第18話 新たなキッド

 「ローさん、もうスターでは居られないってどういうこと?」

厳かな雰囲気なところ悪いがこれは聞いておきたい。


「なんだ、ライドてのは意外とものを知らねんだな。

 これはスター自衛団のルールで一度失敗を犯せばもうスターにはいられないんだ。

 辞職させられんだよ」

「辞職?!」

「二度はないし、一度として負けてはいけない。負けた場合は隊長(キッド)の責任。

力の足りないものは排除されてゆき、やがて力そのものになる日まで武力の精鋭と

力の粋を集結させてゆく」


「……狂気の沙汰だ」

「俺も入る前はそう思っていたさ」

「えっ?」



「キッド、すみません……おれ……」

「いえ、あなたはよくやったわ。あなたに助けられた子はたくさんいる」

キッドはうなだれたスターの一員の肩を揺らした。

「でもみんなが傷ついているのに何もできなかったんだキッド!」

「何を言うの。みんなをあなたが支え、癒して来たじゃないの。

第三スター隊はみんなあなたを慕っているわ。あなたの後ろの三人も」


青年は何かに突き動かされるように後方を振り返った。

「……っ!」

「キッド様」

「あなたが新しいキッド様です」

「何処だろうと俺らはついていきます」


確信を得た新しいキッドは煤けた顔を今までのキッドに向けなおした。

「……せんぱい!」

その目からこぼれた涙が煤を洗い流していく。

猫耳のある大剣の麗人は、スターキッドの青年に言い渡した。

「あなたが、これからのキッドよ」



「待たせたわね。ロー、とその用心棒たち?」

装備をすべてキッドに受け渡した猫耳が言った。

「おいおい。こいつらは用心棒なんかじゃない」

「あらそう?」


そこへレフトが口をはさんだ。

「もうキッドじゃないなら……どう呼べばいいんですか?」


一瞬間だけ間の抜けた表情をした後、猫耳麗人は言った。

「ネロよ。ネロと呼び捨てていいわ、戦闘時はさん付けは邪魔でしょ」

「レフトです」

「僕はライドです」

「よろしく!」



「あなた達二人の故郷はツリーハウスタウン近郊かしら。二人とも良い匂いがしてるわ。ツリーハウスは壊されたと聞きかじっているけれど……」

ネロさんに……そんなに……に、匂うかな……。


「それなのですが……」



「あなた達の話を聞く限り、それは心を惑わせる類の呪いね」

「……呪い」

ネロの言葉にレフトが反応を示している。動揺だろうか。


「確かに様子はおかしかったし、言動もレフトとは違ったよ」


そこへビールを持ったローが来て、無造作に腰かけて言う。

「その呪いってどうやったら掛かるもんなんだ?」

「そうか、能力者だったから知らなくてもよかったんだね、ローは」

妙に合点がいったようにネロは両手を叩いている。

「ヘッ」ローは膨れている。

……何だこの空気。


魔力リーブルを大量に消費しながら、あらかじめ書いておいたスクロールから

魔術文様を分離して、働かせる区域に由来する物質に張り付ける。

これが結界系の鉄板な手法で、バレにくいから呪術学にも利用されてる」

なるほど。

「それがツリーハウスタウンに仕掛けられていると」

レフトは真剣に聞いている。勤勉な性格が前面に出てるな。負けられないぞ。


「…レフト、“かもしれない”だよ。私にも判らないことはあるもの」


「……いや、でもツリーハウスの人たちと比べて術の特徴が合う……」

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遠くの風―—定めの歌と花―—【朝東風シリーズ一作目】 登月才媛(ノボリツキ サキ) @memobata-41

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