それは非現実

 案冴寮にった。

 玄関を開けた先に待ち構えていたのは幸来だった。

 

 「ちょっと話あるんだけど?」

 

 「なんだよ?」

 

 「・・・ここじゃなんだから、私の部屋きてよ・・・」

 

 「わかった」

 

 幸来ってよく絡んでくるよな・・・。そういや、過去にもあったな。

 俺が初めて脱走した帰り、楓さんの説教の後何故か幸来が近くにいた。何でそばにいるのか・・・。後で聞いてみるか。

 部屋に戻るとある人物が入り込んでいた。久だ。

 

 「お前は人の部屋で何をしている?」

 

 「いや。この部屋の居心地が良すぎてな~」

 

 「自分の部屋があるだろ?」

 

 「あの部屋は俺のイメージとは違うんだよな。なんて言うかなんか・・・」

 

 「そうゆうのは自分の部屋でやってくれ」

 

 俺は久をそのまま、部屋の外へおっぽりだした。その後自分の部屋を隈無く調べた。だが何も無かった。

 久が俺の部屋に来たって、宿題写して帰るだけだった。何もするはずがない・・・。

 着替えると、幸来の部屋に向かった。

 

 「はいるぞ」

 

 「おう。きたね」

 

 なんともいえない、普通の部屋。

 装飾や壁には女の子らしいのは、目に入ってもそらした。なんか幸来のイメージじゃない。そんなことは、初めてこの部屋に入った時に思った。

 

 「あんた、夜な夜な郁実ちゃんの部屋に行ってるでしょ?何してんの?」

 

 ズバッ!っとくるな。

 ストレートに話を切ってくるのは幸来らしい。だが・・・。

 

 「いや、あれはな・・・」

 

 普通は答えずらいもんだ。

 そもそも、高城がやってる事は全般的に秘密裏にやっていること。たまたま見つけたから、やらされている事ってのも秘密。守らなきゃ俺は、存在した記憶を全部消されて生きてても生きてなくなる・・・。みたいな・・・。

 

 「あんたが、郁実ちゃんに如何わしい行動をしてないか心配だわ」

 

 「安心しろ。それはしちゃいない」

 

 自信を持ってその言葉を言うと殴られそうになった。

 

 「あんたは、信用ならないわ・・・」

 

 突然攻撃が止み、そんな言葉が聞こえた。

 

 「なに?やいてんの?」

 

 その一言をストレートいうと、警戒も何もしていない俺の頬に幸来の右手グーパンが・・・。

 

 

 

 「大丈夫?」

 

 幸来の部屋を叩き出されて、発見してくれた楓さんが手当をしてくれた。本気になって殴ってきやがって。まぁ、あいつに突っかかった俺が悪いわけだ・・・。

 

 「でも、幸来の疑問も気になってるの。私も見た事あるから」

 

 楓さんにも見られていたのか・・・。

 怪しまれて当然だ。幸来にもあとで謝っておくか。

 

 「ほんと、すみません。高城とは何にもないんで」

 

 「そう」

 

 「詮索しないんですね」

 

 「する意味もないわよ。はい、おわり」

 

 「あざっす」

 

 「お風呂湧いてるから、今なら空いてるわよ」

 

 「わかりました」

 

 風呂に入って部屋に戻った。

 休みの日は見回りが強くなるため、外には余計出ずらいのだ。そのため、高城の仕事は平日に限られている。

 携帯の画面を検索ワードを変えながら眺めた。魔法使いなんてところからはなんにも出なかったが、不可思議な死体や行方不明なのどの検索ワードは少し引っかかった。それも全く関係ない所の話で、この町で起きていることは一つも話題にならないのだ。

 見つけてしまったところから全てが始まるわけだが、これは規模がでかい気がする。携帯をあのサイトのトップに。更新は見あたらず。俺は部屋の明かりを消してゆっくり眠りについた。

 

 

 ※

 

 

 週のはじめほどやる気が出ない週はない。だが、1年間仕込まれたこの体は勝手に動いてしまうのである。

 

 「そうか、朝食・・・」

 

 朝6時30分。

 今週の食事当番は俺になっていた。

 着替えを済ませ部屋を出ると眠そうに階段を降りていく久が見えた。追いかけるように、素早くその背後についた。

 

 「おう」

 

 「あぁあ・・・」

 

 「洗濯当番だったか?毎度はやいな」

 

 「俺この時間から入らないとスピードが遅いから・・・」

 

 こんな真面目な久が目の前にいると少し調子が狂うな。

 

 「じゃ、後で」

 

 顔を洗ってキッチンに向かう。

 さて何作るか?

 冷蔵庫を開けて眺めると卵、牛乳、ベーコン、バター、昨日の誰かのジャガイモらしきものを蒸して砕いたもの・・・。

 だいたい決まったな・・・。

 

 俺は、凝り性じゃない。いや、自分が好きなものになると凝りるが。それが他人の目の前にどう映ろうが、それが自分なのだ。

 食パンが下の棚に入ってたな・・・。

 下の棚を開けると食パンがあった。

 これをトースターで焼く。

 やき終わったら適当なサイズに斜めに切って上にベーコンと目玉焼き。隣にレンジで温めたジャガイモの余り。

 こんなもんか。

 

 続々と住人が集まっていく。

 そして、いつもの朝食が始まる。

 登校までの当たり前の時間を過ごして、時間通り案冴寮を出た。

 

 「あ、湊さん」

 

 みんなが出てった直後に、最後に出てきた高城に呼ばれた。

 

 「今日は、依頼がないので来なくても大丈夫です」


 「わかった」

 

 俺は学校の方を向いた。

 ん?

 何かが変だ・・・。

 

 周りを見渡すと、案冴寮の文字が反転していた。

 

 「よぉ、湊」

 

 「・・・ローラ」

 

 声がするほうを向くとローラがいた。

 

 「湊さん」

 

 俺の袖を掴んでくっつく高城。

 

 「一緒に連れてきてしまったか・・・。まぁ、いい」

 

 「何の用だよ?」

 

 「いや、黒いのが湊の向かう所にいるから止めに来た・・・」

 

 「はぁ?根拠は?」


 「この目で見た」

 

 「何でそんなとこにいる?」

 

 「さぁ?」

 

 「この人誰です?」

 

 高城のもっともな質問に答えた。

 あの記憶に出てきた関係者であることも告げた。

 

 「ローレラン・アヴァースさん。初めまして、高城郁実です」

 

 「私のことはローラでいいぞ。記憶操作の娘よ」

 

 「えっ?」

 

 「なんで、ローラが知ってる?」


 慌てふためく俺たち2人を見て笑い出す。

 

 「はははっ。しらないのも当然。実はあの人形を作ったのは、私なんじゃ」

 

 「人形?もしかして、高田清春さんですか?」

 

 「名前は知らんがそうじゃ。あれは、私の仲間が殺してしまったやつじゃ」

 

 「それって・・・」

 

 一瞬で察した。

 

 「ローラが、あのシーンを見せたのか?」

 

 「あぁ。まさか、そんな人間がおってそこに行くなんて予測しとらんかったがな」

 

 「じゃ、あの黒いのが・・・」

 

 「そう。私の仲間だ・・・」

 

 今、俺が向かう。おそらく学校付近に、その黒いのはいるだろう。

 ローラの仲間。つまり、魔法使いだ。

 

 「とりあえず、あの黒いのは湊を狙っとる」

 

 「なんで?」

 

 「わからん。だが、大きく関わってるのはお前さんかもな。郁実」

 

 「私・・・ですか?」

 

 「まぁ、そこをしばらく動かないことだな。私は、あいつを連れ戻さなきゃならない・・・」

 

 そう言うと、ローラは反転世界の外へ出て行った。

 高城と2人反転世界に取り残された。一応ここは安全だということがわかっていた。高城は俺の側で震えていた。

 

 「なぁ、高城」

 

 「湊さん」

 

 恐怖の顔を浮かべる高城。

 

 「あれだけ、首突っ込まないでくださいって言いましたよね・・・?」

 

 「俺は、嫌な感じがするみたいな話しか聞いてないが?」

 

 事実、それとは全く無関係のところからこの話が来ているわけだしな。

 

 「そうゆうのいいですから。

 本当に・・・怖いんです・・・」

 

 「何がだ?」

 

 「・・・えっ?」

 

 「「何の話?」みたいな顔されてもな・・・」

 

 「しますよ。何言ってるですか?」

 

 心配そうで泣きそうな顔を見て俺は微笑んでこういった。

 

 「大丈夫だ。なんか、そんな気がするんだ」

 

 うわ。俺の顔見えないけど多分気持ち悪いくらいいい笑顔で笑ってやがるぞ。

 何も言わずに高城はそのまま顔を伏せた。俺はそんな高城を見て、取り返しのつかないことをしたなんて後悔をし始めた。

 自分の趣味が他人を巻き込んでしまった様を見ると、流石に心が痛む。

 

 そうこうしているうちに、周りが溶け始めた・・・。

 

 「どうした?」

 

 周りを見てみると本物の世界が外側に見え始めていた。目に飛び込んできたのは、あの黒い服を着た人がいた。ものすごく傷ついて倒れている、ローラを片手で引きずっていた。

 こりゃ、前言撤回だな。どうにもならないわ。

 

 「とりあえず逃げるぞ」

 

 学校とは反対方向に高城の右手を握って走り出す。

 あの黒いのを初めて見た時の、あの感覚が蘇る。酷くおぞましい恐怖が腹の底から湧き上がってくるような・・・。

 それからはひたすら走った。どこに行くわけでもなくただ逃げ回った。

 そして、案冴寮からだいぶ離れた所で息が切れていた。俺はしっかりと高城の手を握ったままだった。高城もだいぶ疲れ、息は上がりきっていた。

 路地の壁にもたれかかって、倒れるように地面に尻がつく。

 あの空間が解かれてローラがあんな状況ってことは、だいぶ危ないということ。

 俺を狙う理由も全くわからない。なんで俺なんだ?狙うなら、俺の隣にいる記憶操作持ちの高城とかだろ?てか、まずい。狙われてるのが俺なら、高城を巻き込んだことになる。

 

 「はぁ・・・はぁ、わりぃ。高城・・・」

 

 ぼそっと言うと、高城は無反応。

 高城の顔を見ると苦しそうだった。

 俺も、頭がぼっとし始めていた。

 やがて、目の前が真っ暗に・・・

 

 

 ※

 

 

 周りに明かりはなく、月明かりが照らす所に俺は目を覚ました。携帯がポッケにあったので時間だけ確認すると04:28と書いてあった。日付は記憶のある次の日になっていた。

 体を起こすと、ベットとなりでイビキをかいたマヌケ顔の久がいた。周りを見渡すと、自分の部屋だと認識できた。こういった状況を前に見た気がする。高城と初めて会った日だ。だか、今回はまるまる記憶がある。あの黒いのに追われる記憶・・・。いや、奴は追っかけてきたのか?にしても疲れた。走り続けてたからか、俺はそっと体を寝かした。

 

 朝日に起こされた。時計が夜よりはっきり見える。06:38:06のデジダル時計。

 

 「起きた?」

 

 その声は楓さんだった。

 

 「はい。・・・いって」

 

 体を起こすと、激しい痛みに襲われた。夜には感じなかった痛みだ。

 

 「だめよ。寝てなさい」

 

 楓さんに体を寝かされた。

 

 「すごいボロボロで、ひさくんが連れてきた時は何かと思ったわ」

 

 「どこで見つけたって言ってました?」

 

 「詳しい話は聞いてないけど、湊くんも、郁実ちゃんも両方背負ってきたのよ」

 

 後で礼を言わなきゃな。あいつ、一晩中付いててくれたしな。

 

 「今日は学校をお休みして寝てなさい。郁実ちゃんにも同じように言っとくわ。帰ったら話を聞かせてもらうわね・・・」

 

 そう言うと、楓さんは部屋を出ていった。俺は体を起こしたが、激痛ですぐ元の体制に戻した。体を捻ることぐらいわできるみたいで、窓側に体を倒して携帯を眺めた。

 昨日の出来事はもちろんニュースになってるわけでもなかった。メールが一通来ており確認すると俺が起きる10分前に高城発送のメールが来ていた。

 内容は、

 

 私の部屋にローラがいます。

 

 だった。

 大声を出しそうになった自分の口を自分で抑えた。

 

 みんなが出てったらい・・・

 

 行くって返事を書こうとしたがこの体ではいけそうにない。

 

 みんなが出てったら俺の部屋に来てくれ

 

 そう書いて送信した。

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高城郁実の記憶操作 陵 陵 (みささぎ りょう) @ryomisasagi

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