第3話 ブレインストーミングをしよう

「と、言うわけで気が付いたら朝になっていた」


ここは、大学のサークル内の部室で、先週起こった悲しい事件の一部始終を話していた。


「それで、先輩の企画書の方は1ページも進んでないという事ですか……」

「スタミナが全快だと溢れてしまうのでもったいなく感じてしまって、

しかも全快だと通知までしてくれる親切設計なんだぞ!」

「たった3日で、どれだけ飼いならされているんですか!?」

「すまないソシャゲの中毒性を甘く見ていた、俺はもうだめだあとは頼む……」

「どこから、突っ込めばいいのか分からないのですが、そんな怠惰で無能で徹ゲーしか取り柄のない先輩のために今日はブレストをやりますか」

「取り柄に良いところないよね!?」


不遇な俺を見かねたのかそばで聞いていた久永さんが助け船を出してくれた。


「今日も友里菜ちゃんと真神君は仲がいいね~、ブレストって名前はよく聞くけど、私はやったことないので教えてもらえるかな~」

「分かりました。それではまずは、ブレストについて説明しますね。まずは……」


矢神の話をまとめるとこうだ。

ブレストはいわゆるブレインストーミングの略称で少人数でアイデアを出し合って

連鎖反応や意見の誘発を行う手法らしい。

ゲームに限らず商品企画やサービス企画全般で取り入れられている技術なので

有名ですが、重要なことは4つある。

1つ目は判断や結論を出さない事で自由なアイデアの抽出を制限するような事は

なるべく避けること。

2つ目は粗野な判断や結論を歓迎する。

3つ目は質より量。

4つ目はアイデアを結合し発展させる、ほかの人の意見に便乗すればするほど

良いらしい。


「ただ、いきなりアイデアを出すというのも厳しいので、まず先週先輩が考えた通りスマフォゲームであること、ターゲットは企画の良し悪しがわからないので私たちにしましょう。

つまり10代の男性や女性が好みそうなもの。テーマはだれか何か良いテーマあります?」

「うーん、特に私は何もないかな~」

「じゃあ、テーマは自由で特に考えなくても大丈夫ですね、身近で気になっている事や最近はまっている事などを箇条書きにして書き出してみてください。

その中から面白そうなアイデアやゲームのネタになりそうな物があるかもしれないので神尾先輩もそれで、問題ありませんか?」

「ええ、それで問題ないわレポートが残っているからあとで参加するのでみんなのアイデアを楽しみにするわ」


部室の隅で、ノートパソコンを叩いてた先輩が顔を上げて返事した。

時間を決めてアイデアを出すことになった、黙ってアイデアを出すのは苦手なので矢神に話しかけた。


「スマートフォンゲームの操作ってあらかじめタップを意識したデザインのものが多いよね?」

「スマートフォンゲームは年々拡大傾向にあってファミ通ゲーム白書によると昨年比で約60%増の拡大をしたそうです。最大の成功要因とされるのは簡単な操作性や専用機を必要としない事で子供や女性のゲームユーザー層から受けたことにあるとされています」


「なるほどなぁ」

「拡大と急成長を続けるスマートフォンゲーム業界ですが、取り巻く環境に問題がないわけじゃないです。代表的なのは2012年のコンプガチャ問題、つい最近のグラブル問題などがありますね、あとは度々景品表示法関連で話題になっていたり物議を醸しだしています」


「最初は100円ガチャとかあって、100円なら課金しても痛くないかと思って回していたらいつの間にか3000円ガチャを回すのにも抵抗がなくなるので恐ろしい」

「どこまで、運営の養分になりやすいんですか!?抵抗力0ですよね!?」


「最初はウェブマネーで課金していたので自制が効いたんだけど、クレジットカードで課金してしまうとついつい課金してしまうんだよね~、欲しい娘がSSRで出ると大変だよね当てたときは夜なかにも限らず声をあげてしまった」

「日本のソーシャルゲームのガチャ課金の功罪ですねぇ~、パチンコにはまりやすい人ほどガチャ課金にはまりやすいという話もありますね。逆に、海外のソーシャルゲームではガチャに対して課金するという要素がないことが多いです。私たちがゲームを開発した出すとしたら広告課金型になりそうですね」

「へぇ、広告課金ってアプリやブラウザでネット見ていたら出てくるバナーみたいな広告の事だよね?」


「そうです、見ている側はあまり関係ないのですが一口に広告といっても色々ありまして、まず広告を出したい会社A社があるとして、広告代理店であるB社があります。

B社にはA社の様に広告を出したがっている企業の依頼が一杯あります。

そしてアプリ開発者とB社の間に契約を行い、アプリ開発者が提供しているアプリをダウンロードしてプレイしてくれるユーザーに対してアプリ開発者が決めた位置に対してA社の様なB社に依頼した広告が表示されます。これがいわゆる広告課金型アプリで個人開発者や比較的カジュアルゲームや小規模アプリで採用されることが多いです。特殊な例ではA社が直接開発者に依頼するケースもないわけではないですが基本は広告代理店を挟むことが多いです」


「なるほど、表示される広告って選べるの?お金が発生するタイミングって広告をクリックしたとき?」

「広告代理店によりけりですね、割と多いのはカテゴリで表示・非表示で決めるタイプですかね。先輩が大好きで良くクリックするアダルト広告も表示したり非表示したりできますよ~」


「あ、そうそうついクリックしちゃうんだよね」

「最低」

「流れに乗ったのにひどくない!?」

「冗談ですよ。アダルト広告はCTR高いらしいですね~」

「そのネタまだ続くの!?」

「まぁ、グーグルプレイやアップストア側で最近厳しくて審査が通りにくくなったりアプリを削除されたりデメリットもあるのでアダルト広告は他のカテゴリより気を遣う事が多いです。男性向けアプリなら入れる価値はあるかもしれないですが、女性向けや子供向けアプリでは避けたほうが無難ですね~」


「おっと、そろそろアイデアの発表の時間か」

「先輩、話してばっかりだけどきちんとアイデア考えていました?」

「あぁ、参考になる話だったし、コンテスト出した後のことを考える良いきっかけになったしアイデアの方も十分まとまったぜ」

「久永先輩も大丈夫ですか?」

「わたしの方も大丈夫だよ~」


「じゃあ、まずは先輩のアイデアからお願いします」

「俺のアイデアはズバリ、山の擬人化だ。某艦○れ以降ソシャゲでは軽く擬人化が大ブームで、最近は登山やボルダリングも大ブームなのでそれに便乗したアプリを作ってみるというのはどうだろうか富士山を代表とする日本百名山もあるし山娘のネタはたくさんあって広がりもある、各地の特産品や名物をキャラクター設定に組み込む」

「なるほど、可愛い萌えキャラ化をすればファンも増えそうですね。アイデアとしては非常に面白そうですね!」


「じゃあ、次は私のアイデアを話しますね」

「はい、お願いします」

「私のアイデアは女性なら誰もがやったことのあるダイエットをテーマにしたアクションゲームです、タイトルは走れメタボちゃんって言ってどんどん走って痩せていくアクションゲームです、自動走行でボタンを押せばジャンプする仕組みで食べ物を食べてしまったりコースによっては走る距離が短かったりで逆に目標体重が切れないとゲームオーバーになってしまうというゲームです、ゲームオーバー画面では可愛いメタボの画像を用意しますよ、逆にストーリーが進むごとにダイエットが成功して綺麗になっていく画像を用意したいです」

「女性視点ながら斬新なテーマですね……!ゲームオーバーになりたくないゲームですね」


「男性も最近メタボを気にしている人はいるので、そういう意味では男性でも興味をもってもらえるかもしれませんね、あ、俺も今思いついたアイデアだけどもう一ついいですか」

「ブレストは突発的なアイデア歓迎なんで構いませんよ~」


「タイトルは勇者逃走中っていうゲームで、良くある勇者異世界召喚ものなんだけど、ただしチートな能力が全くなくて、基礎能力も全然高くない当然モンスターと戦っても勝てないのでうまく逃走するゲーム」

「面白そうなアイデアだと思いますが、逃げたままだとゲームにならないんじゃないですかね?」

「そこは勇者御一行として登場させる、戦士・魔法使い・僧侶あたりが強いっていう設定で彼らに上手く倒してもらうっていうゲームだとどうだろうか?」

「話を聞いてると、ニートって言葉が流行ったと思うのですが、いわゆる戦う意欲がない勇者でその勇者をやる気にさせて勝つという設定も面白いかもしれないですね。戦闘中もすぐにサボりだすのでタップしたら戦うみたいな感じで」


「最近、流行った言葉をゲームやゲームの中の会話に取り入れるのは定番とも言えるやり方ですよね、最近では女子力を気にするキャラクターや壁ドンなどの行動を取り入れているアプリやゲームもよく見かけます。」


「話を聞きながらアイデアが思いついたのだけど、私も良いかしら?」

ここまで、聞き手になっていた神尾先輩が手をあげた。


「もちろん、先輩のアイデアも是非参考にしたいです」

「いわゆるRPGに良くあるヒットポイント・STR・DEX・VIT・INTやAGIなどのステータスを全て置き換えて、容姿・気遣い・優しさ・愛嬌・笑顔・弁舌などに置き換えてそれの合計の値を女子力とするゲームで、プレイヤーは女子力を上げて女子力バトルに勝利するのよ!」


「……!ハッ、思わずアイデアが壮大すぎて異世界に行ってしまいました。女子力はバトルじゃないような……」

「先輩は、理解出来ないのも無理がないかもしれないですが、残念ながらバトルです」


とてもじゃないが理解出来ない世界な気がするが、俺は一も二もなく同意した。

長いものには巻かれる事も世の中を渡るうえで重要なスキルだと思った。


「まぁ、女子力については半分話題性を狙った上ではありだと思います。グーグルプレイやアップストアは無料の物が多いですしコンシューマゲームと比較するとダウンロードまでの敷居って実はすっごく低いんですよね。その上で知ってもらう・興味を持ってもらうって他のプラットフォームより非常に重要なんですよね、なのでタイトルで理解してもらう興味を持ってもらうというのは大きな武器になります。ただ、もちろんその先楽しんでもらう広めたくなるような魅力的なコンテンツ作りも重要ですが。今回はあくまでブレストという形式を取ったので結論は出しません、全てのアイデアを使う必要もないので先輩が気に入った形式で気に入った個所を使ってください」


「うーん、どれも魅力的なアイデアで話題性十分な部分が多いので中々難しい部分は今日聞いた中で、どれか技術的に難しいとかあるかな?」

「アイデアの部分を聞いただけでは明確に判断は出来ませんが、今のところシステム的に難しいところはなさそうですね、この後の細部を作るうえで難しい物が出てくることはあるかもしれませんが……」

「じゃあ、今日聞いた中のアイデアから俺の中でゲーム性を考えてきて良さそうな物で開発に入るという形で良いかな?」

「あ、ソシャゲは禁止ですよ?」

「今日の曜日ダンジョンが美味しくて……ディリークエストもまだ終わってないし」

「禁止ですよ?」

「はい」

命の危険を感じて、即答してしまった。俺の意思は弱いな。

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