体感する時間の違いを軸に描かれるSFです。しかし扱われているテーマは人が生きていく上で否応なしに体験せざるを得ない時間の流れであり、生の条件に本質的でありながら、むしろささやかなものとなっています。ある意味では全く違う物語であるにも関わらずロバート・ヤングの『たんぽぽ娘』を思い出しました。それはきっと、この小さな物語が、喪失と再会の物語でもあるからかもしれません。
体感時間と多元宇宙論をテーマにしたSF、面白く読みました。悲しく切ない設定ですが、最後に希望が残り、頑張ろうと思える前向きな読後感がよかったです。
未来があったからこその、大切な過去。それが揺らいだとき、人は平静ではいられない。『時間』をテーマにした興味深い意欲作。少しずつの時間をかけても、対岸にわたれたら。世界が変わって見えるかもしれない。希望と揺動に満ちた終幕。是非、最後まで読んでみてください。彼女が目覚め、元気になることを祈っています。