第16話

 敬太郎氏に連れ立って、俺はキズナの家に上がる。


 玄関から幾度となく廊下を曲がり、長い距離を敬太郎氏とキズナの後ろを肩身が狭い思いでついていく。


 旧家の趣がある建物は、背が飛び抜けて高いわけではない俺が少し腰をかがめなければならないほど鴨居が低かった。窓の外には海鼠壁なまこかべの土蔵や、にじぐちのある茶室も見られた。


 広い居室に入るとすぐにソファーを促される。


「かけてくれたまえ」


 調度ちょうどの類いは美術品に対する造詣が深くない俺でも息を呑むほどの名品が並んでいて興味深いのだが、俺は、


「失礼します」


促されるままに腰を下ろした。


「私も失礼するよ」


 敬太郎氏は俺の向かいに腰を下ろす。続いてキズナも座ろうとするが、


「あっ」


「若宮さん」


「大丈夫か、キズナ」


疲れているのか、バランスを崩して父親の膝の上に倒れかかる。


「すみません」


「連日の仕事で疲れているようだ。おい、ノエル」


「はい」


 敬太郎氏の呼びかけに対し、ワゴンを押しながら近付いていたノエルがさっとキズナに近づく。


「失礼いたします」


 無駄のない動きでキズナを支えると、そのまま腰を落として彼女を背負う。


「すみません、失礼します」


 弱々しい声だった。


 ……護ってあげたい。……助けてあげたい。


 思わずそんな感情が俺の頭をよぎる。


 これが、萌え声、か。


「連日、仕事で疲れているようなので、休ませてやってくれ」


「無理しなくていいよ」


 俺の言葉にキズナは、


「ありがとうございます」


と言ってすぐ、ノエルとともに部屋を後にした。

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声優は魔法少女になれますか? ままかり @_mamakari

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