第5話 地底都市アンダーラグーン
遊園世界ワンダーキングダムの首都ワンダーキングダムは、その豪華な
地上も地底も制覇し、ワンダーキングダムを掘り尽くして楽しもう!
―――遊園世界ワンダーキングダム公式
「ドグ団長! 私はこの男をあそこに連れて行くのに反対です!」
地底洞窟の緩い坂道を下りながらグランビーはドグ団長に詰めかけるように言った。
ガチャガチャと甲冑を鳴らしながら戦闘を歩いていたドグ団長はグランビーの顔も見ずに答える。
「グランビー、我らにはもはや時間が無い。開界まであと一年。このままでは本当に開界が間に合わない。そうなればこの遊園世界ワンダーキングダムは
その言葉にグランビーはたじろぐ。
「そ、それはそうですけど・・・だからってこの反逆をこの男に任せるのはどうかと思います」
グランビーの言葉にドグ団長は後ろを振り返る。
騎士達の後ろからのんびりとした足取りで、物珍しそうにあちらこちらを見回している男がいた。
ユウは緑や青、赤、黄色。様々な色で光輝く洞窟の石を見て、ふわふわと漂う光りコケをつついている。
騎士達がユウを囲んだ後、ドグ団長はユウの事情を聞き、彼をワンダーキングダムの城下町にある地下へと招いた。中でもここは特別なキャストがパレードのサプライズ演出で通る裏方だけの秘密の通路。
ドグ団長達が守るお方へと繋がる場所だった。
ドグ団長が立ち止まり、騎士達もそれにつられて止まった。ドグ団長はユウに尋ねる。
「調停者か・・・。お前の目的は本当に『ホラーハウスの王の涙』なんだな?」
キョロキョロしていたユウは突然話しかけられて少し驚きつつ答える。
「ああ、そうだ。俺の目的はそれだよ」
「ふむ・・・」
少し考え込むドグ団長。
それに首を傾げるユウ。
「なるほどな。確かに伝説によれば『ホラーハウスの王の涙』はあらゆる絶望や恐怖、苦しみを癒やす力があるそうだ。それは死者さえも例外ではない」
その話を聞き
「なんだよ。ロックな俺様には大したお宝じゃねぇな。恐怖なんざ、生まれてこの方、一度も感じたことねぇぜ」
ロックがそう言葉を上げるのを無視して、ユウが鋭い目でドグ団長を見て、声を上げる。
「それは死者の苦痛。つまり死の苦痛さえも取り除く、蘇生の霊薬か?」
その鋭い目をみてドグ団長はほぅと息を漏らす。
「顔つきが変わったな調停者。だが、これはただの伝説。この世界が始まって以来、ホラーハウスの王の涙なんぞ誰も見たことがない。そもそも骨しかない奴だ。涙なんぞ出るはずもないだろう」
なおもユウは尋ねる。
「じゃあ、何故伝説になった?」
ドグ団長は首を振る。
「それは誰にもわからん。私達はただ
ユウはドグ団長の言葉を聞き考える。
この異世界は誰か、この地の王以外の者が作り上げた世界なのか、と。そう考えて、きっぱりと捨て去る。
今どのようなことを考えても意味は無い。自分はこの状況を一刻も早く理解し、ホラーハウスの王に慈愛の涙を流して貰う方法を見つけなければならない。
ユウが考え込んでいるとドグ団長が続きを促す。
「まあよい。調停者よ、お前はありもしない涙を求めるのであれば問題ない。あの者から得られるものは全て持って行け。だがそのために手伝って貰うぞ」
そう言ってドグ団長はまた歩き出す。
「オー怖い怖い。あんな女はきっと大した
ロックが小さくユウに向けて漏らす。ユウはその声で、ハッと気がつき、ロックに怪訝な顔をする。
「え? ドグ団長は女性なのか?」
その質問にさも当たり前だと言うように声を上げる。
「女の臭いがぷんぷんするじゃねぇか」
「ん? そんな臭いするか? 俺には何も感じないが」
「そりゃ、お前がまだひよっ子のガキだからよ」
そんなものか、と思いつつユウは女騎士達の後を付いて地下洞窟を歩いて行った。
ワンダーキングダムの地底は、冒険に慣れ親しんだユウにとっても驚くようなことばかりだった。すべてのスケールが違う。
洞窟の坂道、規則正しく開けられた窓のような場所から外を覗き込むと、そこには巨大な泉都市が広がっていた。
巨大な空間に地底湖があり、巨大な石柱が何条も連なって天井を支えている。地底湖は三日月型に囲む珊瑚礁の
その光景にユウは思わずため息を付いてしまった。地底湖は薄暗いが無数に光るコケや石で幻想的で美しい。
それはまさにこの世のものとは思えないような光景だった。
他にも見たことのない動物、いや魚達が地底湖の空間を泳いでいる。
巨大な傘のような水母、人を乗せた魚のバス、鯨は気球のように天井付近をグルグルと回っている。
ユウは何度も立ち止まって洞窟の窓を覗き込む。それに苛立ったグランビーが彼を引っ張って先を進んでいく。
茫然とその巨大な
ガバッと巨大な口が開かれるとそこはバスのような二列の座席がありフカフカそうなソファが設えてあった。
ユウがそこに乗り込んで一番前の座席に座り、他の騎士達も座るとパクっと口が閉じて、座席に身体が押しつけられる加速度を感じる。
「もしかして、これはバス?」
「そうよ。ステルス迷彩の特殊
ユウの横に座ったグランビーが腕を組みつつぶっきらぼうに答えた。
「何処行くんだ?」
「
ぶっきらぼうだが、丁寧に説明するグランビー。
「
ユウは暇なので持ち前の好奇心を発揮してしきりにグランビーに質問をする。グランビーははぁ、とため息を付きながら面倒くさそうにユウを見た。
「もう、この
「へーすごいね。で、何処に行くの?」
「あー! もう! ちょっとは黙ってのってなさいよ!」
「いや、だってこの
「そりゃそうよ! ステルス迷彩なのよ!? 普通の
グランビーが叫ぶと彼女の後ろからぬっと重甲冑が身を乗り出してきた。
「もぅ・・・グランビー。例え、
のんびりとした艶のある声でその重甲冑がグランビーをたしなめる。それに振り返ってグランビーがムッとする。
「ハッピー姉様。お言葉ですが、この者は調停者。また訪問されたらこっちが困るんですから!」
「グランビーは怒りっぽいわねぇ。もっと
「ハ、ハッピー姉様!? それは聞き捨てなりません!」
顔が甲冑で見えずともユウには二人の表情が見えるようだった。
ハッピーは立ち上がってグランビーと自分の席を交換し、グランビーが渋々、ユウを警戒しながら後ろの座席に座った。
ハッピーがユウの横に座ると、手を差し出す。
「ユウ様でしたね? 私は
ユウは素直にその手甲に包まれた硬い手を握って握手をする。
「どうも、俺はユウです」
「ふふ。可愛らしい名前ね。ユウちゃん。では、怒りっぽいグランビーの代わりに私がご説明しますわ。貴方には今からこのワンダーキングダムの王女、ホワイトシンデレラ殿下にお会いしていただきます」
はぁとユウはハッピーに気のない返事を返していた。
ユウは何故自分がいきなり王女と謁見するのかよくわからなかった。
異世界の遊園地は泥棒を招かない ワンダーキングダム編 (タイトル仮称) 三叉霧流 @sannsakiriryuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界の遊園地は泥棒を招かない ワンダーキングダム編 (タイトル仮称)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます