友達のカレシ

佐都 一

聴いてください、哀しい恋の歌

 いきなりの告白で大変申し訳ないのだけれど、あたしは友達のカレシとするセックスが好きだ。

 いや、そういうことではなくて。そういうことではないので、少しイイワケさせてほしい。

 世の中にはいろいろな人間がいる。自分で言い出したからそれにのっとって言うと、性的嗜好だってさまざまだ。人生いろいろ、会社もいろいろ、セックスもいろいろだって有名な政治家も言っていたはず。言ってたよね? 言ってたよ、週刊実話で読んだから間違いない。なんたって実話だもん。

 まあそんなわけで、たとえば同じ学部の加奈は四十過ぎたオジサン教師にしか性的興奮を覚えないし、亜沙子はひどく暴力をふるわれながらの行為しか盛り上がらない。らしい。

 彼女たちを「男に騙されてる」なんて義憤でギフンギフンしちゃってる人もいるけれど、そんなことはまったくなく、彼女たちはきちんと自分で選んでそうしている。自分の性的嗜好を、ひいては人生を選び取っている。世の中に蔓延る性犯罪を許せない気持ちはあたしも一緒なので、どうかそこは切り分けて考えていただけないだろうか。今回はそういう話ではない。

 そうだ、あのデヴィッド・クローネンバーグだって自動車事故にしかエクスタシーを覚えない人々を描いているでしょ? たしか『クラッシュ』だったっけ。ポール・ハギスのアカデミー賞とったほうではなくて。もうちょっと古いやつ。そうそっち。でもそれは映画だけの話じゃなくて。きっと誰にだって起こり得る倒錯なのだ。

 倒錯とはいうけれど、倒れた姿も視点の角度を変えればそれが直立になる。に見える。じゃあノーマルとはなんだっていう話になるじゃない。好き合った恋人と、二人きりの室内でするラブラブエッチは果たしてノーマルなのだろうか。それも一つの性的嗜好なだけじゃないのか。そうとらえることだってできるわけよ。ここまで大丈夫?

 で、話は戻るんだけど、あたしは友達のカレシとするセックスじゃないと興奮しないという、さっきのいきなりの告白になるわけ。

 いや、そういうことではないの。聞いて。そういうことではないので、もう少しイイワケさせてください。このとおり。


 オアシズの大久保さんが相方である光浦さんのカレシを寝取ったことがあるという話があるじゃない。テレビでもたびたび話されているので知っている人も多いんじゃないかな。そのあと大久保さんはカレと数年間付き合ったそうなので、彼女たちがその話のオチに使う「性欲」だけのあれこれだったかどうかは、外からは窺い知ることはできないけれど。まあ、そういうことって得てしてあるよねという感じのエピソードが成立するくらい、世の中にはそういうことって得てしてあるのだ。


 最初はたまたまの偶然だった。高3の夏だったと思う。思うというか、高3の夏だった。夏休み。友達の玲美の家で、玲美と、玲美のカレシ(隣のクラス)とあたしの三人で受験勉強をしていた日のこと。

 この日のことはよく覚えてる。ガンガンにクーラーを効かせた室内でも太陽が窓のすぐそばにあるって感じるくらい照り照りな日で、熱せられたアスファルトのにおいとか、スヌーズ機能よろしく断続的に響くセミの鳴き声とか、そういうのまでしっかり覚えてる。

 玲美のお母さんが仕事かパートか、いや、趣味の集まりだったかな、ごめん、よく覚えてるなんて言っときながらいきなり曖昧で申し訳ないんだけど、とにかく出かけることになって、そのとき玲美が買い物を頼まれたのね。じゃあついでにジュースやお菓子も買ってくるよということで、しばらく玲美のカレシとあたしだけが玲美の部屋で二人きりになるという時間ができた。

 そんとき、なにを思ったのか玲美のカレシがあたしに迫ってきて、なんだこいつ最低だなと思いながらも、まああたしもここで処女を終わらせるのもアリかなってなんでか思っちゃって、まあ、ヤッちゃったわけなのです。思う思うって言いすぎか。いいや、それは気にしないで。

 シてるときの男のちょっとした仕草が、うーん、なんだろう、場所慣れ?みたいな、わかるかな。その場所で同じことを何度もしたことがあるというのが伝わってきて、ああ、このベッドでいつもコイツと玲美はセックスしてるんだなって思ったら妙に興奮してきてしまって。汗と変な液とちょっとした血をシーツにつけてしまったのは玲美には悪いと思ったけれど、逆にいうと「悪いな」って思うのがそこくらいしかなくて。

 罪悪感に苛まれたのはむしろ玲美のカレシだったみたい。だったら最初からすんなよとは思うけれど、さすがにグジグジしすぎだったからちょっと叱ったのね。お前の罪悪感なんか知らんがなと。こちとら処女だったっつーのっていう。そしたらカレ、なんかあらぬ方向に目覚めてしまったようで、玲美と別れてあたしと付き合うなどと言い始めてしまった。

 人生最初のセックスが、多少は痛かったものの前述した興奮事項によりそこそこイイ感じになってしまっていたのが良かったのか悪かったのか、この男と付き合えばまたあのイイ感じのセックスが好きなだけできるのかなと踏んでしまったあたしは、その申し出を受け入れることにした。登場人物全員バカかよ。

 それでまあ晴れて恋人同士のラブラブえっち(ひらがなにしてみた)をしたわけなんですけれども、これがまあ全然興奮しない。むしろ痛いだけみたいなところまである。2、3回試してみたんだけどね、なんかね。ダメ。

 あれ、これってひょっとしてこの男の男性器の具合がよろしかったのではなくて、あのシチュエーションこそが良かったのではないかしらと、そこで気づくわけよ。ところで全然関係なくて申し訳ないんだけど、男性器だんせいき段祺瑞だんきずいってなんか似てない? ほらあの、中国の軍人の……。辛亥しんがい革命とかそういうアレで出てくる人。段祺瑞からしてみればこんな引き合いに出されることこそ心外かもしれんけど。心外革命。知らんけど。

 ああ、ごめん、なんだっけ。ちんこの話か。おちんちんのね。了解。そんなわけで、あたしの脳内にはふたつの仮説が生まれた。ひとつめは、友達の家でやるセックスだから興奮した説。もうひとつは、自分のカレシでは興奮しないけど、友達のカレシだから興奮した説。好奇心旺盛なあたしは、どちらの説が正しいのか検証することにした。


 まずは場所説。さすがに玲美の部屋でもう一度セックスするチャンスはなかなかないので、カレシの家の両親の部屋で試してみた。ちょっとは興奮したけれど、この感じではないなというのがあった。さらに状況を近づけるために、カレシの男友達の家で、うまいことその部屋主を買い出しに行かせたスキにやってみた。たしかにちょっとは興奮したけれど、あのときの興奮に比べるとすずめの涙というか、燕の子安貝というか。後半ちょっとかぐや姫が要求した宝が混ざったけど気にしなくていいから。

 次に友達のカレシ説。とはいえ、そのカレシ以外にセックスする相手もいないので、そのカレシにもう一度玲美と付き合ってもらうことにした。いろいろ揉めたけど、まあそこは置いておいて、そのカレシは晴れてあたしの恋人ではなく、玲美のカレシってことにあいなりました。それでさあさあセックスしましょうかヤァヤァヤァみたいな話になってたはずなんだけど、情にほだされたのかなんなのか、カレシが玲美に対する義理がどうとか言い始めてあたしとのセックスを拒むわけよ。今さら? 今さらそんなこと言う? おいまさかラフメイカー今さらそんなこと言う? ホント冗談じゃない! 今ではあんたのちんちんを、挿れてもいいと思えたが、困ったことにチャックが開かないじゃないんだよ。バンプに謝れよ。

 なんとしても玲美のカレシとセックスをしてやろうと画策したあたしは、二人が玲美の家で受験勉強という名のデートをしているときを狙って、玲美に連絡を入れた。どうしても今すぐ来てくれって。カレシのことで相談があるからって。来てくれないと死んでやるっつって。そんでまあ玲美もカレシとあたしが一瞬付き合ったのは重々ご存じなので、カレシは連れて行かずにあたしの家へとお出かけしてくれたのね。そのスキに意気揚々と玲美の家に上がり込んだあたしは、そんな状況でも拒むカレを押し倒して、ようやくセックスにありつけたってワケ。高校生男子だしとりあえずおっぱい見せとけば勃起するしね。

 いやもうね、めちゃめちゃ気持ち良かった。最高だった。初回超えた。初回限定超えた特装版だった。ブルーレイついてるやつ。あり得ないくらい興奮した。興奮しすぎて3回戦してるときに玲美帰ってきちゃったんだけどね。ゴメンゴメンつって。まあそれは気にしないで。登場人物全員バカだから。

 あーよかったな、なんて花*花みたいなこと思ってたら、あたし、あることに気づいちゃったんだよね。友達のカレシだから気持ちいいのかも、を検証するためのセックスだったはずなのに、はからずも(かなりはかったけど)友達の家だから気持ちいい説と被ってしまったんだよね。ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん、ラッスンこれじゃあ本当はどっちが正しかったのかわからないじゃないのと。これじゃあマジで登場人物全員バカじゃんと。考えたよ、ね。花*花のようにね。


 Kiroroだよ!

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