本物と偽物
昨日あんなことのあった次の日。
いつも机に向かって授業していない俺は余計にそんなものに手が付けられない状態にあった。
宿題を授業中にこなしている自分はどこかに消え、今となっては昨日の実体が真実なのかどうかを探す旅人になってしまっていた。ネットの世界っていうのはどこにでも情報が転がっているもんだ。だが、高田清春なんて人間がどうこうなったなんてニュースはどこにも転がってない。
円陣についても調べた。Yの時に広げるってことはダヴィンチのなんかかと思ったがそんなのも関係なく。
最後にどうも引っかかる。このタイミングであの依頼に、このサイトの「魔法使いのアジト」。
ちなみに詳細は、こう。
最初に書かれていた、存在しない道。この道の先にある所に、魔法使いのアジトがある。光指す場所に魔法の結界を貼り、普通の人間には通れないし見れないようになっているとか。探すものと見つけてしまったものは、悪魔召喚の生贄にされるそうだ・・・。
ということが、書かれている。
このサイトはやはり何か絡んでいるようにしか思えないんだよな。なんたって、前の人食の警官の事もあるし。どうも、見られてるようにしか・・・。
「阿佐ヶ谷!!」
教卓から怒鳴る声が聞こえたので、ぱっとそっちを見ると、郷田先生。
怒鳴りと共にチャイムがなったおかげか、なんとなく助かった感じである。
4限目が終わって昼ごはんになった。
食堂に飲食を買いに行った帰り、高城らしき後ろ姿を見かけて追いかけた。理科室に入っていくのが見え、そこに入った。
凄くにこやかにパンを見つめながら・・・
「って、湊さん!!」
入ってきた俺に気づき驚く。
「確か、限定のパンだったか?」
「ええ、そうです。海の幸をふんだんに盛り合わせて挟んだサンドウィッチ。「海海」。20個限定何ですけど、予約制でやっと取れて・・・。って、あげませんからね。絶対」
パンの封を開けながら嬉しそうに話す高城。なるほど、あんなもん見せたら教室の連中は寄ってたかるからな。
なんでだろ?ナオちゃんの顔しか見えてこない。
「とりゃしないよ。食ってな」
俺は自分で買ったクリームパンとコーヒー牛乳紙パックを机に広げた。
クリームパンをかじりながら高城の方を見ると、何とも可愛らしい無邪気な笑顔でモグモグと小動物のようにパンをほうばる姿が見えた。
こう見てると、普通に可愛いな。まぁ、普通の男なら落ちるだろうが。生憎と俺は、都市伝説にしか興味の無い荒んでるやつだから。女なんかより情報の方が欲しいわけだ。
携帯を広げてあのサイトを見る。
あれ以降更新はなさそうだ。
魔法使いのアジトのページを開いて考え事をする。
昔見た存在しない道に繋がるところが、魔法使いのアジトになると。調べたことがある。ただの壁に光がさして道に見えるだけだった。ても触れたが影が映るだけだった。ただの壁だ。
少しづつ興味が湧いてくる。今日行くか。いや、休みの日にしか行けないな。14時くらいにその光が入る。平日は学校があって行けないな。
ジュコーーー。
あぁ。コーヒー牛乳なくなったか。
「湊さん」
高城の声がしてそっちを向くと、俺の方を見て真っ直ぐな目をしていた。
「・・・どうした?」
真剣な表情に、ちょっとビビる。
「昨日のこと、あんまり掘り返さない方がいいと思います」
「どうして・・・」
「解らないですけど、なんか・・・嫌な感じがします」
なんか、怖がってるか?
「もしかして、麻生さんと同じようになるとか考えてるのか?」
そう言うと、高城は静かに頷く。
最終的にどうなるかわかってるみたいに見えた。
確かに、麻生さんの時も殺人みたいなのが起きてるのを本人から聞いた。でもそんな情報はネットやニュースでも聴いたことがない。
まさかとは思うけど、何らかの力でこれらの情報が潰されてるのでは・・・。流石に考えすぎだ。漫画じゃあるまいし。でも、その可能性は捨てきれそうにないな。
「こうゆう体験は、今回が初めてですが。似たような感覚はあるので、注意した方がいいと思います」
「わかった」
「わかってないですよね?」
その返答が即答だったのが怖い。
高城は、俺を理解している。俺の記憶を一回覗いただけはある。
「わかってるって。」
チャイムがなると逃げるように理科室を飛び出した。とんでもない鋭さをしてるな。高城のやつ。
にしても、どうも裏があるな。やっぱ調べるしかない。こんなでかい山登らない理由がないからな。
※
次の休みの日。
昼に出かけて、中央区まで自転車を飛ばした。
ちなみに、案冴寮および石山治高校は西区に存在している。
5方向に区分されているこの町は、学校が中高合わせて21の学校がある。
そして、今ビルが見えてきた中央区に5つの学校が存在する。「存在しない道」があるビルの近くには、中央区東に位置している尊造名高校〈そんぞうめい〉がある。
そう。ここだ。
男子寮と女子寮を挟んだ場所に、「存在しない道」の光が指す。携帯を見ると14時12分。たしか。あと、2分くらいか。日が少しづつ下がっていく。そして、影が見えた時。俺は光を避けるように、体を日陰に追いやった。綺麗に縦のラインに入った光が壁にあたり、奥行に影ができて道に見えた。これが「存在しない道」の正体なわけだが。
光が指しているところを手に当てる。影ができる。やはり壁。そして触れる。これは壁であることを確認すると、やっぱこのオチかと顔がにやけてしまった。
「帰るか」
そう呟いて振り返ると影が。
目の前には黒い服を身にまとった人。
こっちを見ているのか分からないが、俺は恐怖を覚えた。
黒服のやつが1歩踏み出した時、危ないと察知した。後ろに1歩引くと、後ろに思いっきり引っ張られた。
「なんだ?」
俺の手を見ると手が俺を引っ張っている。その手の主を見ようと振り返ると、壁から手が生え壁に引きずりこもうとしていた。
やべ、壁にあたる。
一瞬目を瞑って、目を開けると。
ビルの隙間が見えた。
「いやはや、危なかったねー」
声が聞こえた方を見ると、ボロボロの白マントに白髪の長い髪をなびかせて白いとんがり長帽子を被る小さな女の子が目に入った。
「君が助けてくれたの?」
周りを見るとさっきと同じ位置にいるように思えた。
「そうじゃ、おぬし名前は?」
ん?おぬし?いつの時代の言葉だ?
「阿佐ヶ谷 湊だ。でっ、あんた誰だ?」
「私か?私は、ローレラン・アヴァース。魔法使いをしとる」
サラッと変な事言われた気がする。
「え?よく聞こえなかった。もう一度行ってくれ?」
聞こえていたのにもう一度聞きなおそうとする。
「私はローレラン・アヴァース。魔法使いじゃ」
「んなわけないだろ!?」
都市伝説は信じているしあってほしいと願いっている。それを調べるのが俺の趣味だ。でも、高城が記憶操作を仕事にするという都市伝説の事実を実際に会ってしまった時半分戸惑ってた。こんなんがあっていいのかよ?って。
だから、魔法使いのアジトに魔法使いがいるなんて本物の事実が俺の目の前にいてものすごく混乱しているわけだ。
常に矛盾との対峙だ。
俺はあって欲しいと調べる反面あってはならないと思いっている。この動揺はこうゆうことを指していると思う。
「じゃ、おぬし。阿佐ヶ谷 湊よ」
「・・・はぁ、湊でいい」
「じゃ、湊。周りを見ろ。ここはどこだ?」
「はぁ?さっきの場所だろ?」
周りを見渡して見るとなにか違和感を感じながら・・・。
「じゃ、少し歩くか・・・」
ローレランの後ろをついて歩いていくと、道路標識が見えた。ここに道路標識は・・・。ん?文字が何かおかしい。反転している・・・。
「何なんだここは?」
その道路標識を見て思ったことを口に出すとローレランが答えた。
「ここは、反転世界じゃ。魔法で作られた空間よ」
またしても、不思議体験を目のあたりにした俺は絶句。
やべー。何も言えねぇ。
「この中は、一応安全じゃ。私の作った結界があるからの。って、大丈夫か?」
放心状態の俺を見てかけてくれた言葉に、我に返る俺。今すぐにでも、色々な疑問をこいつに叩きつけたいところだが。まずは、
「あの黒いのはなんだったんだ?」
「あの黒いの?あぁ、君を襲おうとした奴か?」
「そうだ」
あの存在からだ。
「んー。なんて言えばいいかの。私との敵対関係?んー。違うな・・・」
一人で言い迷っていると閃いたような顔をしてドヤ顔で言った。
「私は本物で、あいつは偽物だ」
「言ってる意味がよくわからない」
即答で能無し回答をした。その後ちゃんとした説明を話し出す。
「魔法使いってのは2種類いてな。人類ひいては世界のために何とかしようとする良き魔法使いと、災厄をもたらし人類ひいては世界を壊して新しくしようとする2種類の魔法使いがおる。
その中でも、私は正義の魔法使い。本物の魔法使いというわけだ」
「なるほど」
「恐らくやつは、君を排除しようとしているな。ちと、首を突っ込見すぎたかもな・・・」
「えっ、」
「まぁ、暫くここにいたまえ。少しは安全だと思うぞ」
そうなのか。とりあえず、そうしたほうが良さそうだ。
この空間を少し歩いていると、一つの疑問が浮かんできた。
反転世界とかいったか?多分光の屈折とかああゆうのを利用して魔法を使っている・・・。いや、そもそも魔法なんてあるのか?
「なー、ローレラン」
「ローラでいい」
「じゃ、ローラ。俺の目の前で魔法を見せてくれないか?」
「どんなのがご所望だい?」
「いや、なんだでもいいんだが」
「じゃ、壁から人形を作ろう」
そう言うと、壁に何やら円を書きその周りと中身に不思議な文字?のようなものを書き出す。にしても早い。
「_______________」
なんて言ってるかわからないが、陣の真ん中に手を置いて何か言っている。やがて、壁が動き出す。みるみる人の形にくり抜かれ、二足歩行で立っていた。ブロック状のカクカクした形状の人間型。
「あぁ」
なんて言っていいかわからない。かなり放心状態。
やがて、ブロックが崩れる。壁にはその方にくり抜かれた、あとだけが残っていた。
「持続時間設定を忘れていたな。たがどうじゃ?これが魔法の力じゃ。・・・って、またか。おい!寝てるんじゃない」
俺の足元が熱い・・・。と、下を見ると火が。地面が溶けて始めてやがる。
「うぁ!」
「おぉ。帰ってきたか」
「何するんだよ」
「放心しとったんでな。つい」
「めっちゃ驚いただけだ。わりーかよ」
「黙っとるとわからんのじ。ちっとは、感想とかないのか?」
「すげー」
自分が見とことない世界が広がっている。魔法というものを見て混乱しているだけ。
「消し飛ばしてやろうか?」
「怖っ」
「もういいだろ、そろそろやつもいないと思う。元いた位置から君を返そう」
まぁ、そうゆうことが起きた。
目の前で起こること全てがファンタスティックだった。
「ローラは何でこんなとこにいるんだ?」
元いたところに来た時に、その質問を投げた。
「・・・仲間をな。連れ戻しに来たんだ・・・」
「そうか」
「それ以上聞かないのか?」
「まぁ、複数人魔法使いがいるってことだけ頭に入れとくわ」
帰る方法は壁に向かって勢いよく向かうだけだそうだ。そこに走って飛び込んだ。
目を開くとそこは、元いたところ。
反転世界ではすべて逆さだったから、まっすぐ出た後自転車を案冴寮と逆向きの方を向いて「違う」と言いながらハンドルで方向転換。
案冴寮へと自転車を走り出す。
俺はまた一つ、とんでもないものを見てしまった。
魔法使いという、本物を・・・。
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