中学生時代その2
強迫症状が出だしたきっかけはなんだったのか。
はっきりした理由はわかりませんが、言うとすれば、1人のクラスメイトの存在でした。
2年生になってクラス替えがあり、私はMちゃんという子と同じクラスになりました。
Mちゃんは障害を持っている子で、言葉や行動が幼稚だったりする子でした。
存在こそ知っていたものの、同じクラスになるまで関わりはなかったMちゃん。決して彼女が悪いわけではないのですが、私がMちゃんに対して思う感情は「汚い」でした。
クラスの皆は普通に接していましたが、Mちゃんは障害があるのでよだれを手につけていたり指をしゃぶっていたり。
私はそのMちゃんの行動を嫌悪するようになりました。
Mちゃんに悪気はないですし、よだれなども洗えば済むこと。
だけど私は、そうは割り切れなかったのです。
Mちゃんの席、Mちゃんの持ち物、Mちゃんの触ったもの――いろいろなものが嫌悪の対象になり、その嫌悪は強迫症状に。
Mちゃんにかかわるすべての物が汚く思えて、Mちゃんに接した後は何度も手を洗いました。
何かおかしい。
そう思っていても、私の状態は他から見ればMちゃんを差別して嫌っているだけ。Mちゃんは悪くないし、Mちゃんを避けることはイジメをしているようで罪悪感があったので避けることもできない。
そのうち強迫症状は進行し、Mちゃん以外にも嫌悪の対象が出来始めます。
その1つが「理科」でした。
理科の授業では当然、実験などでいろいろなものを扱いますが、薬品などは使い方を誤れば人間に対して毒にもなる。
そんなことを学ぶうちに、薬品すべてが汚く思えてきたのです。
強迫症状はそこで止まらず、薬品だけでなく実験に使うビーカーやフラスコ、果ては理科の教科書すら嫌悪の対象でした。
この薬品は体内に入ったらとても危ないものだ。そんな薬品のケースに触った。
すると「もしこのケースに漏れた薬品が付いていたら?」「ケースに薬品が付いていて、その薬品が手や指に付き、私の口に入ったら?」という考えが浮かぶようになります。
「もしケースに薬品が付いていたら、そのケースが置いてあった机にも薬品が付いているかも」「今は何も置かれていないけど、理科室の机は実験で使うから、『誰かが付けた何か』が付いているかも」
病気が伝染するように、いろいろな薬物が自分の中に入ることを怖れました。
そんな薬品を扱う理科室が怖くなりました。
そんな理科室で使う教科書が怖くなりました。
理科で使うあらゆるものに触れただけで無性に手を洗いたくなり、うがいをしたくなる衝動に駆られました。
それは指先が少し当たっただけでも発症し、理科の教科書とノートは、鞄に入れる時も他の教科書とは分けた場所に入れていました。
クリアファイルで鞄を仕切り、そのファイルの前には国語や数学など普通に触れる教科書を、ファイルの後ろには「汚い」と思ってしまう理科の教科書を。
理科の授業を受けるたびに、異常なほどに手を洗いました。ひどいときには手だけでなく、自分が着ている制服にも汚れがついているようで、濡れた手で服を拭いたりしていました。
そのうち強迫症状は悪化して、トイレも「汚い」対象に。
トイレはその存在の意味からして汚物を処理する場所であり、綺麗とは思えない場所。そんなトイレでは便器や蛇口、ドアなどだけではなく、「トイレ」の中にある空気すら嫌悪して、トイレから出たらわざわざトイレの外の水道で洗い直し、うがいをする。
自分の考えがおかしいことはわかっていました。
わかっていたからこそ誰にもこのことを話せず、1人でずっと溜め込んでいました。
自分の思い込みだと、考えすぎだと、わかっているのに、どうしても手洗いやうがいを我慢できない。
そしてある時から、私は「中学校」=「汚いもの」という認識を持つようになってしまったのです。
本日は不登校日和 天川なゆ @amakawa_nayu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。本日は不登校日和の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
飼い猫が扁平上皮癌になりまして/中頭
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 20話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます