1-2 鎮圧する者「サバダー」

 はるか昔、人類は様々な人智を超えた脅威に晒されていた。

 悪魔だの妖怪だの怪物だの、現在では映画や漫画の中にしかできない存在達。

 

 そして、それらから人々を守る、退魔師だのエクソシストだのと呼ばれていた人々。


 科学の発展に伴ってそれら超自然的存在が非科学オカルトと名付けられた世界でも、彼等の存在意義は変わってはいなかった。


 「いや違うんですよおまわりさん。決して怪しい者ではなくてですね」


 彼等は現在でもその名を変えずに人知れず活動を続けている。オカルトの被害を受ける人間たちは今でも一定数存在しているからである。


「ちょっとココらへんで調査をしてるんですよ。ええ。なんでもここらへんで下半身がちぎれた女を見たとかで」


 文明の発展とグローバル化により、彼等も体制の改善を迫られる。

 はじまりは19世紀半ば。まだオカルトという言葉が形をもたず、地域によって様々な呼ばれ方をされていた時代。一人の女性を発端に、それまで敵対していた各宗教組織を統合しようとする運動が起こった。

 「宗教の垣根を超えて人類全体で協力し、組織的に超自然的な脅威に立ち向かおう」

 この理想論にも等しい目的をかかげ、彼等は各宗教組織を懐柔しに回った。非科学オカルトという概念が造られたのはこの時期だと言われている。

 

「え、この手に持ってるのですか? ……御札とか……ですかね」


 結論から言うと、この運動は失敗に終わった。そもそも、信じる神が違うという現状を理屈だけで改めるなど無謀だったのだ。この失敗により、かの女性は社会から追放されることになる。

 しかし、その理念事態は間違ったことではなく、宗教組織の人々してもその事実は無視できるものではなかった。結果、この騒動の影響で各宗教組織はとりあえずの連携体制をとるようになる。彼女らの運動は、決して無駄ではなかったのだ。

 そして同時に、宗教組織に属さない対オカルトを生業とする者達の総称、『サバダー』という言葉が誕生。

 以降、各国家は世間から隠す形でサバダーを中心にした対オカルト体制を構築。宗教に所属しないサバダー達を雇用し、治安維持のための職員として使役するようになった。


「えっ、職業? えっと、公務員……的な。身分証はちょっと今出せないけど」

 

 その数十年後の世紀末。あるオカルトにより世界は滅亡の危機を迎えるが、全世界のサバダー達が協力することでその危機を回避することに成功する。 

 この、対オカルトに多大な功績を残した一連の騒動を、後の人々は旗印となった女性の名を借りてこう呼ぶ。

『ブラヴァツキー夫人運動』 と。


「ホント! ホントに怪しい者じゃないんですって! やめて! 連行しないで! テケテケが! 査定がぁぁぁ!!」


 時は現代21世紀。関東地方のニュータウン、希望が原。

 深夜3時ごろの住宅街にて、痩せぎすの青年が地域住民の通報により駆けつけた警察に連行されていた。


 これが、現代の退魔師、サバダーの現実である。

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非科学達は今日も踊る 林 佑 @C_shock

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