13話




深緑色の巨体を包む鎧、ボロボロの大剣を持つ大型亜人種【ゴブリン アーマント】が耳障りな声で叫び、プレイヤー達の恐怖心を煽る。


fb───フィールドボス【ゴブリン アーマント】の咆哮にはダメージ設定がない。耳元で咆哮を受けても、HPは一切削られる事はない。しかし現実世界では絶対に存在しない巨大な亜人種の咆哮はプレイヤー達を怯ませる。






【スタートルの街】を13時30分に出発し、10分後の13時40分。わたし達fb討伐パーティは【ゼリアスの森】の奥にある【ゴブリンの祭壇】へ到着し、祭壇を進みボス部屋の前に到着、そこで作戦を確認し、fbが待ち構える祭壇へ突撃した所だ。

レイドリーダーの【メルセデス】が祭壇の錆び付く扉を押し開くと、4×9の36名が一斉に流れ込む。

薄暗い大部屋の奥でギラつく無数の光はゴブリンの眼光。シュフフ、シュフフと空気を漏らす鳴き声が聞こえた途端、ゴブリン達を指揮する武装ゴブリン───ゴブリンアーマントが咆哮を轟かせた。



「怯むな!相手はファンタジーの定番雑魚モンス、ゴブリンだ!」



メルセデスはどこか楽しそうに笑い叫ぶと、同じく楽しそうに【リバー】が応答する。



「ゴブリンでも大きさはホブゴブか!?」



breakパーティのリバーは祭壇の古くさい石畳を蹴り、ゴブリンアーマントへ一直線。

パーティメンバーも追う姿を見て、わたし達DPSパーティのメンバー【パンミミ】が杖を構え詠唱する。



「阻害後は俺がタゲを取る!」



防御型の強化に白染めで仕上げられたクラブ防具を身を包む、レイドリーダーでtankのメルセデスはガシャリと金属パーツを鳴らし大部屋を走る。

阻害後にタゲ───breakがゴブアマの動きを止める攻撃を済ませたら、ヘイトを稼ぎターゲットを自分に向ける。と言う事だ。

防御型強化をしている為、移動速度は低下する。普段は気にならないが、こういった場面ではbreak達の速度型強化の移動速度には敵わない。最初にtankが攻め、ターゲットを取る作戦もあるが、取り巻きがいるボスの場合は別だ。

スインベルン・オンラインの序盤ではボスと雑魚mobのターゲットを一人で引き受けるにはHPやDEF、DC数値がまだ足りない。


そこで行動速度と回避が高いbreakを最初に攻めさせ、tankは挑発系スキルが届く範囲まで走る。

挑発範囲にtankが到着する頃にbreakの阻害効果───拘束が終わるので、そこで素早く挑発し、ターゲットを引き受ける。


セオリー通りに事が進み、メルセデスはゴブリンアーマントのターゲットを自分へ向け、break達は取り巻きのターゲットを持ったまま自慢の速度を全開にし、下がる。

このタイミングを逃さず、物理武器を持つDPSは取り巻きのゴブリンを叩く。


break達は取り巻きへ攻撃していないため、DPSはただ武器で一度取り巻きを叩けばターゲットは剥がせる。しかしわたしは 成長する迷宮【グロウス ダンジョン】で入手した【スート エスパーダ】に無色光を宿し、初級剣術のスラストを立ち上げる。

ターゲティングし剣術を発動させた時点でゴブリンはわたしをターゲットに選ぶ。breakが軽くでも一撃叩いていれば剣術が入るまでターゲットを変える事はないが、ボスの行動を阻害し、取り巻きに一撃入れるのは相当難しい。


ボロボロの剣でわたしの攻撃を迎え撃つモーションを見せるゴブリン。スラストは名前の通り斜め斬りの剣術。しかしこの斜め斬りは自分の身体───アバターを上半身を中心とした一般的な斜め位置。ここで、


「...っぐ」


小さく声を漏らし、上半身を横に倒す事でわたしのアバターから計算し、出された斜めの位置はゴブリンから見れば垂直。斜め斬りを迎え撃つ様にAIが働いたため、ゴブリンは武器を斜めに振っている。

つまり、頭はがら空き状態。


身体を倒しすぎるとスキルがファンブルしてしまうが、スラストが起動した瞬間───武器が無色光を放ち、武器が動く前、スキルの立ち上がりの瞬間に身体を倒せばファンブルはしない。


現実世界ならば腰と肩を痛めてしまうレベルの無茶な体勢だが、わたしのスキルは問題なく発動し【スート エスパーダ】はゴブリンを頭から入り込み、首を通過し、身体の中心で停止する。

ここで剣を抜き、わたしはスキルディレイで一瞬動きが止まるも、1秒もない停止だ。

バックステップでゴブリンから離れると、ゴブリンのアバターは爆散。


「よし...」


爆拡するデータに目も向けず、ボスへ視線を向けるとメルセデスがゴブリンアーマントの大剣攻撃を盾で受け止める超絶戦闘シーンだった。


他の取り巻きゴブリンは物理DPSがターゲットを取り、魔DPSが詠唱していた魔法を使い処理し終えていた。

break達はDPSが取り巻きゴブリンのターゲットを取った瞬間にボスへ直進し、ボスのスキル阻害を優先し、戦闘していた。


「パンミミ!リリック!」


わたしはボスへ向かう途中二人の名前を呼び、指示...と言えば大袈裟だが、スキルのタイミングを伝えた。


「りょーかい!」

「わかった」


取り巻きの掃除もスムーズに進み、全員でボスを叩く。

ここまでの流れは予想以上に早く、確実にこちらの流れ。

ゴブリン アーマントのHPを確認し、わたし達近接DPSは一斉に攻める。HPは5%ほどしか減っていない。tankはほぼ火力がでないビルド、breakは本来持っているであろう火力を抑え、阻害に神経を張り巡らせている。

阻害系も毒や麻痺と同じデバフ扱い。回数を重ねれば耐性値も上昇する。そのためbreakは一人ではなく数名で阻害スキルを使い怯ませるのが仕事。火力を出しHPを削ろうと思えば不可能ではないが、やはり削りはDPSパーティに任せた方が安全で速い。


片手剣、大剣、大斧、弓やボウガン、魔法での削りは想像を遥かに越えるスピードを見せた。ゴブリンアーマントの推定レベルは13~15だが、募集は10からにしていた。しかし集まったメンバーのほとんどが推定レベル以上のプレイヤーが多かったためtankのターゲット変更のローテーション数も少なく、早くもゴブリンアーマントのHPが半分、50%地点まで消耗する。


「確定だ!一旦下がれ!」


メルセデスが声を響かせると、すぐにゴブリンアーマントが最初の咆哮をも越える叫びを放つ。重量防具を脱ぎ捨てるモーション。これはβでもあった確定パターン。そして、


「メルセデス!」


わたしはレイドリーダーの名前を呼び、メルセデスは頷く。

βテストの時、一人のプレイヤーが、ゴブリンアーマントが武装を解除し終えるタイミングを狙い弓を放った。

α、βをプレイしていたメルセデスならば必ず知っているチャンスタイム。

メルセデスが早口で指示を飛ばす中、わたしはパンミミとリリックへ視線を送り、頷く。


ゴブリンアーマントが重厚な鎧を半分ほど脱ぎ捨てた瞬間、メルセデスが指示を飛ばした。その声を合図に弓使いが弦を弾き、杖使いが魔法を放ち、剣や斧は武器を振るう。ゴブリンアーマントは鎧を脱ぎ捨てた後、2秒ほどのディレイタイムがある。この隙に全員でフルアタックしHPをごっそりと削り飛ばす。

チャンス。しかし同時にピンチにもなる。スキルをフル回転させるという事はスキルディレイがのし掛かるという事。メルセデスはそれも計算し、対応策を用意した上でのフルアタック命令を下したのだ。


「レイン!」


「うん!」


メルセデス、またはわたしの声を合図にリリックの【クラブボウガン】が鳴く。

ガンナー、またはアーチャースキルの【ラインシュート】が大口を開いたゴブリンアーマントの喉を射抜いた。ゴブリンが顔を歪めた瞬間にパンミミが【ファイアボール】を飛ばし、爆炎で視界を潰す。

ここでわたしはAGI全開でボスへ直進、移動のスピードと体重を全て乗せたスラストをゴブリンの弱点であり、間合いでもある、お腹へ撃ち込む事に成功した。


「よし!立て直す!」


ディレイタイムはファイアボールの時点で終わっていたが、わたしのスキルが終わるのを待っていたメルセデスは叫び、ヘイトを稼ぐスキル、ハウルを発動させる。


「HP35%地点で変化!」


と、わたしは叫び、無様にお尻から着地。ぐえっ、と声が溢れるも、咆哮にも似たプレイヤー達の気合いが上書きしてくれた。


ゴブリンアーマントはHP35%で武装を完全解除し、範囲攻撃を乱用してくる。α、βでは速度が上がるだけだったが、正式サービスでは速度+ATKが上昇、さらに最初の範囲攻撃は阻害できない。

わたしが伝える事が出来る情報は『HP35%地点でボスに何らかの変化がある』と言う事だけだ。


とにかく今はHP35%地点まで、出来るだけみんなのHPを残しつつ、素早く削る事。


「tankは俺達だ!一斉攻撃してもタゲは飛ばさない!」


頼りになるセリフでレイドの士気を上げ、tank達はハウルや重ヘイト剣術を使いヘイトの奪い合いをする。その隙にわたしも含めたDPSが総攻撃、break達も阻害を捨て抑えていた火力を存分に披露する。

目を細めてしまう程、派手なエフェクトが炸裂する猛攻でついにゴブリンアーマントのHPは35%地点を通過する。


「全員下がれ!」


ゴブリンアーマントが怒りの咆哮を奮わせる前にメルセデスが短く、ハッキリ声を響かせ、全員全力のバックダッシュで距離を取る。前衛とモンスターの距離は約5メートル。普段の戦闘ならばあり得ない距離だが、今は攻撃ではなく回避に全神経を振っている状態。この5メートルでさえも狭く短く感じる。


ゴブリンアーマントは鎧を力任せに引き剥がし、深緑色の肌を露にし、太く湿った叫びをわたし達プレイヤーへ飛ばし恐怖心を煽る。


ボロボロの大剣の剣先を地面に付け、身体の後ろで構える様なモーション。


「範囲攻撃だ!」

「散らばれ!」


そのモーションを見て大剣使い達が一斉に叫ぶ。ボス固有のスキルではなく、同じ武器種ならばプレイヤーも使う事が出来る剣術───片手剣、大剣スキルの範囲系で一番最初に覚える事が出来る範囲系剣術【スイング】、名前はダサいが踏み込み身体を回転させ剣を振る強攻撃系。踏み込んだ足を軸にして回転するので、その場での範囲ではなく、その場から前方移動で範囲hitの判定があり、ガードブレイク率、クリティカル時スタン率が高く、ディレイタイムは長いがタイミングを見て使うと爆発的な効果を発揮する優秀な剣術。


範囲、散らばれ、このワードを聞き全員が足を動かした瞬間ゴブリンアーマントは巨体を揺らし動く。

開発テストでわたしはこの阻害不可能、確定範囲攻撃のパターンに何度もやられ、フェースで蘇後必ず「fbでこのレベルとか無理ゲーじゃんか!」と文句まで言い放っていた。

スインベルン・オンラインはMMOだがRPGやJRPGではなく、ARPG。アクション要素が濃いMMORPGだ。距離をとってもターゲティングされている間はmobの攻撃が届く謎システムや、ターン制、コマンド制の戦闘ではなく、プレイヤーの反応や判断、行動で様々な結果になるアクション系。ゴブリンアーマントが今まさに発動しようとしている【スイング】はガードブレイクとスタン、中々に面倒で危険なデバフを持つ攻撃スキルだが、当たった場合の話。


「全員回避!ガードや阻害は捨てろ!」


直感的にガードや阻害は不可能と判断したメルセデスは正解を叫ぶも、ゴブリンアーマントがその声を簡単に塗り潰した。

近くにいたプレイヤーは回避の言葉までを拾う事が出来たものの、ほとんどのプレイヤーはメルセデスの声を拾う事が出来ず、何の指示が出たのか、何をどうすればいいのか、そんな不安が足を止めさせてしまった。

わたしも焦りクチを開くも、野太く野性的なゴブリンボイスはプレイヤー達の声を消す。周囲を震えさせる様な咆哮と共にゴブリンアーマントがブレ動き、無色光が水平線を描いた。


わたしを含めた約半数のプレイヤーは恐れを押し殺し、ゴブリンへ向かい走り、一歩踏み込んだ瞬間にスライディングする様に地面を滑り大剣の【スイング】へ対応する。

回避組はターゲットであるゴブリンではなく、他のプレイヤー達を見てしまうのは自然な事。【スイング】後はディレイ状態に陥るため、即攻撃するのが得策だが、レイドの半数しか回避行動をしていない現状はカナリまずい。


重く、しかし鋭い斬撃サウンドが耳に届いた直後、わたしの視界に入っているプレイヤー達は くの字に曲がり、プレイヤー達の前で薄赤色のガラスが粉々に割れる───ガードブレイク。


ガードブレイクはガードしたプレイヤーだけではなく、攻撃がhitした全プレイヤーが対象。薄赤色のガラスが割れると10秒間、DEFとDCが0に設定されてしまう。

つまり、どんな雑魚攻撃でも確定クリティカル、攻撃を受けた時にその攻撃に対して働く防御力とダメージカット効果が、全く働かない状態が10秒間続くという事だ。


「すぐ回復しろ!」


床を滑っていたメルセデスや他のプレイヤー達は叫ぶ。

ゴブリンアーマントの攻撃を受けたプレイヤー達の数名は急ぎポーションを飲むものの、フラフラと揺れる者、床に座り頭をおさえる者、そして床に倒れて動かない者。その全てのプレイヤー達の頭上では4つの星がクルクル回っている。これは───スタン。


スタンは装備のプロパティで耐性値が上がり、特種効果エクストラでスタン率0といった素敵な効果もあるが、現状そんな有能、ユニーク武具は存在しない。

スタンへの耐性値はここにいる全員が初期値=スタンタイムも初期値の10秒。範囲剣術【スイング】のディレイは3秒。わたし達の位置からスタンしたプレイヤー達の位置まで走り、腕でも掴み強引に走ってもゴブリンアーマントのディレイは終わり追撃を背中に受ける事になる。


それなら....


「....いくぞ!」


わたしは叫びゴブリンアーマントを背後から全力で襲った。ファンブルしそうになる程スピードを乗せた初期剣術【スラスト】をゴブリンアーマントへhitさせると間隔をあけずに他のプレイヤーも攻撃、剣術や魔法を背中に受けたゴブリンアーマントは怒りの表情で振り向きと同時に大剣を振る。


「オラァ!」


メルセデスが男らしく、どこか彼らしくない声をあげ、ゴブリンアーマントの大剣をシールドバッシュでパリィし無色光纏う剣で胸を斬る。


───ここしかない。


「前後からフルアタック!」


自分でもこんな大声が出るのか。と思える程大きな声でわたしは叫び、ガードブレイク中のプレイヤー達にもその声と意味が伝わり、動けるプレイヤー全員でfdゴブリンアーマントへ捨て身のフルアタック。


剣術や魔法のエフェクトが派手に煌めき、ゴブリンアーマントは一際野太い声を響かせ、その巨体を豪快に爆散、破片は約1秒後、塵や灰の様に、溶け消えた。





【スインベルン・オンライン】の正式サービスが開始されて14日目の今日、3月29日(土)13時58分。

長く短い18分間の戦闘を終え、正式初のfb───フィールドボス【ゴブリン アーマント】に見事勝利した。








「お疲れ様」


その声と共に回復ポーションを小瓶を差し出してくれたのは今回のレイドリーダー【メルセデス】だった。


「おつあり、おつかれ」


わたしはそう答え、ポーションを受け取り栓を抜いた。

fbを倒した後、その場で座り込みボスの余韻と疲労感を遊ばせていた。



わたしがゴブリンアーマントのテストした時はあくまでも “ソロテスト用にステータスを下げていた” 状態。行動パターンなどに変更はないがステータスがレイド対応状態になるだけでここまで違う。

これはα、βで何度も体感してきた事だが、さすがに妙な疲労感には慣れないものだ。


でも、でもでも、でも。

fbを倒したという事は、


「みんな!」


ほら来た。

レイドリーダーのメルセデスはゴブリンの祭壇の奥を指さした。石の壁が揺れ震え、解放されたその場所。あれが、


「あれがインスタンス ダンジョンLv15 だ」


そう。あれが【インスタンス ダンジョンLv15】フィールドボスを討伐した瞬間に入り口が解放されるメインダンジョン。ダンジョン攻略条件は【プレイヤーのレベルが15以上ある事】だ。レベル15のプレイヤーならば、フィールドボス討伐レイドに参加していなかったプレイヤーも勿論インスタンスダンジョンLv15を攻略する事が出来る。そしてこのインスタンスダンジョンのボスを倒せば次の街への道が開かれる。


現在のレベルキャップは30。

このインスタンスダンジョンLv15を攻略し終えた場合行き着く街は既に実装済み。

フィールドダンジョンもインスタンスダンジョンLv30も実装済み。

Lv30を攻略し終えた場合に初の【アップデート】が入る形。その間にも【メンテナンス】は何度も入る。

今頃、東京都港区にあるCuriosityビル七階のスインベルン・オンライン開発本部ではフィールドボス討伐とインスタンスダンジョンLv15の解放が表示されているだろう。


「インスタンスダンジョンは自由に攻略してもらって構わない、街のプレイヤー達にもダンジョン解放を伝えてくれ!」


フィールドボスを討伐し、フィールドダンジョンを攻略し終えたレイドは歓喜の声を響かせる。

メルセデスは両手をあげ、歓喜溢れるレイドを一度静める。


「みんな!ボス討伐後の本当の楽しみを始めよう!」


ニヤリと笑うメルセデスはフォンを取り出しタップする。

するとアイテムではなく、ログの用なものがメルセデスの前に表示されていた。


「今現在、全員のフォンにはボス討伐時の個人ドロップアイテムが入っているはずだ!この個人ドロップアイテムと経験値は入手したプレイヤーのモノだ!そしてレイドリーダーである俺のフォンには臨時ポーチが追加される!これがレイドドロップ!」



ボス討伐の物理的報酬、と言えばゲームなのにちょっとおかしく聞こえるが、形としての報酬は【経験値】【個人ドロップアイテム】【レイドドロップアイテム】の三種類。

経験値と個人ドロップアイテム───個泥は討伐時、自動的にプレイヤー達に送られる。もちろん泥はランダム。そしてレイドドロップアイテム───礼泥はレイドリーダーのフォンに臨時ポーチ機能が働き、余す事なくその臨時ポーチに入る。


レイドリーダーがその気になれば盗める。この臨時ポーチは、全持ち逃げ するか 全解放するか しかない。

ほしいモノだけを自分のポーチに送り、あとはみんなで分けてくれ!は不可能な使用になっている。


「ボスを討伐した瞬間から、この場所は安置になる!ここでアイテムを分けるのもいいし、時間が許されるならば街へ戻り打ち上げの最中にアイテム分配するのもいいが...今回はフィールドボス。この場でアイテム分配をしようと思うけど、いいか?」


確かにメルセデスの言う様に、フィールドボスの礼泥はその場で分配し、メインボスの礼泥は解放された新たな街で分配するのがα、βからの名残。新たな街で新たなアイテムを入手できる二度美味しい系は一度味わえばもう戻れない。もちろんフィールドボスも同じく二度美味しい系だ。


全員がメルセデスに同意すると、メルセデスはプレイヤー達を少し離れさせる。


「このレイドドロップ、通称 礼泥は一気に臨時ポーチから出るんだよ。この時、下敷きになるとHPが半減するから中々の火力だ!」


笑い言うとレイドメンバー間で「お前いけよ」「やだよ」などの楽しそうな声が聞こえる。


「ねぇレイン」


隣にいたパーティメンバーのパンミミ、ヨシ、国士無双の中のパンミミがわたしに言う。


「あの礼泥を次のボスで使うとボスのHP半分削れるんだよね?」


「うん、確かに削れるけど、その後は本っっ当に大変だよ?」


答えると次は国士無双が笑いながら言う。


「え、まさかやったの!?」


「うん、αだったかな?ボス倒して次の街は即通過してフィールドボスまで走って使ったら、HP半減。半減だから100なら50、50なら25。あの礼泥爆弾じゃ絶対にモンスターもプレイヤーも倒せないんだよね」


HPの半分を削る高火力礼泥爆弾でも、確定で半分だ。相手のHPが2だと1しかダメージは与えられないうえに....


「その後どうしたの!?」


ヨシは続きが気になるらしく、わたしを真っ直ぐ見て質問を突き刺してくる。


あの時の地獄を思い出し、わたしは遠くを見る様な目で答えた。


「アイテムはその場に散らばるわ、ボスは怒って暴れるわ、みんなボスもアイテムも気になって散々だったよ...拾おうとするプレイヤーには怒って、ボスの攻撃や行動には声をかけあって、もう祭りだったね。悪い意味で」



そんな昔のやらかした系話をしていると、メルセデスがついに。



「じゃ、みんな....お礼爆弾いくぞ!」



お礼爆弾。このワードも正式サービスで受け継がれるとは思わなかった。



レイド討伐も楽じゃない。けどレイド討伐は楽しいし、やっぱりその後のアイテム分配も、ボスと同じくらいワクワクする。



lstで諦めなくてよかった。





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