幸せという――

「ただいま」

「俊? お帰りなさい、今日は早かったのね……え? そちらの綺麗な女性は……どなた?」

「紹介するよ、俺の結婚相手のネクロスだ」


*****


「お帰り、お姉ちゃん。なんだか疲れているみたいだけどどうしたの?」

「単純に色々あり過ぎて疲れた」

「あ、そう」


*****


「ただいま」

「お帰り、花奏。まだ母さんは帰ってきていな……」

「姉さん?」

「このハーレム野郎!」


 帰宅からの罵倒に花奏の表情が引き攣る。それを眺め、セレナとカナは内心面白がっていた。彼のそんな様子を見たのは余り多くないからだ。そして――


「初めまして、義姉様。カナデの妻のセレナです」

「初めまして……お父さんのお姉さん。お父さんの娘のカナです」

「……何か言い訳があるのなら、聞くけど?」

「言い訳?」


 何を、何に対してしたら良いのだろう。そう思っていると姉の拳が迫っていた。ヘカーティアに比べると蠅が止まるのすら容易に思えるその拳、敢えてそれを手で受け止めて


「姉さん、俺には誰に向けて何を言い訳したら良いのか分からないんだけど」

「未成年が妻を連れてきたのは良いけどあんた子供がいるってどういうことよ!?」

「ん……その辺りも、説明するよ。それよりも上がって良いよ、セレナ、カナ」


*****


「正樹、お帰り。なんだか疲れているみたいね、もう寝なさい」

「あぁ……そうするよ」


*****


「転校生のカナです。よろしくお願いします」

「おなじくセインです」


 その頃、別クラスでは――


「転校生のレンです」

「同じくネリスです」


 そしてその日、外見が気に入らないという理由で4人は襲われたが――襲った19人はぼろぼろになり、地面に捨てられていた。その晩、


「ただいま、お母さん。テレーゼは?」

「テレーゼは色々と分からないことが多いのでアオイのところに行きましたよ」

「あ、ヘカーティア。ただいま」

「お帰り、レン。三人は一緒じゃないの?」

「三人はなんだか分かんねーけど男に声を掛けられていたから置いてきた」


 そうなんだ、とヘカーティアが思いながら窓の外を眺める。すると道路を歩いている二人が見えた。とりあえず窓を開けて


「テレーゼ! お帰り!」

「ただいま、ヘカーティア。何かあったの?」

「ううん。なんとなく」

「そっかー、なんとなくかぁ」

「なんとなくで静かな住宅街に騒ぎを起こさないでよね」

「あ、アオイ?」


 葵はビニール袋を少し高く掲げ、微笑んだ。


*****


 あれから五年が過ぎた。今じゃ花奏は立派な旦那として、すでに会社に就職していた。


「それで? どうしたんだ?」

『どうって言われても困るんだけどよ……同窓会でもしないか?』

「嫌だ。アクラに斬られそうだしヘカーティアには殴られそうだしテレーゼには魔法をぶっ放されそうだし」

『えー。良いじゃんかよ。せっかくの機会だぜ?』

「何だお前幹事でも任されたのか?」

『何故バレたし』



 正樹の言葉に苦笑していると、歩いている女性が見えた。そして――


「あ、お父さん。ただいま帰りました」

「お帰り、カナ。学校はどうだった?」

「相も変わらず、言い寄ってくる男ばかりで面倒です」

「それも青春だよ。平和な人生に離れたか?」

「ええ。ですがあんな目つきで殺しにかからないなんてこの世界は不思議ですね」


 それに苦笑していると


「お母さんは帰っていますか?」

「ん。今は風呂で汗を流しているよ」

「そうですか。私も汗をかいているんですが……まぁ、我慢するとしますか」

「一緒に入るのは無理なのか?」


 カナはあはは、と楽しげに笑って玄関に足を進めた。そして一回の扉が開く音がして


「お帰り、カナ」

「ただいま、お父さん」

「今日はどうだった?」

「いつも通りみんなでストバスしてきましたよ」

「楽しいか?」

「ええ。力で勝っていても技術で負けている、それがなんとも言えないハンデとなっていますから」

「そうか」


 カナたち4人はストバスチームを創り上げていた。地域大会で何度か優勝を果たしているらしい。ちなみにアクラたちは何故かこっちに馴染んでいる。そして6人で同居している。


「おや?」

「あら、カナデじゃありませんか。そんな暇そうな顔をして、無職みたいですわね」

「ふん」


 ネクロスは洗濯物を取り込みながら笑った。そして――窓が開いて


「おかーさん!」

「あら、どうしました?」

「なんでもなーい!」

「まぁ」


 ネクロスと俊の子は元気な子だ。何故か知らないが名前はまだ教えてもらっていない。そう言えば――


「ネクロス」

「なんでしょうか?」

「同窓会のような物の知らせは来たか?」

「ええ。セレナも行くそうですね」

「なぬ」


 俺は聞いていないぞ、と思っていると


「全員が強制参加らしいな。お前も来い」

「俊……まぁ、久しぶりだしな」


*****


「セレナ」

「なに?」

「替わろうか?」

「ううん、卵を温めるのはお母さんの私の役目だからさ、カナデは堂々としていてよ」


 セレナは長い尻尾で卵を二巻きし、そのまま卵に頬ずりする。


「どんな子かなー、カナデみたいな子かなー? 私かなー? カナかなー?」

「なんだか蝉のような鳴き声ですね……お母さん、とりあえず温めるのは私がするから同窓会に向かってはいかがですか?」

「……カナ、それがだな」

「え?」

「同窓会をするの、うちでらしい。セレナが勝手に決めていた」

「ええ!? 片付けないといけないじゃないですか!?」


 どたどた、と珍しく慌ててカナが自室やリビングの掃除に向かった。


*****


「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」

「……乾杯」

「かんぱいっ!」


 元気な彼らを眺めていると、少し疲れる。だが


「花奏、飲んでる?」

「まさか。まだ娘たちが起きているからな」

「酔っ払うわけにはいかない? パパしているねぇ」

「ああ」

「そっか……」


 葵はグビリ、と炭酸飲料を飲んで


「セレナ」

「なに?」

「まだ愛妾って良いの?」

「良いよー。カナデが好きなのが変わっていないんならねー」

「うん、変わってないよ」

「アオイ」


 葵の動きが止まった。そして――


「カナ?」

「お母さんが良いとずっと言い続けていたのですよ。だから私はあなたをお母さんと呼ぶ気はさらさらありませんが、お父さんの妾になることを望みます」

「え……良いの?」

「ええ。お母様は卵を産んだのでしばらくは体をゆっくりと休めないといけません。その間にしっかりと妊娠してください」

「ええ!?」


 葵自身が思っている以上にセレナと、そしてカナに認められている。それに葵が驚いていると


「……葵」

「なに?」

「相変わらず魅力的な尻だ」

「……もぅ」


*****


 結局世界は一つ滅んだ。世界の危機で召喚された勇者達が世界の危機自体だとは誰も思わなかったのだろう。

 召喚し、魔の領域の土地を得ようと思った王は死に、悪魔たちと天使たちも死んだ。もう、何も残っていない。だが誰も、そのことを後悔していなかった。


 魔王と呼ばれる少女は高校生になり、勇者と呼ばれた青年は立派な父親となっていた。それだけで充分だった、それだけで幸せだった。

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二度目の勇者はクラスメートと共に 孤面の男 @Komen

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