第2話 夏休みの宿題理論
「俺たちのゲーム開発はまだ、始まったばかりだ!」
「何を言っているんだ、お前は」
帰りの通学路でたまたま帰り道が一緒だったクラスメイトの杉田 豊(すぎた ゆたか)に事の次第を話して華麗に締めくくったつもりだったが、普通に突っ込まれていた。
「どこから突っ込めばいいのか分からないが、感想を言わせてもらうとRPGで装備なしでレベル1でラスボスに挑んで敢え無く全滅した感じか?」
「うぐ……微妙に否定できん、だがクロノ・トリガーでは強くてニューゲームでラスボスであるを開始後数分でラヴォスを倒せるので諦めるには早すぎる!」
「いや、そこは地道に経験値稼ごうぜ……しかし、勇気あるよなぁ大学内でも有名なあの3名に声をかけて誘うんだからなぁ」
「ふっ、よせやい褒めても何も出ないぜ?」
「いや、褒めてないから」
クラスメイトの冷たい眼差しを感じながら話を続ける。
「それで、次はどうするんだ?次の企画の当てはあるのか?」
「もちろん、これから考えるに決まってる!」
「……時々思うんだが、お前って大物になる気がほんの少しごく微量にある様な気がするなぁ」
「それって無いって言ってるんだよね!?」
「いやいや、あるよ!スタップ細胞くらいにはあるよ!」
「冗談はこれくらいにして、本題に戻ると今日教えて貰った事を整理して、もう一度一から企画を作ろうと思っている幸い今日は金曜日だし月曜日までには時間があるので、企画を練り直して月曜日に再挑戦しようかと思う」
「そもそもどうして彼女達なんだ?矢神さんはプログラムのエキスパートでゲーム開発経験もありそうなんだが、久永さんは美術部と言ってもアナログとデジタルの差もあるし、ゲーム開発に対応出来るかも気掛かりだし、神尾先輩もゲームのシナリオ経験があるわけじゃないだろ?」
「あぁ、そう言えばお前はあの二人について知らなかったんだな。
まぁ、あの二人なら例え明日から開発が始まっても問題なく対応出来るし、だからこそ声を掛けたんだ」
疑問符がついているクラスメイトを尻目に話を続ける。
「肝心の企画なんだが、どう思う?」
「そうだなぁ、昨今のゲームはスマートフォン向けやブラウザゲームの様にがっつりゲームよりお手軽にゲームの方が増えてきているよなぁ。
一時期は2Dから3Dに移行が進むかと思っていたんだが、最近はまた懐かしいドット絵のゲームも増えてきていたからそういう業界の流れというか傾向というのはゲームコンテストといえども重視されるんじゃないかな?」
「う~ん、そうだなぁ今日話した感じだとそういうお手軽なゲームなら学生である俺らにも作る事は出来るよなぁ、繰り返し遊べるようなシンプルで分かりやすいゲームルールを思いつく必要はあるが」
「学生コンテストという意味では、下手に商業的なゲームを作るより身近な物をテーマにして学生らしさを見せた方が審査員受けは良かったりしないのかなぁ?あとは、神尾先輩に加わってもらうなら簡単でもいいからストーリーはあった方が良いよな」
「確かに、それはあるよなぁ、ゲームのテーマ選びが重要になってくるなぁ、そうなってくるとストーリーを組み立てやすいテーマの方がいいよな」
思っていないところからのヒントでおぼろげながらゲーム開発が形になってきそうなことを感じながら帰路に付いた。
家に帰宅後30分ほどタイトル名だけが書かれていた企画書を眺めながら内容を考察していた、気分は締め切りに追われている漫画家だ。
今日のサークル活動を経て帰り道のクラスメイトとの色々なインプットをもらったがそれをまとめきれずにいた。
「最近の傾向を考えるとコンシューマーゲームよりスマートフォンゲームだよなぁ……。今日の話しを聞く分にはUIは多少考えないといけないというところはあるが技術的なことはゲームエンジン側が吸収してくれそうだしプレイ時間が長いゲームより隙間時間で遊べて短期的に楽しいゲームが受けやすいというところも開発上の都合と一致している。最近どういうゲームが出ているか確認してみるか、幸いまだ時間はあるみたいだし最近のソーシャルゲームをチェックしてみるか」
部屋に誰もいないので、自然と独り言になっていたが特に気にせず持っているスマートフォンからグーグルプレイを開いて新着ランキングから選んでダウンロードしてみた。
「へぇ……、このコンシューマーゲームは今度の新作はソーシャルゲームで出るのかぁ、アイテム課金制になるのかやってみるかな。コンシューマーと比べるとかなり操作が簡易化しているなぁ、タップだけでほとんどオートで進むし細かく技を選ぶ必要もないし、戦闘のテンポも良いなぁ、スタミナがあるけど最初はレベルアップの方が早くて待つ必要があまりない」
時間がかなり経過して、夜も深夜帯になっていた。
「お、スタミナ切れか。今度はこっちのパズルゲームをやってみるか。指でタップして動かすタイプのパズルゲームかスマフォゲームならではという感じのUIだなぁ、1ゲーム1ゲームが短くて電車の中でも楽しめそうだな、今度は通学途中にでもやってみるか、お、スタミナが全回復したという通知が来たなクエストの続きでもやってみるか」
既に、窓の外は太陽が昇り始めていた。
眠い状態だと、良いアイデアも出ないので2時間ほど睡眠してから企画書を書き上げようとベッドに倒れこむ。
今日は土曜日で、明日は日曜日、お昼に起きてから書き上げても夜までには終わる。
最悪、日曜日もあるのでまだまだ大丈夫だろうと考えながら、瞼が閉じていく。
あれ……、今何時だ……、起きたら日が暮れていた。「まだあわてるような時間じゃない」という名作バスケット漫画のセリフを独り言の様に言いながら机に向かう。
時間というのは不思議な物で、一度気になりだすとそればかりを頭のどこかでおいかけてしまう。
ましてや、ここは自宅、テレビ・プレイステーション4・パソコン・スマートフォン横道と誘惑には事欠かない、そして人間はいやこの場合は俺はだが誘惑にあらがう事など出来ない。
と冷静に思いながら、気づけば月曜日の朝だった。
そう言えば、俺は小学生や中学生の時に夏休みの宿題をいつも最後の1週間でやろうとして31日まで引き延ばしたあげく出来なかったんだよなと思い出していた。
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