コエが聞こえる

水氷花雪月

コエが聞こえる

部活が終わり、帰路につく。

今日の練習はきつかっただのなんだのと、友達と軽口をたたきながら歩くこの時間は割と好きだったりする。


帰り道、3つ目のコンビニを過ぎたあたりから私は一人になる。

梅雨前にも拘わらず、じっとりとした暑さ一歩手前の気持ちの悪いぬるさが全身にまとわりつく。

部活用具の入ったカバンの重さも、友人との会話中には気にならなかったのに今はその存在感をうるさいばかりに主張している。


あぁ...疲れた...



自室に帰り着くと同時にカバンを足元にほうり出し、ベッドにあおむけになる。

視界に入ってくる白い天井に少しばかり苛立ちを覚える。



この春、第一志望校に入学し仲のいい友達もできた。部活も楽しいし、先輩たちも言葉通り可愛がってくれている。

勉強もそこそこいい感じなのではなかろうか。おまけに先週彼氏もできたばかりだ。


毎日順調。


毎日楽しい。


全てにおいて満足している。気に入らないこと等何一つない。


それなのに、数日前から「一つの声」が聞こえるようになっていた。




『こわしちゃえば?』




一体何を壊すというのか。

不可解な声に苛立ちが募る。そもそも、この声の正体は何なのだろう。

はじめは何かの心霊現象かとも思ったけれど、出所が自分の中だと気が付いたときに

その可能性は捨てている。


はぁ....



起き上がり、ベッドの端に座りなおして今度は窓の外をぼーっと眺めてみる。

なんだか、勉強をする気も今日は起きない。


『こわしてあげようか?』


だから何を?

自分の中から聞こえる声に苛立ちを加速させる。

円滑な友達関係。誰もがうらやむ自分の恋人。

何も嫌なことなどない。絵にかいたような理想の生活。

幸せな日常。


それを...なぜ壊す必要がある?


『気に入らないくせに』


…何が?

自分で作り上げてきたこの環境、気に入らないわけがない。

気に入らないのはこの"声"それだけ。


もういい加減にして。



勉強も部活もがんばってきた

まじめで明るい そんなイメージも作り上げてきた。

並の努力はしていない。

おかげ様で周りの人たちには恵まれているし

私だって毎日楽しんでいる。


『疲れたんじゃないの?』


疲れた?何に?



『疲れたんでしょ』


うるさい。


ウルサイ


ウルサイ


ウルサイ


『疲れたんだよね?』


ダマレ


ウルサイ


ウルサイ


ウルサイ




『こわそうか・・・』


ウルサイ


ウルサイ


ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ







































************************************************



翌日、新聞の片隅に ほんの小さな記事が載っていた。

「理由不明。 女子高生 自分の胸をカッターでめった刺し・・」












『こわしたよ』






--終--

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コエが聞こえる 水氷花雪月 @ange6321

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ