0-1黒猫屋へようこそ(3)



我輩は猫である、ただし化け猫である。

名は黒猫さんである。


黒猫だから黒猫さん。

皆がいつしか儂をそう呼ぶようになったのじゃ。





うむ、なかなか知的な化け猫であろう?

儂は他の化け猫とは違って知的だからのぉ。

何でも儂に聞くと良いぞ。


儂はこの街のことなら何でも知っておる。

それこそ梅子が乳飲み子の頃にはすでに儂はこの街におったのじゃから。



何?お主、梅子を知らんのか?

黒猫屋の梅子じゃよ。

ほぉ、お主は孫の千夜ちよしか知らんのか。


よし、千夜が小さかった頃の話をしてやろう。

そうさな、あれは3つの時じゃったかの。

儂の存在に気付き始めた千夜が儂に近づいてきたんじゃ。


儂を人形だと思っておったようで儂の毛艶の良いこの二又の尾を鷲掴みにしては、力任せに振り回してあちこちにぶつけてはキャッキャと楽しそうに遊んでおったんじゃよ。




儂が化け猫だったからよかったものの、本気で死ぬかと思ったほどじゃ。



ん?千夜さんはそんな乱暴な子じゃない?

若いのぉ。

千夜は口は悪いし、儂の扱いは雑だし、全然儂に優しくない!


いや、優しく撫でてもらいたいとか、仕事の後の飯は豪華にしてほしいとか、もっと儂に甘えてほしいとかそんなんじゃないぞ?



ツンデレ?なんじゃ、それは。

ふむふむ、なるほど。

儂はツンデレとかいうのではないぞ。

黒猫屋は儂が居るから成り立っておるのじゃ。

千夜のあくせさりーなど恐るるに足らず!


千夜のあくせさりーは人気があるようで、たまに普通の客を招き入れては即日完売しようとも儂は全然、悔しくなどない。




黒猫屋は恨みや憎しみを持つ者が訪れる儂の店なのじゃ。


千夜はそれが分かっとらん!

梅子は優しかったのに、旅に出かけてしまった。

千夜に黒猫屋を任せるなど梅子がするはずがない……



儂は泣いてなどおらぬ!

黒猫屋は儂が守るのじゃ!









「黒猫さん、お仕事ですよ〜。ほら、お客さん待たせるなんておばあちゃんにチクりますよ〜?ほら、さっさと【黒猫さん】出してください〜」




むむ、儂の客が来たようじゃ。

それじゃあのぉ、若いの。





「黒猫さん、誰と話してたんですか?へえ、白猫のメスと。ほースケベですね、黒猫さんは。あれ?泣いてるんですか?自分より若い化け猫の尻尾が4つもあって、しかも神の遣いに……それは面白いですね〜。黒猫さんは400年の猫生にゃんせいで未だに神のお声の掛からない二又の妖怪だという滑稽な化け猫なんですもんね〜」





千夜のくせに。

生意気なことを……


儂は黒猫屋で穢れた魂を喰う化け猫で満足しておるのじゃ!

今日の客は不味そうじゃが、仕方あるまい。

それが儂の猫生にゃんせいじゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黒猫屋〜貴方の魂頂きます〜 天ノ川 アリス @miranda725

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ