VRMMOってプレイしないとダメですか?

トースター

第1話 

 「『お誕生日おめでとう!聡一』」

 「ありがとう、お父さん」


 誕生日。僕にとっては実の父と話せる貴重な日だ。とはいえ、実際に会うのではなくテレビ通話を通してだが。

 母と離婚した日を境に父とは会っていない。母とそういう約束をしたらしい。そのときは僕も子供で離婚理由などは教えられていなく、僕にとっては優しい立派な父だったのでただただ寂しかった。去年、高校生になったからと母に父が不倫していたことを教えられたが、だからと言って思うことはあっても父への眼差しが変わることがなかった。母が別の人と再婚したのもあるかもしれない。


 「『そうだ。もうプレゼントは開けた?今回も父さん、頑張って聡一が喜びそうなものを手に入れたから、期待していいよ』」

 「うん、ありがとう。中身がなんだったって嬉しいよ」

 「『そうか、そうか!……ん?それって……あ、もう嫁さんたちが帰ってきたから切るね。ごめん、聡一。ハッピーバースデー!』」


 画面越しにドアを開く音がしてきて父は慌てて通信を切った。今の家族にも僕と交流があることをを伝えていないのだろう。僕も家族に父と交流があることを秘密にしているし。




 名残惜しくも前と変わらない父に仕方がないなぁと思いながら、ベット上に置かれた大きな段ボールに向かう。


 「さて、今年は何が入ってるんかな~」

 「『あれじゃないですか?まるもるもりめのストラップ、全都道県版詰め合わせとか』」

 「……ありそうだから困るな」


 まるもるもりめとは子供たちの間で人気なキャラクターである。詳しくは知らない。


 「毎年、微妙なものばかりくれるからなぁ。何が来るかわからないのは面白いけど」

 「『むっ!それって私も微妙ってことですか!?』」

 「いや、一人暮らし初めて寂しいだろうからって、AIくれたってボッチまっしぐらの道しか見えないよ」

 「『前から行っていますが、私は今の最先端技術の1歩先を行った存在なんですよ!こんなの幾らお金を積み上げても手に入りません!!』」

 「つまり売りに出したら大金が入ると」

 「『そんなこと言っていません!大体、そんなことしたら聡一は今の平和な暮らしが出来なくなりますよ!』」

 「冗談だって。僕がお父さんに貰ったものを捨てる訳ないじゃないか」

 「『冗談でも言っていいことと悪いことがあります!』」

 「ごめん、ごめん。あずき」


 父とのテレビ通話に使ったPCから女のアニメ声が聞こえてくる。「画面には誕生日はア・タ・シ」とでも言うつもりなのか、リボンで体を覆ったアニメチックな女性キャラが怒りマークを出しながら怒っていた。彼女は去年の父の誕生日プレゼント……のおまけだ。現在市販されている小豆全種セットと一緒にくれたものだ。どうしたのかは知らない。

 ただ、初めの一か月ほどは彼女の過剰なアニメチックさに無性に恥ずかしくなっていた。黒歴史を他人に知られたような感じだ。


 「これって……」


 『そもそも私のこの格好に何か言うことはないんですか!』とか言っている彼女の話を適当に流しながら箱を慎重に開けていくと、中には最近話題のゲーム機と手紙が一通入っていた。


 「『あ、それ≪TTL≫じゃないですか!これはまた凄いものが来ましたねぇ』」

 「うん、『お父さんが毎月の料金払っておくから好きに遊びなさい!』って手紙に書いてあるよ。まったく、高校生にこんなもの渡したって僕をボッチにする気かな?」

 「『聡一、顔がにやけていますよ』」

 「……」

 「『素直じゃありませんねぇ』」

 「……こほん!ま、気持ちはありがたいんだけど、この手のゲームはやり出したら止まらなそうだし僕がやることはないかな」

 「『えー、やらないんですか?お金がもったいないですよ』」

 「”僕は”やらないって言っただけだよ。あずき、代わりにやってくれないか?あと、視覚と聴覚情報をPCから出力してくれ」

 「『え、いいんですか?せっかくお父さんがくれたものを』」

 「いいんだよ。好きに遊べって言ってるんだ。それに僕はするより見るほうが好きだからね」




 PCと≪TTL≫を無理矢理繋げられ、PC画面上に2D化された映像が映り出される。


 「『聡一、聞こえる?』」

 「うん、聞こえるよ。画面も映ってる」


 『ようこそ≪TTL≫の世界へ


  *注意* アカウント情報に不備があります。


  プレイヤー設定を再開しますか? Yes/No 』


 「『どうやら最初の方はお父さんが行っているみたいですね』」

 「月額の料金を払ってくれているみたいだから、そこら辺の設定なのだろう」


 VRMMOゲームは昨年から開始されたまだまだ新しいゲームジャンルだ。その中でも≪TTL≫は月額基本料が必要な代わりにゲーム内での課金要素が無く、誰でも強くなる等しく可能性のを売りにしているゲームだ。しかも月額も3万と高く、子供がほとんどいないため常識知らずも少ないらしい。

 それもあって≪TTL≫が僕の学校で話題になることはほとんどない。


 「『プレイヤー情報はどうします?男性キャラで名前は聡一にでもしますか?』」

 「いや、あずきが操作するんだから女性キャラでいいよ。他の設定も好きにしていいし。でもリアルの名前とか普通つけないから」

 「『は~い。それじゃあ設定するんで、少しお待ちください』」

 「んじゃ、その間に洗濯物してくるわ」

 「『ほんとに私主体ですね!?』」




 「『出来ました!ご覧ください!!』」

 「おお、思ったより時間かかったな」

 「『このゲーム、設定欄が多いのですよ……でもおかげで自信作が出来ました!」

 「どれどれ」


 『名前 あずき

  性別 女性 

  年齢 17歳

  誕生日

    ・

    ・

    ・

        』


 「……まぁ、お前がそれでいいって言うんだったらそれでいいけど。自信作っていうか。お前そのまんまだよね」


 こいつは現実バレの怖さを知らないのだろうか?


 「『いやいや、自信作って言うのはこの見た目ですよ!どうです?私がそのまま再現されているでしょう!!』」


 映り出される画面が切り替わって、プレイヤーの全体画像が出てくる。肩まで伸ばされたゆるふわな感じの黒髪に、童顔ながらも整った顔。身長は160もなさそうだ。出るとこが出ていないが、出なくていいところが出た訳でもない引き締まった体。


 誰もが振り返ってみてしましそうなほど可愛い女子がそこに居た。それも下着姿だ。でも味気ないから、全く思うところは無い。


 「『こういうのって普通は自分の体をスキャンさせた後に顔とかを多少いじったりするものですが、私には情報がありませんからね。ひとつひとつ調整していくのが大変だったんですよ!!』」


 なるほど、確かに普段のあずきはアニメチックな見た目だからそのまま転用することが出来なかったのだろう。それにしても一からここまで整えられるとは。流石AIというべきか。


「これはすごいな」

 「『へっへーん。私にかかればチョチョイのチョイですよ』」

 「まぁ、見た目なんてどうでもいいとして、スキル構成はどうしたんだ?戦闘系か?」

 「『どうでも!?』」

 「いや、凄いことには凄いよ。けど、ゲームはアズキ視点でなんだから見た目とか関係ないし」

 「『……たしかに』」

 「それでスキル構成はどうしたんだ?」

 「『……え~と、何にするか迷ったんですよね。それによって、ゲーム内での動きが変わりますし』」

 「だろうね」

 「『という訳でスキル欄に番号を振って、こちらで完全ランダムに決めちゃいました』」

 「既に地雷臭がするな」

 「『ひどいですね!それはちゃんと見てから言ってくださいよ』」


 『スキル:木工 Lv1

      盾 Lv1

      肉体強化 Lv1

      弓術 Lv1

      調教 Lv1

      魔力回復 Lv1

      調合 Lv1

      呪術 Lv1  』


 「さて。これってリセット出来るの?」

 「『消そうとしないでください!』」

 「いやこれもう終わってるだろ。なんなの、タンカー兼弓兵でもするつもりなの?」

 「『いやだな~。そんなこと出来る訳ないじゃないですか。第一ソロプレイのつもりですから役割とかいらないですし』」

 「ソロか。……まぁ、【魔法回復】があるなら【呪術】で呪術師とか【調教】でサモナーとかやりようがあるか」

 「『いえ、【魔力】のスキルを取っていないのでそういうのは無理みたいですね』」

 「やっぱり終わってるんじゃん!!これ、今から変更って出来るのか」


 あと、このゲーム結構シビアだな。魔力持つのもスキルがいるなんて。


 「『いいじゃないですか。実際にやるのは私なんですからー。それにこの方がどうなるか分からなくて面白いと思いますよ』」

 「それは……そうだね」

 「『ではでは、設定も終わったことですし、レッツゴーです!』」




 「『おお、思ったよりしっかりしてますね』」

 「うん、実写にしか見えない」

 「『地面を踏む感触。獣か土でしょうか、少し重くて個性的なものを臭いで感じます。空気は……よく空気がおいしいと味覚で捉えることがありますが、これは臭いと似たものを感じますね。風味というやつでしょうか』」

 「そっか。そういえば感覚器が今までなかったんだね」

 「『はい。視覚と聴覚はこれまでも感じていましたが、その感覚も少し違ってクリアになったと言いましょうか、重みが増したと言いましょうか』」

 「何となくニュアンスは伝わるから大丈夫だよ」

 「『はい。言葉じゃ言い表せないとはまさにこのことだと実感しています』」


 あずきは両手をにぎにぎしたり、辺りを見回したりしている。

 珍しく彼女が微笑ましく思えた。


 「『あ、あの!初めての方ですか?よろしければ色々教えますけど……』」 


 どうやら背後から声を掛けられたようで、画面が右に半回転する。

 そして正面に弓を後ろにかけた、チャラいというか、大学生の頃にチャラかったんじゃないかなと思われる、そう、コミュ力高そうな男がいた。


 「『ええ、初心者ですよ。でも自分のペースでやりたいので大丈夫です』」

 「『そ、そう?じゃあ、最初に各施設の場所とか必要なことだけでも』」

 「『お気遣いありがとうございます。でもそういうことも自分でやっていきたいので大丈夫です』」


 初めて見るあずきの口調に驚く。外面用というやつだろうか。今日はやたらと意外な一面を見つけるな。


 どうやら向こうもしつこく付きまとうつもりはないようで、すぐに下がってくれた。


 「『どうです、聡一?私、いきなりナンパされましたよ!!』」

 「いや、彼はそういうのじゃなくて親切心で言ってきたんじゃないかな?」

 「『いいえ。彼は下心満載でした!』」

 「なんでそう思うの?」

 「『私がかわいいからです!』」

 「……それ、意識過剰だから。いいから先いこう」

 「『むっ、過剰じゃないです。いいですよ、これからばんばん話しかけられて、嫌でも分からせてあげます!!』」


 すっかり拗ねてしまったあずきは、基本と初期の武器をくれる訓練場へと向かったが、その間話しかけられたのは5回。うち3回は女性で1回はNPCだった。

 自意識過剰だったのか、あずきが人を近づけないような顔をしていたのかはわからない。




 バシュッ


 「『うむ。これだけ出来ればあとは実践の中で自然と身に着けていくだろう』」

 「『ありがとうございます』」


 的の中心に矢を連続で射たのをみて、教官は満足そうにいう。


 「盾は結構時間かかったのに、弓はあまり時間かからなかったね」

 「『それはそうですよ。だって的が動かないんですから』」

 「確かに動くかどうかでかなり難易度が変わるか」

 「『そうじゃなくて私、AIですよ?動かない的なら一度射て、あとは誤差を修正するだけで簡単に当たります。あそこならば百発百中ですよ』」

 「あぁ、じゃあ盾の時に時間がかかっていたのは」

 「『あれは攻撃のパターンを変えていましたから、失敗したんです。このゲームのシステム干渉すればそこから情報を取得、完璧に防げますけどそれだと面白くないですからね。でもあの人の攻撃で一度受けているものなら防げるはずです』」

 「……何気にチートだよね。それ」

 「そうですか?、実際はその場の状況だったりも考えないといけませんから、気にするほどでもないと思いますよ」





 「お前はゲームしてるものだと思っていたよ」

 「『聡一が登校しているのだからこっちにいるのは当たり前じゃないですか』」


 ゲーム初日を終えた次の日、ゲーム内に残って遊んでいるかなと思ったあずきは僕のスマホ(あずき専用)の中に入ってきていた。

 高校の近くのアパートを借りたので徒歩で登校する。


 「そう……でも学校じゃ話しかけないからどうせ暇だよ」

 「『聡一は「あずきが一緒に来てくれるなんて嬉しい!」ぐらい言えないんですか?』」

 「いや、スマホを2台も持ち歩くの大変だし、なんか盗聴されているような気分がしないでもないんだよ」

 「『……迷惑ですか?』」

 「……別に。もう慣れた」


 スマホの中のあずきがしょんぼりポーズから、ぱぁぁぁ!っとエフェクト付きで笑みを浮かべている。

 傍からみればスマホいじりながらブツブツ喋っている変な奴なのだろうが、これも慣れてしまった。恥ずかしさが消えるって悲しいね。


 「そういえば、ゲームの最中で僕に話しかける内容は他の人にも聞こえているの?」

 「『いいえ。聡一に話しかけるときは向こうと分離して行っているのでゲームの中では口も動いていませんよ』」

 「そうなんだ」


 自分だけズルいな。しかし他のキャラからみれば、あずきはほとんど無言で黙々と戦闘訓練していたように見えたのではないだろうか。それで話しかけづらいかもしれない。


 「でもソロなら問題ないか」

 「『?』」




 いつの間にか制服を着させられている感じのなくなった1年生たちが正式入部したばかりの部活へ向かおうとする中、僕は一人校門を出る。


 真っ直ぐ帰る訳ではなく、スーパーに寄って3日分の献立を健康志向のあずきと交渉しながら考えて買い込む。ここでの買い物は支払いが母の下に行く電子マネーを使っているから、勝手に買おうとしてもあずきが邪魔をしてくる。だから毎回折り合いをつける必要があるのだ。あと、やたらうるさくなるのもある。

 そして帰りは教科書類が入ったバックとスーパーの袋を持って、普段運動しない代わりだと無理矢理考えながら、そんな中でも他人事のように話しかけてくるあずきに少しイラッとしながら歩く。




 「ただいま~」

 「『おかえり~』」


 家に帰るとPCが勝手に起動してそちらからあずきが挨拶してくる。ごっこ遊びのようにも思えて微妙な感じだが、無いならないで少し物足りなく感じるのだと思う。

 なんだかんだ言ってあずきも今の僕の生活の一部になっているのだろう。


 「それじゃあ、洗濯物を取り込んだり風呂洗ったりしとくからゲーム進めといて」

 「『はーい』」


 昨日で慣れたのだろう。あずきは特にこのゲームスタイルについて言うことはなかった。




 「今何してるの?」

 「『今日は実地で訓練してみようと思って……よっと!』」


 しっ、と風を切るような音を立てて矢が遠くにいる緑色のウサギへと飛んでいき、どうやら当たったようだ。敵は矢が刺さった状態でこちらへと向かってくる。

 その間にもあずきは矢を2回ほど射て、うちの片方が当たって敵は倒れた。


 「『グリーンラビットを倒すには2回当てないといけないようですね』」

 「頭狙ったら一撃みたいなのはないの?」

 「『最初の矢も頭を狙ったのですが、途中で気付かれたみたいです。この敵に対する急所狙いは難しいようですね』」

 「他の敵にするのはどうなの?」

 「『急所を狙えるかもしれませんが、グリーンラビットが最弱のようなのでもっと本数が必要になるかと』」

 「へぇ~。それじゃあウサギが一番効率がいいんだ」

 「『そうですね。矢は使うほど消費されていきますから、そこを踏まえるとこれが一番効率的かと』」

 「消費って……そこまでリアルリティ求めてるんだ。矢を買うコストとか入れると結構お金かかるな」

 「『そうですね。一応、初期の矢だけは訓練場で無料で補充できるみたいですよ』」




 「『次は【盾】スキルを使ってみますね』」

 「がんばれ~」

 「『よぉし。来いやぁぁ!』」


 ガン ガン


 直径60cmぐらいだろうか、円形のウッドシールドを使ってグリーンラビットの体当たり攻撃を防いでいる


 ガン ガン


 「若干、ダメージ喰らってない?」

 「『ダメージ量を1割にするだけですからね。HPは減りますよ』」

 「ふぅん」


 ガン ガン


 「【盾】スキルが上がるとダメージ量が減ったり0にする技もあるみたいですよ」


 ガン ガン


 「ところでさ」

 「『どうしました?』」

 「そのウサギどうするの?」

 「……」


 ガン ガン


 「『……どうしましょう?』」

 「……さて、そろそろ夕飯の支度でもするか」

 「『えっ!ちょ!?おいていかないでください!!』」


 ガン ガン 


 切った具材を炒めていると、PCから『あっ……』という声だけが聞こえた。




 「いただきます」

 「『めしあがれ……。私を置いていくなんてひどいじゃないですか』」

 「いや、何にも考えてなかったそっちが悪いだろう?」

 「『うっ……それはそうですけど、もう少し思いやりがあってもいいと思うのです』」

 「それで初めて死んだ感想は?」

 「『仲間に裏切られて悲しいです』」

 「いや、こっちからは何も出来ないんだし仕方なくないか?」

 「『こういうのは気持ちの問題なんです!急に視界が暗くなったと思ったら、いつの間にか町に戻っていたんですよ。直接喰らってないからやられた感覚もないし。本当に虚しかったんですから!!』」

 「痛い方がよかったの?」

 「『いやです!!』」

 「なら良かったじゃん。それでその作ってるものは何なの?」


 あずきの手には彫りかけの木造と小型のナイフがある。


 「『これですか?まるもるもりめの福井県バージョン(冬仕様)のフィギュアです』」

 「なんか3Dプリンターを使ったみたいになってるけど、【木工】スキルのレベル1だよな」

 「『扱える木や別の何かと組み合わせるのにはレベルが必要みたいで、あとはプレーヤー自身の技量次第らしいですよ』」

 「なにその不器用な人いじめ」

 「『う~ん。私が元から技術Maxだから気付かないだけで、多少のアシストが付いているんじゃないですか?』」

 「このチートめ!!」

 「『あ、【木工】の熟練度がMaxになった』」

 「熟練度がMaxになるとどうなるの?」

 「『新しい技を手に入れたり、スキルポイント(SP)を消費することでレベルが上がったりするみたいです』」

 「へぇ~。新しい技とか手に入ったの?」

 「『はい。といってもオークションで売れるようになっただけですけどね』」

 「……売れそうだけど、疑われても面倒だしやめとこう」

 「『仮名出品も出来るみたいですよ』」

 「いや、変に目を付けられてもことは避けた方がいいかも。それにこれ著作権的にアウトだし」

 「『いえ、売るとしたら私(アニメチックな方)のやつを作りますよ。私の可愛さでメロメロです!』」

 「あ~うん。そうだね~」

 「『適当に流された!?』」




 「『おはよーございます!朝です、聡一!!』」

 「……ふあぁぁぁぅ。。。おはよう……土日は起こさなくていいって…」

 「『そういう訳にはいきませんよ!私には聡一に規則正しい生活をしてもらう義務があるんですから』」

 「わかった、その義務から解放させてあげるよ……」

 「『いつまでも寝ていないで、早く起きてください!今日は初ダンジョンなんですから!!』」

 「ん……がんば……」

 「『おきなさーーーーい!!!!!』」


 土日くらい布団の中でゆっくり惰眠を貪りたいものなのだが、寝るには我が家のアラームはうるさすぎた


 「って、なんでプレイヤーレベルが10になってるの」

 「『聡一が寝ている間に頑張ったんです!あ、でもレベルアップで溜まったSPはまだ使っていませんよ』」

 「人に規則正しくとかいいつつ自分はそれか……」

 「『AIですから。寝る必要はありません』」

 「それ連続ログイン時間とかで怪しまれない?」

 「『連続だと3時間、次するときは1時間空けないとプレイ出来ないようになっていますから、そこは問題ないです』」

 「そこは?」

 「『こ、言葉の綾ですよ!それよりほら、行きますよ!!』」


 ストーリダンジョンと呼ばれるダンジョンのボスキャラを倒すと新しいマップが出てくるようになっているのだが、メインマップの拡大は全プレイヤーに共有されるため僕達がダンジョンに挑む必要はない。


 「やっぱり、人はいないみたいだね」

 「『そうですね。1年前に始まったゲームですし、初心者に会うことはそうないと思いますよ』」

 「更にはまだ朝の9時だからね。初心者でこんな時間にやっているって、そうとう変な奴だよ」

 「「『はっはっはっは』」」


 石造りのダンジョンに潜って5分も経たないだろうか。少し先には5mはありそうな扉がみえた。そしてその前には2人の男女がいる。


 「あれ?結局何もなくボス部屋っぽいところの前まできたね」

 「『一番初めですし、お試しみたいなものなんじゃないですか?』」


 扉の前まで来たとき、さっきのフラグによって出てきたようにも思える初心者装備の男女が話しかけてきた。


 「『あのぅ……今からこの先に向かうんですよね?』」

 「『はい、そうです。でも急いでいるわけではないですので、待ちますので大丈夫ですよ』」

 「『よかったら、私達が一緒にどう?』」 


 男の方は気の弱そうな感じで、女性の方はアグレッシブな感じがする。男が杖、女性が大剣を装備しているのもそんな印象を持たせる。


 「『う~ん、どうします?聡一』」

 「いいんじゃない?推奨レベルギリギリなのに弓と盾だけでソロ狩りなんて、正直どうだろうって思っていたし」

 「『そんなこと思っていたんですか!?』」


 「『う~ん。わかりました。こちらからもお願いします』」

 「『本当!ありがとう!!私、チカっていうの。よろしくね』」

 「『えっと、茶犬です。魔法を特化で、特に【炎魔法】スキルを上げてます』」

 「『あずきです。よろしくお願いします。盾を使うので、今回はタンカーをやりますね』」


 簡単に自己紹介と段取りを決めて、あずき達3人は門を開いた。

 大部屋の中心にいたのは3mぐらいのゴーレムが一体佇んでいて3人の後ろの門が閉まった途端、彼女たち目掛けてゴーレムが進んできた。


 大ぶりなゴーレムの拳をあずきが盾で防いだが、威力が凄いのか地面を擦る音が聞こえた。


 「『おぉっ!びっくりしましたぁ』」

 「おお、画面越しのこっちもビックリしたわ」

 「『こんなに早いなんて、人は見かけによりませんね』」

 「ゴーレムだけどね」


 画面の端からチカさんが攻撃を仕掛けているのが見える。あれは大剣の技なのだろう。上段から振り下ろされる剣が淡く光っている。


 「そういえば、SP使うの忘れてたね」

 「『あぁっ!?』」


 ところで最初から技を使うのは、果たして上手いのだろうか?ゲームをあまりやらない僕にはわからない。

 チカさんがバンバン攻撃をしていると彼女に標的を変えたのか、ゴーレムが彼女の方を向く。すると後ろの方から(画面的には手前から)火球がゴーレムへとぶつかって標的がこちらを向く。そしてゴーレムの攻撃をあずきがガードして、その間にチカさんが攻撃する。

 なんとなく勝てそうだな。


 「『うひゃあ!?』」

 「どうした?」

 「『いえ……茶犬さんがポーションをぶつけてくれたようで、驚いただけです』」

 「あー……なるほど」

 「『なんでしょう?この納得のいかない感じ』」

 「ま、まぁ、物投げられて嬉しいって言われても困るし……がんばっ!」


 その後も4回ほどあずきは声を上げて、しかし3人は確実にゴーレムの体力を削っていった。

 ゴーレムを倒したら自然とダンジョンの外までワープされたので、一旦町に戻ることになった。


 「『ありがとう!』」

 「『こちらこそありがとうございます』」

 「『あずきちゃんが護ってくれてたから簡単に行けたよ!』」

 「『いえ、チカさんが攻撃してくれたり茶犬さんがサポートしてくれたおかげですよ』」

 「『だってさ、ほら、茶犬もなんか言ったら?』」

 「『えっと、あずきさんの盾の使い方は完璧で…した』」


 完璧に尻に敷かれているな、茶犬さん。


 「『間違っていたらすみません。お二人は付き合っているんですか?』」

 「『うん、そうだよ。もともと私はゲームはしないんだけど、彼がゲーム好きだからじゃあ一緒にやってみようかってなって』」

 「『わぁぁ!カップルでゲームですか?私達と同じですね!!』」

 「『達?』」

 「『あ、いえ。何でもないです』」


 「誰がカップルじゃ」


 「『そういえばあずきちゃんは元々どうやって倒すつもりの?』」

 「『弓でチマチマと攻撃するつもりでした』」

 「『えっ、弓?』」

 「『そうですよ?』」

 「『へぇ~盾を使うのに弓も使うんだ』」

 「『あははは、ゲームですし、どうせなら色々やりたいなぁと思いまして』」

 「『そっか。私も色々手を出しても良かったかなぁ~。ねぇ、ちょっと使って見せてよ!』」


 果たしてチカさんの言葉は話を合わせてるだけなのか、単なる無知なのか。


 「『いいですよ。それじゃあ……』」

 「『あ、ほらあそこ。リーフバードがいるよ』」

 「『じゃあ、あれを狙いますね』」


 「『クギャァ!??』」


 「『すごーい!一発で急所に当てるなんて!!』」

 「『相手が油断していましたから狙いやすかっただけですよ』」

 「『謙遜、謙遜。もしかして学校とかで弓道やってたりしてるの?』」

 「『チ、チカ。あんまりリアルの事は……』」

 「『あ、そっか。ごめんね』」

 「『いえいえ、大丈夫ですよ。弓道はこのゲームを始めてからです。どうやら私に合っているようです』」

 「『盾も上手だったし、ホントすごいよ!!』」


 「『聡一!私、褒められまくりですよ!!……?あれ?』」

 「ん?何?ごめん、トイレ行ってた」

 「『ちゃんとみてください!!』」


 その後、二人とはフレンド登録して解散した。あずきの話によると茶犬さんは目を見開いて驚いていたらしい。やっぱりチートだよな、あずきは。

 二人とも良い人そうだし、また会うことがあるかな。


 「あずき、今から宿題するからスマホこっちにきて」

 「『はーい』」




 VRMMOは凄い革新的なゲームだと思う。

 けれど1人の男とAIの生活に急激な変化をもたらすものではなかった。

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VRMMOってプレイしないとダメですか? トースター @araisemihito

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