第二章
ふたりは対峙していた。
銀に輝くのはシュワルツヒューゲル=黒坂家の騎士、ハーゼ・フォン・ローゼンブルグ。その脇に立つ人影がひとつ、背後に立つ人影が三つ。さらにその後ろに黒服に身を包んだ人物が十人ほど。
それに向かいあうのが革のバトルスーツに赤い陣羽織の夜都賀王。その脇には宝戈を携えた葛妃が、そしてその後ろには夜尺、夜筑のふたりと、佐伯衆の三人が控える。
「やはりこうなるか」
葛妃は呟く。抑揚のない呟き。感情の波紋が全てを打ち消し、凪いでしまったかのようだった。
「ここはわれらも」
壱介が答えるのを葛妃が制する。
「いや、お前たちが出なければ黒坂衆も出てこまい。あちらとて事を大きくはしたくないはずじゃ」
黒坂衆とはあの黒服の人達だろう。可彦=夜都賀王はそう理解した。
顔は隠しているものの、脇に立つのはおそらく兎萌の父親だ。
そして背後の三人、全員が女性に見えたそのうちのひとりは、どこかで見覚えがあった。
「あ」
「どうした」
「あの眼鏡の女性……」
夜都賀王は三人の女性のうち、その真中に立つ女性を見つめる。
「この前街中で僕を補導しようとした人だ」
「補導?」
葛妃がすこし気色ばむ。
「そんな話聞いておらんぞ?」
「え?話したよね? 五月って人の話」
「ああ、その話か」
葛妃の瞳も件の女性を追う。
「なるほど、あれがちょっかいを掛けてきたか。さもありなん」
「知っているの?」
葛妃は頷く。
「あやつは
「桔姫?」
「吾と同じ国津神の眷属、土蜘蛛でありながら、大和に
吐き捨てるように言った言葉に、しかし侮蔑の色は少なく、どちらかというと哀しみと憐れみが含まれていた。
「今は中央に身を置いておる。なるほど奴が出てくるほどのことか。そばにいる二人は確か桔姫の妹のはず」
「じゃあ、あの三人は刀自様と同じ……」
「いかにも、貶められた国津神のなれの果てよ」
自嘲的に笑う。笑うがそれはあの三人が葛妃や夜尺、夜筑並みの力の持ち主であるということに他ならなかった。
葛妃が後ろを振り返る。壱介は戸惑いながらもうなずくと、残る二人を引きつれてその場から離れる。その様子を見て取ったのか、黒坂衆と、ハーゼの隣にいた人影が退き始めた。
「先代は来ぬか。まぁ直接戦闘より指揮にたけた男だからの」
「先代?」
「小娘の父親じゃ。本来は継がずに裏方に徹するつもりであったろうに」
「それじゃどうして?」
その言葉に葛妃はしばし口を閉ざした。どこまで話したものかと思案している風でもあった。
「先々代は先代の兄でな。それはそれは強い男じゃったよ」
強い男、葛妃の口から語られたその言葉は、静かな熱を持っていた。
「闘ったの?」
「何度もな」
春の風が吹き抜けていく。まだ少し冷たくもどこか優しいその風が、葛妃の口を開かせたのかもしれない。
「どこに行ってしまったのやら」
その呟きは儚くも春の風にかき消されてしまったが、夜都賀王の耳奥に残るには十分だった。ただそれが何なのか、葛妃に聞くことはできなかった。
「きます」
夜尺の声に促されるように、夜都賀王は対峙する相手を見る。銀色が小さく煌めく。その煌めきは手に持った細い剣。抜刀し掲げているその切っ先が春の光に照らされて、煌めいているのだ。
「前回同様、吾等は夜都賀王を援護する。お前は玉座を奪うことに集中せよ。良いな」
三人は葛妃の指示に頷くと、各々がそれぞれの役割のために動く。
夜都賀王は玉座を出現させるべく、石碑へと向かう。おそらくそれを阻止する為であろう、ハーゼも石碑に接近してくる。それを阻止するために夜尺、夜筑が前に出る。そこに桔姫の妹二人が割って入る。夜都賀王が石碑に接近するまえにハーゼがそこに到達しそうだった。こうなるとすぐに玉座を呼び出すのは難しいかもしれない。
「なに?」
葛妃が驚きの声を上げる。石碑にたどり着いたハーゼは桔姫姉妹の護衛の下、その場に跪くと玉座を召還する。そしてすぐさま石生界への同調を開始した。
「そういうことか! 考えたの」
「どういうこと?」
「戦いが激しくなっても被害を抑える魂胆じゃ」
その言葉に夜都賀王ははっとなる。石生界は現世の干渉を受けない。その逆もしかり。つまりは戦いが激しくなっても現世に実害が出ないということだ。
「お久しぶりです葛妃様」
「元気そうじゃな桔姫よ」
玉座を囲い守るように桔姫と、その妹達が葛妃たちと対峙する。すでに皆が同調を済ませ中空へと浮かび上がっていた。
「これは先代の策か。心根の良いあやつらしい策じゃな。しかし吾等にとっては一つ目の堀を埋めてもらったようなもの」
「そうかもしれませんが、おかげでこちらは気兼ねなくこいつが使えます」
「な! 散れ!」
三人の手にしたものを目の当たりにして葛妃は慌てて叫ぶ。それと同時に甲高い音が当たりに響き始める。
三人が手にしていたもの。それは火器だった。右の妹は大口径ショットガンを、左の妹は回転弾倉のグレネードランチャーを、桔姫自身は円筒形のマガジンが付いた大きな機関銃を携える。いずれも弾幕を張るのに格好の銃器。しかも石生界に同調しているため流れ弾が現世に被害を与えることはない。
「ぬかったわ」
三姉妹から距離を置いた葛妃は近づこうとする夜都賀王を手で制する。
「集まるな。一網打尽じゃぞ」
一所に集まれば集中砲火の餌食になる。それは確かに想像に易かった。
「とにかく無秩序に動け! 動いて回り、襲っては離脱し、陣形を崩すのじゃ」
四人は三姉妹の周りを旋回する。葛妃と夜都賀王は右回りに、夜尺、夜筑は左回りに、上下に動き緩急をつけながら。
三姉妹は三方をにらみ、その中央に玉座とハーゼが陣取る。この状況下で奏上が終わればハーゼが王権を得るのは明らかだった。
旋回していた夜筑が、まずは仕掛ける。その瞬間に桔姫の機関銃が唸り声を上げる。甲高い銃撃音はもはや区切りが判らず、まるで布地を引き裂くかのような音だった。そして恐ろしいほどの速度で大量の弾丸が吐き出されていく。夜筑は身体をひねるようにして斜めに飛び抜け、その背後へと逃れていく、そこにショットガンの弾幕が追い打ちをかける。
「きゃ!」
「夜筑!」
「くっそ!」
体勢を崩した夜筑を庇うように夜尺が銅鐸を盾にして押し出す。再び布裂き音。銅鐸の分厚い表皮をがなりながら弾丸が滑っていく。
「夜都賀王! 続け!」
葛妃のその言葉に夜都賀王は夜尺の背後にぴたりとつく。乱れ飛ぶ雷のごとく、鋭角に曲がり跳ぶ夜尺に、夜都賀王は必死に食らいつく。
「飛び道具が、こちらにないと思うなや!」
葛妃は手にした宝戈を振り投げる。風を巻き込み、風を切り裂き、円盤と化した宝戈が桔姫に襲い掛かる。夜尺の突撃と葛妃の宝戈、その双方に銃弾を浴びせることは出来ない。
空気の抜けるような音、それと同時に激しい爆音。榴弾の爆風に弾かれた宝戈が軌道を変えて葛妃に戻る。
「厄介な」
しかし時間は稼げた。夜尺の突撃は目前、弾丸の雨の中に榴弾が飛び込む。夜尺は銅鐸を擦りあわせると反響音が榴弾をはるか手前で爆発させる。爆風にあおられ陣形が崩れる三姉妹。そこに様子をうかがっていた葛妃と夜筑が飛び込んでいく。
「させません!」
銃口を強引に振り回し、弾幕を形成する桔姫。その弾幕の合間を埋めるように、ショットガンの鉛玉が降り注ぐ。そしてダメ押しの爆風。 流石の夜尺も軌道を反らし、背後の夜都賀王を庇うように退避する。
「硬いのぅ」
綻びは出来るものの、そこからがなかなか切り崩せない。もう一手、穿つ楔が必要だった。
「現世に影響が無いのを良いことにやりたい放題じゃな」
「あ、そうか!」
三姉妹の容赦ない攻撃、その容赦の無さに夜都賀王は突破口を見出した。
「夜尺さん、しばらく相手を引きつけて!」
「え?わ……夜都賀様!」
夜都賀王は一気に上昇する。夜尺は夜都賀王の言葉に従い、玉座に攻撃をかける。夜尺の様子を見た葛妃、夜筑も攻撃に加わる。
「上からも仕掛けて攻撃を四方に分散するつもりか? それは良いがそれでどうなる?」
葛妃は夜都賀王の行動を訝しむ。この状況では余り上策とは思えない。
それに夜都賀王の身体が剥き出しの状態になる。
土蜘蛛の葛妃たちでさえあの攻撃をまともに食らえばただではすまない。
倭文織に守られているとはいえ、夜都賀王が食らえば命にもかかわる。そして真っ先に狙われるのは玉座を御しえる夜都賀王なのだ。
玉座の上空高く飛び上がった夜都賀王は佩いた太刀を抜くと、そのまま頭を下に、一直線で玉座に突っ込んでいく。緩やかな速度が次第に速くなっていく。
「阿呆か!」
夜都賀王のこの行動に葛妃は叫び声をあげる。それは悲鳴に近い。
「あれでは良い的では無いか!」
まっすぐ突っ込んでくる夜都賀王に、桔姫は銃口を向ける。
「だからこうしなければならなくなる前に身柄を確保したかったのです……」
銃口は向ける。向けるが引き金を引く指が少しだけ硬直していた。
「でも、手加減は出来ません。覚悟を決めて、ハーゼ様!」
銀色の兎耳が小さく揺れる。桔姫に向けて伸ばされた手が、しかし届く前に堅く引き戻される。
「信じてるから」
誰に聞かれることも無く、ハーゼの口から零れた言葉は誰に向けられたものだったのか。
その言葉を更に上塗りするように、布裂き音が吐き出される。ばら撒かれた銃弾がまっすぐに突っ込んで来る夜都賀王の身体に吸い込まれていく。
そう、文字通り吸い込まれていく。
そして無数の弾丸が、夜都賀王の身体をまるで何も無いかのように突き抜けていく。
「現世か!」
夜都賀王はこのとき、石生界ではなく現世に身を置いていた。上空から加速度9.8m/S2の急降下突撃。全員が石生界に同調している今、この突撃を遮るものは何も無かった。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
風の唸りか夜都賀王の声か、叫びと共に突っ込んでくる。
「来い! 夜都賀王!」
手にした細剣を構えなおし玉座上部に押出したハーゼの声は、意気込みの為か少し弾む。
夜都賀王の太刀がハーゼの細剣と交差し、激しい音を立てて両者を弾く。
「懐に入った!」
誰とも無く感嘆の声が上がる。夜都賀王は絶妙の間合いで石生界に再同調していた。
「しまった! きゃ!」
慌ててショットガンを向けた姉妹が夜尺の銅鐸砲で弾き飛ばされる。他の二人の得物では鍔迫り合いを繰り広げるふたりには、至近すぎて援護に使用できない。
「「手出し無用ー!」」
夜都賀王とハーゼの声が重なる。その息はぴったりで、切り結ぶ剣劇は軽快なリズムを刻み、交差する姿は演舞を思わせた。
「こうなっては夜都賀王に任せるしかない。桔姫たちに手出しをさせるな」
「それはこちらも同じことです」
葛妃に対峙する桔姫たち。その手に火器は既に無く、機関銃は槍に、ショットガンは薙刀に、グレネードランチャーは鉞に、いつの間にか持ち替えられていた。
「こちらはこちらで楽しむとするかの!」
葛妃を、そして桔姫を先頭に両陣営が激突する。
奏上は既に最後の段階に来ていた。
光の渦が特に変わるわけでもない。
響く調べが変わるわけでもない。
しかし、なんとなく、わかる。
それは勘ではなく感だった。
その瞬間をめぐり、赤を纏った黒い影と銀に輝く光が絡み合うように鎬を削る。 ハーゼの切っ先が突けば夜都賀王の太刀が弾き返し、夜都賀王の太刀が斬り込めば、ハーゼの細剣が受け流す。
その交わりが次第に早く近くなる。光と影が螺旋を描きながら刻一刻と迫りくるその時を、狙い定める。
そしてその時は、唐突に。
静寂はすなわち音無き鯨波。位置は夜都賀王が幾分近いが、反応はハーゼが一泊早い。ほぼ同時に玉座に殺到する。
玉座の前で剣を交えるふたり。それは交えるというより衝突に近かった。僅かにハーゼを弾き飛ばした夜都賀王が、しかしその僅かの隙を見逃さず、すばやく玉座にその身を滑り込ませる。
王権は成った。
はずだった。
「!!!」
玉座に着いた夜都賀王は臀部に違和感、というよりも、激痛を覚えて飛び上がる。すんでのところで間抜けな悲鳴を上げるのは押しとどまった。ただ喉だけが膨れ上がり、そして、飲み込んだ。
そこにあったのは茨で編まれた座蒲団だった。ハーゼの左手から伸びた茨が夜都賀王の下に滑り込みとぐろを巻いていたのだ。
飛び上がった夜都賀王の足に、ハーゼの茨が絡みつく。夜都賀王の身体が玉座の前から滑り落ち、引き剥がされると同時に入れ替わるようにハーゼが玉座に滑り込む。
王権は成った。
今度こそ確実に。
ハーゼは玉座にゆっくりと預けると足を組み、首を少し傾けながら肩をすくませてみせる。こうなって当然、といわんばかりに。
「ぐぬ」
夜都賀王はそのしぐさにさすがにちょっとムカついた。ムカついたがそれと同時にやはり可愛いと思ってしまう。ハーゼと名乗ってはいても、その中身はいつもと変わらぬ兎萌なのだ。
「更新!」
玉座が唸り要石の結界が更新される。この場での土蜘蛛側の負けは決した。
「おしり、大丈夫?」
ハーゼは玉座から明るく問いかける。少しからかう様な口調だが、それだけではないのは夜都賀王には感じられた。
「大事無い」
夜都賀王は憮然と答える。自分を心配してくれていることはよくわかるし、心配ないよ! と慰めたい気持ちでいっぱいだが、そこは抑えて夜都賀王に徹する。
「ならいいけど!」
ハーゼは笑う。その笑いからは侮蔑は感じられず、驕りや優越感も感じられず、いつもの笑い声だった。いつもの、安心したときに出す笑い声。それを聞いただけで、夜都賀王=可彦はこの負けを快く受け入れることができた。
「私たちの勝ちです。葛妃様」
「……そのようじゃの」
葛妃はゆっくりと地面に降り立つ。続いて夜尺、夜筑が。そして桔姫三姉妹。最後にハーゼと夜都賀王が降り立つ。
「それでは引き上げるか」
夜都賀王が降り立つのを見届けると、葛妃はいそいそときびすを返す。その声はどこかささくれ立ち、落ち着きが無い。
夜都賀王は直感的に葛妃が怒っているのを感じた。
「いくぞ! 建て直しじゃ!」
急かすように声を上げる葛妃。
「壱介! 早よう車をまわせ!」
もはや誰の目にも葛妃が怒っているのは明らかだった。
「べーくーひーこー!」
家に着くなり葛妃は可彦に詰め寄る。顔は赤く上気し、つり目がちの目が、さらにつりあがっている。激怒しているといっても過言ではない。
「ごめんなさい」
「お前、吾がなんで怒っているかきちんとわかっておるかや?」
こうなったときの葛妃は容赦が無い。
「えっと……負けたから」
「そんなことでこんなに怒るかたわけめ!」
葛妃は両手を可彦の顔に伸ばす。目を閉じて首を竦ませる可彦。しかし頬に伝わってきたのは痛みではなく、熱くなった葛妃の両手のひらの感触だった。
「無茶をしおってからに……お前に何かあったら、吾は、吾は……」
そのあとは言葉にならず、可彦の頭を自分の胸元に引き寄せると強く抱え込む。可彦の頭は両手の熱さと胸のほのかな柔らかさと葛妃自身の深い優しさに包まれる。
「ごめんなさい」
「少し黙っておれ」
葛妃はただ可彦を抱きしめ続けた。
可彦は葛妃の胸に抱かれながら、そうされたときにはいつも感じる安堵感と、そして、葛妃が人ではないことを思い知らされる。葛妃の控えめな胸は、それでもやはりやわらかく暖かいが、そこから聞こえてくる鼓動は、鼓動ではなくまるで漣の様だった。鼓動はまったく聞こえてこない。
漣の聞こえる胸。しかしそれが葛妃の胸だった。しかし大海原をたゆたうような静寂に、可彦は逆に静かな安らぎを覚える。
「……来や。お前たちもじゃ」
葛妃は可彦を解き放つと、すばやく背を向け、奥座敷に向かって歩き出した。
奥座敷に着くと、葛妃は一段高い、いつもの上座に座す。可彦は座敷の中央あたりに、夜尺、夜筑の両名はその後ろに控える。
「何が無茶であったかは、よもやわからぬではあるまい?」
「同調を解いた急降下?」
「うむ」
葛妃はうなずく。
「して、なぜあれが無茶なのかはわかるかや?」
そう言われて可彦は考える。あの行為が無茶なのがわかる、しかしそれを具体的に聞かれるとはっきりと口に出せない。
「まぁそうであろうな」
葛妃は頷く。
「解っていれば踏み切れまいて」
葛妃は静かに言葉を続ける。
「第一に同調の頃合を見るのが非常に難しいこと。少しでも間違えば地面に激突じゃ。第二は相手が同調を解いて攻撃してきたら避ける術が無いこと。あの場合完全に蜂の巣じゃな。第三は同調を解いた時に奏上が終わったら手出しができないこと。まぁこれに関してはそもそもが賭けの色合いが強いゆえ、除外してもよいが」
葛妃は指折り数えて答える。確かに言われた通りだった。もしタイミングを間違えていたら、
相手が現世に戻って攻撃してきたら、奏上終了に間に合わなかったら……
「可彦、どうした。顔色が悪いの」
言われてみてその危うさに実感が伴い始める。相当に無茶なことをしていたのだと改めて思い知らされる。今更ながらの恐怖にうなだれる可彦。
そして葛妃の怒りを思い知る。彼女が激怒するときはいつだって可彦自身の命にかかわる時なのだ。
「しかし姫様」
「わかっておる」
後ろに控えた夜尺の声に、葛妃は手を上げて答えた。
「よくやったの、可彦」
その声に可彦は顔を上げた。可彦をまっすぐと見つめる葛妃は、まだ怒り治まらぬ様子ではあったが、それでもその目は和らいでいた。
「あの場においては、あれが良き策であったことは間違いない。荒削りで少々思慮が足りなかったとはいえ、咄嗟の策としては上策じゃ。良くぞあの短い間に思いついた」
葛妃の目が次第に温かくも誇らしく変わり、可彦に注がれる。
「また、それを即座に実行に移した胆力と、それを成し得た判断力、いずれも見事。まぁ短慮ゆえの行動かも知れぬが、それでも誉めるに値する」
「お見事でございました」
「お見事です」
「え、えっと」
突然変わった雰囲気に、可彦の思考が追いつかない。その様子を葛妃は和やかに笑う。
「負けたのは悔しいが、次の一手に続く負けじゃ。次に備えてゆっくりと休め」
「……は、はい!」
ようやく誉められていることに気がついた可彦は笑みを浮かべて弾かれる様に頭を下げた。それを見た葛妃はもう一度、満足そうに声を上げて笑った。
「こんにちは」
デート資金の約束通り、夜筑の言いつけで玄関先を掃除していた可彦に声がかかる。穏やかな日の光のせいで、少し汗ばんだ顔を声のほうに向ける。
「はい?」
そこに立っていたのは蒼いチャイナドレスを着た女性だった。長い髪をすっと掻き揚げて薄い笑みを浮かべてこちらを見る。
「あ、えっと……滝口さん?」
「覚えていてくれて嬉しいわ」
「あの時はお世話になりました」
「どういたしまして」
「えっと……」
聞き返そうとして思い止まる。尋ねてきた理由は聞くまでも無いことだった。
「刀自様ですよね」
「そう。お会いできるかしら」
「もちろんです」
可彦は即答した。助けてもらった恩もあるし、来たら通すように言われてもいた。
「案内します。どうぞお上がりください」
「助かるわ」
微笑む五月を先導して、可彦は奥座敷へと通した。
「お初にお目通りいたします。滝口五月と申します。土蜘蛛の女王様に置かれましてはご機嫌麗しく」
奥座敷、葛妃の前で深々と頭を下げる五月。来訪者が来るたびに可彦は葛妃の立場を思い知らされる。日ごろは意識していないが彼女は畏怖される存在なのだ。
「思い出した。どこかで聞いた名だと思ったのじゃ」
葛妃ははたと膝を打った。その音が広い座敷に澄み渡る。
「主、小次郎殿の娘じゃな」
「左様でございます」
「いや、いや。これはよう来てくださった。可彦も世話になったようじゃし。感謝する」
「いえ、そのような」
どうやらこの女性もひとかどの人物であることは間違いなかった。しかし小次郎という名前に可彦は思い当たる節が無い。佐々木小次郎?
「ああ、解らぬか」
可彦の不思議そうな顔を見て取ったのか、葛妃が言葉を付け加える。
「五月殿の父君は
滝口小次郎。可彦はその名前にも思い当る節が無かった。
「お言葉ですが女王様」
五月が割って入る。
「葛妃で良い」
「では葛妃様。残念ながらその名前は今の世ではあまり馴染みがないかと」
「そうか……
「そちらもあまり」
「ふむ……」
葛妃は思案ののち口を開いた。
「
「え!」
いきなり超有名な名前が出て、可彦は驚きの声を上げる。
「流石にこの名は良く行きわたっているようじゃな」
「将門公って
「これ、呼び捨てにするでないわ」
「す、すみません」
「お気になさらずに」
五月はやはり愛想よく微笑む。
「
葛妃のその言葉に、五月はただ笑みを深めた。
「して、何用じゃ」
夜筑と夜尺がお茶と高坏にのせた菓子を置き、末席に控えたところで葛妃が切りだす。
「ただ挨拶に来たわけではあるまい?」
葛妃はゆっくりと湯呑に手を伸ばすと一口すする。
「先の戦いも、見物していたようじゃしな」
可彦は目を丸くして五月を見る。しかし驚いているのは可彦だけで、五月はもちろん、夜尺や夜筑も驚いた風は見せなかった。
五月も出されたお茶に口をつける。ゆっくりと香りを楽しんでから飲む。
「手を、組みませんか」
「手を組むじゃと?」
茶を啜る音のみが奥座敷に漂う。その音だけが時が流れていくのを感じさせた。
「私達にとっても要石は邪魔な存在」
「ならば何故先の戦いで加勢せなんだ?」
葛妃は湯呑を置くと高坏の上の菓子に手を伸ばす。ちなみに菓子は饅頭ではなくマカロンだ。
「私達としても、お遊びで加勢するわけにはまいりません」
「己を高く売りつけるはらかや」
「当然です」
きっぱりと言い放つ五月。その声は凛と澄み、奥座敷に広く響いた。
「何を望む?」
「常陸国の割譲」
「はっきりと言ったの」
葛妃は声を出して笑う。
「南部西部の辺りは真新皇の手に」
「真新皇?」
「父、将門です」
「目覚めたのかや」
葛妃が身を乗り出す。五月は小さく頷く。小さく頷くがそれ以上は語らない。
「まつろわぬ者どうし、力をお貸しいただきたく」
「でも将門公って今は神田明神に祀られてるんだよね」
「真新皇は首の方じゃないのよ」
可彦の疑問に五月が答える。
「真新皇は神と祀られる首とは袂を別けた、胴体の方なの」
「
葛妃は答える。しかしそれは自分に対する呟きの様なものだった。
「胴の方が自立するか。なるほどそれも、面白い話」
「美味しいマカロンですね」
「そうじゃろ?」
思案する葛妃に五月が唐突にマカロンの話を振る。
「これがなかなか日本茶に合う」
「本当に」
「……話は解った」
葛妃はもう一つマカロンを口に運んでから告げる。
「しばし考えさせておくれ。その間五月姫にはご逗留頂きたい。いかがか?」
「願ってもない事です」
五月もマカロンを口に運んで、微笑みながら承諾した。
「何見てるの?」
居間でテレビを見ていた可彦の脇に五月が座る。この部屋はこの家では数少ない洋間のつくりになっていて、ソファとキャビネット、そして大型のテレビが備えられていた。
「ニュース?」
大きなソファの可彦が座る側の反対に腰を降ろす五月。ほのかに漂う甘い香りは、濡れた髪から発せられているのだろうか、少し距離はあるものの、風呂上がりで体が温まっているせいか、その香りははっきりと感じられた。
寝間着用の浴衣を着たその姿は、可彦の目を吸い付けるには十分だった。
長い髪はまとめ上げられ、上気したうなじが覗いている。
浴衣の下に隠された大きな胸は、何の締め付けもされず、その胸元は心なしか少し大きく開いている。
形の良い、思ったよりも肉付きの良いふくらはぎとくるぶしが、浴衣の裾からたまにその姿をのぞかせる。
「なぁに?」
可彦の視線に気が付いた五月が微笑みかける。切れ長の目が少し潤み、大きな瞳が光って見える。すこしのっぺりとした印象のある顔立ちは、どこか爬虫類を感じさせるが、それは決して負の要素には働いておらず、妖艶で魅惑的なものを感じさせた。
「あ、えっと……何か飲みます?」
「ありがとう。それじゃ同じの貰えるかな」
そういって可彦の前に置かれたペットボトルを指さす。それはオレンジ系の炭酸飲料だった。
「これ、美味しいですよね」
「ちょっとほろ苦いのが良いのよね」
可彦はソファーから立つと部屋に据えてある小型の冷蔵庫からそれを取り出す。
「あ、グラスはいらないわ」
キャビネットからグラスを取り出そうとした可彦は、手にしたグラスをそのまま戻し、ペットボトルを五月に手渡す。
五月はペットボトルのふたを回す。小さな軽い空気音。もう一度ふたを閉め直し、軽く振ってからふたを開け、飲む。
嚥下するたびに動く喉元が、何か艶めかしい。目を細めて視線を向ける五月に、可彦は慌てて何もなかったように自分のジュースを飲む。
「おいし」
半分ほど飲み干してテーブルに置くと小さく息を吐いた。
「お風呂、大きくていいわよねぇ」
可彦の方を向き、その顔を見つめながら五月は嬉しそうに話しかける。
「温泉みたいで」
「僕もあのお風呂、大好きです」
「そうよねぇ、手足が伸ばせるお風呂っていいわよねぇ」
「そうですよねぇ」
同じ飲み物が好きな事やお風呂を褒められたことなどで、可彦は何となく五月の存在を近く感じた。すごく些細な事なのは判っているが、でもそうやって打ち解けていくような気もした。
「あ、そうだ。あの時のお礼がまだでした」
「あのとき?」
「なんかあの人、相手側の人だったみたいで。刀自様も知っている方でした」
「ああ、あの時ね」
五月は少し虚を突かれたような顔をして、それから再び笑みを浮かべた。
「でもそのお礼なら喫茶店に入る前に受けたし、今日玄関でも受けたし」
「あれ?そうでしたっけ?」
「でもまぁ改めてお礼をしてくれるっていうのなら……」
五月の顔にさらに笑みが広がる。可彦は少し身構えた。この笑顔には見覚えがあった。葛妃も兎萌も同じような顔を浮かべるときがある。ただ五月の笑みは前の二人より妖しく艶やかだった。
「今度背中でも流してもらおうかしら?」
「え?」
「うふふ。冗談じゃないから考えておいてね」
可彦の方がご褒美のような話に聞こえたが、それ以上追及するのはやめた。気を落ち着かせるようにジュースを飲み干す。
「ねぇ可彦君」
先ほどまでの声から少しトーンが落ちている。可彦を見つめる顔も笑みは浮かんでいるものの、それまでの妖艶さは薄く、逆に慈愛のようなものが浮き出している。どこか、葛妃の見せる笑みにも似ていた。
「自分の立場、どう思う?」
「立場、ですか?」
いきなりそう聞かれて何と答えることも出来なかった。そもそも、自分の立場ってなんだろう。可彦の思考はそこまで後戻りする。
「佐伯の家に生まれて、はるか昔からの土蜘蛛の戦いに巻き込まれてどう思う?」
どうだろう。
「佐伯の家に生まれなければ、別の人生があったかもって思ったことは?」
それは少しあった。兎萌と仲良くなり、中学生になって互いのうちが反目していると知った時、何故?と思ったときはある。葛妃からとやかく言われた覚えは無いが、それでもどこか後ろめたい気持ちが付きまとう。
「私もね……」
その言葉に可彦の顔が五月のほうに向く。それを待つようにして、五月は先を語りだした。
「こう思ったことがあるの。この身に怨念を抱かなければ、父将門が敗れなければ、反乱を起こさなければ、そもそも自分が将門の娘に生まれなければ……」
可彦を見つめるその顔は、相変わらず微笑んでいた。
「でもそうはならなかった。私は将門の娘に生まれ、父は反乱を起こし、そして敗れ、
区切られる言葉。相変わらずの笑み。
「今ここで、可彦君と逢っているわけ」
話が飛んだような気がして、可彦はしばし口をあけたままになる。
「どれか一つでも欠けたら、今の私が今ここで、可彦君と話すことは無いのよ」
そうか、と可彦は思う。確かにその通りなのだ。何か一つでも違えばそこにいるのは今いる五月ではない。それどころか、はるか昔に消えているかもしれないのだ。そう思ってから自分を考える。
それは考えるまでも無かった。自分だって一つでも欠ければ今の自分じゃない。佐伯家に生まれ、葛妃に育てられて今の自分がある。
そして兎萌のことも思う。
自分が佐伯の家で、兎萌が黒坂の家だからこそ、ふたりは出逢い、惹かれあい、仲良くなったのだと。そのために戦うことになったのだとしても。
幼稚園で始めてあった時、ふたりとも周囲から少し浮いていた。それはふたりともその辺では有名な名家だったからで、今思えばいらぬ厄介ごとに巻き込まれたくない周囲が、知らず知らずと避けていたのかもしれない。そんな中で同じような立場の可彦と兎萌は自然とふたりでいることが多くなり、自然と仲が良くなったのだ。
もし片方でも境遇が違えば、ふたりは今の様な仲になるどころか、出会うことも無かったかも知れない。
可彦の様子を眺めていた横顔が、小さく縦に振れた。
「結局、そんな事はあり得ないのよ」
五月はテーブルのペットボトルを指先で弄びながらその中で揺れるジュースを眺める。ペットボトルの中のオレンジ色の液体が、どこに逃れるでもなく、中でただ、揺られるままに揺れている。
「今いる自分は今いる自分だけ。それを受け入れるしか道は無い」
口から零れた小さな言葉に可彦は自然と頷いた。頷かざるをえなかった。もしここで頷かなかったら、今の自分を否定してしまうような気がしたのだ。
「ことの良し悪しはともかく、私は今の自分、好きよ」
五月の目が問いかける。
「僕も今の自分、嫌いじゃありません」
「そう……」
五月は残っていたジュースを飲み干すとソファーを立つ。
「ご馳走様。話せて楽しかったわ。それじゃおやすみなさい。春休みだからって夜更かししちゃ駄目よ」
「おやすみなさい。僕も楽しかったです」
「お互い因果なことだけど、せいぜい今の自分を楽しみましょうね」
「はい!」
客間に向かう五月を見送った可彦は、ペットボトルを片付けるとテレビを消した。
「僕も寝よう」
可彦は居間の電気も消すとそのまま自室へと引きあげていった。
「やっば!」
自室の戻った可彦は、しかしすぐに眠ることは出来なかった。
暗い部屋の中から可彦を出迎えてきたのは机の上の携帯電話。煌々と光り輝くそれを、慌てて手にする。ものすごい数の着信来歴。相手は無論兎萌だ。マナーモードのまま放置していたのだ。
「しまったぁ!」
可彦は慌ててリダイヤルを押す。呼び出し音が無常に流れていく。5回、10回、15回、20回で可彦はいったん切った。
「……寝ちゃったかな?」
しかし再びリダイヤルを押す。やはりなる続ける呼び出し音。今度は30回で切った。
「……うーん……」
もう一度。流れていく呼び出し音が兎萌の非難に聞こえて、いたたまれずに何度も切ろうとする。しかしそのたびに思いとどまる。30回を過ぎて40回をカウントしたそのとき、電話がつながった。
『遅い!』
「ゴメン!」
声が重なる。
『何回かけたと思ってるのよぅ!』
「えっと」
『数えなくて宜しい!』
「はい」
可彦はなんとなくベッドの上に正座する。
『正座!』
「してます」
『宜しい』
すこし吊り上った細めのメガネをかけた兎萌の顔がなんとはなく浮かぶ。
しかし兎萌の目は垂れ気味のため、余り似合わないような気もした。でも、逆にそこがいいのかも。
「で、ご用件は」
『特にない!』
おそらく胸を張っていっているだろうその答えは、無論予想通りだったが、きっぱりと言い切られると気持ちがいいし、用もなく電話をしてきて、出なかったことにここまで怒られるのもなんとなく嬉しかった。でもこの嬉しさはたぶん相手が兎萌だから。
他の誰かだったら、おそらくムカつくだけだ。
『それより心配したんだよぅ。なかなか出ないしさ』
「心配?」
『だってほら……』
珍しく兎萌が言い淀む。面と向かってならともかく、電話口ではあまりない。
『べっくんち、負けたって聞いたから』
「ああ……」
きっとそれが気になって何回も何回も電話をよこしたのだ。
『大丈夫だった?』
「なにが?」
『だってほら、負けたことで刀自様が機嫌が悪くなって、黒坂の家とはつきあうなーとか』
「大丈夫大丈夫」
可彦は努めて明るく笑った。
「ほらだって、僕たちあまり関係ないし」
大嘘である。可彦も兎萌も戦いの中心にいる。しかしそれは知らないことになっている。少なくとも兎萌は可彦の正体に気が付いていない。可彦は自分にそう言い聞かせて優しい嘘をつく。
『そ、そうだよね!』
電話から聞こえる兎萌の声も努めて明るい。
「そういえばさ」
可彦は話題を変えるべく、ふと思いついたことを口にした。それは先ほどまで話していた言葉。
「もし黒坂の家に生まれていなかったらって考えたことある?」
『え?無いよ』
身も蓋もない、しかし実に兎萌らしい即答に可彦は思わず苦笑した。
『だってあたしはあたしだもん。他の家に生まれたあたしなんかありえないよぅ』
「そうだよね」
『うん。あ、でもね』
「でも?」
『黒坂の家に生まれて無くても、そしてべっくんが佐伯の家に生まれて無くてもふたりはきっと出会っていたんだよ』
「そうなの?」
『うん、きっとそうだよ』
兎萌らしいと思った。そしてなんとなく、そうなのかもしれないとも思った。ふたりが出会うのは他の何よりも変わらない事実なのかもしれない。考えてみれば辻褄の合わない話なのだが、それを指摘するのも野暮な話だった。
「そうだね」
『うん』
面と向かって話せる話じゃないなぁ、と可彦は思う。とても恥ずかしくてそれどころじゃないだろう。それはきっと兎萌も同じ。離れているから、顔が見えないから、少し大胆に、少し夢見がちに。
『電話有難う。そろそろ寝るね』
「うん。遅くなてごめんね」
『ううん。それじゃ、おやすみ』
「おやすみ」
きっといい夢が見れるだろう。そう思いながら可彦は電話を切った。
可彦の初陣から数えて三戦目。
その戦いは葛妃側の圧勝だった。
五月という伏兵は、無論それだけで相手を翻弄するには十分だったが、その五月の妖術は何にもまして強力だった。
「よもや怨霊の力を借りるとは」
玉座の正面、ハーゼの脇に立つ桔姫が唸り声を上げる。
「大和にまつろえば御霊、まつろわねば怨霊。それだけであろうが」
玉座に座る夜都賀王、その左手に立つ葛妃が答える。
「私は怨霊でも一向にかまいません」
左に立つ五月が笑う。
「畏れられれば畏れられるほど、私の力は増しますので」
「ともかくここは吾等の勝ちじゃ」
「あなたはどう思っているんです、夜都賀王」
桔姫の言葉が玉座に座る夜都賀王に向けられる。まるで意に返さない様に沈黙を守る夜都賀王。本当のところはどう答えていいのか思いあぐねているだけなのだが。
「夜都……」
「桔姫さん」
さらに追求しようとした桔姫をハーゼが遮る。
「彼の相手はこのあたしだけ」
ハーゼはそれだけ告げると、玉座の前から静かに降りていく。
その姿が震えてるようで、夜都賀王は勝ったにもかかわらず、これが夢であったらと、ふと思う。しかし紛れも無い現実であった。
いい夢は昨日の晩に見終わっていた。
その夜、いつものように電話に出た兎萌の声は、いつもと変わらぬ明るさで、その明るさがかえって、可彦の胸の中の暗闇を容赦なく突き刺していった。
「ちょっと、いいですか」
大勝した次の日、勝ったにもかかわらず塞ぐ気持ちを無理やりこじ開けようと、気晴らしに本屋に向かう可彦を呼び止めたのは、メガネをかけたOL風の女性、桔姫だった。
「そんなに嫌そうな顔をしないでもらえますか?」
しかし今まで可彦に対する彼女の行動を考えると、それは無理な話だった。可彦は自然と身構え、露骨なほど顔をしかめる。
「今日は手荒なことをするつもりはありませんから」
そういって手の内を曝しますとばかりに両手を小さく挙げる。その表情がエリート然とした姿とは裏腹に、哀しそうな、困ったような表情で、今までのお返しとばかりにすこし意地悪をしたくなるような気分になる。
「銃口を向けてくるような人は信用できません」
「あれ? 銃口を向けた誰かがあなただったんですか?」
程なくして可彦から大量の汗が噴出す。春の暖かい日差しが照りつけて、ちょっと暑いから、というわけではなかった。
「というような腹の探り合いはやめて、お話、しませんか」
桔姫は笑う。それは今日の日差しのように朗らかで容赦がなかった。
「奢ってくれるんですよね?」
「もちろんです!」
ささやかな反撃も、その笑顔の前には何の意味も成さなかった。
ファミレスのテーブルに所狭しと並べられたスイーツは一種の王国だった。パフェの山脈にプリン・ア・ラ・モードの丘、ガトーショコラの城壁、白玉善哉の湖、その他、諸々。
「これ、全部食べるんですよね?」
「もちろん!」
可彦は手始めにとばかりにチョコレートパフェを手元に寄せると、チョコソースのかかったバナナをフォークで突き刺し、一口で頬張る。
「嫌がらせですよね?」
「……正当な権利による嫌がらせです」
咀嚼したバナナを飲み込みながら胸を張って言い放つ可彦。
「子供じみたことを……」
「子供ですから!」
スプーンに持ち替えてアイスクリームと生クリームの攻略に取り掛かる。
「それに一度やってみたかったですし」
「それは、ちょっとわかります。でも男の子では珍しくないですか?」
「男だって甘いものが好きな人もいるんです。僕みたいに」
チョコレートパフェを攻略しながらストロベリーパフェに手を伸ばす。
「あ!」
「ん?」
桔姫の口から小さな声が漏れる。
「食べたいですか? ストロベリーパフェ?」
「ちょっと……」
「じゃあ、どうぞ」
そういってストロベリーパフェを桔姫のほうに押出す。
「どうせ食べきれませんから」
「やっぱり食べきれないんじゃないですか!」
「当然です」
空になったチョコレートパフェの器をどかすと、プリン・ア・ラ・モードを引き寄せる。
「嫌がらせですから」
「まいったなぁ」
ぼやきながら桔姫はパフェに乗ったイチゴにフォークを刺す。
「お忍びできたから経費じゃ落ちないし……おいし」
「それで話って何ですか」
ストロベリーパフェを食べながら、白玉善哉を引き寄せようとした桔姫の手が止まる。
「そうでした」
白玉善哉を自分の前まで引き寄せてから、桔姫の目が可彦を正面から見つめる。
「自分の立場、どう思いますか?」
全く同じ質問をつい最近聞いた。あの時は迷ったが、今は少し違う。
「僕は僕です」
可彦ははっきりと言う。
「佐伯家の可彦。それ以外の何者でもないです」
「そう、そうですね」
パフェを平らげて、白玉善哉に移る。
「今のあなたはそう。それは変え様が無い。でも未来のあなたは?」
「え?」
ガトーショコラに伸びた手が止まる。その間にガトーショコラは桔姫の下に去っていった。
「今のままで、本当にいいんですか?」
ガトーショコラを切り崩し、その口に運ぶ。返す刀で白玉を突き刺し、口に運ぶ。
「私はこんな戦いは終わりにして、皆で仲良く過ごしたい」
「……相手にひれ伏してでも?」
その言葉に桔姫は力強く頷いた。
「相手にひれ伏してでも。裏切りの汚名を受けてでも」
空になった白玉善哉を押しのけパンナコッタを引き寄せる。
「臆病者と呼ばれても、犬と蔑まれても」
クリーム餡蜜に手を伸ばす。
「同族殺しと憎まれても、売女と後ろ指を指されても」
クリーム餡蜜を平らげると、少し冷めたコーヒーを飲み干した。
「です」
「そう、なんだ」
にっこりと微笑むその笑みに鬼気迫るものを感じて可彦はすこし気圧される。その手は更に抹茶パフェに伸ばされていた。
「それよりも、どう思っています?」
パフェに乗った抹茶アイスに突き刺さっていたウェハースを食べながら、桔姫は語りかける。
「なにを?」
「兎萌様を、です」
「あっと、え?」
「あなたが兎萌様に告白して友達から一歩進んだということは公然の秘密……でもなんでもなくて」
抹茶アイスを切り崩し、口に運ぶ。
「兎萌様は、公言していますからね」
「ええー!」
「それに、わかっていますよね?」
何を解っているのか、とははっきりとは言わなかった。しかしおそらく兎萌がハーゼ・フォン・ローゼンブルグであり、可彦と戦いを繰り広げていることを言っているのだろう。
「私は夜都賀王が鍵を握っていると思っています」
可彦とは言わない。一応その正体は知らないという体をとっていてくれていた。
「夜都賀王は私たちの想定の外のことをして、この戦いの流れを覆しました」
それが玉座を呼出したことを指しているのは間違いなかった。
「それがどう流れるにせよ、転機が訪れたことにはまちがいはありません」
食べ終わった器を名残惜しそうに弄る。
「追加したらどうです?」
「奢って、くれますか?」
「いやです」
「はっきり、言いやがりましたね、このやろう」
荒げた口調で桔姫は笑う。笑いながら席を立つ。
「コーヒー、いりますか?」
「お願いします」
桔姫はドリンクバーから新しいコーヒーを二つ淹れると、一つを可彦の前におく。
「とにかく」
コーヒーを飲みながら先を続ける。
「どんなふうに、なりたいのか、どんなふうに、したいのか、慎重に考えて、どう動くか、決めてください。目の前だけでなく、遠くも見据えて」
そこまでいうコーヒーの香りを楽しむ様にゆっくりとカップを揺する。
「どうぞ」
「うふふ、ありがとう」
可彦の目の前にある、まだ手をつけていない最後に残ったヨーグルトサンデーを桔姫は引き押せると嬉しそうに食べ始める。
「そういえば」
「なんですか?」
「先々代のローゼンブルグってしってます?」
「先々代?ああ、
「どんな人だったの?」
ヨーグルトサンデーを食べる手をしばし停めて中空を見つめる。
「一言でいえば豪傑です。高祖黒坂命の再来と謳われた方です」
「豪傑?」
「滅法強くて、豪放磊落で、勘も良くて、運も強くて。無鉄砲で、女好きなところもありましたが、それでも魅力的な方でした」
「へぇ」
「弟の
可彦は将人という名前を頭の中で検索する。確か兎萌の父の名前だ。
「でもいなくなった?」
その言葉に桔姫は頷く。
「確か、兎萌様が生まれたころに、急にいなくなってしまって。今だ理由は不明です。なぜこんなことになったのか」
「そうなんですか」
「余計な話をしてしまいました。さて、話したいことは話しましたし、そろそろ引き上げます」
桔姫は懐から一枚の紙を出す。それは名刺だった。名刺の肩書は『茨城県秘書課特務室室長』となっていた。
「今は宮内庁からそこに出向しています。何かありましたらそこに。携帯も書いてありますので」
「あ、もうひとついいですか」
伝票を持って立ち上がった桔姫を可彦が呼び止める。
「刀自様もその……あなたに酷いことを言ったの?」
桔姫はその言葉に目を細める。口元に浮かんだ笑みは和やかだった。
「葛妃様は歯に衣着せぬ物言いをされますが、私の事を許しはせずとも理解してくださった数少ない方です。だから」
「だから?」
「だから、あまり戦いたく、ないのです」
その夜、葛妃の奥座敷、今後を決めるために集まった皆の前での五月の発言は、その場にいたほぼ全員を驚愕させた。
「ですから、一気に連続で二か所、落とすべきです」
「しかしな」
葛妃が珍しく気圧され躊躇する。
「なぜそんなに急ぐ必要がある」
「中央が出てくる前に手を打つべきです」
五月は『中央』の部分に力を込める。
「それはまぁ判らぬでもないが」
しかし相手は事を大きくするのを一番嫌っている。中央が出てくるとしてもそう大規模なものになるとは思えなかった。
「杞憂にすぎぬのではないか?」
「おそらく相手も同じように考えていたでしょう」
五月は静かに、しかし力強く続ける。
「可彦君……夜都賀王が現れるまでは」
皆が皆、冷や水をかけられたような表情になる。静まり返る奥座敷。そう、このような事態になるとは黒坂家の面々は考えもしなかっただろう。玉座を支配され、要石が解放されるなど。
「思い込みは禁物ということじゃな」
葛妃が唸る。言われてみればもっともな話だった。すでに状況は未知の世界に踏み込んでいるのだ。
「話はわかった。しかし一気に二つを落とす意味は?」
「あと二つ落とせば要石の勢力は四対四で互角になります」
「そうじゃな」
「そこまでくれば葛妃様のお力も、相当に強くなりましょう」
「うむ。それは間違いない」
「そうなれば、話し合いを対等な立場で行えるはず」
「話し合い?」
予想外の言葉に葛妃は首をかしげた。
「何を話し合う?」
「停戦を」
「なんじゃと?」
五月の言葉はさらに続く。
「今までの戦いはいわば決まり事を踏襲する儀式のようなもの、本当の意味での戦いとは言えません。そんな戦いなら永遠に続けるのもいいでしょう」
「言うてくれるな」
葛妃の声が微かに震える。しかし五月はなおも構わず先を続ける。
「しかしこれからの戦いは本当の戦いです。戦いは終わらせなければなりません。その終わらせ方が重要です」
「……続けよ」
葛妃は
「相手を降伏させるまで戦うというのであれば止めは致しませんが、それこそ被害が大きくなるばかり。葛妃様や夜都賀王殿の本意であるとは思えません」
一旦言葉を切り周りを見る五月、反論がないのをみると先を語りだす。
「ならば勝っているときに停戦をすべきです」
「そうすれば良い条件で停戦ができる。そう言いたいのじゃな」
葛妃の言葉に五月は頷く。
「無論、私達の条件も汲んでいただかなければなりませんが、相手も戦いを広めたいとは思っていないのは明白。それならばきっと乗ってくるはず」
「そのために一気に二つ落とすか」
「こちらの力を誇示する意味合いもあります」
葛妃は身体を脇息に預けたまま、煙草盆に手を伸ばすと煙管を取り出す。そして吸うでもなく手の中で弄ぶ。
「悪くない、とは思うが……」
手にした煙管を小さく煙草盆に打ち付ける。時を刻むような小さな響きが奥座敷に流れる。
「可彦、お前はどう思う?」
急に振られた話に、しかし可彦はまっすぐ葛妃をみて即答した。
「僕はするべきだと思います」
「お前が全ての要で、お前に負担が大きくかかるのはわかっておるかや?」
「はい」
よどみなく即答する可彦。
戦いを終わらせる為に戦う。可彦にはこれしかないと感じた。きっとそれこそが自分が特異な力を得た理由なのだと。
「お前がその意気ならそれも良いであろ」
葛妃は満足げにうなずくと、身体を起こし背筋を伸ばす。
「して五月姫、いかにして攻める?」
「それは今から考えます。皆さんと一緒に」
「なんじゃ、策があるわけではないのか」
しれっと答える五月に葛妃は不平を洩らすが、その顔は明るい。
「まぁ方針が決まれば策はおのずと見えてこよう」
身を乗り出すと皆の真ん中に置かれた地図に目を向ける。それは八卦陣の場所の書かれた地図だった。
可彦もその地図に集中する。どことどこを狙えばいいのか、どうやって移動すればいいのか、自分には何ができるのか、援護をしてもらうとしたら何をしてもらえばいいのか……
「可彦、なにかうかんだかや」
熱心に地図を睨む可彦に葛妃が声をかける。それは答えを期待したというより、熱心に見詰める可彦を気遣っての言葉だったが、可彦から返された言葉は、その場を完全に支配してしまった。
「出来るかも……しれません」
そして可彦は自分の考えを、ゆっくりと、しかしはっきりと説明していった。
四戦目。
相手は思ったよりもこじんまりとした陣容だった。
石碑周辺に陣取る黒坂側の陣容は前回と余り変わらない。ただ五月の妖術を警戒してか、神主らしき人物が加わっていた。
それでもその規模から、やはり事を大きく荒立てたくない思いは見て取れる。二つの要石を解放する、これが最後のチャンスにも思えた。
「やはり陰陽師か」
五月が吐くように呟く。いつも浮かべている薄い笑みが心持ち色褪せて見える。
「苦手かや」
「私の妖術に対抗しうる陰陽師が、今現在にそれほどいるとは思えませんが」
それでも苦手だ、と言いたげに五月は眉間に皺をよせ、微笑む。
「ま、気負うこともあるまい」
葛妃は右手を上にまっすぐと伸ばし、まるで空を掴むように手を開く。そこに現れた宝戈を掴むと振りぬいて携える。
「吾等は所詮囮よ」
「そうですね」
五月は太ももに仕込んだ棒手裏剣を構える。いや、それは棒手裏剣ではなかった。
五寸釘。
その五寸釘を両手に三本ずつ構える。
更に夜尺、夜筑、そして五月が呼び寄せた男がひとり。
そして夜都賀王。
対峙するのは桔姫三姉妹に陰陽師がふたり。そしてハーゼ・フォン・ローゼンブルグ。
双方とも佐伯衆、黒坂衆は戦線より下がらせていた。
【
「相手は今だ事を大きくするつもりは無いと思います。限られた精鋭でことにあたるはずです」
「何故そう思う」
「勘です」
葛妃の問に可彦はそう答えた。実際には桔姫とあったときの印象なのだが、それを話すとややこしくなりそうな気がしたため、やめた。
「ただ、五月さんへの対策は取ってくると思います」
「それは、そうね」
五月は頷く。
「何かやられそうな手は思いつきますか?」
「やはりあれじゃな」
そう答えたのは五月ではなく葛妃だった。
「術には術じゃ」
「陰陽師……ですね」
五月も顔をしかめる。
「些か験の悪い相手です」
そのまま五月は考え込む。どちらかというといつも楽天的、というか、享楽的にみえる五月が悩むとなると、本当に苦手な相手なのかもしれなかった。
「部下を呼び寄せましょう」
「どのぐらい呼べる?」
「質を問わなければ何人でも」
「余り多いと相手を刺激しすぎます」
「では側近のふたりを」
可彦は頷く。
「まずはいつもどおりに開戦します」
】
ハーゼが細剣の抜き、銀をたなびかせて顔の前に立てる。夜都賀王が直刀の太刀を抜き、護拳を涼やかに鳴らしながら、無造作に垂れ持つ。
双方とも動かない。
ハーゼは細剣をまるで御幣で祓うかのように振ると、再び縦に構える。
「なんと……」
葛妃が呻くように感嘆を漏らす。石碑上空には玉座が出現していた。
「あれだけで呼びだすか……」
葛妃の感嘆は幾ばくか震えていた。
「末恐ろしい」
まずはハーゼが、続いて夜都賀王が上空へと静かに浮かび上がる。
それを追って葛妃が五月が桔姫と姉妹が、そして夜尺と夜筑が、五月の部下が浮き上がる。
陰陽師二人はその場を動かない。
夜都賀王、ハーゼを先頭に上空で再び対峙する。
夜都賀王の太刀が静かに天を指す。
ハーゼの細剣が静かに天に突き刺さる。
その二つが降りおろされ、幕は斬って落とされた。
【
「いつも通りなら相手は玉座を呼びだし、石生界にての戦いを望むはずです」
「まぁ、そうであろうな」
葛妃も頷く。
「布告は如何しますか?」
「いつも通りに」
夜筑の問いに可彦は迷わず答える。
「つまり、開戦日と開戦場所を黒坂家に伝えるのじゃな」
確認する葛妃。可彦はその確認を肯定する。
「まずはすべてをいつも通りに。仕掛けに気が付かせないためにも」
】
まずは夜尺と夜筑が突き抜けていく。桔姫の張る弾幕を銅鐸の盾で凌ぎながらその動きを左右に振ると、背後に身を潜めた夜筑が飛び出し斬り込む。
その斬り込みを横から振り上げられた鉞が弾く。体制を崩した夜筑に野太刀の刃が襲いかかる。その野太刀を夜尺の銅鐸が強引に打ち返す。
乱戦は拡大する。
「どれ、出るかの」
「露払いはお任せを」
五月は身体を旋回させ、手にした五寸釘を扇のように広げて舞う。舞うごとにその手に持たれた五寸釘が投扇の様に優雅に、流星のように鋭く、戦犬のように無慈悲に降り注ぐ。
持ち変えた槍を風車の如く全面で回し、降り注ぐ凶星をしのぐ桔姫。そこに葛妃の宝戈が赤金色の虹を描いて横殴る。それを石突で弾き返す桔姫。対峙する両者。その周りに蒼く紅く揺らめく鬼火が浮かび上がる。
揺れる鬼火が回りながら群がる毒虫の様に桔姫にまとわりつき、その動きを絡めとる。
斜に薙ぎ、直に突きながら鬼火をけちらすが、それはひとつがふたつに、ふたつがよっつに、その身を小さくするだけで、数が増えていく。
まるで雲霞の如くなった鬼火に囲まれ、もはや為す術のない桔姫に葛妃が撃ってかかる。しかしその牙が首を掻き切る前に、雲霞に亀裂が入り、構え直した槍により、すんでのところで受け止める。次第に雲霞は四つに割れ八つに割れ、最期には融ける様に散ってしまう。
「陰陽師!」
五月の怒号が飛ぶとともに控えていた五月の部下が太刀を振り上げ陰陽師へと襲い掛かる。陰陽師は立てた二本の指を縦横に斬り、目に見えぬ格子がそれを阻む。
しかしそうさせることで五月への呪禁は弱まる。再び妖術を操る五月。
対峙するふたりは周りの乱戦を静観するようにしばらく動かなかった。その得物を無造作に携え、まるで二人の間だけ、静寂が義務付けられているかのように動かない。しかしその静けさとは裏腹に緊張だけが、膨らむ風船のように膨れ上がっていく。
そして膨らむ風船は、何時か割れる。
銀なびく疾風のハーゼ。
朱を纏う闇の夜都賀王。
互いの色は混じることなくただ交差し、交差するごとに激音を奏でる。
夜都賀王は一旦間合いを開けると一気に上昇する。追いすがるハーゼの間に葛妃が割って入る。玉座の直上に構える夜都賀王。
構える夜都賀王を一筋の衝撃が突き抜ける。
実際には何の衝撃もなく、実感もなく、ただ一筋の何かが突き抜けたように感じただけだった。
「気をつけよ!」
葛妃が声を上げた。
「奴ら、狙撃手を潜ませておるぞ!」
その言葉で夜都賀王は理解した。今の実感のない衝撃は、自分を狙った弾丸なのだ。そしてその弾丸は石生界でなく現実を飛来した。
「現世に身を置けば、狙撃するとの脅しじゃ!」
現世からの急襲に対抗する策なのは間違いなかった。おそらく一人二人ではない。何人もの狙撃手が周囲に潜んでいるのは明らかだった。
夜都賀王はそのまま真下へと突進する。迎え撃つようにハーゼが上昇する。すれ違いざまに閃光が奔り、今度は夜都賀王が上昇を、ハーゼが下降を。再びすれ違い奔る閃光。
二度三度と切り刻むうち、すれ違いざまのハーゼの左手から茨が伸び、その茨が夜都賀王の太刀を絡める。体勢を崩した夜都賀王が、その体制のままハーゼではなく玉座に半ば強引に突っ込んでいく。桔姫の弾幕をかわし、それを止めるべく夜筑が斬り込む。一瞬だけ開いた瞬間にランチャーが夜都賀王に襲い掛かる。爆風に気圧され、地面にむけて滑り落ちていく夜都賀王。
【
「戦いは乱戦に持ち込みます」
可彦は続ける。
「その際、一瞬だけランチャー使いをノーマークにしてください」
「なんじゃと?」
葛妃の眉間にしわがよる。
「あれが一番危ないと思うが」
「一番危ないですが、あの爆風を隠れ蓑にしたいんです」
「なにをする気です?」
五月の問いに一拍置いてから答えた。
「爆風に吹き飛ばされます」
】
夜都賀王が滑り落ちた先、そこには一台のバン。側面には佐伯酒店。石生界に身を置く夜都賀王はその屋根をすり抜け、車の中に落ちていく。
「夜都賀王!」
葛妃の叫びに呼応するかのように、バンの屋根から勢いよく飛び出した夜都賀王はそのまま上空へと上昇する。遥か高く、銃撃の射程を逃れる様に。
【
「飛ばされてどうする!」
葛妃が身を乗り出して声を荒げる。可彦の身を案じてのことだが、それを可彦は手を上げて制する。それは日頃の可彦からするとあまりにも大胆であまりにも不遜で、しかし、迷いのない行為だった。これには葛妃も口を閉ざすしかなかった。
葛妃が睨み付けるのを、可彦は少しばつが悪そうにはにかみながら、それでもはっきりと自分の策を説明する。
「五月さん」
「なんでしょう?」
「二人の部下のうち、ひとりは近くに止めた車……たぶん壱介さんのバンになると思うけど……その中に待機させてください。僕と同じ格好をさせて」
その言葉で一同は可彦が何を考えているか理解した。可彦もその様子を見て頷く。
「爆風に飛ばされた僕は、偶然を装って車の中に入り、そこで入れ替わります」
】
夜都賀王は暗闇の中を飛んでいた。
それが飛んでいるのかどうかはわからないが、感覚的にはそれに似ていた。
夜都賀王は今、地面の中を飛んでいた。
影武者とすり替わった夜都賀王は、地面の中を突き進んでいく。
別の要石へと向かって。
【
「入れ替わってなんとする?」
「別の要石へと向かいます」
「それはそうじゃろうが、そううまくいくかの? 影武者を立てたところで姿を現せばすぐにばれる。とても移動できるとは思えぬ。それとも何か、車で行くか、悟られない可能性もあるが、とても行きつけるとは思えぬ。そもそも時間がかかる」
「飛んでいけばすぐです」
「ばれて阻まれるだけじゃ」
「ばれないと思います。ばれたとしてもそれまでには少し時間がかかると思います」
反論する可彦。その言葉には確固たる自信が見て取れた。葛妃は目を細める。
「いうてみよ」
「地面の中を飛びます」
「なに?」
この言葉に一同が耳を疑う。
「石生界は現世の干渉を受けない。そうですよね」
「そうじゃ……なるほど……そうか」
石生界は現世の干渉を受けない。建物だろうが岩だろうが現世にあるものは突き抜ける。それは無論地面だって同じことだ。
「何も見えない中を飛んでいくのは難しいですから、ある程度飛んだら地上に出ますが、それでも相手を出し抜くことは出来ると思います」
】
地上はやはり明るかった。
一瞬目がくらむが、片目を瞑っていたおかげですぐに風景を見て取ることは出来た。あまり目立たぬように上空高く飛び上がると、眼下に見える地形から大体の場所と進むべき方向を導き出す。検索サイトの地図機能で上空から見下ろした地形を予習しておいたのは正解だった。
夜都賀王は方向を定めると一気に加速する。風景が凄まじい勢いで流れる。目から入る情報が処理できなくなるすれすれのところまで加速していく。
【
「相手に悟られぬための策は解った」
葛妃は身体をおこし、ゆっくりと脇息に体重を預け直す。もはや何を言われても驚かないという態度と、可彦の言葉に信頼を置き始めた証しだった。
「あとは間に合うのかということじゃ」
葛妃は地図を指し示す。
「やはり近場を狙うかや」
「いえ」
可彦は一番北、常陸太田にある石碑『太田落雁』を指す。
「ここで開戦して」
そしてもう一つ、今度は一番南、涸沼湖畔にある『廣浦秋月』を指す。
「ここに飛びます」
「一番遠いぞ。確かに意表はつけるが、飛べるかや」
つまりそれは、そこまで飛んですぐに帰ってこれるのか、ということだった。直線距離にして約30キロ。
「石生界は現世の干渉を受けない。そうですよね」
同じ言葉を再び口にする可彦。先ほどよりもゆっくりと念を押す口調だった。
「そうじゃが……」
いまひとつ可彦の言わんとすることが汲み取れない葛妃は言葉の語尾を濁した。
「現世の干渉を受けないんです」
「大事なことだから二度言うのかや」
「三度目ですけどね」
「ふむ」
「……それってつまり……物理法則のこと?」
五月の答えに可彦は頷く。
「物理法則か。それが影響せんとどうなる?」
「意識した通りに動けることになります」
「そうじゃな。それはいつもそうしているであろうが」
「そこに限界が無いということです」
「回りくどいの」
葛妃は笑いながら窘める。しかしその眉間に少し皺が寄っているのは本気でイラついている所以だった。
「ごめんなさい。ちょっと嬉しくて」
他の誰もが気が付いていないことを気が付いたような気がして、可彦は少し舞い上がっていた。それは確かだった。
葛妃はもう一度笑いながら先を促す。
「多分ですが、どこまでも速く動けるはずなんです」
「どこまでも速く?」
五月の言葉に可彦は頷く。
「たぶん、やろうと思えば光よりも早く」
】
「あった」
本当にあっという間だった。おそらく一分ほど。それは音速を超えていた。それでいて何の衝撃もない。自分自身に影響がないのはもちろん、周りに衝撃波を出さず、止まるときも何事もないように止まることが出来た。完全に現世の物理法則を無視していた。訓練すれば本当に光速を超えた移動が可能かもしれない。
それでも時間的余裕はあまりなかった。
夜都賀王は石碑の前に降り立つと玉座を呼び出す。
たった一人、そこに浮かび上がる玉座。
光の奏上が煌めいている。
こんなにゆっくりとこの様子を見たことはなかった。夜都賀王は奏上の様子をただ眺める。
【
「廣浦秋月を落としたら、すぐに戻ります」
「それであれば、他のところも落として廻れるのではないか?開戦場所にこだわる必要もないかもしれぬし」
「いえ、やはり次は開戦場所の太田落雁を落とすべきだと思います」
「ふむ」
「そして太田落雁と廣浦秋月。この二つを落とすのみに留めるべきです」
「その意図は」
「この戦いの目的は、要石を落とすことよりも、その先の停戦交渉にあるはずです」
可彦はこれに強い信念を置いていた。だからこそ戦える。兎萌とも戦える。
「開戦場所以外を二つ落とした場合、騙し討ちの印象が強くて素直に停戦交渉に応じないかもしれません。正面から戦って勝つところは見せる必要があると思います」
「なるほど。それから?」
「合せて四つ以上を落とした場合、今度は危機感の方が勝って形振り構わない攻勢に出る恐れがあります。やはり五分で停戦交渉に持ち込むべきだと思います」
「力を見せつけ、それを振りかざさずに引いて見せ、講和を引き出すか。話は解った。吾もそれで良いと思う。しかし開戦場所を落とせるかどうかは判らんぞ、一時お前はいなくなるわけじゃし、奏上終了までに戻れなんだらどうする?」
「廣浦秋月を落とせば、刀自様や皆さんの力は増すんですよね?」
「無論じゃ」
「それならば問題ないと思います」
可彦は微笑む。その微笑みを見て葛妃は少し微妙な表情をした。可彦の微笑みはどこか自分のする微笑みに似ていると思ったのだ。悪戯を考えているときの微笑みに。
「たとえ奏上終了に僕が間に合わなくても、戻るまで相手を阻止してくれると信じています」
葛妃は思わず吹き出してしまった。なんともあの可彦が、よくぞここまで。そんな思いが口から噴出した。
「無論、問題ない!」
葛妃たちが力を取り戻せば、同じ土蜘蛛の桔姫三姉妹も力を取り戻すのだが、そこにはあえて触れなかった。それは単なる言い訳に過ぎない。
可彦は自分にばかり重荷を背負わせずに、働いてね。そう言っているのだ。
「五月姫も異存はないかや」
「無論です」
五月も笑顔で答える。
「夜都賀王殿の策、見事に思います」
「ではこれにて評議は決した!」
葛妃は立ち上がると手を頭上に掲げる。そこに現れた宝戈を掴むと捧げ上げる。
「夜都賀王の策に従い準備せよ!良いな!」
】
奏上は思ったよりも早く終わった。周りの状況によって奏上の長さが決まるのかもしれない。夜都賀王はそう感じた。たとえば争いがあれば長くなり、誰も居なければ短くなる。
「本当に椅子取りゲームだ」
そう呟きながら玉座に静かに腰を下ろした。
「違う!」
ハーゼが吐き捨てる。
「誰だ君はぁ!」
対峙するのは夜都賀王。いや、夜都賀王の格好をした別の誰かであるのは、今やハーゼはおろか、それ以外の誰が見ても明白だった。
「夜都賀王! どこにいるぅ!」
ハーゼはさらに叫ぶ。
「君の相手はあたしのはずだぁ!」
その叫びが乱戦の中を突き抜ける。しかし、その言葉が射抜くべき的が見当たらない。
そしてその異変が起きた。
桔姫はその動きを止める。その手を見つめると顔を綻ばせる。しかし次第にその顔が強張り始める。
「やりおったな!」
葛妃が叫ぶ。よく通る高らかな声で。
「何が起きたの?」
しかしハーゼも感じていた。桔姫はおずおずと頷く。
「他のどこかが、落とされました」
「なんで……」
周囲は黒坂衆に監視させている。特に両隣の要石は念のために厳重に警戒している。そのふたつに配置した黒坂衆からの連絡は無い。囲みを抜けたという連絡も無い。しかしそんなことはどうでも良かった。自分の相手たるべき夜都賀王がこの場にいない。ハーゼにとっては、それが一番の問題だった。
欺かれたのだ。夜都賀王に。
ハーゼの中に怒りよりも失望が、いや、絶望がこみ上げる。
「とにかくここは抑えないと」
「……既にここ以外を落としに向かっている可能性は?」
ハーゼの指摘に桔姫は戦慄する。その内容にではない、その声色に。何の抑揚も無い真平な、黒でもなく白でもなく、透明でもない、何の色か解らない、色。
「本部に連絡を……守りを固めて!」
桔姫はハンディカムにて連絡を取りながら、姉妹に指示を出す。玉座を中心に円陣を敷く。ハーゼは玉座のそばに俯いて佇む。
「夜……べっ……ない……ち……やっぱ……う、別……そう……ん……」
「ハーゼ様?」
「うん。大丈夫」
うなされる様に呟くハーゼに桔姫が声をかける。しかしそのときにはもう、ハーゼの声はいつもの明るさを取り戻していた。しかしサレットの奥に隠されたその目はうかがい知ることが出来ず、口元はまるで三日月に切り抜いた色紙のように、薄く張り付いていた。
「ハーゼさ……」
「元凶断つべし!」
桔姫の心配を遮る様に、ハーゼが叫ぶ。手にした細剣をまっすぐ前に突き出す。 その切っ先は、いつの間に現れたのか、先ほどとまでとは別の夜都賀王、本物の夜都賀王に向けられていた。
そしてその心臓を指し示していた。
「どんなペテンかは知らないけど、もう関係ないっ!」
まっすぐ突き進むハーゼ。迷い無く突進するその突きを、間一髪にかわす夜都賀王。
夜都賀王は戦慄した。もし石生界の『物理法則さえも無視できる』という秘密に気がついていなければ、今の突きは心臓を貫いていただろう。それほどまでにハーゼの殺意には迷いが無かった。そして迷いの無い意思は、石生界においては常識を凌駕してしまう。夜都賀王が30キロを1分で飛行してしまうように。
そしてそれすらも、序の口でしかない。
「夜都賀王! 君さえ消えればすべて丸く収まるのよぉ!」
ハーゼの攻撃は突きのみに特化し、特化するが故に苛烈を極めた。空間を夜都賀王を包み込むように飛び、突きを繰り出す。蝶の様に舞い、蜂の様に刺す、などと生易しいものではない。稲妻の如く駆け、雷撃の如く突き貫ける。
程なくして玉座の光が消える。奏上が終わったのだ。
「ハーゼ様!」
「夜都賀王をここで仕留める! 玉座はそれまで確保してぇ!」
玉座を押さえればここでの戦いは終わる。しかしハーゼはそれを選ばず、あくまで夜都賀王を倒すことを選んだ。そのことに夜都賀王は動揺する。五月雨の如く襲い掛かる突きを、身を捻りかわし、太刀でいなす。交差する細剣と太刀。鍔を競る様にしてふたりの顔が真直に迫る。
「君を殺して、べっくんと幸せになる!」
夜都賀王は混乱する。つまりハーゼ=兎萌は可彦と幸せになる為に夜都賀王を殺すという。
しかし夜都賀王は可彦なのだ。
「君さえいなければ、トムとジェリーですんでいたのに!」
捌き切れない。光の切っ先が朱を帯びる。倭文織の守りを貫き、浅いながらも夜都賀王の身を切り裂く。しかし痛みは全く感じない。頭の中に痛みが入ってくる余地が無い。痛みまで頭が回らない。ただハーゼの言葉だけが支配する。
「狼狽えないで! 夜都賀王!」
飽和した頭の僅かな隙間に、誰かの声が刺さり込む。
「自分を受け入れ、信念を貫きなさい!」
五月の声だった。
夜都賀王は玉座を見据える。そうだ、自分は戦いを終わらせるために、戦う。そう決めたじゃないか。
「もらったぁ!」
目を逸らした夜都賀王にハーゼの一撃が襲い掛かる。その刃は夜都賀王の鳩尾を深く深く貫き、その切っ先が背中から突き出る。
しかしそれは夜都賀王であり、夜都賀王ではなかった。いわばそれは数刻前の夜都賀王。いわばそれは夜都賀王の時の抜け殻。残像だった。
意志の力が光の壁を越え、夜都賀王を突き動かす。
「僕の勝ちだ」
次の瞬間に夜都賀王の姿は、すでに玉座の中にあった。
「知ったことかぁ!」
玉座に座る夜都賀王に向けて茨を伸ばし、怒りからか、執念からか、玉座の守りをも貫いて、その身体を玉座に縛り付ける。そしてそこに向け、切っ先を突き出すように、飛び込んでいく。辛うじて呪縛を逃れた左腕にて、引き剥がそうとするが茨の呪縛は破ることかなわず、その棘が全身に噛み付く。
太刀を何とか左手に持ち替えた夜都賀王は、向けられた細剣をなんとか受け止め、逸らそうと構える。鋼の擦れ合う音が火花と共に辺りに飛び散る。ほんの刹那、ほんの刹那が焦るほどに長い。
その音が何の音なのか夜都賀王には解らなかった。高く脳を揺さぶるような音。いきなり発せられたその音に、耳を覆いたい衝動に駆られるが、それでも何とか太刀を構え続ける。その太刀が、重い。
ハーゼの細剣は夜都賀王の顔を掠め、玉座の背もたれに突き刺さる。
夜都賀王の太刀はハーゼの細剣を逸らし、その切っ先は……
その切っ先は、ハーゼのサレットの隙間に滑り込み、その顔を貫いていた。
鳴り響く異様な音は、ハーゼの悲鳴。言葉にならない、声ならざる音が噴出し続ける。
サレットの隙間から、赤い涙が流れ落ち、ハーゼは後ろにのけぞりながら、落ちていく。
地面へと、落ちていく。
「これは……」
葛妃が呻きにも似た声で呟く。
「話が拗れやせんか?」
「そうかもしれませんが」
五月は頷く。
「相手の一番の戦力が削がれた形ともいえます」
「ふむ、しかし……」
「それに……」
五月は胸元から何かを取りだす。どこに入っていたのか、それは藁で出来た人形……文字通り藁人形だった。
「わらわにとっては好都合」
「なに? うぐっ……」
葛妃は胸を押さえて前のめりによろける。藁人形の胸には五寸釘が突き立てられていた。
「お屋敷に御泊め頂けたのはまさに僥倖。おかげさまで、葛妃様の御髪を手に入れるのも簡単でした」
五月は笑う。いつもより甲高い、凍て付く様な笑い。
「丑の刻とは参りませぬし、急造ゆえに呪詛は限られますが、効果はございましょう?」
「ががががががががが」
五寸釘を無造作にこね動かす。葛妃は身をそらせて痙攣させる。
「ここまで力が戻れば、もはや同盟は不要。あとはわらわの好きにさせていただきます」
「お、のれ、五月……」
「それは誰のことでしょう?」
五月はもう一度笑う。
その笑い声の中、動けぬ葛妃を一刀の元に切り捨てたのは脇に控えた五月の部下。力なく落ちていく葛妃。
その様子を見ながら、五月はその名を高らかに告げる。
「わらわは滝夜叉。大怨霊滝夜叉姫なり!」
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