第2話 小さな人間 ユカ
レオは人間が通らなくなったかつての道路を歩いていた。車がよく走っていたこの道路も今は廃車が転がり壊されたヒューマノイドが散らばっている。
「助けてください!」
その時、車の影から突然、一人の少女が駆け寄ってきた。歳は同じくらいだろう。
「ど、どうした!?」
「あ、私は『ユカ』と言います! 私の街が! ヒューマノイドに!」
その言葉を聞きレオは先を急いだ。ユカを抱えぐんぐんスピードを上げていく。そして辿り着いたのは『カプリ』という街だ。ヒューマノイド研究が盛んなこの街は今、廃墟の並ぶ街と化していた。
「ああっ皆・・・・・・」
遅かったようだ、この街の人間であろう死体が転がっている。ユカは駆け寄り、涙を流している。
「くそっ、誰が・・・・・・」
「おうおうおう!」
ガラの悪い男がズカズカと一つの家から出てくる。その後ろをヒューマノイドが着いてくると、横並びになりユカを挟んでレオの前に立つ。その男はレオと同じ、身体を一部機械化した半人機だ。
「まだ生き残りがいたか、この『ジェラシ』様の昇給の糧になれー!」
量産型ヒューマノイドが襲い掛かってくる。レオは小型レールガンでその一体を撃ち抜き。
「ユカ! こっちに来い!」
ユカはレオに駆け寄り後ろに隠れる、ヒューマノイドは小型レールガンに撃ちぬかれ、崩れていくが数は減らない。
「くそっ電池切れか!」
カチカチとトリガーを引くが反応がなくなり超電磁ブレードを抜くと襲いかかるヒューマノイドを斬りつつ後ろに下がる。
「キリがないな・・・・・・」
疲弊していくレオ、その身体に傷が増えていく。
「ぬうう! 手こずるな! やれ!」
ジェラシが叫ぶと止めと言わんばかりにヒューマノイドが一斉に襲いかかる。その時だ、黒い影が通ったと思えば目の前のヒューマノイドが一層され、スクラップにされていた。
「んな! お前は!」
ジェラシはその影を見て驚きの声を上げる。それはヌルだった。ヌルはゆっくりとレオに向き、じっと赤いレンズで覆われた目で見つめている。
「な、なんだよ・・・・・・」
じりじりと後ずさる、それでもヌルはじっと見つめ続け、レオの頬が一筋の汗が伝う。
「やい! てめえ確かヌルとか言ったな? 新参者が俺様の邪魔とはどういうことだ!」
ジェラシが怒鳴りつけるもヌルは微動だにせずレオを見つめている。
「俺様を無視するたぁ、いい度胸じゃねえか! やれ!」
ジェラシが言った途端、他のヒューマノイドが一斉にヌルに飛びかかる。
「こっちだ!」
それを見逃さずレオはユカを引っ張り民家の間に入り、逃げ出す。ヌルはヒューマノイドの攻撃が自身に降りかかろうとしたその時、一瞬で超電磁ブレードを振り、切断した。
「て、てめえ! 先輩だぞ俺様は!」
バラバラになったヒューマノイドの破片が散らばる中、ヌルはじっとジェラシを見た後――。
「あいつは俺の獲物だ」
そういい、レオを追いかけた。
「ちくしょー! なんだってんだ! 新型ヒューマノイドだか知らねえがな! 生意気なんだよ!」
ジェラシは地団駄を踏み悔しがる、人がいなくなった街にそれは響き渡り、家を揺らした。
――
「どこに行けばいい!?」
ユカを抱きかかえ走り続けるレオは言った。屋根に登り足を踏み込むたびに屋根が崩れ落ちる。その後ろをヌルが黙々と着いてくる、その速度は速く、このままでは追いつかれるだろう。
「ええと・・・・・・そうです! 私の父のラボに!」
「ラボ! どこに!」
「あっちです!」
ユカが指差す先に方向を変え、走りだす。ぐんぐんとそのラボが近づいていき、一件の古い建物に入ると扉を占めた。
「ええと、確か」
ラボに入るやいなやユカは何か機械を弄り始めた。ドン!とラボの鋼鉄の扉が叩かれ、形を変えたときだ。
「これだ!」
ユカが何かのボタンを押した。
「ぐああああ!?」
その途端、レオの身体に電流が走り、苦しみだす。
「ああっごめんなさい! これはその対ヒューマノイド防壁で・・・・・・」
もう一度ボタンを押し、オフにする、扉が叩かれる様子がなくなった、ヌルにも効いていたのだろう、もう気配がない。
「大丈夫だよ、よかった、助かった・・・・・・」
レオは安心した顔で壁にもたれかかる。ユカはコップに水を入れるとそれを差し出した。
「あ、あのありがとうございました」
レオは水を受け取ると飲み干す。
「助かったよ、君の家がラボでよかったよ」
ここでなら機械の修理に困らないだろう。
「ええ、父が遺してくれたラボで・・・・・・その、私なら少しは弄れますよ」
「そっか、じゃあ頼もうかな」
作業台に載せられ、ユカは遮光レンズを付け、足の外殻を外し、基盤を調べる。
「レオさんは半人機なんですよね・・・・・・? なのにどうして武装なんて、本来は障害のある人や病気の人の補助のためにあるのに」
「ダーティ博士って知ってる?」
その名を聞き、ユカは察した。
「もしかして立ち向かう気なんですか・・・・・・」
レオは頷く。
「あの人は・・・・・・危ないです・・・・・・」
「知っているよ」
「じゃあどうして」
「兄ちゃんを探すんだ」
「お兄さんですか・・・・・・」
「きっと生きてるからさ、それを確かめる為に、この身体を武装してもらったんだ」
点検が終わり、レオは起き上がる。
「僕は行かなきゃ、助かったよ」
「あの、これ――」
小さなチップを渡す、これは見覚えがある、転送装置だ。
「ここの位置を登録してあるんでいつでもここに戻ってこれます、その、あの、気をつけて下さい」
それを受け取り、腕に嵌め込むとニッコリと笑った。
「ありがとう、じゃあ、いってきます」
ドアを開ける、人の活気がなくなった風が吹き込み、それに対抗するように踏み出し、走りだした。
――
「あれがレオとか言う奴?」
「そうそう、ダーティ様に逆らうやつ」
二人の子供がモニターに移るレオの姿を見て言う。
「消しちゃう?」
「駄目だよ、ダーティ様は何も言ってないもん」
ヒューマノイドである彼らは主の命令なしでは動けない、ただモニターを眺めることだけが許されていた。
「私は彼の殺害を許されてますけどね」
そこにもう一人ヒューマノイドが現れる。
「なんだよ『ジュエル』嫌味なやつだなー」
子供ヒューマノイドが言うとジュエルは不敵に笑う。
「あなた達はその、まああれですしね、ワタクシが適切だっただけです」
ジュエルはそういうとどこかに消えた。子供のヒューマノイドはつまらなさそうにモニターを眺め続けた。
――
レオは暫く走り、曇り空が続く道路に着いた。かつて高速道路として活躍していたここはもはや車の一つも通っていない。
「遠いな、くそっ」
襲いかかるクーゲルパンツァーや飛行ドローンを撃ち落としつつ進むレオ。車並みの速度で走るレオの前に立ちはだかるヒューマノイドが一人見えた。
「追いついたぞー! また会ったなー!」
それはクラッシュだった。打ち鳴らした拳をレオ目掛けて振り下ろされる。
「くっ!」
かろうじて避けると小型レールガンを打ち込む。
「ぐあっ! やるなー!」
クラッシュは殴りかかってくる、レオは受け止めるも彼の怪力に何発も耐えられる気がしない衝撃を受けた。
「お前に構ってられないんだよ!」
「うるせえ! ダーティ様に逆らうなら死ねー!」
猪突猛進としか言いようのない突進、レオは避ける。クラッシュは棄てられた車に突っ込み、車をスクラップにする。
「うおおお!」
クラッシュは車を持ち上げレオ目掛けて投げる。鉄塊に等しいそれは機械化した身体でも十分にダメージが入るだろう。レオは超電磁ブレードを抜き切断、車は真っ二つに裂け道路に落ちる。
「くっそ!!」
レオはそのまま切り込むもクラッシュはガードすることもなく殴る。鉄の撃ちあう鈍い音。衝撃派が高速道路のポールを吹き飛ばし、地面に亀裂を走らせる。
「うっあっ!!」
レオは吹き飛ばされ、料金所に身体を叩きつけた。凄まじい衝撃がレオを襲い、ボディにダメージが入る。
「やるなっ! だがな! これで終わりだ!」
切断されコードが露出し漏電もしている左腕を気にもせず再び右腕を振りかざす。
「やめろ馬鹿者が」
クラッシュの背後に長身のヒューマノイドが現れたかと思えばひょいと片手で持ち上げられたではないか。
「離せ馬鹿何するんだ!」
ジタバタと暴れるも長身のヒューマノイドは微動だにしない。
「君がレオとかいう反逆者か・・・・・・馬鹿が世話になったな」
「お前は何者なんだ!」
「ワタクシはジュエル、ダーティ様をお護りする為に造られたヒューマノイドの一体、と言いましょうか」
深く礼をすると転送装置を起動し光に包まれると消えてしまった。
「うぐっ!」
ホッとしたのもつかの間、機械ボディの故障を痛覚を通じて知らされる。ヒューマノイドや半人機に使用されるエネルギー『サンルミネス』を生産する太陽光パネルが停止していないため活動は可能だが、能力が半減もしくはそれ以上だろう。
転送装置を使い、引き返すか悩んでいた時だ。小型ドローンが数機、レオの元に飛んできたと思えばたちまちレオを修理したではないか。
『よかった! 上手く機能してるみたいですね』
腕のモニターにユカが映る。どうやらユカが送った修理ドローンのようだ、修理を終えるとドローン達はユカの元へ帰還していく。
「ありがとう、助かったよ」
『せめてのお礼ですよ、でも、この先はダーティ博士の支配域です、ドローンを飛ばしても迎撃されると思います』
「そうか・・・・・・危なくなったら転送装置で帰る、と言うのもあるけどどうだろうね」
転送装置はこの時代のポピュラーなもので妨害する為の軍事装置も存在している。恐らく使うのは難しいだろう。
『どうにかして支配域の転送装置を使えるようにすれば問題ないと思います、ですけど・・・・・・』
「・・・・・・通信切るよ、ヒューマノイドが来た」
レオが来た方向に無数のヒューマノイドが見える。恐らくジュエルの命令だろう。レオは急ぎ先へ向かい、ダーティ博士の支配域である街へ向かった。そこは、天高くライトが照らされ、上空からの侵入に備えられ、あちこちが機械化された機械の街だった。
レオは作られた検問所を強引に突破し、街に入る。人間たちが怯えたように縮こまり、震えながら走り去るレオを見ている。その後をヒューマノイドたちは追いかけていき、銃を乱射し、建物のあちこちに当たることもあれば怯える人間の頭に当たり絶命させる。
「待ってろダーティ!」
レオは警備ロボやヒューマノイドを蹴散らしつつ、城へ向かう。ビルの巨大モニターに一人のヒューマノイドが映った。
『ようこそ反逆者くん!
黒いボディに大きな機械翼を携えたヒューマノイドが語りかける。
『追われているようだね反逆者くん、私としてもよく働く奴隷たちに被害が出ては困る、お前たち! もういいぞ!』
モニターのクロウがパンッと手を打つと警備ロボやヒューマノイドは追跡をピタッと止めた。その様子を見たレオは歩みを止め、電源が切れたように動かないヒューマノイドを見る。
『反逆者くん、君が来るべき場所はそこからでも見えるビルだ、そうだ、私が映っているだろう、そこだ』
「ご招待ってことか、いいだろう!」
レオは駈け出した。クロウの居るビルへ。人間たちはそのレオをじっと見ていたが、やがてヒューマノイドに連れられ労働場所へ連れて行かれた。
機械人間レオ 兎鬼 @Toki_scarlet
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