第002話 大通りの食堂(スケルトン・キョンシ―)

さて、街の構造を解説しよう。

この町は中央部にある元領主の館から放射状に66の通りが延びている。

もともとは77通りであったが、度重なる戦闘とこの街の特異な気質によって使の憂き目にあっていた。

主にダンジョンの入り口とか、奈落まで続く大亀裂とか。


特異な気質、とはアンデッドの持つともいえる。

それは建物を侵し、腐敗、風化などを促進させる効果がある。

悪いことばかりではない。

街特産のブラッディ・ワインはそのおかげで短い期間で熟成を完了させることができ、品質を損なうわけでもない。

もちろん保存場所、ひときわ大きい倉庫も、100%天然の高価格石材を利用しているため、少なくとも5000年は倒壊の心配はないとのこと。

なんだそのファンタジー物質とか言ってはいけない。

例え高層ビルが持って1000年だとか、そんな無粋なことを考えてはいけない。

ピラミッドもかなり保つし。大丈夫だ。ISHIDUKURIなんだから。

そして、金に飽かせた魔術処理などを施しているため、少なくとも数万年は劣化ゼロでもちこたえるらしい。

建築した鬼人が言うにはこだわりはひとしおだそうな。

内部の最適な恒常性維持術式構成の美しさから外観の装飾の細部まで解説を受けた。

正直拷問かと思った。


おや、珍しいこともあるものだな。

が開いている。


「いらっしゃい、久しぶりだね」

額に札をはっつけたこの食堂の店主は、である。

見目麗しいわけでもない中国風の衣装に身を包むその女性。

何時か旅の途中で聞いたという種族によく似ていた。

「店を開けるのがな、で?今日は何のダシが出来たんだ?」

このキョンシーの得意料理というかこの食堂唯一のメニューはスープである。

街を歩けばスケルトンにあたるこの街では多種多様なガラが取れるため、新しいメニューが完成するまでは食堂は営業しない。

スケルトンのガラは瘴気が染み込んでいて、漏れ出ないように負の魔力でおおわれているのでそのまま煮込めば

しかし完成した料理を見れば死ぬかどうかは判別がつく。

これまではホタテとかブタとか、前はのシチューだったか。

「ふっふーん、聞いておくれよ、とうとう調理に成功したんだ」

まあしばらく空いているところを見ていなかったし、結構長い間悪戦苦闘したらしい。

「ほら、みてごらんよこの透き通った美しい輝き!」

香りが食堂内に広がる。

濃厚で、しかしアッサリと鼻を通る香ばしい香り。

負から正へと強制変換された魔力は生体を活性化させる効果があり、人々の心に安らぎと情熱をもたらすという。

本人の体にさえぎられて見えないが、久方ぶりにうまい食事が出来そうだ。

「シンプルゆえに料理人の腕に左右される極上のをどう活かすか、この旨味に完全合致する水はどうか?具材の濾し方や煮込み時間にまで試行錯誤と研究を積み重ねた自信作なんだ」

「で?何のダシ?」


「そりゃもちろんのスケルトンさ!」


瞬間、懐からロケットランチャーを取り出し、その背中に向けて発射した。


流石に元々同族を食らうほど落ちぶれちゃいない。

捕獲難易度と調理ランクが最高を誇るのスープが出来たら呼べ。

それかの白湯の味を凌駕するスープ。


そう言い捨てて瓦礫となった食堂を後にした。

「ま…毎度…ありがと……うっ」

その料理人根性に免じて止めは刺さないでおいてやった。

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悪霊の住む街 ダンジョン付き 天宮詩音(虚ろな星屑) @AmamiyaSionn

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