幼い時

多川慶直

第1話

幼い時


君は幼い時を覚えていますか


ようやく一人で歩き始め

みんなが周りを囲み

君が無事に育ったことを喜び

君の可愛さを詠い

君の未来に期待していた時を


私の息子よと言う母親に抱かれ

自慢の息子と言う父に抱かれ

目に入れても痛くないと言う祖父に抱かれ

良い跡取りねと言う叔母に抱かれ

真綿でくるまれていた時を


母に手を引かれ公園に行き

初めて砂場に入り

恐る恐る滑り台を滑り

ようやく手が届いた鉄棒にぶら下がり

泣きながらぶらんこに乗った時を


その公園に母の目を盗み

一人で出かけ

自分以外の同じ子供に会い

いきなり殴られ

男の世界を初めて知らされた時を


何故かそこで芽生えた

男の友情は何となくうれしく

毎日二人で遊び

やがてお互いの家へ行き

おやつを食べた時を


訳も分からず一緒に遊び

同じ事をするのが友達だと信じ

公園に来ていた女の子を突き飛ばし

ひっくり返って上を向いた足の間から見えた

白いパンツに何となく胸がざわついた時を


それぞれの母親が子供を仲介に

何となくサ-クルが出来て

幼い紳士淑女が同じ集まりとなったが

将来お互い人生と恋のライバルとなり

争うことになるのを知らなかった時を


幼稚園へ行くことが当然の時代

歌をうたいフォ-クダンスを踊り

みんなで手をつなぎ

友達が増えたことが

無性に嬉しかった時を


しかしその裏で

仲の良かったサ-クルの

母親たちの顔がひきつり

目が刺すようになり

態度がお互いよそよそしくなった時を


毎日遊び歩き

遊べないと断られると次々と訪ね歩き

たくさん友達がいることを誇りに思いこみ

実はみんな塾へ通い空いていた奴らだけが

相手になっていただけだと知らなかった時を


小学校へ入学すると

殴られ女の子を突き飛ばし一緒に遊び

親友だと思っていたあいつが

大学まである私立の小学校へ

入学したことを知り愕然とした時を


おまけに突き飛ばした後仲良くなり

母親も含め家族ぐるみの付き合いをしていて

風呂も一緒に入り仲間と思っていた

あの子までがあいつと同じ学校へ

入学したことを知り茫然とした時を


母親は何かと口喧しくなり

勉強しろだの塾へ行けだの

騒ぐだけとなり

家の中では父親の姿を見ることはあまりなく

心の中がいがらっぽくなってきた時を


塾へ行くと言っては途中でさぼり

人並み以上の悪いことをし

たいして面白いこともなく

でも時々あいつとあの子のことが頭を過ぎり

何となく口元がゆがんだ時を


中学校ももうすぐというのに

成績も悪く

両親の仲も悪く

母親は出来の良い弟だけを

可愛がっていた時を


そんなただ通うだけだった塾で

一番の成績で一番きれいで

みんなの憧れで

自分では遥か天空の人のように思っていた

女の子に声をかけられた時を


君は本当はとても良くできると思うの

悪いことは止めて勉強したらと

聞いたこともない優しい声でいわれ

訳が分からずポカンとして

黙って顔を見つめていた時を


そして一寸はにかんだ顔をして

くるりと後ろを向き走っていった

その時スカートが舞い一瞬白いものが見え

昔の記憶がよみがえり

あいつとあの子の事が浮かんだ時を


次の日からひたすら塾通い

暫くして帰りがけ彼女はにっこり笑い

随分がんばったわねといわれ

お互い顔を見合わせ頷き

なんか胸が熱くなった時を


フリルのついた眩しい胸元に目がいき

思わずじっと見つめてしまうと

彼女がそのほっそりとした手で胸元をかくし

顔をほんのりと染めたのを見て

自分が取り戻せたような気がした時を


君は覚えていますか幼い時を

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幼い時 多川慶直 @keicyoku

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