第20話 謎の老人

 さてと……。


 俺は、改めて残りの用を足していた。


 ふぅ、それにしても、いろんなアニマがいるもんだな……。そういや、ウルも初めに言っていたけど、アニマはほんとにランダムで構築されるみたいだし。まぁ、その人に合っているかは未だに謎だけど……。


 なんて、考えながら俺は用を足し終わり、後ろを振り向くと……


「うっわぁああ!!」


 びっくりしたぁ。


「って、次はなんでお前がいるんだよ!」


 そこには、ウルが立っていた。


「遅いから見に来きたの」


 小さな声で呟くウル。


「えっ、何か言った?」


「ううん。それより私に、隠すことなんてないんでしょ」


 と、笑顔で言うウル。

  

 その瞬間、俺はずっと用を足しているところを見られていたのかと思うと恥ずかしくなった。


「いや、そうだけど。こういうのはさ……違うっていうか!ってか男子トイレとか汚いからな!」


「アニマには関係ないわ。へぇ~。それよりミチノブ、いい歳して、見られたら恥ずかしいんだ~」


俺をからかうウル。


「はぁ!そりゃ、誰でもトイレしてるところまじまじと見られたら恥ずかしいに決まってるだろ!」


「アニマにはわからないなー」


 と、とぼけるウル。


 そうか……。と思い、俺は苦笑いをした。

 

「ってか、さっきここにキノコクンが来てさ、キノコクンに触れられたんだけどさ、パートナー以外のアニマはバトル中以外にも接触することが可能なら、バトル外でも人間に攻撃ができるんじゃないのか?」


「いいえ。それはないわ。バトル中以外は人間に対するアニマからの接触情報や痛覚情報のような神経的ダメージは最低限のものになっている。だから、人に甚大なる危害を与えることは絶対にないわ」


「なるほど、そりゃそうだよな。」


 どんな場合でも戦えるとお金をかけてバトルする意味がなくなるもんな……。


 そして、俺は手を洗い、トイレの扉を引く。


 その時、扉を引くと同時に一歩下がった俺の背中には程よく弾力のある、柔らかい何かが当たった。


 なっ。……なるほどな、こう言う接触情報……ね。ハハ。


 それは言うまでもなく、ウルのむっちりとした豊満な胸であった。


「あぁ、だから邪魔なのよ。この胸は……」


 と言いながら自身の立派な胸を鷲掴みにするウル。

  

 ……ウル、大丈夫。邪魔じゃないからと心で頷き、俺はトイレを後にした。





 ――母親の病室に戻る途中、俺は何気に窓の外を見て歩いていた。


「車の数の割に、院内が静寂なのがそんなに不思議かな」


 そう、俺の考えを見透かしたように前から現れた御老体が声をかけてきた。


 いや、御老体にしては、随分な風格だ。お金持ちなのか、権力者なのか。袴を着ているなんて、このじいさんはいったい何者なんだ。


 俺は立ち止まって答えた。


「あ、はい」


 同時に立ち止まり、外を見ながら話をつづける御老体。


「それはな、ペナルティを受けた患者がたくさん入ってきたからだ。そしてペナルティを受けたものは話せなくなる。つまり会話ができないから必然的に静かになるわけだ。勝利した君ならわかるだろ?」


 このじいさん。やけに詳しすぎる……。さっきから俺の考えていることを全てわかっているかのように話しかけてきやがる。


「ハッハッハ。私を珍しく思うかね」


「袴を着ていたもんで」 


 俺は、推測であるがじいさんの底知れない情報量の多さに実際驚き、珍しく思ったのであったが、そのことは素直に答えなかった。なぜなら安易に話をバトルの方向に持っていきたくなかったからだ。


「ミチノブ君、君は面白いな。安心しなさい。私は君とバトルをする気はないから。若い目を摘み取るのは老人のすることじゃないからね」


「あっ、それは良かったです。強そうですもんね」


 俺は、そう愛想笑いをしたあと、少し安堵する。


 てか、なんで俺の名前を……あっ、IDを見てか。


 あれ、そういえばこのじいさんの頭上にはIDと戦歴がない……。


「ハッハ。まだまだ、これからよ」


 と、そうじいさんが話した後、じいさんの頭上にはIDと戦歴が現れた。


 俺はじいさんの頭上の戦歴を見て驚く。


『ID:Gendo』 『戦歴:63戦63勝0敗』


「君は若いのによく何事も観察をしている。さぁ老人は、はよう寝ないとな」


そう、言い残し、ささくさと老人は俺を後にした。


「ミチノブ、 あの人……」


「あぁ、ただもんじゃないな」

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コンタクトAR 三上集 @mikamishu

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