Macro Bot

14話



2031年、4月3日の木曜日。

fb───フィールドボスの【ゴブリンアーマント】をレイドパーティが討伐してから5日経過していた。fbを討伐した瞬間に解放される【インスタンスダンジョンLv15】の攻略がどこまで進んでいるのか....確認したい、出来れば攻略に参加したい、と思う気持ちを抑え、わたしは【スインベルン・オンライン】運営チームのメンバーとしての生活を優先する。東京都港区にあるCuriosity社ビル七階の会議室で果汁100%オレンジジュースの苦味に顔を渋めているのが運営チームのテスター【れいん】で、ログアウト状態の【レイン】がプレイヤー。ネーミング熟練度が3ポイント程しかないわたしは本名をそのままプレイヤー名にするという荒業を実行して5年。本名が【れいん】で助かったと最近では心の底から思える。パパ、ママ、わたしに素敵な名前をつけてくれてありがとう。と感謝しつつ携帯端末で時刻を確認した所、今の時刻はAM9:26。10:00からVR-MMO-ARPG【スインベルン・オンライン】の会議があり、やる事もない(ログインするとやめられなくなる)ので早めに会議室にわたしはポップした。


2031年、3月15日に正式サービスを開始したMMO、スインベルン・オンライン。現在の累計ダウンロード数は100万と少し。基本プレイ無料のオンラインゲームで、数々のメディアで宣伝させてもらった効果か、今やオンラインゲームの存在自体が子供から大人まで気楽にプレイ出来る素敵な時代と環境だからか、正式リリースから1ヶ月経っていない時点で100万DLは....2031年の世の中では平均値だ。


“オンラインゲーム”と、ひと括りに言ってもジャンルは様々。オンラインゲームのMMORPGというジャンルに【スインベルン・オンライン】が存在する。もっと細かくいえば、オンラインゲームのMMORPGのA-RPGジャンルになる。Aはactionの略。

RPGジャンルだけでも種類が複数存在している。


【スインベルン・オンライン】は “A-RPG” 、アクション要素が濃いゲームシステムでPS───プレイヤースキルでステータスの壁を越える事も可能となる種類といえば少しワクワクするのではないか?

他にもS-RPG、So-RPG、T-RPG、J-RPG.....、RPGとひと括りにいっても様々な種類が存在する。自分にどのジャンルのRPGがあっているのかはそのジャンルをプレイしてみない事にはわからない。もちろんRPG自体が合わない人もいる。

基本プレイ無料のゲームは簡単に手を出せて合わなければそのまま投げ、放置してもいい。

正式サービスしてすぐにDL数が100万と少しなのは “試しにプレイしてみよう” と、触れてくれたユーザーの存在も大きく影響している数値でもあり、今やこの無料漁りが基本。漁りといえば聞こえは悪いが、この行動をするかしないか、つまりネット情報だけではなく自らの手でプレイし判断するかしないか、エアプかリアプか。自分に合うゲームを探すにはこの行動が大切になる。試しにプレイして合わなかったら捨てる。このワガママかつ贅沢な厳選が出来る程、今の世の中にはゲームが溢れている。ちなみにわたしも漁りプレイはよくやる。


この漁りプレイはユーザーには最高の条件とも言えるだろう。人数と期間が決められたテストではなく、正式リリースされたゲームをテストプレイする感覚。少しハマればそのまま続行するもよし、一旦保留し他に気になるゲームを覗くもよし。沢山のケーキを少しずつ食べて、最後に気に入ったケーキを食べる通称 貴族食い(貴族食いはわたしが勝手に言っているだけ)と同じ感覚だろうか。


そしてこの漁りプレイは運営側にも悪くない働きをする。ここでユーザーを掴めればプレイヤー数は増え、掴めなかったとしてもDL数は増える。累計ダウンロード数が100万だとしてと実際にプレイしている数は50万。それでも100万DLは嘘ではない。

100万DL記念イベントや感謝プレゼント、アイテムセールなどで盛り上げればメディアに宣伝出来る情報も増え、DLランキングや日刊、週刊ランキングにも顔を出す事が出来る。


数あるゲームの中で人気を出すには、何よりもまずゲームタイトルを知ってもらう事、そしてやっとプレイしてもらう事が大切。シナリオやシステム、世界観が良くても発見されずに終わるゲームは珍しくない。コアなゲーマー達の間では話題になるものの、やはり根強いファンやユーザーが存在するからこそ、長く続けられる世界である事は変わらない。これはゲームだけではなく、音楽や小説、ファッションブランド等でも同じ事が言えるだろう。

誰もが自分の、自分達で創り上げたものに自信を持っているからこそ公開する。だからこそ何よりもまずは知ってもらう事が大切で、重要で、大きな一歩になる。


......と、どうでもいいような、どうでもよくないような事を、ひとり寂しく会議室でオレンジジュースを嗜みながら思っていると自動ドアが開く。やっとぼっちから解放される!と喜んだが、会議室に現れた人物を見てわたしは露骨に溜め息を吐き出した。


「あ?いきなりそれかよ」


会議室に現れたのは【スインベルン・オンライン】にPK、lstシステムをゴリ押しした戦闘狂。PKやlstシステムの他にPvPやmobのAI、戦闘系全般を担当している若きバーサーカーの碓氷。わたしは彼の事を碓氷くんと呼んでいる。


「あ? って不良みたいな言い方だよね。おっすご苦労様です碓氷の兄貴!」


「どこの不良だよお前は」


この碓氷くんとはゲームの話は合う。システム面の話やら深い部分の話は合うものの、考え方の違いで高確率で言い合いになってしまう。PKは百歩譲っていいとしよう、しかしlstシステムはやはり実装するべきではなかったと今でも、いや、【スインベルン・オンライン】でもlst経験をしたからこそ強く思う。


「今日は何の会議だっけ?」


鞄を置きイスにどっさりと座る碓氷くん。会議内容を事前に確認して来ない辺り流石と言うべきか、怖いもの知らずのバーサーカーだ。


「今日はあれじゃん、ガチャ販売の内容うんぬんを固めて、時間があればギルドシステムの話を進める」


「ガチャね....。ギルドシステムのベースは出来てるだろ?次に解放される拠点マップでギルド認定クエストをクリアすれば報酬で設立権利をゲットできるだろ?」


「うん、その先の話を進めようって感じ。ギルドを作るメリットやギルドに参加するメリット、そしてギルドに関わっていないプレイヤーは今まで通りでいいのか」


「なるほどな。確かにギルドに参加しないプレイヤーも存在するし、俺もどっちかと言えば自分で好きにやりたいタイプだ。ギルド参加が大きなメリットとなり、気がつけばソロはデメリットだらけなんて事になれば苦情メールが殺到するだろうな」


「そこなんだよねー。ギルドギルドしていると、これ系のゲームでは必ず起こる事があるもんね」


わたしはそこまでいい、オレンジジュースをクチにした。100%の苦味が子供の頃は苦手だったのに今ではお気に入りまでランクアップしている。


「レイドボスを公に公開せず、少数ギルドだけで情報を共有し倒してしまう事、か?」


「そーゆー事」


まさにそれだ。【スインベルン・オンライン】のフィールドボス、インスタンスダンジョンボスは一度討伐すれば二度とポップしない。ドロップする固有アイテムは無条件でレアアイテムになり、そういったアイテムを集めるコレクターもこの先現れるだろう。ステータスに強い拘りを持つプレイヤーならばレイドボスからドロップする武具は是非欲しい一品。気軽に相談を持ちかける事が出来るギルドメンバーだけで討伐出来ればトレード話も簡単に持ちかける事ができ、一気に成長する事も夢ではない。もちろん勝てればの話だが、3ギルド合同でボス討伐、となればギルドメンバーの平均ステータス次第だが不可能でもない。碓氷くんが言った “少数ギルドで情報を共有” は傍から見れば “少数ギルドが情報を独占” になる。こうなればトラブル一直線だ。


「GvG....最悪GPKやGPKKってエンドレスな流れが見えるな」


楽しそうに言う碓氷くんは元々PK推奨ゲームの住人。わたしも同名タイトルをプレイしていた時期があるからわかる。PK~がルール化、またはエンドレスとなればログイン中は常に気を張り、殺伐とした雰囲気のゲームになる。

GvG、GPK、GPKK....


GvG───ギルドvsギルドのプレイヤーバトル。ルールは様々だが、頭に血が登った高ヘイトメンバー達ならばルールがない事がルールとなり、血戦死闘になる確率がグッと高まる。


GPK───ギルドプレイヤーキル。ギルドにスパイを潜りこませ、情報を一通りゲットし、ギルド内PKを行わせる行為。強いギルドメンバーを冒険に誘い、待ち伏せて一気に殺す。スパイが信頼度を高めメンバー加入権限なんて与えられた日にはそのギルドは終わる。


GPKK───ギルドプレイヤーキルキラー。依頼を受けてGPKを殺すプレイヤー。基本的に報酬で働く為、後から起こるトラブルにはノータッチだから厄介。いつまで経ってもそのトラブルは解決せず、PKK職人は次の依頼を始めてしまい、最悪別のPKKに殺される。


「ほんっと、エンドレス、ループになるね」


「俺は反対はしないけどな」


「わたしは反対するけどな」


バチバチと視線をぶつけ合うわたしと碓氷くん。これがゲーム内だったら間違いなくPvP申し込み通知がフォンに届いているだろう。鋭利な視線をぶつけ合っていると再び自動ドアが開き、一気に人が増える。


「おっはよーう!あらら!?おっさん、お邪魔しちゃった?」


最初に登場したのはmobのポップやドロップ率という細かい調整を任されている滝口こと、タッキー。ラフを越えた見た目からは想像できないが、相当頭がいい。

続いて、クエスト関係に携わっている青葉さん、ゲームのVRCG全般を担当する眼鏡美人の愛ちゃん、ラフ画からデザインを組み上げる恭介&夢夫妻が会議室へ。


「赤城さんは遅れるから先に始めていいって」


クエスト管理者の青葉さんは着席と同時に言う。いつもニコニコ顔の青葉さんは今日もニコニコ。しかし25歳ではないらしい。


「それじゃ早速始めよ!アバターガチャの話をっ!」


吉田さん家の奥さん、夢さんは武具やNPCなどのデザインイラストを描き上げる人。夫の恭介さんも同じく。この二人がデザインしたイラストを愛ちゃんがCG化させ、さらにVR世界へ召喚する。オシャレアイテムとなればこの吉田夫妻の力は必要不可欠となる。


「前回はタッキーが水着だのバニーだの言ってたけど、あれはボツで?」


恭介さんがその話題を出すと滝口さんはギラリと瞳を輝かせる。


「今は4月。つまり....新学期!そう、制服!」


「はぁ....あのね、スインベルン・オンライン初のアバターガチャが制服って、まずそんなMMO見た事ある!?」


すかさず愛ちゃんがタッキー迎撃体勢にシフトする。

4月だから制服という考えは定番すぎるが鉄板でもある。しかし初のアバターガチャが制服というのはわたしもどうかと....。


「やっぱ初ガチャは大事だと思う。スイベルはドロップや生産の武具もレベル高いし、好きな武具の性能で好きな武具の見た目に出来るでしょ?」


「うんうん、生産ビルドを組めば誰でもゲーム内で入手出来るアイテムでオシャレを楽しめるようになるね。ドロップ品の染めも無課金で出来るし」


わたしの発言に恭介さんが付け足す。強い武具の見た目が絶望的、なんて事はよくある事で、それを回避するには課金一択だったが、今はほとんどのゲームで、見た目と中身を変えられるシステムが備わっている。NPCに頼んでゲーム内金を払い合成する事も、自分のサブキャラを生産ビルドにすれば文字通り無料で合成できるようになる。


「下手なデザインのアバターだとガチャを回さないプレイヤーが増える、って事か。オシャレアイテムなのにオシャレじゃないとかよくあるな」


「だしょ?」


さすが碓氷くん。数々のオンラインゲームをプレイしてきただけの事はある。オシャレアイテムがオシャレじゃない問題はひとつふたつのゲームをプレイしただけではハッキリ言えず、複数を漁りやナデプでは尚更気付けない部分。

オシャレアイテムが好みではない、でなく、オシャレアイテムがオシャレではない。つまりゲーム内で入手出来る武具の方がオシャレ度が高いという事だ。こうなると初ガチャが非常に難しい。初のアバターガチャでスベると今後リリースするアバターガチャへの期待値は低くなる。かと言ってゲーム内で入手できる武具のデザイン性を下げるとあからさまに課金してください感が出てしまう。一発目でスベっても次、その次で盛り上がればいいと言えばいい。が、やはり一発目は掴みとして重要。


「まず、どういうタイプのラインナップリストにするの?」


「どういうタイプ?って?」


夢さんの発言をわたしはすぐに理解できず、質問に質問で返してしまったが、夢さんは嫌な顔ひとつせず返事をくれる。


「なんて言うのかな?例えば制服ガチャを出します、その場合デザインは一緒でカラバリ?それとも制服ジャンルでデザインは別々のモノを数種類?小物も同じかな。カラバリか別デザか、何種にするのか、ここらへんはデザイン側的に基本が決まってた方助かるかな。何のアバガチャを出すか~の前にね」


これには恭介さん以外のメンバー全員がクチを揃えて、なるほど、と呟いた。

デザインが決まらなければイラストを描けない、ではなく、種類数や基本的な決まりがハッキリしていなければデザインを描くモチベーションが違うと言う事か。考えてみればデザインが無ければ動けないのは吉田夫妻ではなく、愛ちゃんの方だ。


「確かにカラバリにするガチャもあれば、完全に別系統のオシャレをひとつのガチャに入れるやり方もあるし、ジャンルやニュアンスが違い枠で別のデザインを用意してガチャに入れるやり方もあるね」


クエスト管理者の青葉さんもオンラインゲームをそこそこプレイする。ステータスや効率ではなく、物語やクエストを重視してプレイするタイプのプレイヤーだったからこそ、クエスト管理者の役職につけたのだろう。青葉さんが言うガチャのスタイルはわたしも、碓氷くんも、他のメンバーも理解できた。


制服ガチャならば学年でリボンやスカートの色が違うカラバリスタイルか、春夏秋冬の制服を用意した複数デザインのガチャか、和風洋風の制服を用意した制服ジャンルで全く違うデザインのガチャか。

気付かなかったが確かに重要なポイントではある。


「....ステータス上昇をガチャにつけるか?もちろん限度はあるがSPD系とHP、MPなら+10~50、アタリ性能でドロップ1%~3%upなら問題ないんじゃないか?」


ガチャステアップを反対していたっぽい碓氷くんがついにステータスアップへ!と思ったが効果的にはあって無い様なもの。札束で殴り合うゲームも経験している碓氷くんならば壊れ性能ガチャを押すと思っていたが、やはり今の碓氷くんはPS重視のPv系が好ましいのか。


「そうだね~、そういう面でも色付けしなきゃステータス重視の勇者様は見向きもしないだろうねぇ。ね?碓氷くん」


タッキーは碓氷くんへ “ステータス重視の勇者様だもんね?” と言うような視線を送るも、碓氷くんのスルースキルは高く、タッキーの攻撃を回避しつつ話を反らさず、新たな話題を出す。


「シャックや鈴木はどうした?アイツ等がいなきゃステータス数値関係は決められないだろ」


アメリカからの刺客シャキール、韓国からの刺客ソフィ、そして日本の侍 鈴木の三名が【スインベルン・オンライン】の武具やアイテムのプロパティ、スキルを考案し実装する。日本、アメリカ、韓国、3つの目線から武具やアイテムの性能を考え、スキル性能や調整を行うチームのトップスリーだが、確かに見当たらない。


「ソフィも遅刻って珍しくない?」


わたしは時間を見つつ呟く。時刻はAM10:26、会議は10時スタートで、ソフィが仕事に遅刻する事など今までなかった。それどころか三名全員が遅刻なんて同名レアドロップを数分で連続ドロップするくらい低い確率ではないか?


「ちょっと見て来ますね」


「あ、私もいく」


青葉さん愛ちゃんが会議室から出て、Curiosity社の七階を徘徊する事に。しかし二人は数分で戻ってきた。戻るや否や愛ちゃんが、


「なんかヤバそうだよ!」


と発言すると碓氷くんはすぐに聞き返す。


「あ?なにが?」


今度は愛ちゃんの代わりに青葉さんが説明する。


「メール対応が追い付いてない感じで電話も多い。鈴木さん達はエントランスに居るから行ってみよう」


エントランス、巨大モニターや恐ろしい数のPCがあるメインルーム。ゲーム風に言うと管理区。そこにソフィ達がいるらしく、わたし達は会議を中断し向かった。


「ソフィ!何かトラブル?」


わたしは管理ルームの防音自動ドアが開いた瞬間に声を出すも、電話の音、対応の声、指示などで声が書き消される。


「....む?helloれいんちゃん」


シャックが巨体をわたしへ向けチョコレート色の肌に白い歯を輝かせスーパースマイルで挨拶を飛ばすも、わたしは軽く挨拶を返し状況説明を求めた。するとソフィが数台のPCを平行して操作しつつ言う


「マクロが湧いたっポいンだヨ。それも複数。れいん悪いンだけど、カム繋いで、すぐログイン準備してクレ」


「え、まだハード起動してないや、すぐやる!」


「頼むナー」


わたしは管理ルームを急ぎ出てプレイリングルームへ向かった。VRハードの主電源を起動させていなかった為、起動には数分かかる。いっそ家庭用ハードでログインする事も考えたが、こっち側と会話出来るようにカムを繋いでログインするなら会社のハードでなければ現状不可能だ。


ソフィの言った “マクロ” は別の言い方をすれば “ボット” だ。プレイヤーが操作していない状態でも決められたルートの行動を繰り返す不正....チートの一種。ボットを使えばレベリングや熟練度上げ、金策など自分で操作せずとも可能で、自分が眠っている間にレベリングを済ませてしまう事ももちろんできる。

数あるチートの中で一番簡単で一番多いのがマクロ───ボット。

正式サービスが開始されて1ヶ月も経たないうちに複数のマクロボットが湧くと言う事は───


『れいんちゃん準備できたよ、アカウントはどうする?』


プレイリングルームに青葉さんの声が響き、わたしは少し迷ったがすぐに返事を。


「ありがと!アカウントはレインでお願い!」


『了解。気を付けて、ボットの近くにプレイヤーがいて、動きにおかしな点も確認されてる』


「近くに?....、おっけー!いってきまー!」


カメラに親指をビシッと立て、わたしはプレイリングルームの専用ソファーに寝た。近々このソファーが専用ベッドになると赤城さんが言っていたのをこのタイミングで思い出した。

アイマスク型のハードを装着し、黒い箱にプラグインするとアイマスクがブラックアウトし視界は一瞬で真っ暗に。するとすぐにVRハードの会社名とCuriosity社のロゴマークが現れ【スインベルン・オンライン】のホームが表示される。わたしはログインボタンを指で叩き(この時点で既にVR世界内) キャラクタースロット1の【レイン】を選択しログインする。どこぞの空間魔法を体感しているかのように身体がふわりと浮かぶ感覚の後に足が地面に着く。この着地した感覚を感じた時には既に【れいん】から【レイン】になっている。


Lv18まで育ったわたしのキャラは【ゴブリンアーマント】戦にて個人ドロップで入手した防具を装備している。


『レインちゃん聞こえる?』


通話のように耳元で声が響く。


「うんバッチリ!」


わたしは小声で返事すると『了解、繋がってるね』との返事が来る。カムは運営のみが使えるシステムで小声でもわたしの声は管理ルームに届き、あちら側の声は携帯通話の様にわたしにだけ聞こえる。


『対象はゼリアスの森の座標10.31にいる。アカウントがレインだから運営アシストはカム以外使えないけど、大丈夫?』


「大丈夫。アシストはカム以外使いたくないからレインを選んだんだ」


『わかった、こちらも何かわかったらすぐ教える!気を付けて』


青葉さんの言葉に頷き、わたしは【スタートルの街】から【ゼリアスの森】まで急ぎ向かった。



テストや確認ではなく、初のチート対応に少しワクワクしたって言えば怒られそうだけど、ワクワクしてる【レイン】がいる。


まったく....【れいん】は会議中だったというのに、運営チームも楽じゃない!




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運営チームも楽じゃない。 Pucci @froid

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