悪霊の住む街 ダンジョン付き

天宮詩音(虚ろな星屑)

第001話 隣の幼馴染(ゴースト)

「あっさでっすよー」

日が高く上る少し前、少し薄暗いその部屋に、ぼんやりと光る影があった。

その顔立ちは素朴でありながら整っていて、体つきも十分美人の粋である。

まあ、足が無いことを除けば、平凡な町娘といえるだろう。


そして、最も大きな特徴として、この娘は幽霊であった。

その明るい性格と全く逆の陰鬱な雰囲気を纏っている彼女。

その呼び掛けに反応しないベットの上で規則正しく上下する膨らみ。

「アレ、なんだまだ寝てるのかーこのダメ男、しっかたないなー」

つまり部屋の持ち主、もとい間借り主の眠るベットに向けて軽快なダイブを敢行し。


「うふふー新鮮な生気。いつもどーりでりしゃすっ」

若干蕩けながら捕食を始めた。

ベットの膨らみに透過しながら夢中になっていく。

膨らみの中の人の指がピクリと動いた。

「あーやっぱりとまんないやーもうフギャッ」


翻る布団、即座に透過率を調整するも間髪入れず立てつづけに放たれる銃声。

柔らかい地盤ベッドの上からでも安定して放てる小型の機関銃を1マガジン分撃ち尽くし。

ゆらりと彼女に近づいてその頭部をガッチリとロックした。

「痛い痛い痛い!?あだだだ、ごめんなさいお許しを、ってなんで強まるのぉ!?」

「テメェ、何度言ったらわかるんだ?勝手に寝室入るなって」

部屋の四隅においてある黒ずんだ塵を見てため息をつく借主。

盛り塩だって無限ではない、というか安定入手は喫緊の課題であった。

「だってぇ、おいしいんだもん」

「もん、じゃねぇよこのアンポンタン、それで殺されかけるこっちの身にもなれ」

生気とは文字通り生命力に直結するほど重要な生者の体内エネルギーであり。

そしてのようなアンデッドの主食である。

「いいじゃん少しくらい、ってこうなるんでしょ?」

「そうかもしれんが。はあ、あのおとなしい幼馴染はどこへ行ってしまったんだ」

何気に本気で嘆いている。

彼女がこうなってしまった原因は借主である彼にもある。

朝から気分が悪くなることを思い出し、頭を振って思考を追い出す。


そのあいだ、口だけをへの字に曲げて器用に感情を表現しながら彼女は言う。

「なによぅ、わたしはわたしです。もうっ、ヒッドイなぁ」

「何が酷いだ。性格180度変わってんだろこのスカポンタン」

間髪入れずにツッコミを入れる借主。

「もう、ダメ男のくせにぃ」

「そのダメ男にのは誰だってんだ」

まあ、原因でもあるのだからあまりいい気はしない。

「はーいっ、わったしでーす」

「……はあ、手遅れだったか」

しかし、理性など欠片も存在しないかのように奔放な元気さに。

ちょっと、いやかなり本気で呆れた。


「……あの、それはともかくヘッドロックそろそろ解除してほしいかな、なんて」

「……しばらくそのままな」

そんなぁ、と日がすっかり高く上った街に声が響いた。

ここはアンデッドの跋扈する街。

彼らのの舞台である。

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