結び
深い霧のような雲に包まれた凪いだ海の上を、時雨に手を引かれながら飛ぶ。
前を行く時雨の顔は見えない。
「ねぇ、時雨。おれを見つけてくれてありがとう」
肩越しに時雨がこちらを少し振り返る。
けれど、虫の垂れ絹の影でその表情は見えなかった。
「セン」
「なに?」
「《時雨》ではありません」
羽毛の落ちるような穏やかな間が過ぎる。
緩やかに波打つ海と、市女笠の垂れ絹を風にはらませながら、前を行く時雨の背の他にはなにも見えない。
霧のとばりの向こうに大きな柱の影が映る。
「今日から《かか様》です」
やがてその影は大きな鳥居の姿を形作る。
点在する岩山に立ち並ぶ、門のあいだを飛ぶうちに、前方の霧が薄れていった。
白木の鳥居が出迎えるように見えてくる。
「ありがとう。かか様」
時雨と繋いだ手が、ぎゅっと握りしめられた。
「おかえり。セン」
やさしい雨 縹 イチロ @furacoco
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます