死神の傀儡

きゃんでぃー

短編


とある宿のエントランスで新聞を読んでいると、お揃いのローブを被った少年と少女が宿にやってきた。きっと、冒険者か何かだろう。少年は、疲れているのだろうか身動き1つせず壁にもたれかかり、少女は主人と話している。


「ここって、ダブルルーム1泊素泊まりでいくらなの?」

「ええと、銀貨1枚と銅貨2枚になります。」

「そう、じゃあお願いするわ。」

「ありがとうございます。それではお名前をこちらにお願いします。」


店主が紙を指さした。すると、今まで石のように動かなかった少年が突然動き出し黙々と自分と少女の名前を書き始めた。


「エリクさんと、メアさんですね。お部屋に案内します。」


店主は突然動いたエリクと言う少年に少し驚いたようだか、その後何事もなかったように部屋に案内した。その間少女はローブから顔以外の場所を外に出さなかった。






メアはとある村のほかの家より少し裕福な家庭に生まれた。両親が召喚術の研究者であり、王国から給金をもらい生活していたからだ。

そんな家庭でスクスクと愛を受け成長したメアは、母から家事を学び、父からは学問を学び賢い子供になった。また、優れた魔力を持ち傀儡術を得意とし、幼い子に人形劇を見せては楽しませていた。

エリクは村の守衛の息子として生まれ、同年代の子供が少ない村ではメアと共に小さい子供たちのリーダーとして優しく成長していた。

しかし、そんな幸せも続かなかった。メアの12歳の誕生日の事である。メアの家では家族3人でのパーティが行われた。何故か毎年のパーティより豪華な料理が振舞われた。

その片付けをしている時に突然足元に魔法陣が広がりその中から黒い靄のようなモノが出てきた。次第にその靄は形を作り恐ろしい死神の姿になった。


そして死神が両親に向き口を開く。


「そこの召喚した者共よ、我を召喚し何を対価に何を得ようとするのだ?」


両親はメアを指さしながら


「そこの子供だ!!!そこの子供を対価に、私達に永遠の命と力を与えたまえ!!!!」



両親は悪魔に憑かれたような笑みを浮かべながらそう宣言した。


「え…… お父さん……お母さん……嘘……だよね……」


「いいや、本当だ。オマエは私たちの供物となる為に生まれてきたのだからな。」

両親だったはずのものは吐き捨てるように言った。


「嘘だ……嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘だーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」


メアが絶望のあまり魔力を暴走させた。召喚士などという稀有な能力を親にもつメアである。魔力は相当なものだった。死神の術が発動する前に両親にありったけ以上の純粋な魔力を叩きつけ、殺してしまった。そして、限界以上の魔力を解放したメアも意識を失ってしまった。

悲劇はこれでは終わらない。次の日になり、メアが目を覚ますとそこには冷たくなっていた両親を見つけた。昨日の事を覚えていないメアは半狂乱になり、周囲の人を呼んだ。

魔力が読み取れる人が検死を務めると、メアから放たれた魔力が両親を貫いていると伝えられた。一晩にして両親を失い親殺しになってしまったのである。メアは両親が死神を召喚して自分を殺そうとした、と説明したがそんな子供の戯言は聞き入れられなかった。それからは酷いいじめを受けた。大人から子供まで。唯一エリクだけはかばってくれたがそれでも幼い心が壊れるには十分な程だった。

いじめが続いたある晩、幽霊のような顔で歩くメアを見つけた村民達は「やっと、地獄に行く気になったか?」などとはやし立てた。

それに対しメアは左手を挙げどこからか大きな霊体の鎌を取り出した。心が壊れ、無意識で膨大な魔力を込めて作り上げた鎌は皮肉にも死神の鎌に酷似していた。


「ーーーーーーッ!!!!!」声にならない叫びを挙げ振りかぶるメアに心配でメアに付いてきていたエリクが止めようと近づく。しかし正気を失っているメアは関係なく鎌を360度振り抜いた。



直後から村は静寂に包まれた。鎌の射程は村すべてだったのだ。もちろんエリクも例外ではない。気を失ったメアに寄り添うように倒れていた。



目を覚ました。隣にはエリクが眠るように斃れている。メアは理解し思い出した。自分がこの現状を生み出したのだと。壊れた心はもう二度と治らない。



エリクに向かって魔力の糸が伸びる。


「ごめんね、エリク…… これからはずっと一緒にいようね。大好きだよ。」


メアが指先を動かしてエリクを立たせた。


「こんな酷い村から出て、2人で幸せになろうね。」


準備をし、お揃いのローブを指先まで被りふたりは村を出た。誰も自分たちを知らない場所に向かって。





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