エルフ・猫耳・犬耳・竜人・男の娘・吸血鬼……etc みんな仲間  召喚された俺と転生したヒロイン 2200話

富城 昴

『いずれ出会う物語』

 夕闇に暮れる荒野に様々な化物が蔓延る。


 人型、獣、ドラゴン、虫、鳥、爬虫類、植物、無形とまるで百鬼夜行のようだ。


 それらは、空中の裂け目から無尽蔵に次々、絶え間なく出現し続けている。


 その数は優に10万を超えている。

 この軍勢を殲滅せしめんとする者たちが幾人か集い戦闘を繰り広げていた。


「長引けば作戦に支障が出るわ。私が先行して活路を開きます。アマト下がって! 闇落ちして、一気に畳みかける!!」


 魔族とエルフの混血の少女は青年へ声をかける。

 一瞬にして瑠璃色の美しい髪が漆黒に染まる。


「詠唱は省略するから、みんな巻き込まれないでください! いきますよ! ダークネス・トラペゾヘドロン!!」


 光の一切を遮断する限りなく丸と言える球体が、数千の化物を巻き込み、東京ドーム数個分のクレーターを残し消滅した。


 全体の3分の1ほどが瞬きする間もなく、消えてなくなったが依然として進軍は止まらない。

 湧き出す亡者のように、阿鼻叫喚は発する様はまさに地獄絵図。

 そこに、更なる一石を投ずる。


「アマト様はそのまま、紅茶でもお飲みになっていてくださいませ。私の100万の軍勢が下等な者どもを蹂躙いたしますわ。数の力で物言わぬ屍にして差し上げますわ」


 金髪緋眼の女性が天を仰ぐ。


 女性の口からは独特の鋭い牙が見え隠れする。


「私の可愛い可愛いナイト達よ! 私の愛の元へ顕現せよ!」


 天から差し込む光はさながら、天使降臨の瞬間に立ち会った多ようだ。

 しかし、現実は神秘的なものではなく地面からゾンビのように鎧を着こんだ兵士が一斉に出現する。

 照らし出さられる地表は、一面白銀に変わる。 


 槍、剣、盾、弓、鉄砲、槌と装備は多岐にわたるが有象無象と表現するには下卑ている。

 ゾンビのように現れたなど、その場に居合わせねば思いもしなかっただろう。

 鎧に武器すべて、傷一つなく神々しさはあっても不気味さは感じられない。

 さながら王国騎士団の精鋭を思わせる。

 兵の隅々まで精気に満ち溢れ、興奮と歓喜が戦場に木霊する。


「アマト様に盾突く愚か者どもを蹂躙せしめよ!」


「「「「うおーーー」」」」


 けたたましい叫び声とともに化物を殲滅していく。


 時には倒れ、時には刺し違えて、それでも軍靴の響きは止まらない。 

 倒れても倒れても光を放ち、再び立ち上がり叫びをあげ突貫を繰り返す。

 さながらヴァルハラの戦士のごとく、死ぬこともなく戦い続ける。


 それでも、対処しきれず上位種の化物が迫りくる。


 青年の正面に物々しい武人が仰々しく片膝をつく。


「某がこの場を離れるのは聊か不本意ではありますが、主君を危険にさらすわけにはいきませぬ。速やかに撃ち漏らした将の首をもって帰り参ります。故に出陣の許しをいただきたく申します」


 燃えるような紅い髪に、二本の枝分かれした角の少女。

 そう、少女は人と龍の混血の龍人と言われる種族にして非常に稀な存在。

 甲冑を身にまとう姿はさながら侍と呼ぶにふさわしい。

 時代は違っていても、同郷のような親近感が湧く。外国人は今でも侍、忍者が日本で生活しているという話を聞いたことがあるが、『実際にいればこんなかんじなのかな』などと思ってしまう。


「好きにしてくれ、それに俺にばかりついてないでチームワークを重視するようにな。それと首とかいらないから。えーと、捨て置け?」


「ちーむわーくとはなんと? むむ、某は主君の懐刀故に今こうして離れる事すら断腸の思いだと……」


「みんなと仲良くしてくれってことだよっ! ほらほら、もうなんか来てるし、行かないなら俺が行くぞっ!」


 わーわー言いながらも、背中から翼を出し飛び立つ。

 一度の羽ばたきから一際目立つ怪物との距離を零にし太刀を浴びせて切れ伏す。


 物の数秒で首と胴体が離れた怪物の骸が転がっていく。


 青年の目の前に突如、落雷が落ちる。

 焼け跡から愛らしいシルエットが投影される。

 そこには猫耳の少女が巨大な雷を纏った虎に跨っていた。

 耳と尻尾を隠してしまえば、獣人としての特徴はほとんどなくなる。

 全身獣の獣人に比べれば人に近い種族に分類される。


「後ろからは1万を超えるグランロギスの兵士が押し寄せているにゃ。悠長にしていられないにゃ。このままだと挟み撃ちにゃ」


「思った通りだな。偵察に行ってもらって正解だったな。後どれくらいでかち合う?」

「本陣が追い付くのは早くて3時間ってところだにゃ。先行部隊はその半分から1時間ってところだにゃ」

「となると、遅くとも1時間以内にけりをつけなければならないな。まあ、大丈夫だろ。よし、このまま戦線に合流してくれ」


「わかったにゃー! ひっかきまわしてやるにゃりおー!!」


 味方の兵を縫うように躱しつつ、青い光が怪物を焼き散らしていく。

 まるで雷が地上で這いずり回っているかのように。


「ご主人様、試してみたいことがあるのですが……」

 犬耳の少女が地形図を広げる。


 この少女は、奴隷として売買されていたところを青年に買われる形で出会った。


 齢15歳にして今ではパーティの参謀を務めている。

 右目を失い、価値のない物として扱われていた為、扱いもひどいものだった。

 今は八罪の魔眼により視力を得ている。

 獣人でありながら、しっぽはなく獣としての能力もほとんどない。

 それゆえに耳が異なるだけで迫害されてしまっていた。

 徐々に英気を養い年相応のかわいらしい、守ってあげたい系少女となった。 

 髪の色は艶やかで黒く、ツインテールにして幼さが際立っている。


「まあ、状況次第にはなると思うが。まずは聞かせてくれ」


「後方のグランロギスの兵士を西に誘導して、疲弊させてから殲滅したいと思うのですが……。どうでしょうか」


「続けてくれ。っと言いたいところだが、現時点で殲滅するわけにはいかない。あくまでも目の前の敵の殲滅が第一目標だ。そして、そのまま突っ切る。後ろのグランロギスと一戦交えるのは今じゃない」


(奴らにはまだ利用価値がある。死なせるのはおしい)


「出過ぎたことを言って、ごめんなさい」 


「いや、俺だって正してくれる仲間がいるから進めるんだ。仲間の危機だというなら、殲滅だって考えていた。今回はまだ、十分に余力を残しているってだけの話。まあ、戦場は生き物だということだ。何が起こるかわからない」


 そう言って、青年は犬耳少女の頭をやさしくなでた。


「アマトの周りには個性的な女の子が、集まるよね。僕も肖りたいものだよ」


「おい、ジト目で言ってくるお前も大概だって。太ももで俺の脚を挟んでくるな! 日の沈んでないうちからくっつくな! 日が沈んでからもくっつくなよ!」


「男通しでそんなに余所余所しくしないでよ。親友でしょ? それとも夜の方が良かったのかな?」


「なんども言わせるな!! 俺にそんな趣味はない? いや、本当にないからな……」


 青年に密着している僕っ子は中性的で美少年にも美少女にも見える。

 髪も茶髪のボブカットで、身長もアマトより一回り小柄でおそらく160cmないくらいだろう。

 この少年の秘密は、朝の6時を起点に約12時間で性別が入れ替わること。

 意識的に調節は可能だが基本的に一度変わると、再び時間にならなければ変わらない。

 瞳が青いときは男性、黄色の時は女性になっている。

 すなわち、まだ日が沈んでいない現時点では男ということだ。


「男なら、カッコいいところを見せてくれよな? なあ、親友」


「アマトは意地悪なんだから。まあそんなところも好きなんだけどね」


「おっと、冗談を言ってる時間もないんだった。グランロギスの先行隊が射程圏内に入り次第狙撃してくれ。進行を遅らせればいいから、そのつもりで頼む」


「期待は裏切らないさ。銃は近接戦でこそ真価を発揮するって僕は思ってるって言ったよね。つまり、この戦場は君の中では通過点に過ぎないってことなんだね」


 言う通り、全力を出せるポジションに配置していない。優れた銃といえど、距離が離れれば着弾まで時間を有する。すなわち、距離が零なら打ち込む数量が増え相対的に破壊力が増す。

 しかし、敵の手中での戦闘になれば危険度も比例して高くなる。 

 すなわち、近接戦で活躍が見込めるということは戦力の要だといえる。


 少年は銃を構える。

 狙うはまだ見ぬ、愚行なる王の配下へと。


「旦那様、お茶のご準備ができました。どうぞ」


 そっと紅茶を差し出すのは、メイド服を着た眼鏡をかけた侍女。


「俺だけくつろいでいるわけにも……」

「お気に召しませんでしたか? 戦場の掃除を先にしてからということでしたか。これは失礼いたしました。ただちに綺麗に片付けて参ります」


 戦場にそぐわない恰好をした彼女もまた、戦場でこそ真価を発揮する。

 荒野に転がる10m四方の大岩を軽々と持ち上げると、敵に投擲を開始する。

 次々と化物は岩の下敷きになっていく。


 彼女は古代技術の集大成により顕現した自立型最終滅失兵器だった。

 感情というものが一切なく、脅威を滅することを使命としていた。

 青年と出会うまでは。


 青年の袖を幼女がひっぱる。


「お兄たま、お兄たま。準備できたの」


「予定よりも、早かったね。すぐ撃てそう?」


「うん。任せておいてなの」


 膝をついた機械仕掛けの巨人の元へと向かうと、コックピットから伸びるワイヤーに足をかけ、颯爽と乗り込む。

 機械仕掛けの巨人は膝をついた状態で高さ20m程もある。

 その巨人は50m程のライフルを、敵が止むことなく出現する裂け目へと向ける。


「空間歪曲可逆圧縮素粒子砲。カウントダウンを開始するの」


 幼女の声が戦場に響き渡る。

 味方は予定通りという具合に射線から対比する。


「30秒前なの」


 刻々とカウントダウンが進んでいく。

 わずか数刻の間にも戦況は移り変わり、幾度となく駆け引きがなされていく。

 一滴の汗が頬を伝う。


「……3……2……1」


「発射なの!」 


 放たれたレーザーは空間の切れ目に吸い込まれていくかのように見えた。

 しかし、徐々に数十倍に膨れ上がり、圧縮前の膨大な質量が裂け目の境界を巻き込む。

 レーザーの収縮が裂け目を強制的に引き寄せ、裂け目を縫い付けるかのように塞いだ。


 後は残った奴らを屠るだけだ。



〈とある辺境の地、静かな家屋の一室〉


「おそらく今から10年ほど先ですわ。ユフィリーナリアが異種族の英雄たちと戦場で戦う姿が見えました」


「そうか、あと10年足らずで娘を戦場に送り出さなければいけなくなるんだね」


「未来は変えられるわ。何も教えずこのまま村で匿い続けることだってできるのよ」


「それが、必ずしも正解であるとは限らない……。予知で知っているからこそ対処することができるということも知っている。万全な状態で送り出してあげたいともね」


「傲慢だわ……」


「ああ、そうさ。未来の可能性を一つまみ、目にしたからと言って抗う僕らは傲慢だよ」


「でも、あなたは信じているのね。英雄を……」


「なんでもお見通しだね。英雄になれなかった僕にはこれから現れる英雄に、嫉妬と賛美の念を抱いているのさ」


「私たちの希望ね」


「僕もそれなりに足掻いてみるけどね」


「何も変わらないのね……。あなたはいつだってそう言って何でも手に入れてきた」


「長い旅になるだろうけどね、付き合ってもらうよ」


「しょうがないわね」


 エルフの青年と魔族の女性の会話を熊獣人がやれやれとあきれるように聞いていた。

 もふもふな腕に抱かれた少女、心地よさそうに眠っている。

 これから起こることなど知る由もない。

 少なくともこの時点においては……。


 そして、十数年後世界は加速する。

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