僕と実里の日常

佐倉七花

第1話



「お花見をしよう!」


朝一の実里の唐突な一言にはいつも驚かされる。


「もう6月なんやけど…」


「誰も花を見に行くなんて言ってないでしょ?」


訳がわからない。


お花見っていったじゃないか。


なのに花を見ないってどういうことだ?


僕はそんなことを考えながらいつも通り適当にあしらう。


「そう…それで?」


「それでじゃないわ! 今から行くに決まってるでしょ?」


なんてこったい、早速連れ回されるようだ。


僕の平穏な土曜日はこうして幕を閉じた。






それは案外楽しみでもあるのだけれど。







午後8時 @高校の校門前



「それでこんな時間にどうするんですか実里様?」


「お花見を作りに行くわ!」


駄目だ、さっぱり意味がわからない。


お花見を作るってこと以上に分からない事がこの世に存在するのだろうか?


少なくとも僕には今思いつかない。


仕方がないので、また曖昧な返事をする。


「うん… 」


実里は目を丸くして僕を見る。


「分かんないの? もー…ついてきてよ」


実里は僕の右手を掴んで歩き始めた。

どうにも実里のペースは分からない。


「どこに行くんですか?実里様。」


「女王様はショプセに行くのよ!」


どうやら様呼ばわりは意外と気に入っているらしい。


そういうのところは単純だ。


それにしても実里の略語のセンスはどうにかならないものか。


唯一にして最大の欠点、


命名センスの無さ、こればっかりはどうしようもない。



「ショプセってなんですか? なんの略語ですか?実里様。」


「馬鹿ねえ、ショッピングセンターの略に決まってるじゃないの!」


どこから来たんだその「プ」は一体。

それならショップングセンターになるだろ。どうなってるんだ実里様の思考回路は…。




そんなくだらないことを喋ってるうちにショプセについた。



「ほら、買いに行くわよ!」



どうせ花屋にでも行くんだろうな。


それで部屋一面を花で埋め尽くして“お花見”とか言うんだろうな。


そんなことを考えていた僕はなぜか百均に連れて行かれた。


「あんたはここで待ってて!」


まてまてまて、連れてきておいて買い物は一人で済ませるのかよ。


なんて奴なんだ。


そんなことを考えながら、

素直に待っている僕。


20分もしないうちに実里は帰ってきた。


パンパンになった袋を両手に幾つもを提げて。


「何を買ったんですか? 実里様」


「教えるわけ無いでしょ?」


なんて奴だ、強引に連れていき、待たせて、買い物をしたうえで、内容は教えない。


あんたはなんだ、女王様か?


あ、女王様なのか。


そうだ実里様なんだった。


そしてまた実里様は袋の間から僕の右手をとって、伴にショプセを後にするのだった。


次に連れて行かれたのは高校だった。


戻ってきたのだ。


「もう夜の九時ですよ?」


「今からがお花見の本番じゃない!」


何回だって言ってやる、意味がわからない。


夜の高校ってなんだ。


何しようってんだ。


「これよ! じゃんじゃんやるわよ!」


彼女が取り出したのは


“花火”


だった。それも小型の筒のやつを何十発も。


「夜空に花を咲かせましょ。夜空に花を描きましょ。あ〜よいしょ!」





ヒュ〜、ドーン、パチパチパチパチ





ヒュ〜、ドーン、パチパチパチパチ





ヒュ〜、ドーン、パチパチパチパチ



実里様の“お花見”がやっとわかって僕はなんだか安心した。



ただ、それ以上に、無邪気に花火に火をつける実里のほうが僕には印象的だった。



「あんたも手伝いなさいよ! 盛り上がらないじゃないの!」


「今、手伝いますよ 実里様。」


こんな“お花見”も悪くはない。


あれ、楽しんでるじゃないか、僕も。


まあ、いっか。 そんな考え事をしていた。


だけど、何よりも実里の笑顔のほうが何倍も花火より大輪だった。


「なに私をぼーっと見てるのよ、早く火をつけなさい!」


苦笑しながら僕は実里の手伝いに振り回されるのだった。
















次の日、先生にはこっぴどく怒られた。


チラ見してこちらに謝る実里もそれはそれで可愛いかったけれども―

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僕と実里の日常 佐倉七花 @Sakura-Nanaka

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