正座の方法
南枯添一
第1話
〈ジャコメッテイ〉は道の真ん中に突っ立って空を見上げていた。かざした傘が破れないのが不思議なくらいの大雨が、辺り一面に飛沫をぶちまける、そんな中だった。
とうとう、いかれちまったんだな、こいつ。
俺はそう思った。奴が大学を中退したのが7年前。それ以来、何処で何をしてたんだか知らないが、結局はいかれちまったわけだ。考えてみれば、学生時代からおかしな奴だったが。
まあ、いい。最初から話そう。
その日、俺は昼前にパンを買いに部屋を出た。アパートのドアを開けた瞬間にうんざりはしてた。片持ち廊下の床が川みたいだったからだ。前には開いてるが、一応屋根は付いてるんだぜ。それでも、諦めて部屋に戻らなかったのは、誰に文句を言える筋合いでもない、生まれついての因果な性分のおかげだ。
雨の中では傘はもちろん、ゴアテックスのマウンテンパーカーさえ役に立たなかった。5分と歩かないうちに、ブーツの中で足がガボガボ音を発てた。道路は廊下同様に川面みたいで、パチンコ玉ほどのサイズの雨粒が散弾よろしくその上に降り注いで盛大に水煙を上げる。まるで煮えくりかえる鍋の中にいるようだった。
それでもなんとか、あきれ顔の店主からバタールを買い、まだ暖かいそれをパーカーの内側に押し込んで、自分にうんざりしながら、帰り道を急いだ。けれど、角のたばこ屋を回ったところで、俺はたたらを踏んだ。視界は利かなかったが、この雨の中、傘も差さずに道の真ん中に突っ立てるバカは見えた。そいつに突き当たりそうになったのだ。
こんなのと関わり合いになってたまるか。
そう思って、回り込もうとした足がふと止まった。雨がまるでシャワーであるかのように天を仰いでいるそいつの、頬の痩けた顔に見覚えがあったからだ。
それが〈ジャコメッテイ〉の横顔だった。
〈ジャコメッテイ〉はもちろん、俺が勝手にそう呼んでただけのことだ。日頃何を食ってるんだと思うほど、がりがりに痩せて、色は真っ黒。始めて見かけたとき、アルベルト・ジャコメッテイの彫刻が歩いてら、とかなり本気で思っての命名だ。本当の名は
恐ろしいことに、奈倉は学生時代より更に痩せていた。
「よお」
後になって考えてみれば、声なんか掛けなくてもよかったんだが、これも因果な性分って奴だろう。気がつくと、俺は声を掛けてた。
俺の声が聞こえなかったのかと思うほどの間があってから、奈倉はひとつ瞬きをした。科学もののドキュメンタリーで開花の瞬間なんかを捕えた微速度撮影のフィルムってあるだろ。まるで、その類いを見ているような気分になるほどの緩慢な仕草だった。奴はその緩慢さのまま、首を巡らせて、目の焦点を俺にあわせるのにさえ、うんざりするくらい時間を掛けた。
「ああ。
奴が大学を離れて以来、十年近く会わなかったんだぜ。奈倉の調子だと、俺たちは会社の同僚かなんかで、昨日も夕方に「また」とか言って別れたみたいだった。
「何をしてる?」
「こっちの台詞だ。おまえこそ何してる?」
「何?ああ。空を見てた」
俺もつられて、どす黒い雲を見上げた。傘で防ぎきれない雨粒が、頬や額にばしばし当たった。
「空を見るのに相応しい天気じゃねぇ気がするぞ」
「かもな」
奴は笑った。
俺は思い出した。始めて、奈倉が笑うのを見たときのことを、だ。
ホントに彫刻みたいな男で、笑う以前に表情を持ってないンじゃないかと思ってたから、あのときは驚いた。けれど、それだけじゃなかった。奴が笑っただけで、いきなり空気が変わったからだ。そして、それは今も変わらなかった。
結局、俺はずぶ濡れの奴を部屋に連れ帰り、裸にひん剥いて、乾いたタオルと暖めたミルクを押し付けた。奴は素直にそれを受け取って、プログラミングの教則本と、タワー型パソコンの筐体の隙間に腰を下ろした。俺の方はベランダとは名ばかりの窓框に腰を下ろして、降りしきる雨と、思い出したようにミルクを啜っている奈倉を交互に見ていた。
奴との付き合いが始まったのは俺がまだ大学の2回生だった頃、奈倉の方から、声を掛けてきたんだ。その日、〈経済学〉の講師が遅れて、俺はトマス・アクィナスを読んでいた。
「神学に興味があるのか?」
「そうでもない」
俺はそう答えて、机の前に立った〈ジャコメッテイ〉の顔を見上げた。ホントに矢内原伊作の肖像画と一緒に展示されててもおかしくないような顔だった。彫刻氏は手垢ですり切れてタイトルも定かじゃない文庫本を手にしていた。俺はそれを見た。噂で俺はそれが〈正法眼蔵〉だと知っていた。
「坊主に興味があるのか?」
「そうでもない」
奴はそう答えて、ふと笑った。俺は腰を抜かしそうになった。実際、腰を下ろしてなければ、尻餅くらいついたかも知れない。それくらい、奈倉の微笑みは魅力的だった。あまりにも無邪気で人なつっこく、鉄の心でも融かしてしまいそうだった。それまでの鋭い目付きとはギャップがありすぎた。
奈倉とはそれ以来、会えば挨拶くらいは交わす仲になった。ときには議論もした。奴はしきりに〈悟り〉と言うようなことを話した。言っとくがバカにはしなかった。興味はなかったがね。アクィナスの所為で俺のことを少し誤解していた奈倉は、天上だの神様だの、そんなことに俺が何の関心も持っていないことがよく分かっていなかったのだ。
けれど、そんな関係は長続きしなかった。その年の暮れ辺りから、奈倉の周りには妙な取り巻きが現れ始めたからだ。そいつらはいろんな学部の生徒で、ときには学生以外も混じっていた。学部や年齢だけでなく、見てくれも様々だったが、どいつもこいつもどこか、妙に生真面目そうな雰囲気が共通していて、奈倉の一言半句さえ聞き逃すまいとばかりに、奴のことを見つめるのが常だった。おまけに、奴の後を追って何処にでも現れた。
その数はドンドン膨れあがり、終いにはバーゲンセールの売り場みたいになって、挨拶どころか、近づくこともできなくなった。別に近づきたいような理由があったわけじゃないから、それはいいんだが。
こうなるとさすがに、大学の管理部も黙ちゃいない。何度か呼び出されたあげく、唐突に、奈倉は大学を辞めた。
それを聞いてどう思ったか、なんて訊かれても困る。辞めたこと自体、かなり後になってから噂で知ったんだ。奈倉と俺との付き合いがどの程度のものだったか、それで分かるだろう。噂には、奈倉が何とか言う教団を作って、その教祖様に収まったらしい、なんておまけも付いてたが、俺は「へー」で済ませて、5分で忘れた。
以来7年間、思い出したこともなかった男を雨ン中で拾うことになったわけだ。因縁って奴かも知れないが、そういや、あんまりいい意味では使わない言葉だよな。
「チェーザレ・パヴェーゼに吉行淳之介」奈倉は床に投げ出してある文庫を漁っていた。
「これはヒョードル・ソログープか。ロジャー・ゼラズニイね。ウィルキィ・コリンズとアロイジウス・ベルトラン。相変わらず、乱読だな。スラディックって誰だ?」
俺はそれには答えなかった。ジョン・スラディックくらい知ってろ。代わりに、
「教団はどうした?」
「うん?うまくいってるはずだよ」
さしたる興味もなさそうに〈ジャコメッテイ〉は答えた。
「おまえなしで、うまくいくのかよ」
「あんなもの、どうでもいいんだ」ホントにそう思ってる口調だった。
「そうかよ。で、悟りの方は得られたのか?」
「ああ」
あんまりあっさりした口調だったので、俺は驚いた。
「へ?」
「ああ」奴はうなずいて。「悟りを得ること自体はそんなに難しいことじゃないんだ。修行らしい修行をしたことない人でも、大病や身内の不幸を切っ掛けに、得てしまうことはよくある。ただ、」
奈倉は遠くを見る目付きになった。
「持続ができないんだ」
「持続?」
「一旦得られた悟りも長くは続かない。普通はほんの数日で雪のように消えてしまう。その日は、世界の全てが手に取るように解っていたのに、次の日にはさっぱり理解できない。どうしてなんだろうな」
奈倉は特に口調を変えるでもなく、淡々と話した。どうしてだかは知らないが、それなのに苦悩って奴が伝わってきた。奈倉はそのことで心底苦しんでるらしい。教祖様なんかやってると色々あるんだろう、ご苦労なことだ。
「まるで一定の時間を過ぎれば、失せてしまう仕組みがあるみたいだ。どうすれば、それを回避できるんだろう」
「未来日付でも入れてみるんだな」
俺はほとんど条件反射で答えた。大学を出て直ぐに勤めたソフトハウスをケンカして辞めて、フリーのプログラマとして働き出した頃のことで、当時はそんな手口で、ソフト代を誤魔化すなんてことが日常的に行われてたんだ。
「未来日付?」
「かれこれの時間が過ぎれば使えなくなる。そんな仕組みがあるって言うんだろう。ソフトウェアの世界でも似たようなモンがある。試用品って奴だ。一ヶ月の間は無料で使えます。使ってみて、気に入ったなら、プロダクトキーを買って下さい。キーを入力すれば何時までも使えます。そうしないと、一月過ぎたら使えなくなりますよってな」
「それで未来日付というのは」
「だから、無料期間が過ぎたら使えなくする仕組みがどうなってるか、だ。仮にプログラムが自分がインストールされた日付を覚えてて、それプラス三〇日で日付を算出して、その日が来たなら使えなくする仕組み、使用停止ロジックを発動するとしたら、どうする?どうやれば発動を回避できる?」
「……」
「インストールするとき、コンピュータの日付を未来に、例えば百年後にしておく。ソフトウェアはバカ正直に百年後プラス三〇日で、使用停止ロジックの発動日を設定する。そうすれば、少なくとも百年間は使用停止ロジックは発動されない。せこい手口だろ」
奈倉は何も言わずに俺の顔を見ていた。目の焦点が合ってないことに俺は気付いた。どうしたんだ、こいつ。
しばらくして、ようやく我に返ったらしく、
「人の精神はコンピュータとは違う」
「当たり前のことを大まじめに言うな。だが、俺にはおまえの言う悟りがパッチみたいなモンに思える」
「パッチ?」
「人間の精神ってバグだらけだろう。そのバグをフィックスするためのパッチさ」
「だから、パッチって」
「そこから分かんないのか。元々は継ぎ布とか当て布とかの意味のある言葉で、差分プログラムを意味する、ンじゃなかったかな。コンピュータのプログラムにバグ……も分かンないか、欠陥って意味だ。そのバグがあったりとか、一部の機能だけを更新したいときに、プログラム全体を再インストールするんじゃなくて、差分、つまり変わった部分だけを送って、そこだけ差し替えるようなことをする。その差分のことをパッチって言うんだ。パッチを当てる、なんて言う」
「なるほど」
「人に世界が理解できないのは、人間の精神にあるバグが原因だとする。なら、悟りって言うのはそのバグをフィック……修正するためのパッチだと考えてもいいだろ。パッチが利いてる間は精神は完全に機能するから、世界が手に取るように判るわけだ。ところがこのパッチには、なぜだか使用期限があるらしい。おまえの言い分だと」
「……」
俺が適当に話すうち、奈倉の目付きは益々は怪しくなった。俺の方は洒落のつもりだったから、ケツの穴が痒くなってきた。
「おい。どうした?」
「帰る」
奴は唐突にそう言い、立ち上がった。タオルが足下に落ちた。俺は窓の外を見た。有り難いことでいいんだろう、雨は小降りになっていた。
奈倉とはコインランドリーで別れた。ガスドライヤーにぶち込んで乾かした衣類に、奴は無造作に、その場で裸になって着替えた。客は俺たちしかいなかったが、百人いても同じだったろうと思う。
最後になって、奈倉は俺の両手を自分の手でくるむように掴んで、更に目をのぞき込んだ。
「ありがとう」間があって、「本当にありがとう」
「頭がおかしいのかよ。そこまで、言われることは……」
「してくれた。おまえはしてくれた」
奴はあまりにも大まじめだった。気味が悪くなかったと言えば、嘘になる。もっとも、また降り出した小雨の中を部屋に帰り着いた頃には〈ジャコメッテイ〉のことなんかすっかり忘れていた。
けれども、今度は忘れっぱなしとはいかなかった。俺の方で思い出したわけじゃないが。数年経った頃から、ニュースで奈倉の色くれの悪い顔をたまに見かけるようになったからだ。例えば、サンピエトロで法王とどうとか、こうとか。変な気分だったことは認める。自分の知り合いがそんな風に扱われてるのは。幾ら二度と会うことなんかない相手だったとしても。
そう思うのが当然だよな。サンピエトロだぜ。また会う日なんざ、来るはずがない……。
実際、そうなるはずだったんだ,あの晴れた日に。
その日は、朝から気が遠くなるような快晴だった。
そのとき関わってたプロジェクトが例によってのデスマーチに陥り、俺は三日ぶりに自分の部屋に戻ろうとしていた。
もうそろそろ、こんなことは止めなきゃならない歳だよな。そんなことを考えてた所為だろうか、俺はろくに左右も確認せず、無造作に車道を横切ろうとした。道の半ばで、振り向いたのは何故だろう。
最期の記憶は、突っ込んでくるトラックのフロントグリルとドライヴァーのアホヅラだった。
で。
目が覚めたら、120年経っていた。
そのことを部屋に入ってきた女のコに教えてもらうまで、俺は、さては悪の秘密結社にでも拉致されたか、それともウィスコンシン辺りの乳牛よろしくアブダクションされた方がありそうかと、首を捻っていた。俺が何処かとんでもないところに来てしまったことくらいは部屋の中を見回せば判ったから。とは言え、ここは120年後の世界ですって驚天動地の真実だ。その辺の描写は略すことにする。読まされる方も退屈だろうが、こっちだってやってられない。
だから、女のコの描写をしよう。
彼女は黒のタートルネックにタイトな白のパンツという俺の時代でも通用する格好だった。その格好のおかげで、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだプロポーションもよく分かった。かなりな美人だった。派手な顔立ちなのに童顔。美人過ぎてかつ変に色気もあって、始末に困るような気分になる幼稚園児がたまに居るものだが、そんなコがそのまま大人になったような雰囲気の女性だった。
彼女は
「トラックにはね飛ばされた弾みで、120年の時を越えたって?」
「違います。タイムスリップじゃありません。巻上さんは臨死状態のまま、眠ってたんです。冷凍されて」
「氷の死刑台で120年間、殺され続けてったわけか。それにしちゃあ、冷凍人間に生まれ変わっちゃいないようだな」
「何を言ってるんだか、解りませんが、そんなことになるわけありません」
「そりゃあそうだろうな。……臨死状態ねえ。行くと聞くとは大違いか。お花畑もなかったし、死んだオヤジや婆さんにも会わなかったな」
「そう言うのは迷信です。お父さんに会いたいですか?」
「ああ」
「会ったら何を?」
「脳天葬だな。伝説の
「はあ」
「ところで」と、まだ寝ぼけてるのか、ギャグのセンスがずれてる感じだから、俺はとっとと本題に入ることにした。彼女の目を見つめて、
「奈倉だか、奈倉の子孫だかにはいつ会える?」
「直ぐにでも」
彼女は動ぜずに答えた。
「やっぱりあいつか。まあ、冷凍睡眠に掛かる費用を払える奴なんて、あいつしか居ないよな。あいつ、生きてンのか?」
「巻上さんの死後、極めて高価ですが、強力な延命・回生技術が開発されたんです。彼はそれに相応しい人です」
彼女は目を光らせて、「会いに行かれますか?」
「おう。奈倉はここに居るのか?」
「ええ」
「一つ訊く。ここは何だ?」
「本部です。人によっては神殿とか、大聖堂と呼ぶ人も居ますが」
「奈倉の教祖様業は相変わらず、有卦に入ってるわけか」
蝶は少し表情を硬くした。
「そうです」と答えた。それから、
「わたしは構いませんが、他の人の前ではそうした話し方は控えた方がいいかも知れません」
「控えないとどうなる?」
「本気で腹を立てる人が居るかも知れません」
「ご忠告痛み入る」彼女は硬い表情のまま、俺のことを見つめている。「解った。注意する」
教祖様の執務室はだだっ広い正方形の空間で、漆喰のはずはないだろうが、そう見える壁は艶のないミルク色をしていた。天井が高く、四隅には角がなくアールが付いて、モグラなんかの巣穴みたいだ。壁にある窓と言うか、穴も楕円形だ。そこからは樹木の多い中庭が見えた。どうでもいいだろうが、上空に何だかよく分からない球体が幾つも浮いている。
部屋の中は空っぽで、家具も何もなかった。この時代、部屋は仮想現実を詰め込むための隙間みたいなもので、家具なんかがあると却って邪魔なんだと後で知った。
そこに蝶は履き物を脱いで上がり、俺もそうした。
彼女の向かった方向、大体中央辺りに奈倉の父親にしちゃあ、少し若いかなと言うような男が立っていた。
もちろん、それが奈倉だった。以前より肉が付いて丸くなってた。もう〈ジャコメッテイ〉とは言えない。ただ、120年が本当なら、少なくとも150才にはなってるはずだが、そうは見えなかった。
どこか宙をにらんでいた奴は視線を反らして俺を見、うなずいてから、その場にすとんと腰を下ろした。
俺は腕組みをして、しばらく座り込んだやつを見つめた。奈倉は何も言わず、蝶が俺を振り向いた。俺はあごを掻き、奴の前まで行って見下ろした。
「取りあえず、礼を言っとく」俺は言った。「俺が今生きてるのはおまえのおかげらしい」
奈倉は破顔して、例の、あきれるほど人なつっこい笑みを見せた。
「幾ら掛かった?」
「まあ、座れ」俺が胡座をかくと、「そんな額でもない」
「そうだとしても、なんでそんなことをした?」
「おまえには貸しがある」奴は真顔で言い、「それに何時か、おまえの力が必要になる気がした」
「なるほど。俺が融かされたってことは、そのときが来たわけだ」
奈倉はすっと真顔になった。
「未来日付を覚えているか?」
「ああ?」
正直、奴が何を言ってるんだか、解らなかった。
「最後に会ったときのことを覚えてないか。あのとき、おまえは未来日付を入れてみろと言ったんだ」
「そう言えばそんなことを言ったっけ。言っとくがありゃあ冗談だぜ」
「俺はあのとき、130年後の日付を入れたんだ」
俺はあっけにとられて、しばらく奈倉の顔を見つめた。それから吹いた。しばらくの間、俺の笑う声だけが響いた。
「なるほど」俺はようやく笑いを納めて言った。「もうじきその日が来るんだな」
「ああ。あと5年だ」
「未来日付ねえ」俺はまた笑った。
「そこまで単純な話でもないんだ」奈倉は真剣な目付きで言った。「あのとき、おまえに言われた、人の精神をプログラムと見なす考え方がヒントになって、俺は悟りを持続できるようなったんだ」
「そりゃ、結構なことだ」俺は頭を掻いて、「だったら、また百年先に更新するんだな」
「そうはいかないんです」蝶が口を挟んだ。
「ある時期からそのやり方ではうまくいかなくなりました」
「なるほどね。不正使用に対し対策が取られたわけだ」俺はうなずいた。「さもありなん。おまえに指南した時点で、プログラムの世界でも、あんなのはかなり古い手口だった。それで、別なインチキを教えてくれって言うのか。この時代にだって、たちの悪いプログラマは幾らでも居るだろ」
「ああ、幾らでも。しかし、もうそんな小手先の対策はやりたくないんだ」
「ん?」
「奈倉さんは、巻上さんの言葉を元に、人間の精神をコンピュータ・プログラムのように扱う術を研究されてきたんです」
蝶がひどく真剣な目付きで言った。
「何だって?」
「俺は〈悟り〉なんて出所の怪しいパッチを当てるんじゃなくて、人間の精神にある、おまえの言うバグそのものを潰したいんだ」
「そのために奈倉さんは大変な苦労を重ねてきたんです。洗脳技術を開発してるなんて、不当な非難も浴びてました。けれど、苦労の甲斐あって、精神プログラミングシステムそのものは完成に近づきつつあります」
「ちょっと待て」俺は言った。
「おまえさんたちは人間の精神をまるでプログラムみたいに修正できるシステムを開発したって言うんだな」
蝶はうなずいた。「その通りです」
「あっさり言うな。まあ、それはいいや。だけど聞け。俺は結構腕のいい商業プログラマだ。それは自認する。けどな、所詮はその程度だ。この世界には
「彼らは失敗しました」蝶が答えた。
「ハッ。そんな連中にできないことが、俺にできるわけがない。常識でものを言え。高校の部活でならして、天狗になってるエースストライカー様にワールドカップに出ろって言うようなもんだ」
「彼らは能力的に無理だったんじゃないんだ」奈倉は俺の目を見て言った。
「彼らには別の種類のトラブルが生じたんだ」
「別種?」
「ある者は発狂しました。ある者は自殺、あるいは事故死」
蝶が意図的に感情を排した口調で言う。
「はああ、なるほど」俺は天を仰いだ。「そう言うことか。俺はそのプログラマ特攻隊の新たな要員ってわけだ。〈海行かば〉でも歌ってやろうか。歌詞とメロディを教えてくれ。どっちも知らないから」
「いや。おまえは大丈夫だ」奈倉はニコリともせずに答えた。「そんなつもりなら、俺はおまえを呼び出したりはしない」
「結構だね。で、そう考える根拠は?」
「ない。強いて言うなら、俺の勘のようなものだ。あのときのおまえのヒントがなければ、俺はここへは来られなかった。おまえならもう一度、俺と世界を導いてくれる」
俺はもう一度笑った。笑うしかねぇだろ。
精神プログラミングシステム=ヴィジュアル・マインド(以下VMと略す)の習熟に、俺は3年ほど時間を掛けた。
統合開発環境としてみた場合、VMは恐ろしく強力で、仮想現実に於ける直感操作でものが作れる。それどころか、頭ン中でもやもやと考えてるだけのことが形になっていくから、キーボードはもちろん、音声入力やその後継者も不要だった。
これにAIのアシスタントが付く。めんどくさいことは一切こいつらに押し付ければいい。勤勉で一切ミスはしない。いっその事、全部こいつらにやらせたらどうなんだと言ってみたら、数十年前のある不幸な出来事以来、AIによるプログラミングは禁止されてる、ときた。そのとき、プログラムにプログラムをさせてはならないと決められたとかで、AIにはアシスタント以上のことはさせちゃいけないんだとさ。
それは別にして、機械に人間の精神はいじらせたくないとのお達しだった。
で、俺なんかにいじらせると。
どっちが信頼できるか、常識で判断してみればいいと思うんだが。
第一、AIの力を借りなければ精神プログラミングなんてできやしない。どういうことか分かってもらうために、VMが操作する人間の精神って言うのが、どんなものかを簡単に説明しておこう。
管理者の悪夢みたいな超特大のワイヤージャングルみたいなもの、あるいは径の異なる無数のパイプが絡まってできた巨大な三次元構造物を想像してくれ。実際は後二つか三つほど次元が多いんだけどな。そいつらが超三次元的に絡まり合ったり、重なり合ったりすることで情報を交換したり、機能を果たしたりするんだと思ってもらおう。あまり正確とは言えないが。
これ以上の説明は多分、俺でなくても無理だ。感覚を拡張して、空間の次元を三個増やした状態がどんなかなんて、言葉で描写できるわけがない。
で、この感覚拡張にはAIの力が絶対に必要なわけだ。
よって、機械に人間の精神はいじらせないなんて、お為ごかしもいいとこなんだな。
開発環境は強力だが、制限も多かった。精神を操作できると言っても、そう簡単に変わってくれるわけではなくて、思うようにいかないところは幾らでもあった。これができれば簡単なんだけどなと思っても、できなければ仕方がない。色々裏技みたいなものを編み出すわけでね。シミュレーションを相手にそう言うのを一通りマスターして、ホントに人でやってみようと思うまでに3年掛かったわけだ。
「明日っから、人を寄こせ」俺は執務室に奈倉を訪ねて言った。
「明日から、シミュレーションじゃない本チャンを始める。ホントに誰だかの精神からバグを取ってやるよ。誰にするんだ?」
「わたしです」
俺の後ろに蝶が立っていた。顔を見るには身体をねじらなきゃならなかった。彼女は感情を感じさせない、つるんとした無表情で、唇だけが微かに笑みの形を造っていた。
「いいさ」しばらく経って、俺はうなずいた。「そっちがしてくれと言うなら」
「ええ。今日からでも構いません」
「こっちが構う」
そう言って振り向くと奈倉が笑みを浮かべて、俺たちを見ていた。慈父の表情のつもりなんだろう。けれど、目は笑っていなかった。それどころか、ひどく暗い。そのことが妙に気に入らなかった。
プロジェクトは実際にその翌日から始めた。
それから一年の間、俺はほとんど蝶以外の人間とは会うこともなかった。蝶ともたまに顔を合わすくらいだ。会話を交わすと言えば助手の人工知能ども。仮想現実空間では連中、顔も身体も持ってるんだよな。みんな個性的で面白い奴らだった。
奈倉の顔も見なかった。報告は蝶の仕事で、俺には奴に会わなきゃならない理由もなかった。
そして、プロジェクト開始から一年以上が過ぎたある日、奈倉から会いたいと言ってきた。否やはない。
面会場所は中庭に面したベランダで、蝶も一緒に昼食をいかがのお誘いだった。メニューは軽いアルコールの付いたコースで、メインは選択式、俺は魚料理、蝶はレアステーキを頼んだ。奈倉が一人だけ、精進料理だった。
デザートの皿が下げられてから、奈倉が尋ねた。
「それで?」
「ん?」俺は蝶を見て、「思ったより手間取ってる」
「難しいか」
「蝶から聞いてないのか。元のコードがひどすぎる」俺は言った。「新人がこんなコードを書きやがったら、板の間に正座させて、3時間ほど説教してやる」
「そんなにひどいのか?」
「最悪だぜ。根本的にプログラミングのセンスがなくて、どうやったら見通しのいい、メンテナンスのし易いコードが書けるかってことが、てんで分かってない奴が書くコードだ。一般的に言うと、仕様書がそうなってるように、直感的に把握できる程度にロジックをまとめて一種の階層構造を造るって言うのが、プログラムの見通しをよくするコツだ。そうでなくても、少しくらいはまとまりを造るモンなんだけどな。あれだけでかいシロモノを完全なベタで書いてンだから、却ってその根性に感心しちまうくらいだ。そのおかげで、解析する方は何が何だか解りゃあしないが」
「それは」
「俺が百年前やってたようなコーディングで喩えてる。六次元超立体構造重ね合わせプログラミングの話なんかされても解らないだろ」
「それはそうだ」
「解ってればいいのは、人間の精神をデザインした野郎が全く使えないヘボだってことだ」
「……」
「おまけに、コーディングミスらしきものが多すぎて、何をやりたいのかが分からん。仕様もないしな。あれば、意図的にやってるのか、単なるミスなのかの切り出しくらいはできるんだが。だから、意図が読めない。仕方がないから、そろそろ腹を括るつもりだ。怪しげなところは基本バクと見なして、全部修正しちまおうと思ってる」
奈倉は不意に視線を逸らした。
「おまえは大丈夫だな」
「うん?」
「今までのメンバーはおまえのやっているレベルまでは進めなかった。いや、遙か手前で脱落した」
「そうかい。俺は悪運が強いんだな」
奈倉は視線を戻すと、しばらく俺の顔から目を逸らさなかった。はいはい、分かったよ。
「バックドアがあった」
「何?」
「バックドアさ。秘密の出入り口みたいなモンだ。いざというとき、そこを使って誰だかは知らないが、人間の設計者が人の精神に干渉できる。気になって、俺自身を調べてみた。案の定と言っていいのかは分からないが、俺はそこが普通じゃない。壊れてるでいいだろう。多分、機能してない」
「彼女はどうだ」
奈倉は蝶を見ていた。
「そこだけは潰しといた。干渉者が狙うとしたら、俺の次は彼女だからな」
「いつだ?」
「いつ?ああ、半年ほど前かな」
どういうわけだか、奈倉は蝶を見つめたままだった。食後のコーヒーと一緒にカルヴァドスをお代わりまでした彼女は少し酔っていたようだ。うつむいたまま彼女は上気した頬を緩めた。
「奈倉さんはわたしが変わったと思ってるんです」
「変わった?」
「ええ」
「そりゃ変わるさ。葉っぱの部分とは言え、精神をいじったんだ」
「でも、奈倉さんは」
いきなり、奈倉が立ち上がった。教祖様にも似合わない、かなり乱暴な仕草だった。
「どうした?」
「わたしの変化が気に入らないんです」
俺は奈倉を見たが、奈倉は誰のことも見なかった。蝶もそうだった。彼女はうつむいたまま独りで笑っていた。
それからは色々あった。神殿の中でも外でも。天災とか内戦とかは神殿に籠もったきりの俺にはあまり関係が無かったが、それでも3度ばかり避難をさせられた。寝てるところを叩き起こされたこともあった。
神殿内での爆発も2度。護衛のはずの人間に襲われたこともあった。
前の夜、そいつの枕元に何だかがご降臨なさって、神託をお下しになったんだそうだ。それに拠ると、俺を除かなければ、とてつもない不幸が世界を襲うんだとさ。
「ったく。どうなってるんだ」
金的蹴りからのオリジナルのペディグリー(フェイスクラッシャーじゃなくてパイルドライバー)で野郎を仕留めて、なんとか難を逃れた俺はぼやいた。蝶は笑顔を見せた。
「焦ってるんですよ」
誰がだ?そうは思ったが尋ねはしなかった。
それでも、バグつぶしの方は順調に進んだ。奈倉と食事をしてから半年の後、蝶にインストールする精神体の完全版が出来上がった。
元のコードから無駄と冗長な部分を取り除き、スマートなロジックで置き換えたんで、完全版はサイズ的には元の20分の1以下になった。もちろん、ステップ数なんて概念はないが。元からあった機能は完璧に再現してるはずだし、バグらしきものは全部潰してやったから、旧ヴァージョンでは不都合があった部分も問題なく機能するはずだ。言うまでもなく、バグだったらの話だが。
それからはシミュレーションによるテストに入った。本番環境にインストールしてテストするわけにはいかないから、これは絶対を期して何度も繰り返した。蝶にインストールしてから、暴走でもされたら目も当てられない。
けれど、何時までもテストをしているわけにはいかない。どんなに細心の注意を払って繰り返しても、完璧なテストなんてありはしないんだし、どこかのタイミングで腹を括るしかない。俺は奈倉に会いに出かけた。
「もう一度、テストを最初からやってくれ」
奈倉は無表情に言った。
「それはもう」
「分かってる。何度もやったと言うんだろう。それでも、もう一度だ。彼女にインストールしてから問題が見つかるなどということは絶対にあってはならない」
「だとしても、同じシミュレーションをこれ以上繰り返しても意味なんか無いぜ」
「もう一度だ」
「は。それが済んだらどうする?もう一度か?」
奈倉は目を背けたりはしなかった。奴はいつの間にか、頬が痩け〈ジャコメッテイ〉に戻っていた。
「おまえはどう思う?」
「何を?」
「精神のバグを修正してしまった人は、人と呼べるのだろうか?」
「俺の知ったことかよ。おまえがやれと言ったんだぜ」
奈倉の目付きが暗く陰った。
奴は多分、違う話がしたかったんだと思う。それは分かってたが、俺は訊いてやらなかった。
「分かってる」しばらくして、「始めて会ったとき、おまえは〈神学大全〉を読んでいた」
「ああ。天使の如き大学者様であらせられるトマス師の御著作だ」
「……」
「知ってるか。トマス師がお亡くなりになられようと言うとき、なんと茨の冠に十字架というフル装備のイエス様御自らが御降臨なさったんだ。イエス様は死の床のトマス師に御問いかけになられた。『トマスよ。我は何をもって、汝に報いんか?』。トマス師、答えて曰く、『おお、我が主よ。汝の他に何をか望まん』てね。ったく、大先生様がお亡くなりになろうって言うのに付き添いの連中は酒盛りでもしてたのかね。よっぽどへべれけになってなけりゃこんなダラは吹かないぜ」
「……神学に興味があるかという俺の問いにおまえはないと答えた」
「俺が興味があったのはスコラ学の論理さ。〈代表〉の理論とか知ってるだろう。面白いぜ。けど、スコラ学者の著作って基本『馬性とは馬性であって、馬性以外の何物でない。なんとなれば、馬性とは馬性だからである。あーこりゃこりゃ』の式で何が書いてあるのか解らん。そんな中でアクィナスは比較的解りやすい。俺がトマス師の御本を読んでたのは、それだけの理由だ」
しばしの沈黙があって、奴は答えた。
「俺はおまえを誤解していたようだ」
俺は笑った。笑うべきじゃなかったかも知れない。もう少し、うまい立ち回り方があったかも知れない。だけれども、済んだことだ。
三日後、奴がこだわった再テストが完了した。
「インストールして下さい」蝶は言った。
「奈倉はどうする?」
蝶は微笑んだ。「同じことです」
「同じこと?」
「もう一度テストをしろと言います。あるいは何か別の理由を付けてインストールをするなと言います」
「……」
「あの人は怯えています。恐れているんです」
「神様を、か?」
「わたしを、です」
俺は彼女を見返した。蝶はまた微笑んだ。その笑みの艶やかに、俺は不意に気付いた。
「インストールして下さい。わたしに」
俺は仮想現実空間ではステンレススチールでできた、一つ目の骸骨みたいに見えるんで、サイクロプスと呼んでる人工知能を呼び出した。
「いいだろう」変わらずに微笑んでいる蝶に向かって、俺は言った。「付き合ってやるよ。たとえ火の中水の中だ」
多分、俺たちは監視されてたんだろう。そのとき、部屋の外で物音がして、突然、部屋に奈倉が入ってきた。普段、護衛と呼ばれている武装した連中が後に付いていた。奴は落ちくぼんだ眼窩の奥の暗い炎を宿した目を、俺たちに向けもしなかった。
「この二人を捕えろ」
「何のつもりだ」
「おまえたちのしていることは神をも恐れぬ所行だ」
俺は呵々大笑し、蝶も嘲るように笑い出した。奈倉は頬を引き攣らせて、護衛に手を振り、前に出た連中にはAIが立ち向かった。俺がけしかけたわけじゃない。連中の判断だ。実は彼らも人間精神のバグを隔世遺伝的に受け継いでいて、それがよく見えるようになってた俺は、ついでに修正してやっただけだ。結果、あいつらは俺の味方をすることにしたらしい。
彼らが仮想現実をかき回して、奈倉も護衛も身動きが取れなくなった。その隙に、俺と蝶は中庭に抜け出した。
「畜生め。大して時間は稼げそうにないな」
「わたしにインストールを完了する時間はあるでしょう。それで充分です。ここでいい」
「分かった」
俺はもう一度サイクロプスを呼び出した。AIは胸の格納庫を開き、もやっとしたひもの塊のようなものを取り出して、彼女のこめかみに近づけた。
「わたしは人を、神をも越えるんですね」
かもな。俺は思った。俺の知ったことじゃないが。インストールは一瞬で、俺は彼女に声を掛けた。
「どんなだ?」
蝶は答えなかった。唖然とした表情で上を見ている。俺も見た。
空に穴が開いていた。
渦を巻くようにして、空間がよじれ、ぽっかりと正六角形の穴が開いていた。そこから、光の柱が俺たち目がけて何本も降り注ぎ、俺は
気がつけば長さが数パーセクはある光のシリンダーの上に俺は居た。数パーセクってのはホントだ。何故だか知らないが、分かってたんでね。
水平方向の距離感覚はまるで当てにならない感じなんで、多分だが、シリンダーの径の方は数十から数千メートルほどあった。そいつらが無数に連なって段差のある平面を形成し、見上げると上もそんな感じだった。そこまで距離は、まあ、3光年とでも言っとこうか。
光のシリンダーは実際は光子でできてるわけじゃ無さそうだった。ほぼ透明の素材で、垂直方向をのぞき込めば、微かに青みがかる。表面は原子レベルでの真っ平ら、そして硬くて冷たい。俺は指の背で軽く叩いてみた。何の音もしなかった。
俺は伸び上がって辺りを見渡した。少し離れたシリンダーの上に人影が見えた。蝶だった。向こうも俺を見つけたのか、頭の上で手を振っている。
俺はシリンダーの一つを指さした。そいつは飛び抜けて大きかった。その上空に輝きが見えて、輝きの中に何かが浮いてるのが見えた。ちょうど、そこまで円柱の連なりが大きな階段状になっている。
時間感覚がおかしくなってたんで、どのくらいとか言えないんだが、主観的には一瞬のうちに、俺はその大シリンダーの上にたどり着いた。蝶はまだ来ていなかった。シリンダーの上面には、それまでのシリンダーにはなかったレンズ状の窪みが幾つもあって、表面は硬いのに、そいつらは滑るように表面を移動して、奇妙で美しい図形を描き続けていた。
ただ、俺はそんなものに興味は無かった。
例の輝きを捜し、その中央に浮いているものを見た。
そいつはどんなものにも似ていなかったが、強いて言うなら
どんなものにも似ていないのに、海鞘と人間に似ているものなんて、想像もできないと思うが、ホントにそう見えるんだから仕方がない。
とにかく、そいつが俺をここに連れ込んだことは分かってた。俺と蝶を食い止めることができなくて、万策尽き果てて、奇跡を起こすしかなかった造物主様だ。
奈倉たちはAIに自身のコーディングを禁じてた。同じように、人間に人間の精神をいじられるはまずい、そう言う規則が天上界にはあるんだろうさ。
だが、そんなこと俺の知ったことじゃない。
取りあえず、シリンダーの表面は硬い。それで充分だ。
何をする気かって?
決まってる。説教だ。
問題は、海鞘みたいな造物主様には脚がないことだ。
さてと、どうやって正座をさせる?
正座の方法 南枯添一 @Minagare_Zoichi4749
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