第7話 強いと言うこと

 一か月後。

月曜の放課後、学校の屋上。

麟太郎は大の字で空を見上げていた。

澄み渡る青空。そよぐ風。グラウンドから漂う土の香り。

ハアハアと聴こえる浅い呼吸音。その呼吸とセッションしているかの様に

体育会系の部活でランニングをしているであろう掛け声が聞こえる。


「もうすぐ、夏真っ盛りだ!」

”もし。まだ終わってはおらんぞ。それに、まだ初夏が終わったところだ。

さあ、竹刀を拾え”

「もうちょっと…もうちょっとだけ待ってくれ…。ハァハァ」

”仕方のないやつだな。始めの頃と比べれば大分ましにはなったが…”

「そうだぞ。俺も大分強くなったろ?この力こぶを見てよ!」

右腕を曲げると出来た力こぶを左手でムニムニと触れた。

”ふん!吾の現役の頃はそんなもんじゃなかったわ”

「幕末の剣士と比べられてもなー。高々一か月の付け焼刃じゃ、いい方でしょ?」

”まあ、もうそろそろよかろう”

「それって…修行終了ってこと?切紙?目録?まさか免許皆伝ッ!?」

”な訳あるか!しかし、今ならお前の敵を倒すぐらい訳はないぞ”

「敵って…あの黒いのか?」

”いいや。あの黒いのと対峙する前に、済ましておかなければいけないことがある”

「そんな相手なんていたかなぁ?」

”いるさ。お前が意味もなく切腹することになった元凶がな”

「!!!」

”いじめにあっていたのだろ?今日もお昼のパンを腐ったパンと交換されていたじゃろうが?今は一心同体……いや、二心同体なのだからな、わからないとでも思うか?それとも、わからないふりをして欲しかったのか?”

「……そっ…そんなこと……」

”あいつが恐くて腐ったパンも捨てられずにカバンに入れたままだとか”

「そっ、そんなんじゃない!たっ、食べようと思って忘れていただけだ!」

”ふん。あんな腐ったパンを食べると言うのか?じゃあ、やってみろよ”

八郎は言って捨てたが、ブルブル震える麟太郎の身体から相手に対する恐怖を感じる。

”この程度でこれほどの恐怖を感じるとはな…。根が深い…”

「うるさい!!たっ食べるからな!!!」

麟太郎は置いてあったカバンから勢いよくパンを取り出し、包んであったラップを剥がし齧り付こうとした。が、この天気だ。元々腐っていた物がより傷んで物凄い臭いを発散していた。

「ゔっ…」

”冗談じゃない!こんな物食べて腹を壊して一緒に痛みを分かち合うなんてまっぴら御免だ!”

八郎は麟太郎が怯んだ隙に一瞬体を乗っ取るとパンを思いっきり放り投げた。

”無駄な力を使い使った。今の吾ではこれで精いっぱい……。しばらく眠るぞ……。だが一石二鳥とは、このことだ。これで全て片付いた……。あとは、お前の番だ。頑張って片付けてくれ”

「なっ、何を言ってる?腐ったパンを捨てたぐらいで!」

”ふん。もうすぐすればわかる。もうお前はそこら辺の誰よりも強いと言うことを”

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ぼくらの新選組! 新徴組清河八郎奇譚 野見宿禰 @uhati

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