第37話 地域猫という選択
私の暮らしている地域では、野良猫が増えないよう去勢・避妊して、皆で餌をやり見守っていこうという『地域猫』の考え方がある。
去勢・避妊された猫は桜の花びらのように片耳に切れ目が入れられ、『地域猫ですよ』という印になっていた。
故に、『さくら猫』と呼ばれることもある。
近所の駐車場に、地域猫が集まる場所がある。
定期的に餌が置かれ、雪の日などにはご丁寧に毛布入り段ボールが差し入れされて、至れり尽くせりだ。
その中で団子になって暖を取る猫たちを見て、通りすがりにグッジョブ! と心の中で親指を立てたものである。
地域猫たちは野良で生まれ育ったので、基本的に人間には近寄らない。
ご飯と好意だけ頂戴して、近付くとスッと距離をとる。
だが中に一匹だけ、顔を擦り付けて甘えてくる茶トラの猫がいる。
彼はレアケースで、いつも駐車場を通る度に、猫充出来ないかと探してしまう。
たいていは見付からず、車の下やバイクの上で休憩中の他の猫たちに、「にゃ!」と挨拶して通り過ぎるのだった。
もう一箇所、スーパーの横にも地域猫スポットがある。
スーパー直送でご飯が貰えるので、猫たちにとっては有り難い場所の筈だ。
一匹の猫がいたので、例に漏れず猫挨拶をしていると、後ろから猫おばさんがやってきた。
※猫おばさん〔名詞〕野良猫に愛情を注ぎ、餌付けをしている女性の事。年齢は関係ない。
買ったばかりのカツオのたたきのパックを開け、夜闇に紛れて猫にあげるようである。
「ご飯あげるんですか?」
「シーッ。嫌がる人もいるから」
野良猫ではなく守るべき『地域猫』なのに、それでも猫嫌いは気に入らないらしい。
猫おばさんは、こそこそと植え込みの陰に隠れて、小声で猫に話しかけながらご飯をあげていた。
町ぐるみで『地域猫』という選択をしたのに、何だか猫おばさんが気の毒になる光景だった。
あと十年もしたら、私も猫おばさんになるのだろう。
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