エピローグ
「・・・「連作短編」、ですか」
「どうよ」
二人は執筆空間に戻っている。
「・・・何と言いますか、先生は卑怯な手を使うと言いますか、法の網を掻い潜ると言いますか・・・」
「てことは「アリ」なんだな?」
顔を顰めたままの検閲さん。
「えーと、それはお国に聞いてみない事には何とも・・・」
「ま、それで検閲されたなら、それらの作品はバラバラに出させてもらう。それで読者が気付けば俺の勝ちだ」
「それが認められるとなると・・・規制基準が曖昧になってしまいます。今までロングだったものが短編集としてもしくはバラバラで出された場合どう検閲すればいいのか」
「検閲する必要なんてねーだろ。民やお国が文句言わない限りは」
「・・・そうですね。しかしこう、釈然としないと言いますか・・・」
顰めたままの検閲さん。
「分かった分かった。それも規制するってんなら、また別の方法を考えるまでだ。今回の一件でよーく分かったよ。作家さんと検閲さんは、やはり闘う運命にあるってことがな」
「別に私は・・・」
「それともう一つ。検閲さんのおかげで、こんなにワクワクできるやり方を思いついた。これは、いいパートナーになれるってことでもあるわけだ」
「別に私は、先生とどういう関係だろうと、ベストを尽くすのみです。一切の私情を挟むことなく検閲しますので」
「それでいいよ。それでいい作品が作れる限りは、作り倒してやる。ただまあ自由が奪われてるのは事実だからな。その内戦争が起こるかもな」
「私は強いですがお国はもっと強いです。対抗勢力なんてものは即検閲されるでしょう」
「そりゃ怖いな。戦が出来るように腹ごしらえでもしとくか」
「またパンですか」
「編纂作業っていうの?もう細かいところ直したり繋げたりって大変だわ。すぐお腹空く。検閲さんも食う?」
「頂きます。・・・思い出しましたよ、一編さん。一編さんのペンネームは、私が考えたんでしたね」
「おお・・・そうだよ。全てはお前と出会って始まったんだ」
「そうだ、もう一つ思い出しました。パン」
「お、パン?」
「結局パンがどこに隠されているかは謎のままなんですが」
「え?何?分かんなかったの?」
「わっ、分かりましたよそれぐらい!でも結局明示しないというのは伏線回収作家としてはどうなんですか?」
「・・・一度もそんな事言ったことねえよ」
「一編さんも分からないんじゃないですか」
「わっ、分かってますよ自分で書いてるんですから!そ、そもそも、謎にしたのは検閲さんがその方が良いって言うから・・・え?そこは覚えてないの?」
「そうやって私の記憶のせいにすることで曖昧にして逃げる気ですね・・・?」
「違うから、ほんとに!あー!検閲すんな!折角超大作が出来上がったのに!」
「自分で超大作とか言ってるあたりが検閲対象なんですよ!」
検閲&執筆は続く。
以下回想。
本はいつの間にか少年の元を離れていた。
「その話、面白いです!が・・・面白いん・・・ですが」
口篭る少年。
「何だよ。・・・はっきり言ってくれよ」
「そのー、「帽子の中にありました」で終わっちゃうのは何というか・・・」
「何というか?」
「チープです」
「なっ!!!」
「すみませんごめんなさい年下が偉そうな口を聞いて申し訳ありません」
「・・・いや、確かに考えればそうかもしれない。チープ」
「・・・その、折角話が面白いと思うので、ここはいっそ、あえて、落ちが分かりきっているとしても、あえて謎のままにしておくというのはどうでしょうか」
「なるほど。そうすると一気にランクが上がった!ような気がする!」
盛り上がる二人。
「はい、そう思います!・・・それって、本になりますか?ああいや、短いから本というか紙・・・?ですかね」
「え?・・・いや、ただ面白い話だろ?と思って聞かせて回ってるだけだから」
「そんなのもったいないですよ!面白い話は、紙に書いて写して皆が読めるようにしないと!」
「つまり・・・作家?」
「そうです!ペンネームは何がいいかなあ・・・」
盛り上がる少年。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。俺はそんなのになる気は更々・・・」
「一度書いてみればいいんですよ!それで反応が悪ければやめてもいいですけど、一度試す価値はあります!だってすごく面白いですから!」
「そ、そうか?じゃあ・・・いっぺん、書いてみようかな」
「あ!それいいですね!いっぺんさん、書いてみましょう!」
いつの間にかオレンジの光が二人を照らし、眼を、眼鏡を温かく光らせる。
二人の影はどこまでも続くように長く伸びていく。
その影がいつ交わるのか、いつ途切れるのか。
それはまだ、誰も知らない。
終幕
検閲さんと一編さんのエピソードSSS 寛くろつぐ @kurotugu
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