第18話 親父

 コーヒーを親父に買ってもらい、自販機の前の椅子に座る俺は、冷静に親父に事の全てを聞くことにした。


「お母さんには、本当に取り返しのつかないことをしてしまった……」


 カコンッ、と響く缶コーヒーを開ける音。


「……あぁ、まず、そのことだけど、今日アップデートがされた後、俺はすぐに試しにお母さんとバトルをしたんだ。と言っても、興味本位で、実際に戦闘をする気はなかったから戦闘自体はしていない。……でも、絶対に決着をつけないと終わることができないとわかり、母さんはすぐに降参したんだ」


 俺は静かに聞き入っていた。


「そして、まさか、ペナルティでこんなことになるなんて、誰も思ってもいなかった……。お前が、実際にどこまで知っているかは、わからないが、ペナルティはとても酷なものだ」


「そうだったんだ……」


 俺は親父からそう聞いた後、別に取り乱さすこともなく、ただ仕方がないと、そう思うことしかできなかった。


 はぁ……つくづく、俺のこういう性格は冷たく感じるよ。


「俺も、さっきバトルになったからわかる……あれは、異常すぎる」


「お前、戦闘をしたのか?確かに戦歴が……」


 俺の頭上を見る親父。


「うん。本当に、俺もいきなり仕掛けられて、よくわからなかったんだけど……」


 と、その言葉を遮るように親父は前を見ながら口を開く。


「道信。俺が言えた事じゃないが、この短時間でわかったことをお前に一つだけ言っておく。このバトルをどうするかはお前の勝手だが、このバトルは人の人生を奪うことにもなるということだけは忘れるな。そして、ペナルティだけは受けないようにしなければならない」


 その、親父の瞳は今までに見たことがないほどに真剣であった。


「う、うん」


 そういや、昔から親父は、こうやって物事の本質を掴むのが早い……。それに、どんな状況も絶対にバカにしない……。なのに、なぜ、いつも先走って失敗するのかがわからなかった。


 カランッ。


 ゴミ箱から逸れる缶。


 ほら、こうやって、ゴミ箱に缶を投げて失敗したりだとか……。自分でゴミ箱に入れに行った方が早いってわかっているはずなのに。


 缶を拾い上げる親父。

 

「まぁ、でも俺にもまだいろいろよくわからない。母さんも治るかもしれないしな。……人生なんて何が起こるかわからないもんさ。このアップデートみたいにな。とにかく、今は笑って生きよう」


 と、そう言いながら親父は笑顔で缶をゴミ箱に入れた。


 俺もつられてにやけてしまう。

 

 いや、母さんをあんな目に合わせておいて、この親父は何を言っているんだ……。


 しかし、俺は親父のこういう甘くて前向きなところは嫌いじゃなかった。いい歳した大人が、若い奴の前で、無理にでも笑って諦めずに希望を語る姿は、俺にとって純粋にかっこよかったからだ。


 ん?ってか、さっきからウルが見当たらないな……。


「あ、親父。ちょっとトイレ行ってくるわ」


「あぁ。先に病室に戻ってる」


「わかった」


 そして、俺はウルを探すがてら、トイレに向かった。


 それにしても、夜の病院は薄気味悪いな……。


 俺はほんの少し真っ直ぐ歩いた後、曲がり角を右に曲がるとウルが壁にもたれかかっていた。


「うわっ!!!びっくりした……」


「話、終わったの?」


「あ、うん」


 こいつ、空気を読んで場所を離れていてくれたのか……。


「ウル、ありがとな。全然、側にいてくれてよかったのに……べつに隠すことなんてないからさ」


「べ、べつにいいのよ。じゃあ、今度から隣にいるからね!」


 少し頬を赤めるウル。


「あ、あぁ」

 

 図星だったか……。あれ、こういうのって、あえて言わないほうが良かったのかな。


「あ、そうだ。トイレってどこにあるかわかるか?」


 ウルは後ろを指差した。


「おぉ、こんな近いところにあったんだな」


「あっ、ミチノブ。病室でも言おうとしたんだけど、あとで話したいことがあるの」


 なんだろう……?


「あぁ、わかった。とりあえずトイレに行ってくるわ」


 と言い、俺はトイレに向かった。



 

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