1-1 ある恋の結末
ある女は、その日、燃えるような恋をした。
女は、あるよく知った人物が亡くなったあとの葬儀場で、とある男性に一目惚れをしたのだ。
女は自分には自信があった。自分に言い寄ってくる男は履いて捨てるほどいたし、女もそんな現状に満足せずに女としての自分を磨き続けてきた。そんな自分が初めて男性に愛されたいと思った瞬間が、その男を初めて見た瞬間だった。
彼は、私にこそふさわしい。そこらの女は、彼に愛されるに値しない。
これまでの経験と努力に裏打ちされた自信が、彼女にそう信じこませていた。
かくして、女はその男へのアプローチを始める。幸い、葬儀の芳名録を盗み見て彼の名前と住所は知ることができた。
最初は、向こうから声をかけてくるようにさりげなく近くを通り過ぎる。しかし、男は女に見向きもしない。
次は、偶然を装って男の職場に。それでも、男は女に見向きもしない。
次は、自宅の近くまで行き、男に話しかけた。
それでも、男は女に見向きもしなかった。
当然だ。あの葬儀とは、その女の葬儀だったのだから。
女は、死した後もこの世に残った幽霊となり、自分の葬儀に参列した男に恋をしたのだ。女と男には、生者と死者という壁がある。男が女を認識することができないのはごく当然であった。
しかし、女は自分が死者であることに気づくこともできず、己の恋心に従って男を追い続ける。
男に、恋人ができた。女は、すぐに破綻すると信じこんで自分の嫉妬を抑えこんだ。
男が、結婚した。女は嫉妬の炎に燃え上がり、男の嫁に危害を加えようとするが、謎の力に阻まれて干渉することができない。そこで、女は初めて自分の現状を理解した。
男に、娘ができた。幸せそうに笑う夫婦とその中心にいる命を見せつけられた。
女は、嫉妬に飲み込まれた。
どうして、私を愛さないの。どうして、私を抱かないの。どうして、私じゃないの。どうして、どうして、どうして。
……そうだ、あの女だ。あの女が何かして、私から彼を奪ったのだ。あの女が私に化けてあの男の種を奪ったのだ。そうだ。そうに違いない。
あの女が。あの娘が。私の恋の邪魔をする。私が得るはずだった愛を掠め取る。あいつらを殺さなければ。殺してやる。殺して殺して殺して殺してーーーーー
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