第38話 命

 アリスやラドの事はいつまでも風化せず、テレビに黒猫やアメショが出る度に、家族間で「アリスみたい」「ラドみたい」という会話が交わされる。

 子供(私)にも名前の後に愛情を込め『ぺ』を付けて呼ぶ母は、いまだに「あーちゃんぺにそっくり」と黒猫を見ると言う。

 もう逝ってから十五年以上経つのに、確かに彼らはまだ私たちの中で生きている。

 

 まだ目の開かない瀕死のアリスを拾って、生きる事の大変さを学んだ。

 ラドの安楽死という選択をたった一人でして、命の尊さを噛み締めた。

 人生で大きく躓いた時、無意識に、先に逝った彼らの分も生きると最終手段を思いとどまった。

 また悲しい時は、泣いていた私のすねを舐めてくれたアリスの神対応を思い出す。


 このエッセイを書いて、私の人生は何と、猫と共に歩んだ数十年だったろうと、全ての猫たちを愛おしく思い出す。

 すれ違っただけの猫も、ひと撫でしただけの猫も、皆私のセラピストだった。

「にゃ!」

 猫には敬意を込めて、まずは挨拶を。

 その姿勢は、私の中でいつまでも変わらずに残り続けるのだろう。


 拝啓、アリス様。ラド様。

 私は今も元気です。

 あの頃と違ってだいぶお肉がついたけど、天国で会っても逃げないでよね。

 生まれ変わっても、私の子供として、親として、兄弟として、親友として、側にいてね。

 貴方たちに会うまであと数十年は生きるだろうけど、いつまでも忘れないよ。


 手紙が書けるとしたら、彼らにはこんな風な言葉を贈りたい。

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猫と過ごした愛しき日々 圭琴子 @nijiiro365

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