、隣の人間がとつとつと話始めた
「……誰も、救えなかった。あぁ、あぁ……何故知性ある生命は争い合うのだろうか……?」
私は少なからず驚いた。この人間は、常に超然としていて、菩薩か、仏か如来といった表現が似合う人物なのだ。取り乱しているのを、始めて見た。
「……歴史は繰り返す……どの銀河のどの星も、どの時代も、争い、滅んでいった……救えなかった……なぜ傷つけ合う必要があるのだ……あぁ……」
頭を抱えて、カウンターに伏せた。
「……」
私は、そんな人間を、そっと抱きすくめた。
驚いた表情で見上げてきた隣の人間に、
「確かに、歴史は繰り返すだろう。だけど、繰り返し、繰り返し、繰り返して、人は成長していくんだ、大きく見てそう見えなくても、小さく見れば、変わっていた、よくあることだよ」
「……小さなところすら、変わっていなかった……」
「……なら、それをあなたが変えればよかった。若しくは、あなたが変わればよかった。結果論だけ、ど……」
私は辺りを見渡した。そして、
「さぁ、最後の光が消えるぞ!世界の終焉だ!」
闇が広がっていった。
真の闇に閉ざされた。自分の手すら見えない。抱きすくめた人間の、温もりと感触が消えた。
私は、パッフェルヴェルのカノンを歌い始める。
ゆっくりと瞼を持ち上げる。辺りは、外から入り込んだ朝焼けが包んでいた。いつもと、変わらぬ夜明けだった。
妙な夢を見た気がした。懐かしい、しかし悲しく、虚しい夢だった、と思う。
ベッドから降りて、そして、 ―続くか、それとも―
夢物語 秋空 脱兎 @ameh
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