第15話

「君が娘をつけてきた人間かね」

 朗々とした太い声が耳に届く。

「違います。私を助けていただきました」

 キズナが反論する。

「私はキズナの父、若宮敬太郎だ。ノエル、報告と食い違うようだが」

 まるで昔の紙幣の人物のような、堂々とした髭の男性だった。五十前後だろうか。がっしりとした体格と、ブランドものらしきスーツで固めた様子は、どこかのお偉いさんのようだった。

 ノエルは腰を折り、深々と敬礼する。

「少なくとも駅舎を出てからまっすぐお嬢様を追っかけてきたストーカーと私は判断いたしました。が、しかし、お嬢様は、交差点で赤信号で突っ込んできた車から命を救った恩人だと主張しています」

「娘がそう言うなら、そうなのだろう。私からも礼を言わせてもらう」

 敬太郎氏は深々と頭を下げる。

 俺もつられて、とりあえず頭を下げる。

 しばしの間。たぶん一秒くらいだが、自分には一分にも近い時間に感じられた。

 ようやく、と思い頭を上げると、敬太郎氏は未だこうべを垂れていた。

「あ、頭をお上げください」

 俺の言葉に、敬太郎氏は頭を上げる。

「自分は、し、白井裕紀と言います。よろしくお願いします」

 少し……どころでなく上擦った俺の声。自分に自分なんて、普通言わないよな。

 みゅーちゃん、笑わないでよ。

 敬太郎氏は俺の手を取り、告げる。

「白井君というのか。ありがとう。恩人ならば、いかような人物であれ、歓待せぬわけにはいくまい。ノエル!」

「はい」

 そういうとすぐさま、ノエルは建物の中へと消えていく。

 どちらかというと逃げていく、という感じだが。

「ノエルはちょっと融通がきかず失礼なことを言ったかもしれないが、ゆるしてやってくれ」

「あ、はぃ」

「緊張することはないぞ。さぁ、上がってくれたまえ」

「失礼します……」

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