終【原稿出来たけど、トラブルで頒布駄目です】

「着きましたけど、眠いですねぇ。ふわぁっ」

「皆、電車でウトウトしてたでござるねぇ。ふわぁっ」

「最後の乗り換えの時は、あやうく全員眠り続けて通り過ぎる所だったよねぇ。ふわぁっ」

「俺はあんま興味ないし、来なきゃよかったかもなぁ。ふわぁっ」

「……うっげぷ。ぐぼわぁっ」


 アレグライダーといつもの怪人2名は、矢場目駅から数回電車を乗り継ぎ即売会が行われる大型展示場の最寄駅へとたどり着いた。5人の目的は言わずもがな、そこで行われる同人即売会……コミックミーマッショ(通称・コミミ)に参加するためである。しかし前日の睡眠不足からか、皆が辛そうな表情をしている。あくびも何度となく連発しており、これではお昼頃にうっかり寝てしまうかもしれない。ただしトカゲだけ何度も吐きそうな表情をしており、他の4人とは「辛そうな表情」のベクトルは違っている。

 

「トカゲだけ、永久の眠りにつきそうな様子だな……。結局、漫画は間に合ったのか?」

 レドは明らかに体調を崩してるトカゲに尋ねる。昨日は様々な事があったため、アレグライダーとパソコン怪人はトカゲを残して漫画が完成する前に帰ったのだ。


「ギリギリだけど何とかなったさ……。印刷と運送してくれるコピー機怪人やトラック怪人に貯金の六割を要求されたが、土下座したら温情で貯金の八十パーセントに値下げしてくれたぜ」

「値下げできてねぇぞ。逆に高くなってる」


 トカゲ怪人は、他の仲間の協力で何とか完成に至った事を伝えた。だが寝不足で判断力が低下している点を突かれて、仲間から思いっきり詐欺られているようだ。

 

 五人は混雑した乗り場からゆっくりとしたペースで改札機へ移動し、順番に電子マネーカードをタッチしていく。周囲は改札機を出た瞬間に走り出す者も多かったが、ヒーロー率の高い五人はそういったマナーは守っている。二名ほど悪の怪人が混じってるが、彼らもマナーを守っている。

 

 そんななかパソコン怪人が、レドに質問する。

「……ところでレド殿は何故ついてきたんでござるか? 貴殿はこのイベントに参加する気は無かったように見受けられたが」


 するとトカゲ怪人が横割りして回答する。

「俺様が誘ったんだよ。売り子を誘い忘れてたから、昨日一緒に居たサキとレドをスカウトしたんだ」

「レド殿を? そんなふざけた事に誘うなー、って断りそうなのに……」


 その答えに、パソコン怪人は首を傾げた。サキはトカゲのファンなので売り子は喜んで引き受けるであろうが、真面目なレドが悪の組織であるトカゲ怪人の誘いを受けるとは思えなかったのだろう。だがトカゲが続けて答える。


「……電車代と居酒屋での打ち上げ代奢るって言ったら、驚くほど速攻でOKでたぞ」

「あぁ。瞬時に納得できたでござる」

「うるさい。今月は家計がピンチなんだよ」


 どうやらレドは食事につられたようである。



 五人は並んで駅の外へと出る。外も駅の構内と同じく人がごった返しており、即売会の規模の大きさがうかがえる。

「とにかくここまで来れば、後は例年通りだっ! サークルチケットを入り口で提示して、設営に向かうぞ!」

「おー!」


 トカゲ怪人が気合の入った号令をすると、サキとブルとパソコン怪人は力の入った返事を返した。レドは呆れた様子で他の四人を見ているが、悪事ではないので特に何も言わなかった。


「よし、今のうちにサークルチケット出しとくか……えーっと。どこだったかなー」

 トカゲは近くの壁に寄りかかって、笑顔で持っているリュックサックをまさぐってチケットを探し始めた。

 

「えーと、どこに、どこに……あ、あ? ん、んん……!?」


 しかしリュックサックをまさぐるにつれて、表情が暗くなっていく。次第にリュックを逆さまにしたりいろいろな物を取り出してみたりと、焦りも見える行動が目につきはじめた。そして――。


「……死にてぇ」


 最終的にトカゲはそんな一言をつぶやき、曇った表情でその場に体育座りしてしまった。レドは「またなんかやらかしたか」と察したため、トカゲに話しかける。


「どうした。急にゾンビみたいな顔になって」

「サークルチケット忘れたぁ……。あれ無いと会場で設営できないよぉ……」

「またトラブルかよ。お前俺達と会うたびにトラブルに遭ってんな」

「うるさい、わざとじゃない! 時間無くて慌ててただけだ!」

「時間管理はお前の責任だろが。せめてブルとパソコン怪人達ぐらいの余裕を持って……」


 レドはため息をつきながら、ブルとパソコン怪人がいる方に指を向ける。


「……死にてぇ」

「……死にてぇ」

「……死にてぇ」


 だがその指先には、体育座りをして落ち込んでるブル、サキ、パソコン怪人の三人がいた。トカゲと同じく、先ほどまで荷物をまさぐっていた様だ。

 

「お前らもかよ!? なんで『死にてぇ三重奏』奏でてんだよ!」

「バッグを調べたら、展示用のタブレットを忘れたでござる……」

「僕は試聴用の音楽プレイヤーを……」

「私はお茶のペットボトルです……」

 三人は消えそうな声で落ち込んだ原因を語る。全員が全員、何かしらの忘れ物があったようだ。


「前2人は悲壮感あるけど、サキだけしょぼいぞ。ペットボトルぐらいどこでも売ってるだろ」


 レドは最後の忘れ物だけどうでもいい感を感じたため、そこをピンポイントにツッコんだ。するとサキは力強く反論した。


「今日はこの辺りのコンビニがどこも混雑しちゃうんですっ! 今寄ったらタイムロスです……!」

「2人に比べれば、柔いロスだろ」

 レドは反論にも強いどうでもいい感を感じた。

 

 落ち込んでいた四人は壁際の影に集まり、ブツブツと嘆き続ける。どうやら今日の朝の行動を反省しているようだ。


「あぁ、きっと寝坊して慌ててたせいでござる。昨日ちゃんと寝てれば……」

「僕も昨夜のチェックを怠ってたよ。昨日、秘密結社に行かなきゃよかったなぁ」

「諸悪は、あのタイムキーパーってKY怪人ですね……。あの人が邪魔したせいで全て壊れてしまいました」

「あいつは合法的に抹殺するべきだな。俺様達の同人生命を続けるには、あいつを存続させちゃいけねぇっ!」

「パワハラの証拠は大量にあるから、それであの邪魔野郎を消せるでござる。ついでに拙者の伝手を最大限に使って、ネット炎上させればもう立ち直れないはずでござる!」


 が、反省は次第に遅刻の原因を作ったタイムキーパーへの憎しみへとシフトしていく。最終的に「タイムキーパーをどのように合法的な始末をするか」という話題へと行きついた。


「同人イベントの遅刻への憎しみで幹部倒されるとか、子供に見せられない展開だな……」



 四人がある程度タイムキーパーのパワハラを一般人に知らしめる方法に議論し終わると、トカゲが荷物を置いてどこかに向かって歩き出す。


「……とにかく、チケットは必須だから持ってこないと。よし、俺様は一旦家に戻るから荷物だけ先に持って行ってくれ」

「だが流石に今戻ったら、お前はサークル入場時間に入れぬな。拙者達は必須ではないから諦めるしかない……」


 パソコン怪人は、寂しそうにトカゲに言葉を漏らす。されどトカゲは残念そうな表情はしておらず、決意を固めたような口調でパソコン怪人に言葉を返す。


「まぁ、俺は爆発で風呂場に戻れば即効で家に帰れるけど。保険料は痛いが、片道だけになるからギリギリ間に合うさ」


 トカゲ怪人の考えた帰還方法を聞き、パソコン怪人は瞬時にハッとした表情へと変わる。

「そ、そうかっ! 怪人は爆発すると自宅の風呂場で復活できる! それで片道分の時間を短縮するんでござるな!」

「そのシステム、移動に利用するものじゃねーだろ」


 トカゲのあまりにも新しすぎる帰宅法は、他の忘れ物をしたメンバーを大いに興奮させた。そして皆が矢継ぎ早にトカゲへ物品の調達依頼をし始めた。


「あ、トカゲさん家の冷蔵庫にペットボトル余ってないですか? あったら持ってきてくれると嬉しいです!」

「トカゲくん、前にお見舞いに行ったとき部屋に音楽プレイヤーあったよね? アレ借りられないかな!?」

「トカゲ! マンションに付いたら地下研究室のタブレットを持ってきてくれ! 貴様のDNAは登録済みだから、生態認証の鍵も開く! 研究室に隠した『最終決戦用巨大ロボ』も使えるから、帰りはそれに乗れば早いでござるよ!」

「おうよ、引き受けたぜっ!」

「どいつもこいつもトカゲに頼りすぎだろ。あと重要そうなロボをバイク代わりに貸すな」


 トカゲ怪人は三人の頼みを聞くと、すぐさま誰も入らないであろう裏路地へと駆けていく。迷惑にならない場所で爆発するつもりなのだ。

「よーし、ここには誰もいないな。じゃあ行ってくるっ……!」


 その一言と共に、トカゲ怪人は爆裂消散! 爆音と共に消え去ったのであったっ!(自力で)


「相変わらず命の価値が軽いっ……!」


=====


「よしっ、これで開催時間までにちゃんとした設営はできそうでござる。さぁ、先にサークル入場口へ向かおうではないか!」

「了解ー」


 トカゲ怪人の爆風を見た三人は、晴れやかな顔でやる気を見せる。そしてトカゲの残した荷物を分担して担いだ。


「まったく、何でお前ら漫画やらCDやらに命かけてるんだよ。戦いに不要な情熱だろうに」

 周囲では他の参加者達が爆風を見てざわついているが、ここまでの一連の流れをずっと見ていたレドはため息をつきながらオタク組の態度を指摘する。


 

 するとサキがレドの方へと向き直り、真っ向から反論を始める。


「何言ってるんですか。この情熱はレドくんの情熱と同じですよ」

「はぁ?」

「レドくんが何かと戦う理由は、安心して生きる為でしょう? 格闘技術を磨く情熱、平和への情熱、お金への情熱、どれも安心して生きたいから燃やす情熱です」

「え、まぁ。そうとも言えるのか……?」


 サキが突然真面目な反論をしたため、レドは少し驚いた表情を浮かべている。そしてブルとパソコン怪人も、横からレドへの反論を言い始めた。


「なら拙者たちと同じでござる。周りに認めて貰える作品を作ったり、逆に楽しんだり。どの情熱も心の安心になるでござる」

「この安心があるから、僕らは生きる力が湧いてくる。そしてそれらを守るためだから命をかけて戦える。だって人々の安心を守る事がアレグライダーの使命だからねっ!」


 三人の主張は、一言でまとめると「即売会への情熱もアレグライダーの力」と言ったところだ。三人の表情も言動も至極真面目で、信念に満ち溢れている。おそらく彼らは本気で同人を愛しており、それらが安心して作れる平和も愛しており、更にそれを守る事に誇りを持っている。その自信に満ち溢れた姿は、まさにヒーローと呼ぶにふさわしい者であった。


 ただし一か所、あきらかな突っ込み所はあった。

 

「ナチュラルにパソコン怪人も混ざってるけど、お前はアレグライダーじゃないだろ。悪の秘密結社だろ」

「いやぁ、平和より収入の安心を優先した結果でござる。まぁ貯金溜まったらトカゲと共に退社するでござるよ」

「裏切りもすっげぇナチュラルだな……。まぁその方がありがたいが」


 レドは少し考えこんだ。

 ブルの言う通り、アレグライダーは人々の安心を守るべき戦隊。だから彼らは自分以外に新しい安心を与える為、娯楽を作る事も使命だと考えているのだろう。


 もしかしたら、自分の方が自分の安心しか考えてないのかもしれない。元々ヒーローに憧れたのも、親に捨てられた不安を注目される仕事で埋めたかったからだ。

 悪の組織との戦いも、幹部よりもトカゲ怪人のような目立つ末端を優先している。行動が軽やかな彼と戦った方が、被害に遭った企業から後で謝礼を貰いやすいからだ。

 

 ……レドは人々の安心を守っていたつもりだったが、本当はレド自身の安心を守るため戦っていたのだと気が付いた。今まで散々トカゲ達を嫌悪的な目で見てきたが、本当は彼らのように何かを作る事がヒーローとして正しいのかもしれない。

 トカゲが以前話した『フォロワーさんが楽しめる漫画を作らなきゃ!』と言う信念。その信念はきっと人々に新たな安心を産みだす物だ。事実、サキもトカゲの漫画を語った時は楽しそうだった。トカゲの信念は、自分の安心を守る事を優先していたレド自身よりもある意味輝いているだろう。悪の組織の業務は擁護できないが、正直彼も収入が安定すれば退社しそうなので、いつしかそう言った不安要素の無い真っ当な作家になれる日が来るかもしれない。

 

 

 ――自分は悪の怪人であるトカゲ怪人より、人々に安心を与えられているだろうか。レドの心は、そんな思念が生まれた。

 

 

「ほらレドくん。そんな誰も望んでない長々としたシリアス思考はやめて、早く行きましょうよ! 中入ったらトカゲさんの完成品を見せてもらいましょうねっ」


 サキがレドの顔を覗き込む。どうやらレドは三人の話を聞いてるうちに、深く考え込んでしまったようだ。

 こんな気分を見せては皆を不安にさせてしまう。レドは頬を叩き気持ちを改める。


「……そうだな。怪人が人間に認めて貰おうと頑張った作品、どれほどなのか見てやるか」


 レドが発した返答は、吹っ切れた様な明るい声だった。彼は深く考えるのをやめ、今だけは目先の安心を産みだす事を決めたのだ。このデコボコな五人組で、今日をデコボコだけど安心して楽しめる日にする――と。

 

 レドの返答を聞き、サキもにっこりと微笑んだ。彼女もレドが即売会の楽しさに、興味を持った事を察したのだろう。彼女はレドの手を引き、叫んだ。


「よーしっ。それじゃあさっそくサークル入り口まで行きましょーっ!」




 ――だがその一言と共に、即売会会場は爆裂消散! 爆音と共に消え去ったのであったっ!



「えっ」

 その場にいた四人が全員凍り付いた。周囲の人々も凍り付く。何が起こったのかが理解できなかったのだ。

 

 そして次第に、参加者たちは各々の反応を見せ始める。パニックで逃げだす者、逃げる者を誘導する者、逃げる人とぶつかって怒号をあげる者、スマホをかざし爆発風景を撮り始める者、スケッチブックを取り出し爆炎を模写する者……。本来の予定とは違った形で、大型展示場前は騒ぎとなってしまった。

 四人はそんな大騒動の中、放心してもくもくと煙が立ち込める会場を見つめ続ける。だが煙を見つめていると、その中から歪んだ表情の大男が姿を現した。


「ぐわっはっはっはっ! 我はヤバノーキの超幹部、ヤバスギーであるっ! この都市は我々が破壊し、我らの工場を建ててやろうぞーっ!」


 大男はアレグライダーにも聞こえる大声で宣言した。彼は世界征服を目論む秘密結社ヤバノーキの設立に関わった超幹部、ヤバスギーである。ヤバノーキ内では「神となりうる覇者」だとか「神に等しき傲慢さ」だとか「空気読めない神」だとか「面倒なんでマジで神になってほしい。だって神って過干渉しねぇからマシだろうし」などの異名を持ち、部下から崇められてる。

 どうやら彼は都市を占領する手始めとして、イベント会場である大型展示場を破壊したようだ。

 

「……」

 四人とも、未だ呆然としている。パソコン怪人も放心している辺り、彼はこの計画を知らなかったのだろう。やがてレドは何かに気が付いたように、言葉を漏らした。


「……昨日秘密結社に行ったとき、タイムキーパーは破壊活動の召集で部屋に来たんだよな。もしかしてあれの招集だったんじゃ――」



「来いっ! プラモデラートおおおおおおおっ!」



「へっ?」

 突然、パソコン怪人が遠くにいる何かを呼ぶかのように大声で叫んだ。レドがきょとんと首を傾げた次の瞬間、空から轟音が響いた。

 皆が空を見上げると、そこには巨大なロボットが会場に向かって飛んできていた。物凄い勢いでこちらに迫り、やがて会場前の広場へと着地した。付近のビルより巨大なそのロボットは力強く先進的なフォルム。そして色合いは赤などの暖色を基調にした、熱さと王道的正義感を感じさせるものであった。ピカピカに磨かれた金属質な表面も、正義らしさを引き立たせる。

 

「!? なんだよ、あのどでかい奴は……!」

「皆ー! あのロボットに乗るでござるー!」

「了解っ!」

「とうっ!」


 パソコン怪人が呼びかけると、サキとブルを連れて空高くジャンプする。そして三人はロボットの頭部に開いている謎の穴の中へと飛び込んでいった。「怪人はともかく、人間がビルより巨大なロボの頭部に飛び込めるわけねーだろ」って突っ込みたい気持ちはわかるが、こらえて貰いたい。こらえられないなら「ヒーローはそういう物」と言う単語を心の中で唱えるとよい。

 

「え、い、いったい何を……」

 レドはただただ、動揺しているだけだった。爆発に幹部の登場、ロボットの襲来、そして皆が突然そのロボに飛び込む。超展開に次ぐ超展開の前では当然の反応だ。

 

 するとロボットの頭部から、拡声器のような声が響き渡る。

『ヤバノーキめっ! 大型即売会コミックミーマッショの破壊をするなど、外道の極みっ! 天が許しても俺様達が許さん!』


 その声は、先ほどマンションへと帰ったトカゲ怪人の声だった。どうやら飛来したロボットの正体は、パソコン怪人から貰った鍵を使ってトカゲ怪人が起動した、最終決戦用巨大ロボだったらしい。


「むっ。なんだあのロボットは。誰か乗っているのか」


 ヤバスギーはその声に反応して大声で問いかける。すると今度はロボットの頭部からパソコン怪人の声が聞こえる。


『拙者達は、人々の安心を守るヒーロー、アレグライダーっ! そしてこれこそアレグライダーの最終秘密兵器、プラモデラートでござるよ!』

「いつの間にかあいつらアレグライダーになってる!?」


 一人取り残されたレドは、さりげなくアレグライダーを名乗るパソコン怪人に普段の調子でツッコんだ。しかし巨大ロボ・プラモデラートもヤバスギーもレドから比較的離れているため、そのツッコミは誰も聞いちゃいない。


「ふん、我に楯突くか。ならばこちらも巨大怪人で対抗させて貰おう!」

 ヤバスギーはそう言うと、背後にあった展示場の残骸に薬品のような物をばらまいた。数秒の静寂があった後、突如薬品がばらまかれた残骸が次々に合体し始める。そして最終的に、その残骸達はプラモデラートを超える巨大な人型となって立ち上がった!

 

 そう、それは世界征服を目論む秘密結社ヤバノーキの最新科学により、展示場の残骸を元に生み出されたコミミ怪人であった。ちなみに生成用の薬品の製造コストが高く、下っ端怪人たちが全員「ま~たあの神、俺達のボーナスを無駄な所に回しやがったな……」と舌打ちしたらしい。

 

『会場の残骸を怪人に変えてしまうなんて! なんて卑劣な事を!』

「ふふふ、この怪人を倒したら会場は無くなるぞ。それでもいいのか?」

『残念だけどね、ヤバノーキ。僕たちにそんな脅しは効かないよっ』

『俺様達が守るのは人々の安心。お前を倒して同人作家の安心を取り戻す事が役目。作家達を助けられれば、会場はまた用意できるさっ!』

「ふん、よかろうっ! 人類と怪人、どちらが生き残るか決着を付けようではないか!」


 ヤバスギーとトカゲ怪人たちが激しい論戦をした後、コミミ怪人はプラモデラートへと襲い掛かる。だがプラモデラートは回避し、コミミ怪人を殴りかかる。コミミ怪人はよろめきつつも再びタックルで応戦。プラモデラートはコミミ怪人の体を押さえつけて持ちこたえる。

 その激しい戦いは巨大な格闘技を思わせる激しさ。世界と同人界隈の命運を握る、一世一代の戦いだ!

 

「いや……こっちも怪人が二人ほど混じってるんすけど……」

 レドは誰も聞いていないにもかかわらず、力なくこのカオスにツッコんだ。

 

----

戦え! 巨大機兵プラモデラートのテーマ

【作詞:パソコン怪人 作曲:サキグライダー 編曲:ブルグライダー 歌唱:トカゲ怪人 収録CD:青春音楽隊「新生アレグライダー・コンピレーションアルバム」】

♪ハイシティー矢場目 地下十階 ひそかに生まれた 巨大兵器

♪同人界隈 守るため 今だ空跳べ プラモデラート

♪絵師の魂 ゴッドハンド 音屋の魂 ハードイヤー

♪SEの魂 メタルブレイン 買い手の魂 パワーフット

「即売会は体力勝負だー!」

♪破壊 絶望 規制 貧乏 悲しみなど 必殺パンチで倍返し

♪安心 笑顔 希望 お金 奴らが知らない愛 全て守り抜くため 

♪正義を示せ プラモデラート!

----


「って、なんだよこの歌……。いつの間に作ったんだ……」

 突然レドの耳に、プラモデラートの主題歌らしき歌が流れ込む。どうやらプラモデラート頭部にあるスピーカーから大音量で流れているらしい。レドからすれば、相当うざい。曲と歌唱力は意外と良くて、そこも逆にうざい。


 が、周囲の人物はプラモデラートの登場には大いに盛り上がっており、ヤバノーキの恐怖をすっかり忘れてしまった様子となる。


「うおーっ! あれ、巨大ロボのコスプレか!? 最近のコスプレは大きさまで変えられるんだな!」

「すげー。動画撮って二日目に来る友達に自慢しよ」

「ワッフー! ジャパニーズ・トクサツ・ワンダホー!」

「立ち止まらないでくださーい! 即売会は会場の跡地で開催されるので、参加者はちゃんと歩いてくださーいっ!」

 同人即売会コミックミーマッショは、本来の予定とは違った形でお祭り騒ぎとなってしまった。


===== 

 

 ……プラモデラートを操るアレグライダー達(レド除く)の戦いは、続く。躍動的で大迫力のその戦いは、コミミの伝説となるであろう。

『ヤバノーキ、覚悟しろっ! あと攻撃はこっちのメインカメラを意識してダイナミックにやれ! 後で同人特撮作品として販売するから!』

「たわけっ、死ぬのはお前たちだっ! あと作品権利は我々の物だ、お前たちはこっちのカメラに向かって『負けました、ヤバノーキは偉大です』と言えっ!」

『負けるものかー! この映像は、俺様達を有名にする超大作にしてやるー!』

「こちらのセリフだー! この戦い、株式会社YBMの宣伝材料にふさわしいー!」



 私欲にまみれたヤバノーキは確かに強い。だが私欲にまみれたアレグライダー(レド除く)は決して負けない。私欲に使われるプラモデラートは決して負けない。皆の応援がある限り、即売会が開催される予定がある限り、同人作品を作れる世の中がある限り、彼らは決して負けないだろうっ!


 人々が安心して創作できる未来のため、アレグライダーは今日も戦う! トカゲ怪人、パソコン怪人、ブルグライダー、サキグライダー、四人の力を合わせれば何も恐れる者はない! 負けるな、アレグライダー! 負けるな、仲良し四人組! 彼らの戦いはこれからだっ!





「――よし。帰りに職業安定所に寄って求人情報探すぞ!」

 そしてレドグライダーは自分が安心できる人生を求め、新たな職を探す決意を固めた……。

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トカゲ怪人さん、進捗どうですか。 momoyama @momoyama

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