遠く遙かな君の呼ぶ声

@bukiti

第1話

今日も今日とて変わりばえのない日々が始まる。

あたりまえで退屈な日々。

起きて着替えてご飯食べて学校。

授業受けて居眠りして授業受けてetc.

ちょっとうんざりな毎日がいつまでも続くというのが

存外シアワセなんだということが

そのときのあたしにはこれっぽっちもわかっていなかった。



「それじゃいってきます。」

「おう、気をつけてな。」

振り返るとじいちゃんは境内の掃除をするために竹箒をもって立っていた。

70はすぎているのだけどえらく元気がいい。

寺の住職であるじいちゃんの朝は寺中のそうじから始まる。

ぞうきんがけ、はたきがけ、昔ながらのやり方を変えることなくてきぱきと進める。

なので毎朝あたしがてきとーに二人分のご飯を作る。

自分は太りたくないのでご飯少な目。

自分だけさっさと食べて学校のしたく。


いとしのとーさま、うるわしのかーさま、お元気ですか?

今も中国だかモンゴルだかの奥地で楽しく発掘してらっしゃるんでしょうか?



あたしの両親は一人娘をほったらかして遺跡の発掘にいそしむ薄情者である。

幼いころはかーさまの話してくれる楼蘭の花嫁や、サマルカンドの遺跡、ナシ族の不思議な文字なんかの話に心を躍らせ、すごい仕事をしてるんだなぁと思ってあこがれていた。

でもね、そのうち気がついちゃった。

二人は娘のあたしより遺跡のロマンのほうが大事なんだってこと。

共通の趣味を持っていつまでもラブラブなのはよろしいことですが・・・・・・


ふつーのうちはもっと子供に関心があるんじゃない??



そーです。あたしは弱冠すねてます。

だからじいちゃんにもあんまり優しくない。

でも、じいちゃんは心が広いので何も動じない。

さすがは住職!



だからあたしもすねてはいるけどグレてはいません。

まともな高校生の毎日を粛々と送るのみなのだ。



学校までの道のりは歩いて15分。遠くもなければ近くもない。


「みっちっる~~、おはよ~。」

すっとんきょうな大声で飛びついてきたのは、まなみ。

同じクラスのテニス部の子。

なぜか、あたしにくっついてくる。

「今日は朝練じゃないんだぁ。

一緒に登校できるの久しぶりだね。」

「そーね。」


あたしの所属する弓道部は先月大会が終わったので現在ゆっくりモード。

せっかくの静かな朝がこの子のせいで台無し。



「ねぇねぇ。大会の成績、二位だったんでしょ。すごいよねぇ。

こう構えて、びしっって、カッコイイよねぇ。」

「そーね。」

愛想のない返事をしてカバンを持ち直す。

たいていの子のカバンはぺったんこだけど、あたしのは本が入っているのでやや重い。


「今朝は校門に赤木先生が立ってるんだよ。

きびしいから気を付けないとね。」


いや、気を付けないと、は、あんたの髪でしょ?

と、つっこみたくなったがやめておく。

天然パーマのゆるゆる・ふわふわ。

うらやましいことに染めてもいないのに明るい栗色。



「みちるはいいよね。黒だし、ストレートだし。

あたしは親に証明書書いてもらったのに毎回止められるんだよ。」


そうは言っても全然困ってないじゃない。

たぶん、まなみは赤木先生がスキなのだ。


背は高いかもしれないけど、あたしはわりとどーでもいい。

だって、実物には欠点はつきもの。

よくあるコトなんだけど、あんまりうれしくないコトをあたしは見つけてしまう。

あ、鼻毛でてる、とか、袖口がちょっと黒ずんでる、とか・・・

そのたびにリアルの価値はちょこっとずつ下がるの。


その点妄想はいいわよね。

欠点なんて目に入らない。

だって、妄想なんだもん。



リアルの世界じゃ自分だってどっからどうみても日本人。

髪の毛もまっくろくろすけ。

部活のおかげで太ってこそいないけど、ややずん胴気味なボディ。

かーさまは、人も土地のものだ、と言ってたけど

それが本当ならせめて大陸にいるときに産んでくれれば

もー少し手足は長く、髪は柔らかく・・・・・・


「ねぇねぇ。

部活ないんだったら、帰りにさぁ、しろたえに寄ってかない?

チーズケーキの新作だよぉ。」

「今日はダメ。じいちゃんが蔵掃除手伝えって言ってたから。」




しろたえというのは学校の近くにあるお菓子屋さん。

イートインがついてて安いので女子のたまり場になっている。

甘いものがそれほど好きではないので数えるほどしか行ってない。

それにあたしの小遣いはたいてい本代に化けている。


「ざんね~ん。今度のはねぇ、アサイーのソースがかかっていてヘルシーなんだって。」

「あのね、甘いもの毎日摂取している時点で、すでにヘルシーとはかけ離れてるの!」

「みちるはストライクだね~」

「それをいうならストイックでしょうが」

「あは、そうだっけ?」


やれやれ、つっこむんじゃなかった。

そーいえばこの子のおどろいた顔、おこった顔、、、悲しい顔もみたことないわ。

あたしのまわりの七不思議のひとつね。(七つもあったかしら?)


まあ、いいわ。

そんなことよりガンダルフがどうなったのか、早く続きが読みたいのよ。

今日は帰ったら蔵掃除なんだから、なるべく休み時間には一人になりたいのよね。

さて、どうしたもんだか・・・・・・

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