髪長姫
優和
髪長姫
むかしむかし、あるところに髪の長い女の子がいました。
「たけのこたけのこ大きくなぁれ」
「たけのこたけのこ大きくなぁれ」
竹の子は大きくなりません。
髪の長い女の子は、今日も竹の子に話しかけていました。
その髪はずぅっと長く伸びており、一山も二山も越えた、長ぁい長いきれいな黒髪でした。
女の子が竹の子に話しかけているとばったり、一人の猟師に出会いました。
「何者だ!」
猟師は銃を向けましたが、女の子は竹の子と話つづけています。
猟師は女の子を見ると、すっ、と銃を下ろしました。
そして
「こんな山の中で何をしているんだ?」
とたずねました。
女の子は
「竹の子が大きくならないの」
とこたえました。
すると猟師は
「もう一つの山の向こうの大ババ様なら、なにかわかるかも知れん」
と言い、女の子を連れていくことにしました。
しかし、長い髪がひっぱられてうごけません。
「いたいよぅ」
女の子は泣き出してしまいました。
猟師は困ってしまいましたが、そのうち
「わかった。髪がどこで引っ掛かっているか、見てきてほどいてやる」
といって女の子をなぐさめました。
猟師は女の子の髪をたどり、どんどん進んでいきました。
一山越え、
二山越え、
三山越えてもまだまだ髪はつづきます。
黒々とした、絹糸のような髪は束になって、まだまだずぅっとつづいています。
「ありゃあ、これはいつまでつづくんだろうか?」
また一山越え、
二山越え、
三山目を越えようとした時に、やっと髪の毛が途切れたと思ったら、そこの見えない大きな穴の中に、髪は落ちていました。
猟師は、髪をつかみ、ひっぱりあげようとしましたが、何かに引っ掛かってとれません。
しかたないので、穴の中に下りてみると、小さな岩の柱にぐるぐると髪が巻かれていました。
岩に巻かされた髪をほどこうとすると、
「やめろよぅ」
と声が聞こえました。
声の先を調べて、足元を見ると、小さな鬼がそこにいました。
「これをほどかないと、女の子が山を越えられないんだ」
と猟師は言いました。
小鬼はまた
「やめろよぅ」
と言いました。
猟師は、かまわず岩の柱から髪をほどきました。すると
バゴン!
ドゴン!
地面の下で響くような大きな音がしました。
小鬼は猟師の肩にちょこんと乗ると
「悪い山神が起きた」
といいました。
はげしい地震がつづき、猟師はいそいで女の子の髪を束ねながら、
一山、
二山、
三山、
四山、
五山、
六山と戻りました。
地震は
どん!どん!
と猟師の後を追いかけてきます。
猟師の肩に乗った小鬼は、
「悪い山神が追い掛けて来た」
と言いました。
猟師は
「こまったなぁ」と言いながら、髪を束ねつづけて、女の子のいるところを目指しました。
「たけのこたけのこ大きくなぁれ」
「たけのこたけのこ大きくなぁれ」
長い髪を、ぐるぐるのおだんごにして、猟師は女の子のところにたどり着くと、女の子に
「悪い山神が起きた」
と伝えました。
女の子は
「わからない」
と言いました。
小鬼は女の子の肩にちょこんと乗ると
「山神しばれぇ♪しばらにゃ山が、崩れるぞ♪」
と歌いました。
女の子はまた
「わからない」
と言いました。
「こりゃあいかん。急いで大ババ様のところに連れていかにゃあ」
そう言うと猟師は、女の子をひょいと抱えて、山一つ向こうの大ババ様のところに向かいました。
ふと、猟師が後ろをふりかえると、
ドゴン!
バゴン!
ズササッ!
と向こうから山が崩れていきます。
猟師は急いで女の子と小鬼を連れて走りました。
小鬼はその間
「山神しばれぇ♪しばらにゃ山が、崩れるぞ♪」
と歌い続けました。
ドゴン!
バゴン!
ズササッ!
ドゴン!
バゴン!
ズササッ!
後ろからどんどん山は崩れていきます。
ドゴン!
バゴン!
ズササッ!
やっとのことで大ババ様のところへたどり着くと、もう隣の山まで崩れかけていました。
大ババ様の家に着くなり、猟師は大きな声で言いました。
「大ババ様、悪い山神を起こしてしもうた。どうしたらいいか教えてくれ。あと竹の子を大きくするにはどうしたらいいか教えてくれ」
大ババ様は
「こりゃいかん」
と言い、山外れのほら穴まで二人と一匹を連れていき、小岩に女の子の髪を巻き付けました。そして、何やらお祈りを始めました。
すると、すぐ近くまで来ていた地震はぴたりと治まりました。
小鬼は髪のしばられた小岩の隣に下りると、
「悪い山神しばられた♪
悪い山神しばられた♪」
と踊りました。
猟師はまた髪をしばられた女の子がかわいそうになって、大ババ様に聞きました。
「この子はずっとこのままなんか?」
大ババ様は言いました。
「この子は髪長姫と言って、良い山神様じゃから、ずっとこのままなんじゃよ」
その昔、悪い山神様がこの地に降りた時に、一人の女の子が良い山神様になって、悪い山神様をしずめられたとのこと。
そして、良い山神様は、髪の毛が伸びる程に、色んな山で、草木をはげまして、おだやかに暮らしているとのことでした。
「そんなのかわいそうじゃあ。なにかほかに方法はないのか?」
と猟師はいいました。
大ババ様は
「多分あの髪でしばりつづければだいじょうぶじゃと思うが、髪を切ると髪長姫は死んでしまう」
といいました。
猟師は腕をくんでなやみました。
なんとか女の子を自由にしてあげたかったのです。
猟師は小鬼にたずねました。
「ほかに方法はないのか?」
小鬼は歌いました。
「きれいな髪で山神しばれ♪
幼子お
大ババ様は言いました。
「西の方角、山を三十を越えたところに都がある。そこならなにかわかるかも知れん」
そして、猟師は都にむけて旅に出ました。
都に着くと、猟師はたくさんの人にたずねました。
「山神を鎮めるにはどうしたらよいか?」
「山神を鎮めるにはどうしたらよいか?」
たくさんの人は親切にたくさんのことを教えてくれましたが、みんな口をそろえて
「お
と教えてくれました。
都の中心に一きわ大きなお
そこで猟師はそこにいき、相談することにしました。
お
「長く、大変な旅になりますよ」
と言いました。
それを聞いた猟師は、静かに、深く、うなずきました。
…それから何年か経ちました。
ある穏やかな夕焼けの日、猟師は帰って来ました。
腰には一本のりっぱな刀を
猟師は帰るなり、女の子の髪がしばられたほら穴に入り、その刀を小岩の近くに突き刺しました。
すると、刀はまばゆく輝きだし、地の下から
「うおおおぉん」と地響きが鳴りました。
途端に女の子の髪はするするとほどけていきました。
あれよあれよと髪は短くなっていきます。
小岩からひょっこり小鬼が顔を出すと、また歌い始めました。
「刀が山神しばったぞ♪
百人の髪で、しばったぞ♪」
その刀は、浄められた百人の女の子の髪で作られた、特別な刀でした。
するすると短くなっていく髪を追いかけていくと、川辺にあの女の子がいました。
「お魚お魚大きくなぁれ」
「お魚お魚大きくなぁれ」
髪はちょこんとしゃがんだ女の子の腰の辺りで収まると、きらきらと輝きだしました。
そして女の子はみるみるうちにきれいな女の人に成長しました。
「猟師さん、ありがとうございます。もし宜しければ私と夫婦になって、この山を二人で見守っていきませんか?」
猟師はうなずくと、二人はまばゆい光に包まれて、すぅっと、ゆっくり、天に昇っていきました。
それからこの辺りは、長く平穏で、幸せな土地になり、そこで暮らす人たちは、幸せに、幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし
え?小鬼はどうなったって?
小鬼はいるよ。
村の守り神として、
長く長く、そこに
村の近くのほら穴に行ったら聞いてごらん。
今でも歌が聞こえてくるから。
「髪長姫が救われた♪
髪長姫がここにいる♪」
てね。
おしまい。
髪長姫 優和 @yuuwa
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