異世界から勇者が来たけれどそんなのに関係なく王様が全力で無双します

雪月花

異世界にて王様無双

「なるほど。シュンとやら、お主には異世界転移者特有の特殊スキルがないと」


「はい、どうにも女神様の特典ミスみたいで何のスキルも強化もないまま送り込まれたみたいです」


「そうか」


今、僕の前には威厳に満ちた王様がいる。

僕は先程この異世界に転移してきたものだけど、どうにも女神様の転移ミスで本来あるはずの特殊スキルだとか、チートスキルだとかがない状態で転移してしまったらしい。


「というわけで女神様いわく王様に相談してなんとかしてもらうといい、とのことだったんですけど、どうすればいいですかね?」


「ふむ、そういうことなら話は早い」


そう言うや否や王様は羽織っていたマントを脱ぎ捨て、来ていた服を脱ぐ。

その下から現れたのは老齢でありながら、鍛え抜かれた鋼の筋肉。

まるで彫像のようなその肉体は目の前の人物が老人であるはずの事実すら忘れさせる。


「儂自らお主のサポートをしてやろう」


「へ?」


王様のその一言に困惑する僕だが、それに構わず僕の前にどっさりと置かれる大金の数々。

その大金に呆然としている王様は控えさせていた兵から荘厳な剣を受け取り腰に差す。


「まずはそれでこの街一番の武具を調達し装備するがいい。レベルに関しても心配するな。お主の代わりに儂が前線で戦う。お主は常に儂の後ろに控えているがよい」


「え? いや、だけど王様、戦えるん……です、か?」


僕のその一言に王様は不敵な笑いで返した。


「儂のレベルは999じゃ。旅の最中での金の心配もする必要はない。すべて儂の財から無限に出してやろう」


こうして異世界特典なしの僕は魔王退治に全力をかけてくれる王様と一緒に旅に出ることになりました。











「けーへっへっへっへっへ! よーく来たな! 異世界の勇者よ! 俺様は四天王のひとり灼熱のアグネル! 俺様の業火はいかなる生物をも灰にする魔の炎! てめえも骨も残さず焼き尽くして――」


「ぬうううううううううううううっ!!!」


王様の拳が唸る。

風を切り、音すら貫いて、下品な笑い声を上げていた四天王の一人とやらの顔に直撃し、そのまま顔面に拳がめり込み、四天王ははるか背後の壁に叩きつけられる。

うわ、僕、あの光景見たことあるかも。

虫が壁に叩きつけられて潰れたあれだ。グロイ。


「さて、なにやら羽虫が騒いでいたが、これでこの大陸の魔物は全て片付けたな。どうだ、シュンよ。今のでレベルは上がったか?」


「あ、はい、今のでレベル37まで上がりました」


「ふむ、一気に16もあがったのか。先ほどの羽虫はどうやらかなりの経験値を持っていたようだな」


あれからこの王様に引っ付いて冒険をしていますが、王様が無双しすぎて僕の出番がまるでありません。

僕のレベルがカンストするまでは全力でサポートするとか言ってるけど、ぶっちゃけ、これいらないよね、僕?


「あの、王様、いくつか質問があるんですが、いいでしょうか?」


「ふむ、なにかね?」


「まず王様、なんでそんなに強いんですか?」


「別に大したことではない。ただ子供の頃から一日足りとも訓練を欠かさなかった。それだけじゃ」


「訓練って?」


「なに大したことはない。素振り、腕立て、筋力トレーニング、その他もろもろすべて10の時から今までずっとやっていただけじゃ」


「……それって今までずっとですか?」


「うむ。実はな、若い頃はいつ魔王が出てもいいようにそうして鍛えていたのだ。だがいくら鍛えて待っても魔王は現れなかった。そして儂が80を越えた頃にようやく現れてな……」


「は、はあ……」


「本当なら儂自ら行きたかったのだが、女神様からもう老年なんだから魔王退治は若い異世界からの勇者に任せなさいと言われてな。だが、儂としてもどうしても魔王退治の夢を捨てきれなかった。そこでお主が現れた。これは好機と思ってな」


「僕のサポートを言い訳に、一緒に魔王退治をしようと、そういうことですか?」


「うむ。まあ、そういうことじゃ。とは言え、あくまで儂はサポート。お主の付き忘れたチートスキルの代わり程度に思っておくが良い」


サポートでついてきた王様がよっぽどチートなんですが、それは。








「ようこそ、大陸一の港アヴェストへ、ここからは各大陸への船を出していますよ。ですが、最近は海の魔物が暴れておりまして出港料が高くなっております。一番近い大陸でひとりざっと100000Gでしょうか」


たっか。

ボス級の魔物十体倒してようやく一人分かよ。

それこの大陸で一番いい武器の値段超えてるよね。

どうしようか、と思っていたら王様がその港の商人を無視して、なにやら一番大きな船の前まで来て、懐からどっさりと重い袋を取り出す。


「わざわざ一回乗るのに金を払うなど面倒だ。この船をもらうおう、金貨一億G入っている。足りなければあとで儂の城に来るがいい」


袋の中からは一枚1000Gに値するゴルド金貨がたんまり溢れていた。

僕も商人も港の人達も全員、あんぐりと口が開きました。








「魔王を倒すにはただの武器では敵いません。かつてこの世界に初めて降り立った異世界の勇者が使ったとされるエクスカリバーが必要なのです。その剣はオリハルコンと呼ばれる金属で出来ており、伝説の鍛冶種族ドワーフ達の手によって鍛えられたものです。ですがそれは今や古の迷宮の100を越える最下層に封印されています」


魔王を倒すための助言を求めるべく訪れた信託の神殿の巫女からのその伝承に、僕はどうしたものかと唸っていましたが、そこで隣りで静かに腕を組んでいた王様が一言呟きました。


「そのオリハルコンとやらはどこにあるのだ?」


「へ?」


「取りに行くよりも、新しく作ったほうが早かろう」


その後、王様は自国のあらゆるネットワークを使い、オリハルコンの場所を特定し、すぐさまそこを守る守護者をぶっ飛ばし、伝説のドワーフ族に巨額のマネーを掴ませて、真エクスカリバーを作りましたとさ。

ちなみに性能はゆうに前のやつを凌いだそうです……。








「ここからあの海をまたいだ先にある絶海の孤島に立つあれが魔王城だ。だが、あの魔王城の孤島の周りの海は常に荒れ狂い。船では絶対に行くことができない。行く手段はただ一つ。この世界に散らばる七つのオーブを集めて、世界のどこかで眠る伝説の飛竜を蘇らせるしかありません」


そう言って魔王城の監視をしているという賢者が指し示した先には確かに絶海の孤島とその周りを荒ぶっている海が見える。

ああ、これゲームとかでよく見る光景だな。

ドラ○エ1の旅のはじめで目の前に魔王城があるのにわざわざ迂回しないといけないやつ。

けど、こういうの見ると思わず考えちゃうのよね。


「ここから橋を作って渡ったほうが早かろう」


言っちゃったよ。王様。

世界中の誰もが思っていながら、突っ込んではいけない部分を。


「え? いやいや、王様。いくらなんでもそれはむ、無理ですよ。だってほら、そんな橋とか作っていましたら絶対に途中で魔物に襲われますし、あの城から軍勢が来ていい的にされますって」


「構わん。あの城から来る魔物はまとめて全て儂が葬ろう。今から本国に連絡し職人たちをこの場所へ呼ぼう。無論、世界各地からも建築家を雇おう。世界を救うのに金に糸目などはつけぬ」








その後、世界各地から多額の報奨金で雇われた建築家の皆さんや橋職人の皆さんのおかげで瞬く間に橋が完成していきました。

これにはさすがに向こう岸にいた魔王も驚き通り越して唖然とした模様です。


すぐさま大軍勢を送り込んでは橋の建設を全力で邪魔しに来たのですが、送り込まれた軍勢の全ては王様が全力で迎え撃って迎撃しました。

最終的にはあまりに王様が無双しすぎるので、魔王側も防御を整えようという話になったみたいで、橋が完成する場所に巨大な壁のようなものを建設して島へ入れなようにしました。

ですが、結局はそれも無駄に終わり、遂に橋が島に到着し、某進撃の巨人を阻むくらいの巨大な壁が立ちはだかりましたが、それを前にした王様が拳を振り上げ――


「ふうううううううううううううううううううううんっ!!!!」


渾身一撃。

それで壁に大きな穴が開き、僕らは無事に魔王城へと足を踏み入れました。

無論、背後には魔物達の死屍累々を築き上げて。

この人の方が巨人よりよっぽど凶悪だよ。









「ふふふ、よくぞここまで来た異世界の勇者よ。我こそは四天王のひとり傀儡のカイドウ。残念だが、お前たちはすでに我が術中にハマっている。我が能力は一度相対するだけで相手の能力およびスキルの全てを看破し、その能力・スキルの名を口にすることで私はお前たちが持つ能力を……」


「ぬうううううううううううううんっ!!!」


あの。王様。

まだ相手能力の説明途中だったのですが、出会い頭速攻ぶん殴るのはどうかと思うのですが。


「敵を前にダラダラと能力の解説をするなど自ら弱点を吐露するようなものであろう。そもそも戦いを前に余計な口上など不要。獲物前に講釈を垂れるのは三流のすることだ」


うわ、この人言っちゃったよ。敵を前に長々と自分の能力を解説するブ○ーチ的様式美の全否定だよ。

まあ、確かにあれって隙だらけだよな……。






「私は負けるわけにはいかない。ここで私が負ければ病弱な妹がひとり残されてしまう……魔王様は言った、協力すれば私の妹を救ってくれると。頼む、異界の勇者そして王よ。我が妹を救うためにもどうか手を抜いて……」


「敵の事情など知るかあああああ!! 貴様も似たような境遇の人間を何人殺してきたあああああ!!!」


あああー! この人ワケありの敵だろうと容赦なくワンパンだよ!

ま、まあ、確かに物語後半でよく出てくる同情持ちの敵ってぶっちゃけ赤の他人だし、だからと言って悪事の正当化していい理由にならんよな……王様正論すぎる。






「ふっ、久しぶりだな。王よ。オレは貴様に最初に召喚された異世界勇者。だが今では魔王四天王の筆頭タケル。王よ、オレは異世界に来て自らのチート能力を極めた。そして悟ったのだよ。異世界はこのオレが統治するとな」


「異世界に来た途端、チート能力を持っていたからと言ってすぐさま調子に乗ってハーレム築いてあげくに世界支配などに走る愚か者がああああああ!! チート能力なしで成り上がってから出直してこおおおおおおおい!!!!」


返す言葉もございません!!

えー、元勇者にして四天王最後の一人も吹っ飛ばされました。

ほぼここまで全部王様ひとりで無双していました。

気づくと魔王の間の扉が目の前に広がっています。


「シュンよ、いまレベルはいくつだ?」


「えーと、今のでレベル998です」


「そうか。ではこの先の魔王退治には儂の隣に並んでもらおうか。ようやく共に戦えそうだな」


いや、ぶっちゃけ僕いらないですよね?


そのツッコミは胸の内に秘めたまま、いよいよ最後の魔王の間の扉が開かれる。


その先に広がっていたのはまさに魔王の間に相応しき禍々しい王座。

そして玉座に座るのはこの世界の魔王。


「よくぞ、ここまで来た、異世界の勇者よ。まさかこの島にやってくるのに莫大な金を使い橋を建造するとは予想だにしなかったぞ」


あ、はい。それ自分もです。


「我が四天王達も次々と葬ったのは見事だ。だが、それもここまでだ。教えてやろう。なぜこれまで異世界の勇者達が私に勝てなかったのか。それは私が有するスキルこそが貴様達、異世界の勇者を葬るための能力だからだ!」


そう言って立ち上がった魔王から迸るのは禍々しい魔力。

あれ、なんだろう、あの魔王と対峙してるとなんだかすごい虚脱感が襲って来るんだけど。


「ふふふ、体が重かろう? これこそが我が魔王能力『異界殺し』

異世界から訪れた者達のあらゆるスキル、能力、その全てを無力化させる。

つまりお前たち異世界人お得意のチートスキルは我が前では全く意味を持たない! これがある限り、私がお前たち異界人に敗れることは決してない!!」


あ、それあかんやつですよ、魔王さん。

だって、あなたの相手は僕じゃないですから。

そして、あなたが対峙する相手にはそれ全く無意味ですから。


「御託はそれでおしまいか、魔王よ」


ズンッとまるで大地が振動するかのような一歩を踏み出し、一歩、一歩とゆっくり前王に近づく王様。

それを見ながら、目に見える狼狽を浮かべる魔王様。


「ま、待て! き、貴様、なぜ私の能力が効かない?! い、異世界人ではないのか?! いや、待て、貴様のその顔、まさか、こ、国王なのか?!! な、なんで国王がここに?!!」


「決まっておろう」


ゆっくりと一歩、一歩、王様の歩が進むたび、魔王との距離が縮まっていく。

魔王へと迫り来るその姿はまさに死そのもの。

それに恐怖を抱いた魔王は迫り来る王様を必死で振り払うべく持てる魔力の全て注ぎ魔法を放つ。――が、その全てが片手ではじかれ、わずかに肉体に着弾した魔力もまるで岩に激突する水滴のように霧散していく。


「魔王を倒すのは、異世界の勇者などではない」


そして遂に王の拳が、魔王の肉体へと届く範囲へと近づき、両者の距離がゼロへと縮まった。


魔王は絶叫を上げ、持てる魔力の全てを込めた渾身の一撃を放つが、それをあっさりと片手で受け止める王様。


もはやこれはチートとか、そういう次元じゃない。

ただ一言。ジジイ無双だ。


「王たるこの儂じゃ」


王の握る拳がこれまでにない力の凝縮を行いまるで天の光を思わせるその拳は魔王の肉体を貫き、その一撃と共に魔王は絶叫とも取れる雄叫びを上げ、その姿を完全に消滅させた。


ってかこれ、剣いらなかったよね?


「さて、ではシュンよ。戻るとするか」


「え、あ、はい」


「戻った際にはお主には魔王討伐を果たした勇者として報酬を与えよう。なにが欲しいか今のうちに言っておくがよい。おお、そうじゃ国に戻ったらお主を魔王退治の勇者として凱旋パーティを開かねばな」


「いやー、僕はなにもしてないですし、むしろ王様が魔王退治の勇者として国に凱旋していいんじゃないですか?」


そんな僕の提案に王様はこれまでの旅で見せたことのないような嬉しそうな、子供のような無邪気な顔を見せた。


「い、いいのか? 儂が勇者として凱旋して称号をもらって認められても、よ、よいのか?」


「そりゃそうでしょう。魔王を倒したのは僕じゃなく王様なんですから。それに、夢だったんでしょう? 勇者になるの」


僕のその一言に王様はまるで若き日を思い出すように、少年の笑みで頷いた。




そうして、この異世界はその異世界を統治する王様の手によって無事に平和になりましたとさ。




ぶっちゃけ、始めっから王様が無双してて、転生者いらなかったんじゃね? この世界。

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異世界から勇者が来たけれどそんなのに関係なく王様が全力で無双します 雪月花 @yumesiro

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