夢うつつ

ネムネム

第1話6月の夢①

 俺、柴沢圭太しばさわけいたは遊園地にいた。いたというより立ってた。いつの間にかいた。

(あれ?俺なんでこんなとこいるんだ)

 周りを見渡すが遊園地の場所に見覚えがない。思い出そうとするが思い出せない。わからない。状況を見た感じジェットコースターの列の前の方に並んでいた。目の前で乗ってる乗客の叫び声が聞こえる。次は俺の番のようだがまだ頭の整理がつかない。後ろを見るとズラーッと人が並んでいる。ここまで前に来たってことは長い時間並んでいたはずだが思い出せない。

「次のお客様どうぞお座りください」

 係員らしき人に言われる。今更後ろの列をかき分けて戻る勇気もないので指定された1番前の席に座る。2人隣同士で座れる椅子に奥に詰めて座ろうとしたところで1人で遊園地にきていたのかと気づく。一人で遊園地なんてどういう状況なんだ俺。連れはいなかったか思い出そうとするがさっぱり思い出せない。1人で遊園地に行く度胸はないのでなおさら今の状況がわからない。そんなこと考えているうちに隣の席に人が座ってきた。

「やっべー。めっちゃ怖くなってきた。しかも1番前かよ~」

 隣の奴が後ろに座っている友達としゃべっている。3人で来て1人余り隣に座っている。緊張しているのか後ろの友達としゃべっているせいなのか声がでかい。早く出発しないだろうか。やっと係員がセーフティーバーを下げにくる。確認が終わり合図をしている。

「それではいってらっしゃい」

 ベルと共にジェットコースターが動く。笑顔で係員が手を振っている。一番前なのでに目の前に急斜面が見えるがなかなかの角度だ。

ガタガタガタガタ

 大きな音とともにジェットコースターが急斜面を上がっていく。

「うおおおおおマジでやべえええええ」

 隣の奴がうるさい。ポツリポツリと少しだけ雨が降ってきた。空を見ると暗く大きい雲が覆っていく。ジェットコースターが上がっていくにつれ広い景色が見えるようになるが景色に見覚えがない。ここは本当にどこなんだ。降りたら遊園地の名前をどこかで確認しよう。

 そんなことを考えているうちにジェットコースターが頂点につき急斜面を降りようとしていた。


ガタン

 突然大きい音がなりジェットコースターが止まった。嘘だろ。急斜面が目の前だ。高いとこは苦手ではないがさすがに怖い。

 「こんなとこで止まるとかありえねだろおおおお」

 隣の奴が叫んでいる。さんざんうるさいと思っていたがこれには同意したい。周りの客もざわつく中アナウンスが鳴る。

「お客様申し訳ございません。ただいまシステムエラーにより緊急停止しております。しばらくお待ちください」

 まじかよ。システムエラーってなんだよ。運が悪すぎる。早く降りたい。雨が強くなってくる。このままいつまで雨に当たればいいのだろうか。


ガチャ

 大きくもないが小さくもないが耳に残る音が鳴る。なんの音だ。周りを見渡すとすぐ異変に気付く。隣の席のセーフティーバーが上がっている。さらによくみるとシートベルトもはずれている。隣の奴の状況を見ようとしたところで顔が合う。

 「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい」 

 隣の奴が叫ぶ。驚きと焦りが声と表情で伝わってくる。パニックになっているのか体を動かし頭を抱えている。

 「とりあえず落ち着け! まず掴む物をさがせ!」

 探したが椅子の前にある手すりくらいしかない。手すりで十分だろうか。しかも手すりは雨で濡れているため滑る可能性がある。他に何か手がないか探す。そして安心させるための言葉を探す。 

 「セーフティーバーが上がったら係員も気付くはずだ!大丈夫だ!」

 機械で操作しているはずだから間違ってはないはず。それにシステムエラーがセーフティーバーの上がる故障だろう。しばらくは発進しないはずだ。落ちる恐怖からかパニックがまだ続いている。

 「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」

 ガタガタ震えている。何もできない状態だ。ならば自分のできることはないだろうか。落ち着いて考えれば何か打開策があるはずだ。


 アナウンスが鳴る。

「お客様お待たせしました。ただいまより出発致します。」

 おいおいおいおおいおい。セーフティーバー上がってんだぞ。てか機械で操作してるんだから気付くだろ普通。

 ジェットコースターが動き出す。急斜面を降りようとしていた。

 「おい!!!!そこにある手すりを掴め!!」

 これしかない。これで何とかしてもらうしかない。だが隣の奴は頭を抱えうずくまっている。聞こえてない様子だ。

 「おい!!!!!」

 ジェットコースターが急斜面を降りる。体が吹っ飛んでいく。

 「くそ!!」

 咄嗟に手を掴もうとする。だが落ちていくスピードの中手を掴めるわけがなく空を切る。

(やばい)

 線路を外れ落ちていく。その時ジェットコースターのスピードの中考えられないが目が合った。

 奴の顔は笑っていた。


♦︎♦︎♦︎


ジリリリリリリリリリリリリリリ

ガチャ



 目覚ましを止める。時計を見ると7時だった。

 手を見ると冷や汗が出ている。顔も汗がある

 (にしても夢の中にしては意識がはっきりあったな)

 遊園地での自分の行動は明らかに自分が選択した行動だった。また夢の中だが記憶がはっきり覚えていることに気付く。そしてジェットコースターでの出来事を思い出す。自分が何しても奴が死んでしまう運命だったかもしれない。だが助けられる状況で何もできなかったことが悔しい。それが夢の中だったとしても。

(朝飯つくんないと)

  部屋のカーテンを開けると小雨が降っていた。小雨だが空を見るとまだ雨は強くなりそうだ。ふすまをあけて部屋を出る。

「はよっすー」

 部屋を出たとこで妹に会う。朝から元気だなこいつ。こっちは夢の中でうなされていたってのに。

「うっす」

 そつない返事で返す。

「朝から元気ねえなーお兄は」

「眠いから仕方ない。とりあえず飯作るよ。」

台所にいき肉と野菜炒めと卵焼きをささっと作り机に出す。妹はTVで朝のニュースを寝っ転がりながら見ていた。

 「おーい。由依ゆい。飯だぞ」

 「うっすー。今行きます」


 少し食べたところで由依ゆいが言う。

 「ほんとお兄って無駄に料理がうまいよな」

 「そりゃどうも」

 「私が作ったらこんなおいしいのは作れないわ~もう順番性じゃなくて毎日お兄が飯作っていいんじゃなかろうか」

 何言ってんだこいつ。

「ただでさえ出来ないとかいって洗濯と風呂掃除やってんだから飯くらい作ってくれよ」

「でもこのおいしさは嫁にほしいくらい。うんうん卵焼きうまっ」

 朝から元気だなほんとに。まあおかげで夢のことでの心配が和らいだ。妹に夢のことを話そうと思ったが心配させるわけにはいかない。それに朝から時間がない中話そうと思わなかったのでやめた。


 柴沢家は両親がいない。親は物心ついたころに事故で死んでしまった。幼い俺と妹は叔母さんのとこに預けられた。何不自由なく過ごさせて貰い俺は高校3年生妹は高校1年生になった。お互い同じ学校で叔母の家から遠かったため、またこれ以上叔母に迷惑をかけられないと思い高校生の時から始めたアルバイトで貯めたお金で学校近くのアパートを借りた。叔母に心配されたが妹もアルバイトを始め2人暮らしは順調だ。


 ふと時計を見ると8時になっていた。歩くと学校まで15分なのでけっこうギリギリだ。

「やばこんな時間だ。由依、俺先行ってるな。お前も遅刻するなよ。戸締りだけよろしく」

「了解お兄。いってら〜」 

  朝食をかけこみ前日用意していたカバンをもって外を出る。ザーザーと雨が強い。小走りすると足が濡れるだろうな。雨は嫌いだ。


♦︎♦︎♦︎


「おっすケータ」

 ずぶ濡れの足で教室に着いたとこでクラスメイトで友達の沢本亮さわもとりょうに声をかけられる。

「リョウか。はよっす」

 沢本亮さわもとりょうは高校2年の時からクラスメイトで五十音順に座ると俺の前の席になる。席が上下なので話すことが多々あり仲良くなった。リョウは俺の家族の状況を知っている数少ない友人だ。

 持ってきたタオルで足をふきながら席に座る。妹に喋れなかった分リョウに今日の夢のことをしゃべってみる。

「そうだリョウ聞いてくれ。今日変にリアルな夢を見たんだが」

 深刻な顔で言ってみる。

「おう。どんな夢だっだ?」

 軽く返されてちょっと落ち込む。

「隣で座っている奴がジェットコースターのセーフティーバーが外れて落ちる夢なんだ。助けようとしたんだがだめだった」

 「人が落ちる夢かー。落ちて死体になったとこは見たのか?」

 「いや助けようとしたところで起きたんだよね」

 「そこで起きてよかったな。にしても知ってる奴ならまだしも知らない奴っていうのが気になるな」

 「確かに。夢の中で知らない顔が鮮明に出てくるっていうのは引っかかるな。どこかで見たことがあったりしたかな」

 顔を思い出す。思い出せるが記憶にはない。

 「まあ知らない人で良かったんだか悪かったんだか」

 続けてリョウが思い出したように言う。

 「でも人が死ぬ夢ってその人が長生きする吉夢らしいぜ。よかったじゃん。そいつ長生きするぜ」

 「知ってる奴ならよかったんだけど。そういえば気味が悪いことがあったな。その夢の最後なんだけど落ちていく隣の奴と最後に目が合うんだよ。そしたらなそいつ笑ってるんだよ」

 落ちた奴の最後の笑顔が思い出す。パニックになっていたはずなのに笑って落ちていく。恐怖の中の笑顔ほど怖いものはない。

 「そんなオチだったのか。それは後味が悪いな。」

 ガラガラガラ

 担任がドアを開けて入ってきた。

「うーし朝のHR始めるぞ。にしても今日は雨がひどいな」

 登校の時はそんなに降っていなかったが予想どおりひどくなっていたのか。ギリギリセーフだった。いつもどおり担任が今日の連絡事項をグダグダ説明していく。早く終わんないかな。


「今日の授業めんどくせーな」

 前の席のリョウが時間割を見ながら言う。

「だな。数学が有るのがめんどくさい」

 数学はほんと難しい。できるやつの頭どうなってんだほんと。

 その時扉から大きな声を出しながら人が入ってきた。

「おーーーいリョウーー国語の教科書貸してくれー」

 リョウの友達か。

「おう。カズヤまた忘れたのか」

「いやーすまねえなありがとな。今度飯おごらせてくれ!」

 リョウの友達が去っていく。顔を見た時から冷や汗が止まらなかった。

「あいつの名前何っていうんだ」

「あいつ?カズヤ。木之原和也。《きのはらかずや》なんで?」

「夢の中で死んだ奴。あいつだ。」 







































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