第2走森での迷子はご注意を

 愛車の破損、そして突然の異世界転移。一度に色々な事が多すぎて、俺には何が何だか分からなくなっていた。


「そんなに大事なものだったのですか? これ」


「ああ。命と同じくらい大事だったんだよ」


「でもあの高さから降ってきたんですから、折れてても仕方ないですよ」


 落胆している俺を慰めてくれるアライア。確かにあの高さから落ちたなら、普通の自転車は壊れていてもおかしくない。ついでにタイヤはパンクしていた上に、ハンドルもあらぬ方向に曲がっていた。

 つまり、あの自転車は二度と使い物にならない。


「そもそもユウトお兄ちゃんは、どうして空から落ちてきたの? 服装も随分と変わっていたし」


「どうしてって聞かれても、自転車で道を走っていたら森に迷い込んで、森を抜けたら道もなくて、気がついたらここにいたんだよ」


「うーん、この辺りに高い場所はないし、普通なら私達エルフ族以外の方が紛れ込んでくるなんて話もあり得ないんですよ」


「そう言えばここは、エルフ族の森って言ってたよな」


 この世界に人間という概念が存在しているかは分からないけど、その名の通りこの村にはエルフ族しか住んでいない。先程自転車を回収する時にもチラッと見たのだが、皆アライア達と同じような人達ばかりだった。


「そういえば俺が着ていた服ってどこにあるんだ? 今着ているのアライア達と同じものだけど」


「至る所が破れてしまっていたので、今修繕しています」


「見た事ないのに、修繕とかできるのか?」


「何となくな形にはなってしまいますが、それに関しては任せておいてください。それよりユウトさんはこれからどうするつもりでしょうか?」


「どうするって、自転車が壊れた以上、どうしようもできないし……。旅を再開するにも……」


 まず星を股にかけないといけない。でもこのまま旅を諦めるなんて事はしたくない。ここが日本ではないなら、目的を変えるというのはいかがだろうか。


「なあアライア、この世界を一周するとしたらどのくらいかかる?」


「え? どうしたんですかいきなり。私はずっとこの森にいたので、そんな事分かりませんが、この世界はかなり広いと聞いています」


「なるほど。じゃあもう一つ聞いていいか? この自転車を直すかもしくは、同じような形のものを作る事ってできるか?」


「それならこの森から採れる木材を使えば、頑丈なものに直す事はできるかもしれませんが、私達だけでそれができるとは思えませんけど」


「それだけで充分だ。要は不可能じゃないんだな」


 この世界で一から材料を集めて自転車を作るというのは難しいが、形は残っているし自転車の修理の知識は、いざという時の為に持っている。


(できるかは分からないけど、やってみる価値はあるよな)


 旅わや途中で諦めるのは性に合わないし、できるところまではやってみよう。


「よし、決めた」


「何を決めたの? ユウトお兄ちゃん」


「この自転車を修理して、俺はこの世界を一周する旅に出る」


 ■□■□■□

 と宣言した翌日、俺は早速作業に取り掛かる事に。まずは真っ二つになってしまった骨組みの部分を直すために、木材が必要なのでフィーネと二人で森へと出かけていた。


「俺はアライアの方が頼りになると思っていんだけどな」


「ぶー、お兄ちゃんもしかしてわたしをしんようしてないの?」


「そもそも何で俺の事をお兄ちゃんって呼んでいるんだよ」


 何となく呼び慣れていないその呼び名に、昨日から俺はずっと戸惑っていた。生まれてこの方、こんな可愛らしくお兄ちゃんだなんて呼ばれた事ははたしてあっただろうか?


(いや、ないな)


「私こう見えてこの森の事に関しては一番詳しいんだから。道に迷う事なんて絶対にないもん」


「おいよせ、それは完全にフラグだ」


 十分後。


「うぅ、えっぐ。お姉ちゃぁぁん」


「言わんこっちゃない」


 そのフラグは見事に回収され、俺達は案の定迷子に。おまけにフィーネは泣き出してしまうし、俺が道を知っている訳ないし、完全に積みの状態だった。


(旅が始まるどころか、人生が終わるぞこれだと)


 そもそも木材を集めに来ただけなのに、森深くまで来る必要はあったのだろうかと思ってしまう。

  アライアは出発前に、そんなに遠くない場所だからと言っていたが、どうしてフィーネが案内するとこんな大迷子になってしまうのだろうか。


「なあフィーネ、目的地ってそんなに遠くないんだろ? なのにこんなに迷子になるんだ?」


「ううっ、それは……。この森は村を中心に、円形状に形成されているから、そんなに掛からないと思って」


「えっとそれってつまり」


 円形状に形成されているなら、どこかで森が開けるはず。それがここまで一切見受けられないという事は、答えはとても簡単。


「もしかして俺達ずっと村の周辺をずっと回っていただけ、とかじゃないよな」


「え、えっと、それは……」


 数分後、無事目的地は見つかりました。



「もう、お二人ともどれだけ時間かかっているんですか」


「え、えっとフィーネが迷子になってな」


「フィーネ、どうしてあなたはいつも迷子になるんですか!」


「ごめんなさい、お姉ちゃぁぁん」


 いつも迷子になっているなら、案内させるなよ……。

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