オールロールプレイ
二人、入ってくる。
「あれ、あの剣どこかで見たことがあるぞ」
「ああ、あれは抜くと王になれる伝説の剣です」
「あんな小さかったっけ!?」
「王になった後も常に肌身離さず持っているためです」
「よし、鍛冶屋を呼ぶぞ」
「自分で抜かないんですか!?」
「だって我輩運動不足だし」
「仕方ありません。鍛冶屋のおっちゃんも狩りをしにここに来てるみたいですから、呼んで来ます」
検閲さん、呼びながらハケる。
戻ってくる。
「あれ、王子じゃーん」
「あっ!お前はいつぞやのクソガキ!何する気だ?今日は何も持ってないぞ!」
「ただの通りすがりだよ。あれ何これ。えいっ。(短短剣抜く)」
「おおおおおおおおううううう!」
「何これちっさ!おもちゃ?ねえ王子、もっとでっかい剣持ってない?これじゃつまんなくて遊べないよ」
「よし、よしよし、でっかい剣あげるから、その剣戻してきなさい。無かったことに、抜いたことは無かったことにしよう」
「えーでっかい剣くれるのが先―」
「人質の交渉みたいだな・・・分かった。その代わり渡したらそれ我輩にくれよ!」
「そんなにこのおもちゃ欲しいのー?えーと、考えとくー」
「あ、あれ?ほんとに誘拐犯みたいに図太いぞこいつ・・・と待ちなさいクソガキ」
二人、ハケる。検閲さん、戻ってくる。
「あれえ?王子どこ行ったんだもーほんと子供の頃からすぐ迷子になるんだから・・・あれえ?おっちゃん?おっちゃんとはぐれた?私が迷子?ちょっと!えーおっちゃん!王子!どこーーーーーー!」
検閲さん、ハケる。戻ってくる。机の脚を折ろうとする。
「よーしよしよしよしよし。奈良名物鹿煎餅だよー。おとなしくしてなよー。よし、これで俺も・・・(笑う)」
一編さん、出てくる。短短剣を首に提げている。
「ちょっとおっさん!やめてよ!鹿さんが可哀相だよ!」
「おっさんはやめろガキ!せめておっちゃんにしろガキ!・・・えー迷子かい?えーと、ここれはねえ、鹿さんの為なんだよ」
「何で?」
「えーとね、確かそうー、鹿さんはね、女の子にもてようとしてこの角で男同士攻撃し合うんだ。そうやって生きてきたんだ。でもそれじゃ、それこそ可哀相だろう?」
「うん」
「だからおっちゃんが角を折ってあげて、傷つけ合わないようにしているのさ」
「へー。おっちゃんは優しいね」
「あああ、ああ、もちろんだとも!」
「でも何だかおかしくない?」
「はい?はい?えーな、何がおかしいのかな」
「折角傷付けないようにしてるのに、折ったら痛いじゃん」
「は?あー、うん、そうかもね」
「だから、これ使って」
一編さん、短短剣を渡す。
「あれまあ、いいのかい?大切なおもちゃなんじゃないのかい?優しいね、坊や」
「別に。いらないからそれ。丁度良いや」
「・・・そうかい。それじゃ、ありがたく使わせてもらうよ。きっと鹿さんも、喜んでくれるね」
「うん!じゃあね!僕も鹿さん見つけたら、角切るようにするね!」
一編さん、ハケる。
「変なガキだな。だがおかげで、楽に角が手に入るぜ。あっ、こら、暴れんな!よーしよしよしよし。痛くない、痛くないよー。痛い、痛い痛いイタイイタイいたいたい!角!角当たってますからー!」
検閲さん、すっくと立ち上がり長剣を納め、短短剣を握り締める。
一編さん、入ってくる。
「パパン、もう行っちゃうの?」
「ああ・・・。我が息子よ、これから暫くはこれをお父さんだと思って好きに使ってみろ。大切にするんだぞ?(短短剣を渡す)」
「分かったよ、これがパパンなんだね。でも・・・」
「そうだな。寂しいよな。お父さん、頑張ってすぐ帰って来れるようにするから」
「そうじゃなくて、もっと薄くて四角くてパパンの顔がかいてあるのが欲しいな!そしたら寂しくないよ!」
「・・・パパンって呼び方はあまり好きじゃないっていつも言ってるんだけどなあ・・・まあでも、これでお父さんの顔を忘れずにいてくれるんなら、安いもんだ。はい(渡す)。これで美味しいパンでも食べなさい」
「へへへ、まいどあり。あっ!これでパパンが四人になった!同じ顔の人がね、四人そろうと消えちゃうんだよ!」
「・・・どこでそんな言葉や物騒な話を聞いてくるのやら・・・じゃあ、消えないように本物のお父さんはもう行くとするよ」
「うん!じゃあね!パパン!パンのお土産待ってるね!」
「・・・」
検閲さん、去る。
「あそこのレストランはパンも鹿の肉も旨いのだ!うん?そうだぞ、鹿の肉は旨いぞ。だから一緒に行こうではないか。そしてその後馬乗りに・・・え?いや、鹿の肉はそんなに臭くもないし汚くも無いぞ?え?我輩?我輩も臭くも汚くも無いぞ?美味しく召し上がれるぞ?だから一緒にパンを食って鹿を食って馬乗りになって我輩を食べっとおおおおおおお!!!」
一編さん、机の脚にぶつかる。
「痛い・・・!おや?何故こんな所に鹿が?あっそうだ!聞いてくれ我輩はその昔鹿を助けたことがあってだな」
「きゃあああああああああ鹿よおおおおお!汚らわしいわああああああ!誰かああああああ!あっ、良い所に我が従者!処分、処分しなさああああああい!何、何もたついてんのよ従者!段取り?段取りが悪いの?ねえ早く処分しなさああああああい!」
銃声。
「え?ああちょっ、え?」
検閲さん、長剣を銃のように構えて入ってくる。鹿の死を確認する。
「お騒がせしてすみませんのう。うちのご主人はえらくじゃじゃ馬で鹿嫌いでして。一度ああなると何をしでかすか分かりませんや」
「えっ、いや、あの、危なかったんですけど。ずれてたら我輩死んでたんですけど」
「その昔猟師をやっておりましたので」
「あーなるほどー。ではなくてだな、なんかその、謝らないの?」
「あーあー。立派な鹿じゃというのに・・・」
「謝らないんだ」
「・・・その昔、猟師をしておりましてなあ」
「さっき聞いたよ」
「ちょうどこんな感じの鹿の角を集めては売り捌いておった」
「えっ、鹿の角ってそんな理由で取られてたの?」
「鹿によっても全然違うが、このくらい立派な角ならば、綺麗に切ればかくかくしかじか相当にもなる」
「え?今値段言ったの?ごめん聞き取れなったもう一回言って」
「かくしてかくかくしかじかを手に入れた昔のわし・・・まさに一角千金という訳じゃ」
「もう何て言ってるか分からせる気が無い」
「何じゃ、分からんのか?一攫千金の「攫」と鹿の「角」をかけて・・・」
「そっちじゃないんだがもうそっちでもいいです」
「・・・それはそれは裕福な暮らしが出来た。遊び呆けたわい」
「それはそれは。自慢話どうも」
「ふと思い返した。この幸せは、あの鹿がもたらしてくれたものだと。そして思い出した。鹿の角を切る理由はもう一つあった事」
「・・・おっさん・・・もしかして」
「おっさんはやめろガキ!せめておっちゃんにしろガキ!」
「・・・思い出した!あん時のおっさんか」
「おっさんはやめろガキ!そうかあのガキか」
「もうガキでは無いがな。・・・そうか我輩は騙されていたのか」
「ほっほっほ」
「通りでこの鹿は角が生えたままなわけだ」
「・・・ん?」
「ん?とは何だ。鹿の角を一度取ればもう生えてこないから傷つけ合うことはないのだろう?」
「そんなことは一度も言っとらんぞ」
「現に、あの時角を切られたはずだった鹿の角が生えているではないか。これは結局、おっさんが角を切らなかった、ということだろう?」
「・・・何じゃその、頭を捏ね繰り回した探偵のような結論は。馬鹿なの?一周回った馬鹿なの?」
「馬鹿とは何だ。分からんことばかり言うな」
「馬鹿を一周回した馬鹿なんじゃな・・・。あのな、鹿の角は取ってもまた生えてくるんじゃよ」
「!通りで!あの後鹿の角を切りまくってもらったが、一向に減らんかった!」
「・・・回っとるの。鹿は角があるもの同士ぶつかり合うが、取れたらまた生えて攻撃するようになっておる。・・・?ちょっと待て。この鹿があの時角を切られるはずだった鹿、じゃと?」
「ああ。どう見てもあの時の鹿だ」
「・・・分からん。わしには分からんが、・・・そんな気がしてきおった。・・・わしは、わしは何て事をしてしまったんじゃ・・・。一角千金の後、その鹿に礼ぐらいはしてやろうかという気持ちで探してみたんじゃ。まあ見つからんわの。見つけていたとしてもわしでは分からんかったじゃろう。そしたらばあのじゃじゃ馬貴族の僕じゃ。そしたらばこんな有様じゃ」
「・・・今ならできるな。お礼」
一編さん、鹿を埋葬し始める。
「・・・お主は・・・何周回っとるんじゃ、頭が。・・・そうじゃな。ありがとう、鹿よ。わしにはもったいないくらいの幸せじゃった・・・今にして思えば、あのじゃじゃ馬に出会ってしまったのは、お前を傷つけようとしてまで儲けたかったわしへの罰、じゃったんかのお・・・」
「あのじゃじゃ馬娘に会ってしまったのは不運だったな・・・おっさんも我輩も。ただし、この鹿はおっさんと出会えた事、寧ろ幸運だったと思うぞ。我輩はな」
「そりゃまた・・・どうしてそう思うのか」
「おっさんと出会えなけりゃ角は切ってもらえなかったかも知れない。そうしたらもっと早くに死んでいたかもしれない。そう考えたら、今まで生きてこれた分はおっさんに感謝してると思うぞ」
「・・・鹿の方がわしに感謝しているだなんて、思いもせんかったわ。・・・本当にお主、馬鹿な頭をしているんじゃの」
「だから馬鹿とは何なのだ」
「・・・。馬と鹿のことじゃ。ところでお主、この剣・・・」
「げっ。世話係が我輩を呼んでいる。まずい。じゃあなおっさん!鹿もおっさんに礼がしたいんだから、折角再会出来たんだから、その角くらいは取っていっても罰は当たらないと思うぞー!」
一編さん、去る。
「この剣の事は覚えておらんのか・・・世話係が居るとなると、高貴な馬鹿なんじゃな。いや、もっと酷いか。鹿の部分しか回っておらんのかの。わしもお前も奴に救われたようなもんじゃ。じゃから、従う貴族の鞍替えくらいはしても罰は当たらんかの。・・・では、ありがたく頂くとするぞ。加工すれば、高貴な鹿の角代わりにはなるかも知れんわい」
検閲さん、机の脚を切る素振り。
「代わりと言っては何じゃが、この剣をやろう。せめてもの墓標代わりじゃ」
検閲さん、机に短短剣を刺す。
「これで恩が返せたとは、処分の償いが済んだとは思わん。残った分は・・・はあ、何だか疲れたの」
検閲さん、倒れる。
雨が降ってくる。
「ああ、苦しい」
一編さん、来る。
「おい!・・・ああ、凄い血だ」
「・・・どなたです?私は目をやられているんだ」
「・・・ただの通りすがりだ。待ってろ、医者を呼んで来る。世話係!」
「止めて下さい。私はもう駄目だ」
「・・・しかし、それ以上苦しむ姿は見ていられない」
「じゃあ、私を今すぐ殺しますか?」
「えっ・・・」
「あなたにそれはできませんよ」
「なっ、お前に何故分かる!」
「はは。それに、その必要もありません。私は苦しむことが楽しいんです」
「何を言っているんだ。・・・この国は勝ったんだ。もう、苦しむ必要なんて無い」
「・・・ちっ、何だ勝っちまったのか。負けたらあんたを死ぬまで敗戦ネタでチクチクいじってやろうと思ってたのによ。王子」
「なっ!我輩が王子だと何故分かった!何だ!実は目が見えているのか!細目か!」
「分かるよ。王子、全然変わってないからな。変わらず馬鹿だから」
「ば、馬鹿とは何だ!段々分かってきたんだからな!馬と鹿の意味にしては使い方が何だか腹立つってこと!」
「やっぱり変わってない。でなきゃこんな所に王子が居る訳ないよ。・・・なあ王子、何で王子がここにいるんだよ・・・」
「・・・だから、ただの通りすがりって言ってんだろ。クソガキ」
「俺はもうクソガキじゃねえ・・・クソ兵士だ」
「ああそうだ、クソ兵士だ。我輩のパンを奪って、王になれるはずの剣まで横取りして、稽古に付き合っても一向に返してくれなかったクソ兵士だ」
「・・・まだ見つけてないのか・・・パン・・・」
「そうだよ。絶対お前が隠したって事は分かっていたのに、結局どんな手を使っても教えてくれなかったな」
「教えたよちゃんと。それにすぐ見つかるはずなんだけどなあ。・・・ああそうか、王子は前か後ろしか見ないんだな・・・立ち止まって下を向いたっていいのに・・・傲慢だから頭も下げないし、腰が低いモノに目を合わせることも無いのか・・・」
「・・・意味が分からない・・・お前が分からない。我輩が分からない。何故あっさり前線に行くだなんて言えた。・・・何故我輩はお前を止められなかった!」
「・・・馬鹿だから、でしょ」
検閲さん、手探りで短短剣を掴む。
「王子、約束だからな、この剣は返すよ」
雨が止む。検閲さん、立ち上がる。
「王子、俺はいつになったら王になれるんだ?」
「知るか。その剣に聞け」
「どうせこの剣の伝説とやらが嘘だったんだろ。王子の世話係も曖昧な情報を喋るもんだ」
「そんな事を言ったら、その剣を返してもらう為に我輩が必死こいて何年もかけてお前の稽古に付き合ってやってる時間はどうなるのだ」
「それこそ知らねえよ。そもそも王子は運動音痴が過ぎるんだよ。こっちが付き合ってやったようなもんだ。それに、そもそも抜いたのは俺なんだから俺のもんだろ」
「あっ!お前、さては初めから我輩に返す気など無かったのだな!騙しおって!」
「・・・そうだな、この戦争で俺は大手柄を上げるだろうから、それでも俺が王になれなかった場合はくれてやるよ」
「・・・やっぱり行くのか」
「王子とやり合っても全然楽しくなかったからよ。もっと息が詰まる様な舞台でなきゃな。知ってるだろ?俺は苦しいほうが楽しいんだよ」
「知らんわ。せいぜいその剣が奪われないように気を付けるんだな」
「誰もこんな剣欲しがらねーよ。王子以外はな」
雨が降り出す。
「じゃ、行くわ」
「・・・おい、」
検閲さん、倒れる。
「おい、無理するな」
「だから言ってんだろ・・・俺は苦しいのが好きなんだよ・・・なのに何だよ・・・王子と居るとろくな苦しみが無え。パンを隠した時だって何のお咎めも復讐も無し、この剣狙ってたってんなら奪いに来るかと思いきやそれも無し、剣の腕も無し、頭も無し、王子の器も無し、冠も無し、あ、冠は付けてんだっけ。・・・ああもう、楽しいなあ。何でこんなに楽しいんだ。なあ王子、何で来ちゃったんだよ・・・」
検閲さん、剣を持った拳が落ちる。
一編さん、剣を拾う。
「お前、結局パンはどこに隠したんだよ」
検閲さん、立ち上がる。
「もうここまで来たら意地でも教えねえ」
「城中探すらしいぞ。王子の野郎どこまでパン好きなんだよ。ちゃんと仕事しろよなー」
「パンを探してる間は、王様のことは探さないだろ」
「・・・お前、それで・・・そうか、お前も父ちゃん居ないんだもんな。気持ちが分かるのか」
「そんなんじゃねえけどよ。ただ、別のことで苦しんでりゃそれが楽しくなるってこともあるってこと、王子も知っておいたほうが良いと思ってな・・・」
「お前、何だか分からんが達観してんな。俺には何を言っているのかさっぱりだ」
「それはお前が馬鹿だからだろ」
「馬鹿って、どういう意味だ?」
「・・・」
一編さん、机に座って紙の束を持っている。
「ああああああああ駄目だ駄目だ駄目だ!また、また死んでる!」
「そう、ですか」
「どうしたら良いんだ!何度書き直しても何度書き直しても書き直しても書き直しても書き直してもだ!」
「それは・・・」
「今度は我輩と一切接触しないように綿密にプロットを立てた!事実うまくいっている!なのに!何故今度は鹿に殺される!?」
「それはですね、深層心理の王子が望んでいるからです」
「滅多な事を言うな藪医者め。お前みたいな出来損ないの世話係が少し知識を付けたくらいで我輩の心の何が分かるというのだ。深層心理の我輩が・・・ああ、そういうことか」
「そういうことです。もう一人の王子。思い出しましたか?」
「ああそうだった。我輩は我輩の中にいる我輩と決着を付ける為に書いているんだったな」
「そうです、いい調子です。一度原点に戻りましょう。王子はどうしてもう一人の王子と決着を付けたいんですか?」
「ああ、それはだな、我輩が、我輩が・・・我輩があのクソ兵士を殺したからだ」
「王子?」
「我輩が殺したのだ我輩があの兵士をクソガキをパンを奪って隠したあの忌々しいガキ伝説の剣を横取りしたガキあいつに一度も勝てなかったあいつを殺して我輩は殺してどこで間違えたどこでガキを殺すに至ったそうだあの剣が悪い世話係お前が伝説とのたまった王になれるとほざいたあの剣がお前が世話係がいやあのパンだパンを何故あんなに美味しそうに我輩はパンが悪いいやパンをくれたのは誰だ父だ王だあの金しかくれなかった王がくれたパンが悪いいや父が悪い王が悪いいや我輩が悪い我輩が悪い我輩が悪い我輩が悪い我輩が悪い」
「その通りです」
「・・・そうか、やはり我輩が悪いのか我輩は我輩を悪い我輩を殺さなければ殺すそうだこの剣が悪いこの剣で我輩を殺して我輩の口にパンを詰め込んで王の顔がかかれた金を詰め込んで」
「全てが悪いのです」
「・・・ならば我輩はどうすれば」
「書くのです。起こった事全て。悪いこと全て。ありのままを。それを止める者は居ません、居るとすればそれはもう一人の王子あなただ」
「あああ、もう我輩は駄目だ。何度言い聞かせても、何度やり直そうとしても我輩は殺す。もうこれは脅迫なんだ。我輩も同じ道を歩むと我輩に死以外は無いんだと我輩に我輩が教唆してるんだああああああああ!」
一編さん、紙をばら撒く。
「いいえ駄目なんかではありません。その為の作業です。いいですか、王子はこの物語を無かったことにしてはいけません。無理に抑え付けてはいけません。確かに王子の行動がきっかけであの兵士は死んだのかも知れません。しかし、あなたの行動が無ければ。あの兵士はもっと悪い形で死んでいたかも知れません。聞くところによるとあの兵士は幼い頃に父を亡くしています。だからこそ似た境遇である王子との接触は大きな物だったはずです。あの子にとっても、王子にとっても。だからこそ再認識するのです、王子の頭の中で。王子の書く物語の中で。王子が思い描いた物語は、決して人が死ぬ物語ではない。人が出会って分かち合う物語であるのです」
検閲さん、紙を拾い机に置く。
一編さん、短短剣で大きく×印をつける。
「これは駄目だ。嘘が入っている。全部一からやり直しだ」
「王子」
「これはお前が持っていてくれ」
「しかし・・・」
「我輩は馬鹿だからな。今みたいに嘘の話を書くかも知れない。間違ったことを書くかもしれない。だからそんな時に、お前に正してもらいたいのだ」
「・・・仕方ありませんね。(もらう)」
「よし、では早速書き直すぞ。こういうのは気分が乗っている時でないと進まんからな」
一編さん、書き始める。検閲さん、検閲。
「ええええええええええ早くない!?」
「王子、字が汚いです」
「さっきはそんなこと言ってなかったじゃん」
「これはもう王子の中だけの物語ではありません。王子が世に伝えるべき、一人の英雄と一人の馬鹿、そしてそれにまつわるあらゆるものの物語です。こんな字では誰も読みません」
「馬鹿って我輩のこと?馬鹿とは何だ馬鹿とは」
「さっきあんた自分で使ってたでしょーが!」
執筆&検閲は続く。
オールロールプレイ終了。
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