第19話 優しさ

 消灯されているトイレ。


 うぅ……病院のトイレはなんか、気味悪いな。


 そして、俺はすかさず電気をつけ、用を足す。


 小便器で用を足している途中……クイッ。クイッ。とズボンの脹脛ふくらはぎの部分を二度何かに引っ張られる。


 えぇ……。うそだろ。で、でたのか。


 と、恐る恐る後ろを振り向くと……。


「うわっぁぁぁあぁあああああああああ」


 俺は、目を疑った。


 すると、そこには見たこともない、太く背の低い立派なバベルの塔が存在していたのだ。いや、よく見ると、それはどこかで見たキノコ頭だった。


「えっ……お前さっきのキノコやろうかよ!!」


「は、はい、すみません。驚かせてしまって」


「い、いや、いいんだけど。どうしたんだよ」


 俺は、キノコアニマの目線に合わせるように屈んだ。


「は、はい。多分、後であなた様のアニマからペナルティについてのお話があると思うのですが、私は後2日で『ペナルティ:AIAの喪失』により消えてしまいます」


 AIAの喪失……?


「おい、それって、もうお前が存在しなくなるってことなのか」


「は、はい、人間でいう死を意味します。あ、パートナは命を取られることがないので安心してください。……は、はい、それで、あなた様にお願いがありましてこちらに伺いました」


 ペナルティを受けるとアニマは消滅してしまうんだな……。


「う、うん。わかった。一応聞くよ」


「あ、ありがとうございます。さ、先ほども言いましたように、私はあと2日で消えてしまいます。そ、そうなれば、私のパートナであり、あなた様のお母様は、体も不自由なことから、きっと、退屈な時間ができ、いろいろと考えなさると思うのです。そ、そこでなんですが、息子のあなた様が、お母様が気に病まれないようにしっかりと支えてあげてほしいのです。わ、私が言うのもなんですけど……」


 驚いた……。

 

 この時、俺は率直に、目の前のただのアニマが人間を気遣う姿がおかしくて、笑みがこぼれた。


 そして、俺は愛嬌からキノコの頭に手を置こうとすると驚きながらキノコクンは怯える。


「ご、ごめんなさい!」


 しかし、俺はそのままキノコ頭に優しく手を置いた。


「お前、優しいんだな。そうだな。お前の言うとおり、今まで支えてもらってた分、俺がこれから支えないとな……」


 下を向くキノコクン。


「あ、ありがとうございます!ほ、本当に、あのお方は私が生まれた瞬間からこんな見た目にも関わらず私を人間のように扱ってくれました。そして、お父様とバトルになったときにも言われたのです「キノコクン、負けちゃうけどごめんね」って……私の説明不足で降参することになったのに、それなのに、私を気遣い、1度も責めたりはしませんでした。本当に、本当に、あのお方は、素晴らしい人間です。なのに、なのに、私は……」


 俺は、黙ってそのまま、キノコクンを持ち上げる。


 手足をじたばたと動かすキノコクン。


「あと2日ある。その間、精一杯お前が支えてやってくれ」 


 俺には笑顔でこう言うことしかできなかった……。


「は、はい」


 そうか、アニマはペナルティを受けると消えるんだな。それにしても感情のあるものが消えるっていうのは……なんだろうこの気持ちわ。


 そうして、床にちょこんと下りたキノコクンは、トイレの扉を開けて出て行った。


 俺はその後ろ姿を見て、素直に思った。


 ほんといろんな奴がいるんだな……アニマって。



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