第2話 目覚めた少女
寝苦しいという気持ちを抱くのは少女にとってはじめての経験だった。べったりと貼り付いたパジャマを不思議そうに眺める時間は、彼女にとって初めて過ごす無駄な時間であったに違いない。べたつく服を着替えて制服に着替えるまでの時間の遅れは、寝ぼけた眼を覚ますには十分だった。
「サチー!朝ごはんですよー!」
本来その声が聞こえる頃にはサチはとうに着替えて、かばんを背負っているのだが、今日のサチはまだ制服のボタンを留めている最中だった。
「はーい!」
返事を返してサチは制服を自己ベストであろう早さで着替え、朝食のテーブルについた。朝食を頬張りながら自分の今日の運勢を確認するのがサチの日課なのだが、今日はすでに占いは終わり、天気予報へと番組は移っていた。
無意識の焦りからかいつもより早めに食べ終えた朝食を片付け、サチはバス停へと急ぐために、行ってきますを叫びながら家をあとにした。
「今日の朝の汗なんだったんだろう…」
サチが不思議に思うのも無理は無い。なにせ彼女の睡眠に寝汗という要素は含まれていない。
「バスの中で汗の匂い友達にバレないといいな…ってあっ!バスもう来てる!」
運動神経の悪くないサチは足も遅くはないのだが、今朝の遅れを取り戻すには少し足りなかったのだ。
「あぁ…バス出ちゃった…どうしよう…あれ…私どうしたらいいんだろう…?」
そこに取り残された彼女は自分のこの後の行動の選択肢が全く無いという事実に心から震えた。バスの中ではサチの友達が「何も変わらずに」サチの欠けた面々で笑いあっているということを知らなくても、今まで知らない状況というものがサチを怯えさせていたのだ。
それも当たり前の事かもしれない、彼女は今まで一度足りともバスに遅れたことはなかった。自分の運勢を確認できなかったことは無かった。そもそもイレギュラーは存在しなかったのだ。
「と…とりあえず歩こう…バスで通ってる道だから歩いて行くことはできる…よね」
今までなんとも思っていなかったはずの学校への通学路を歩くサチは、まるで戦場の中を歩くような面持ちだった。
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明日を見ぬ街 叫 @sakebi_wr
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