ゲームクリエイターになろう!!
@KusanagiKamui
第1話 仲間を集めよう
「ジャンルは王道ファンタジーロールプレイングゲーム。物語の舞台は中世ヨーロッパをイメージした剣と魔法の物語で……」
今日の講義が終わった後のとある教室で、静かに俺の声だけが響く。
「復活した魔王、世界が闇に包まれかけたその時、1人の青年が聖剣をたずさえて……」
窓の外からキャンパスに集まる学生の声が聞こえてくる。
「襲い来る幾多のモンスターを倒し、自身も傷つきながら遂に魔王との決戦を迎える……」
教室内は、静かに沈黙が包まれている、そのせいで俺の声が更に響く。
「そして、魔王との決戦を制して、国を救った勇者として王女と結婚して……」
「ねぇ……」
「だが、魔王を倒したのも束の間、真の黒幕である闇の支配者が現れ……」
「あの……」
「闇の支配者の正体は実は行方不明になった勇者の父親だった……!」
「ちょっと……」
「というゲームを作りたいんだが、一緒に手伝ってくれないか?」
「先輩……、良い病院を紹介しましょうか?」
俺の名前は宮崎 真道(みやざき まさみち)都内の大学に通う大学三年生で
そして先ほどまでゲームのプレゼンを行っていた。
目の前の女性は大学の後輩で名前は矢神 友里菜(やがみ ゆりな)。
黒髪でショートヘアーが可愛らしく、童顔で身長は普通の大学生と比較しても幼く中学生にも良く間違われるらしいが黙っていれば美少女と言って差し支えなくキャンパス内で大きいお友達に人気があるという噂も聞いたことがある。
「ひどいな!?」
「急に呼び出されて、かれこれ30分くらい、ありきたりなRPGの話を聞かされる私たちの身にもなってほしいです。」
「急に呼び出されて、のこのこ来るくらいだから脈ありかと思ったんだけど……」
「うっ……、色んな意味で後悔という言葉が頭によぎりました。ところで、先輩はゲーム開発経験あるんですか?」
「自慢じゃないが、企画書を書いたのも昨日が初めてだぜ!」
ゲーム開発は一般的に、企画者・シナリオライター・グラフィッカー・プログラマー・音楽の5つに分かれる。(中には企画者がシナリオライターを兼務する場合もある)
そして、俺はその中でも企画者いわゆるゲームプランナーを目指している!……昨日からだけど。
「企画書ってさっきの妄想の事ですか?」
「ひどいな!?」
「プログラミング経験は?」
「学校の講義でC言語をかじった事なら……」
「あ、私急用を思い出しました、お疲れさまでした」
「待って、帰らないで同じサークルメンバーじゃないか!」
サークルというのは、サブカルチャー研究会という名前で今までの活動内容はカードゲームやボードゲームなどのゲームやみんなで持ち寄ったアニメや映画などを見るいわゆるゆるいサークル活動でありレポートさえ出せばある程度の自由は認められている。
顧問は放任主義なところもあり部室にもあまり顔を出さない。
「例えば先輩、先ほどの妄想ではなくて企画書だとプレイ時間はどのくらいになる予定ですか?」
「妄想っていったよね!?予定では20-30時間でやり込み要素も入れて40時間くらいの予定かな」
「はい、ありがとうございます。それだけの規模のゲームを作るのでしたらいわゆるプロといった人達が仕事で作ったとしても数十人規模あるいは数百人規模で短くて半年、長ければ1年以上働いて作るのが普通ですね。先輩の大好きなゲームのファイナル◯ァンタジーとかドラゴン◯エストとかマ◯ー3とか開発はどれも数年規模の期間を掛けていますよ」
一番、最後に挙げた作品は数年どころか発売まで十年以上掛かっている。とどうでもいい事を話を聞きながら考えていた。
「うっ……」
「例えばこの部屋にいる4人が全員が仮に賛同してくれて参加したとしても、先輩が提示したゲームを作りきるのはほぼ不可能に近いですね。私たちはまだ学生だし授業もあります。先輩に至っては技量もほぼ素人さんですし?」
「何を言うか、俺には情熱がある、やる気がある、行動力もある!」
「途中で逃げ出しそうな同人ゲームのプロデューサーみたいな事を言っている気が……」
同人ゲームの世界ではプロデューサー=絵もプログラムも出来ない人のに仕切りたがるという偏見が強いとかで嫌われているというのをネットのどこかで見た気がする。
そういう意味ではゲームプランナーも絵もプログラムは出来ないんだけどね。
「経験談の様に聞こえるが大丈夫か?」
「っ……、話が脱線してしまいましたが、先輩の企画書は絵に描いた餅です。ユーザー目線で自分が作りたいゲームを作るというのも作り手にとっては重要ですが、それと同じくらいゲーム作品を完成させ世の中に出すというのも同じくらい大事です」
「しかしなぁ、だとしたらどういったゲームの企画書を作れば良いんだ?」
「……作りやすさで言えば、ミニゲームやカジュアルゲームと呼ばれるものは作りやすいですシューティングゲームやアクションゲームもそうですね。最近はスマートフォンの普及によりいわゆる放置ゲームというジャンルのゲームも出来ています、これも作りやすい部類に入ると思います」
正直、驚いた。
噂には聞いていたが、彼女はゲームプログラミングコンテストに応募していたりしているそうなので既にゲームをプレイする側ではなく、開発する側の視点を的確に持っている。
「ふむふむ」
「最近は昔と違って優れたゲームエンジンがオープンソースとして世の中に出ています。UnityやCocos 2d-xが有名な所では代表例です」
「ゲームエンジンって何?」
「ゲームで必要な様々な機能で、ゲーム性にあまり影響しないところを開発者に利用しやすい形でひとまとめにして提供してくれる物と言えば分かりやすいですかね?例えば画像ファイルを読み込んで表示する、アニメーションをさせるとか音楽ファイルを読み込んで鳴らすとかをプログラムで書けばそれぞれ一からプログラムで書けば結構な行数になりますし大変ですがゲームエンジン側でやってくれます。これによって開発者は本当に実装しなければいけないゲーム部分の実装に集中する事が出来ます」
「へぇ……、世の中って便利になっているんだなぁ」
「それだけではなく、最近ではグーグルプレイやアップストアなどでゲームをリリース出来るので例えば、以前だとコンシューマーゲームを作ろうと思ったら数百万円する開発機を買わなければいけなかったのですが今だとゲームエンジンで作ってインターネットを使えばわずか数千円で公開まで出来るので確実にゲーム開発の敷居は下がっています」
友里菜の話が落ち着いたところで、もう一方から声が上がった。
「あのー……、私からも良いかな?」
彼女の名前は久永 恵美(ひさなが えみ)で大学3年生でクラスは違うが学年は同じだ。
黒髪でツインテール、整った顔立ち、すらりと長い足、若干胸が控えめだがそれも含めてキャンパス内でも正統派美少女と名高い。
美術サークルと掛け持ちだが、このサークルに所属している。絵画コンクールにも入選していて、俺も見せて貰った事があるが素人目から見ても非常に上手だった。
「あのね、この企画書はまず文字だけなので少し見にくいと思う。簡単な物で良いから絵とかあったほうがイメージしやすいと思います。あとは、グラフィック担当としては企画の段階でユーザー・インタフェースをイメージ出来る絵とかあれば嬉しいかな。」
鋭い指摘のわりに、協力してくれる前提で話しをしてくれている分、友里菜よりちょろい存在ではあるように思った。もちろん、口には出さないが。
俺はあと1人の参加者に声をかけた。
「神尾先輩はどう思います?」
神尾 明菜(かみお あきな)先輩はこの中では唯一大学4年生で、最終学年という事もあり忙しいと思って駄目元で声を掛けてみたのだが、意外と早期に内定を決めて時間を持て余していたそうだ。
黒髪でストレートなロングヘアーで、そして彼女の特徴は他の二人にはないすっごい綺麗な巨乳という点だ。すっごい綺麗といっても見たことはないが、体のラインが非常に女性らしく出るところは出て引き締まるところは引き締まっている。
在学中に何度かシナリオコンクールで入賞をした事もあり、シナリオライターとして参加してもらうつもりだ。
「大体、私が思った事は友里菜ちゃんや恵美ちゃんが言ってくれたかな。付け加えるとすると企画書にストーリーはいらない点かな。それは、どちらかというと私のシナリオライターの仕事ですしね。あ、ただプロットはゲームプランナーが書く場合があるけれど、ただ企画フェーズではなくその先の仕様書作成の時に作るのが一般的ね。あとはそうね、ユーザーインターフェイスの話しが出ていたので、ユーザーエクスペリエンスも合わせて考えた方がいいわね、直訳はユーザー体験で要はユーザーに何をどのように体験してもらうかって事ね。言葉自体は新しいのだけれどそれほど難しく考える必要はなく、例えば真道君はゲームをしていて面白かった時はどんな時だろ?」
「そうですね、俺ならRPGだと強いボスを倒した時とかソーシャルゲームでSSRや最高レアを引き当てた時かな~」
「ガチャはちょっと特殊だし日本人特有な部分があるので置いとくとして、強いボスを倒した時の達成感はそれまでの苦労に比例して得られるもので、例えばラスボスが一撃で倒せてしまったり逆にどんなに頑張っても倒せなかった場合はユーザーとしては興醒めな話ね、その辺はゲームデザイン的な話も絡んでくるので一概にどこで決めるのが正解とははっきりと言えないのだけれどユーザーに何を苦労させて何を達成して何を楽しんでもらうかは大雑把にでも決めておいた方が良いと思うし、企画者を目指すなら常に意識しておいた方が良いわ」
なるほど、正直昨日から企画を考え始めたばかりの自称企画者な俺にとっては未知の領域だ。
「先輩、1つ聞いても良いですか?どうして、またゲームを作り出そうと言い出したのですか?コンテンツ消費型オタクが先輩のモットーでしたのに……」
はっきりと言って、そんなモットーを目指した事や自称した事は一度もない。
「うーん、俺たちもそろそろ卒業年度に入るしな、今までサブカルチャー研究会といってもゲームで遊んだり、文化祭ではアニメや映画の鑑賞会をしたりで様々な活動をしてきたが来年からは就職活動も絡んでくるから時間を取れる今に思い出作りも兼ねてゲームを作って学生ゲームコンテストに参加しようと思っているんだ」
「学生ゲームコンテストですかぁ、ググってみようっと」
矢神はそういうと持ち込んでいたノートパソコンで調べ始めた。
「日本ゲーム大賞の一番大きなやつですかね、私たちが出るとなるとアマチュア部門ですかね、へぇ~応募作品のプラットフォームはコンシューマー・パソコン・スマートフォン何でも良いみたいです。評価されるのはコンセプトと完成度とプログラムとグラフィックですか、なるほど~」
「そういえば、プラットフォームって何か意識する必要あるのかな?」
「開発的にはコンシューマ以外は特に意識しなくて、大丈夫じゃないですかね~。先ほど挙げたように優秀なOSS製のゲームエンジンが増えたので、ほとんど同じコードでビルド方法を変えるだけでパソコン・Android・iPhoneどのプラットフォームでも実行ファイルを作る事が可能です。こういうコンテストでは多分どのプラットフォームでも評価はそんなに変わらないと思います、それに……」
と彼女は一区切りした後に、にっこりと笑顔でこう付け加えた。
「先輩は企画内容をもう一度1から練り直す事を最優先に考えたほうがいいと思いますよ?」
そこまで話したところでサークルの終了時間が来たので、週末もう一度俺が企画内容を再検討する事が決まって解散となった。
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